私以外居なくなってた―職場改革のはざまで

田中葵

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CHAPTER 2

◆最適化される善意

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 朝のフロアは、静かだった。

 誰も喋っていないわけではない。
 キーボードの音、椅子を引く音、紙をめくる音。
 それらが過不足なく配置されている、という感じだった。

 ナコハは、少し離れた位置から全体を見ていた。
 自分の席はあるが、そこに「居続ける」必要はない立場だ。
 困った人がいれば寄る。
 判断に迷う声があれば、聞く。
 誰かが切られそうなら、数字の読み替えを提案する。


 少数精鋭経営推進法が導入されてから、会社は明らかに効率化された。
 評価基準は明快で、例外は少なく、意思決定は速い。

「正しい制度だと思いますよ」

 新社長はそう言っていた。
 就任直後の全体会議で、少しだけ緊張した笑顔を浮かべながら。

「正しいし、たぶん、必要です」

 ナコハは、その言葉に反論しなかった。
 正しい、という言葉は危ういが、必要だという点では同意できたからだ。

 だから彼女は、“支える役”になった。

 制度が誰かを押し潰さないように。
 評価が機械的になりすぎないように。
 現場が声を上げる前に、微調整を入れる。

 彼女がやっているのは、改革ではない。
 延命だ。
 けれど、延命で救われる人がいる限り、それをやめる理由もなかった。
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