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noise
unity
しおりを挟む目の前には敵だと名乗る青年。
後ろには中村さん、だけど敵。
中村さんは脅しのように倒れた森さんに刀を突きつけている。
いつでも殺せると言わんばかりに
「…あなたの言う意味が分かりません。そもそも派閥に興味ありませんから」
この場をどう切り抜けるかを考えていた。
総司と出会ったあの日のように大声で叫ぶ…いや、森さんが殺されてしまうだろう。
相手の隙を窺いつつ森さんを助け出す……簡単に出来ることではない。
素直に相手の言うことに従うのは性に合わない。
ならとるべき行動はひとつ。
「…何故自分なのですか?」
「…君は新撰組に入ったばかりだし、特別新撰組に思い入れはないでしょ?なら別にこっちでも変わりはないじゃん」
「その理屈は理解出来ません」
青年、吉田は相対する少年に違和感を覚えていた。
仲間が裏切り、仲間が人質となっているのに表情ひとつ、眉ひとつ動かさない。
ただ、隙を探すように吉田から時々視線をそらす。
こういう場慣れしている人間こそ味方にほしいのものだ。
唯一嬉しいのは少年が完全否定をしていないことだ。
だが、肯定もしていない。
「…君みたいな冷静な人間は倒幕を狙う僕たちの計画に役立つ。しかも君はまだ子供だ。大人からは油断されやすい」
「…それは少し納得です」
少年はもう一度仲間を振り返った。
否、正確には仲間だった男を、だ。
「…中村さんも同じ考えなんですか?あの人と」
「…あ、あぁ」
「では、先程の話はどこまでが本当でどこまでが嘘だったんですか?」
無表情で訪ねる雫に、中村は一歩後ずさった。
「…全て本当のことだよ。ただ、自分が活躍したいのは新撰組ではないけどね」
中村は刀を雫に突きつけた。
「…僕の役目はこれで一先ず終わりになるんだ。君がこちらにつくにしろつかないにしろ僕はもう新撰組にはいられないからね。殺されちゃうよ」
「…隊務違反、ですからね」
少年が即決してくれないことに少し飽きを感じ始めた吉田は、ふと遠くから高杉の気配を感じて振り返った。
もうしばらくすると追い付かれてしまう距離だな、とぼんやりと考えていると
「…うぁっ!」
叫び声と肉を絶つ音が聞こえた。
視線を戻すと、少年は刀を持ち、仲間を庇うように立っていた。
中村は腕を斬られて、その場にうずくまっていた。
「…んーっとどういうことなのかな?」
少年の持っている刀は中村が持っていたもの。
そして刀を握る少年の手からは少し血が流れていた。
「…この状況をみて分かりませんか?お断りしたいということです」
うずくまる中村の首に刀を当てる。
「…この場は退いてください。私もあなた方をあまり殺したくはありません」
吉田は笑顔でズカズカと近寄る。
「…彼を殺してもいいんですか?」
仲間が見えていないかのように、吉田は目の前まで迫ってきた。
そして、自分の刀を抜いて中村に突き立てた。
「あ゛………よし、ださん……」
ほぼ即死だった。
「…こんなのはいらない。やっぱり君が欲しくなったよ」
吉田はニヤリと笑った。
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