6 / 19
CHAPTER 2
◆ ナコハと新社長が初対面
しおりを挟む
面談室は、冷房の効きすぎたような静けさをまとっていた。
窓から射す春の光さえ、どこか緊張で固まって見える。
「クズミ ナコハさんですね?」
名前を呼ばれただけなのに、背筋がぴんと伸びる。
新社長は、思ったよりも小柄だった。
けれど目だけは異様に強い。
透明な刃物みたいに、こちらの“余白”を切り落としにくる。
「はい……あ、あの、面談と聞いて……」
言い終える前に、彼女はタブレットを軽く傾けた。
そこには私の職歴と、人事評価と、細かい行動ログまで記録されていた。
「クズミさん、あなたについて聞きたいことが三つあります。」
端的。
感情ゼロ。
抑揚もほぼない。
「まず一つ目。あなたは——誰の派閥にも属していない。間違いないですね?」
「は、派閥……? そんなものが、うちにあるんですか?」
「“あったんです”。今日までは。」
そう言って、彼女はタブレットをスワイプした。
画面には、真っ赤にマーキングされた数十名の名前。
そのうちのほとんどを、私はよく知っていた。
彼らの多くは、もう席にいない。
「二つ目。あなたは、誰の成果を横取りしたことがない。
逆に、横取りされても抗議していない。」
「えっと……言い方は、まあ、その……はい。」
すると社長は初めて、微かに笑った。
だけどその笑みは優しさではなく、
“正解を選んだ人への評価”に近い。
「私、そういう人が嫌いじゃないです。」
「は、あ、ありがとうございます……?」
「最後に三つ目。」
彼女はタブレットを閉じ、真正面から私を見た。
> 「あなたは、“拒否しない人”ですね?」
喉がひりつく。
何を言われているのかわからないのに、
なぜか心臓だけが正確に意味を理解した。
「私は癒着が嫌いです。
媚びる人間も嫌い。
“古い政治”に象徴される価値観も嫌い。
山口の出身だから、特にね。」
唐突なのに、妙に納得してしまう言い方だった。
「でもあなたは、そのどれにも属していない。
負の構造にも、利害にも、忖度にも巻き込まれていない。
あなたみたいな人材は、会社を変える時に“残すべき側”です。」
私は、ぽかんとした顔で座っていた。
「……あの、私、特別なことは——」
すると彼女は、言葉を切り捨てるように手を振った。
> 「特別じゃなくていいんです。
“汚れていないこと”が重要なんです。」
再び笑う。
氷のように冷たく、しかし確信に満ちた笑み。
「クズミさん。あなたは残ります。
これから大きく組織が変わりますが……
不安なら言ってください。
“あなた以外は、いなくなります”から。」
言葉の意味が掴めないまま、面談は終わった。
部屋を出る直前、
私はそっと振り返った。
彼女はもう私を見ていなかった。
すでに次の資料を読み、次の“赤い印”に視線を移していた。
私は気づいた。
その赤い印のほとんどは、
さっきまで私の隣に座っていた人たちの名前だった。
窓から射す春の光さえ、どこか緊張で固まって見える。
「クズミ ナコハさんですね?」
名前を呼ばれただけなのに、背筋がぴんと伸びる。
新社長は、思ったよりも小柄だった。
けれど目だけは異様に強い。
透明な刃物みたいに、こちらの“余白”を切り落としにくる。
「はい……あ、あの、面談と聞いて……」
言い終える前に、彼女はタブレットを軽く傾けた。
そこには私の職歴と、人事評価と、細かい行動ログまで記録されていた。
「クズミさん、あなたについて聞きたいことが三つあります。」
端的。
感情ゼロ。
抑揚もほぼない。
「まず一つ目。あなたは——誰の派閥にも属していない。間違いないですね?」
「は、派閥……? そんなものが、うちにあるんですか?」
「“あったんです”。今日までは。」
そう言って、彼女はタブレットをスワイプした。
画面には、真っ赤にマーキングされた数十名の名前。
そのうちのほとんどを、私はよく知っていた。
彼らの多くは、もう席にいない。
「二つ目。あなたは、誰の成果を横取りしたことがない。
逆に、横取りされても抗議していない。」
「えっと……言い方は、まあ、その……はい。」
すると社長は初めて、微かに笑った。
だけどその笑みは優しさではなく、
“正解を選んだ人への評価”に近い。
「私、そういう人が嫌いじゃないです。」
「は、あ、ありがとうございます……?」
「最後に三つ目。」
彼女はタブレットを閉じ、真正面から私を見た。
> 「あなたは、“拒否しない人”ですね?」
喉がひりつく。
何を言われているのかわからないのに、
なぜか心臓だけが正確に意味を理解した。
「私は癒着が嫌いです。
媚びる人間も嫌い。
“古い政治”に象徴される価値観も嫌い。
山口の出身だから、特にね。」
唐突なのに、妙に納得してしまう言い方だった。
「でもあなたは、そのどれにも属していない。
負の構造にも、利害にも、忖度にも巻き込まれていない。
あなたみたいな人材は、会社を変える時に“残すべき側”です。」
私は、ぽかんとした顔で座っていた。
「……あの、私、特別なことは——」
すると彼女は、言葉を切り捨てるように手を振った。
> 「特別じゃなくていいんです。
“汚れていないこと”が重要なんです。」
再び笑う。
氷のように冷たく、しかし確信に満ちた笑み。
「クズミさん。あなたは残ります。
これから大きく組織が変わりますが……
不安なら言ってください。
“あなた以外は、いなくなります”から。」
言葉の意味が掴めないまま、面談は終わった。
部屋を出る直前、
私はそっと振り返った。
彼女はもう私を見ていなかった。
すでに次の資料を読み、次の“赤い印”に視線を移していた。
私は気づいた。
その赤い印のほとんどは、
さっきまで私の隣に座っていた人たちの名前だった。
1
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
冷遇された没落姫は、風に乗せて真実を詠う ─残り香の檻─
あとりえむ
恋愛
「お前の練る香など、埃と同じだ」
没落した名家の姫・瑠璃は、冷酷な夫・道隆に蔑まれ、極寒の離れに追いやられていた。夫の隣には、贅を尽くした香料を纏う愛人の明子。
しかし道隆は知らなかった。瑠璃が魂を削って練り上げた香は、焚く者の心根を映し出す「真実の鏡」であることを。
瑠璃が最後に残した香の種を、明子が盗み出し、手柄を偽って帝の前で焚き上げた瞬間。美しき夢は、獣の死臭が漂う地獄へと変貌する。
「この香りの主を探せ。これほど澄み切った魂が、この都に在るはずだ」
絶望の淵で放たれた一筋の香りに導かれ、孤独な東宮が泥の中に咲く白蓮を見つけ出す。
嘘と虚飾にまみれた貴族社会を、ひとりの調香師が浄化する、雅やかな逆転劇。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
雪嶺後宮と、狼王の花嫁
由香
キャラ文芸
後宮に降る雪は、呪いではなく嘆きだった。
巫女として献上された少女セツナは、
封じられた狼王の“花嫁”としての前世を思い出す。
人と妖、政と信仰の狭間で、
彼女が選ぶのは従属ではなく均衡。
雪嶺を舞台に描く、異種婚姻×後宮伝承譚。
Husband's secret (夫の秘密)
設楽理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる