ストレインジ

田中葵

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友哉視点

POSITIVE?

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勾留中 面会簿・続柄、友哉は「友人」
外国人は届け出れば日本名乗れる
菊乃は1990年韓国生まれ

【書きかけ[m:96]】第104回 王都作「POSITIVE?」(三題噺「月」 「湖 」「鬼」)
 ①染谷菊乃の大学時代のレポート/銀杏並木

 あれは、いつ頃だったか…

 大学図書館へ向かう途中にある銀杏並木。
 道は、すっかり真っ黄色に染まっていた。
 そこの真ん中を堂々と歩く俺、隣を歩くのは染谷菊乃。当時は学生同士だった。
 彼女には、面白いと言っては何だが、色気がまるでない。体は棒っきれに近いほど華奢で色白、それでいて健やかさは誰よりも優る。不思議な存在感。そしてよく話す。

 彼女はかならず、俺に対して一度は「現在のフェイバリット」なモノやコトを薦めてくる。この時期はどうやらレポート準備もあって、古い書籍のようだ。

 俺は彼女の話について行くのがやっとで、覚えてることもわずかな……えーと、確か……
「やっぱり定番は「璉瑣」これ!」の本当の姿―鬼
「璉瑣が『鬼』ってところにゾクゾクするの!」
「捨てがたいのは5巻の「西『湖』主」」
「『月』が出てくるその他の確か11巻、「晩霞」もイイ!」
「あと『王桂庵』『細柳』『寄生』『恒娘』『五通』もオススメ!」

 菊乃は借りてきたばかりの改訂版『聊斎志異』を胸に抱き、
「古くたっていいモノはいいって伝えたい!」
 その足どりは、とてもしっかりと地面を踏みつける。
「ね、この手の話大好きな貴方もそう思うんじゃないかって」

 ここで俺は彼女に尋ねた。
「まぁ……たしかにこういった類いの話は好みだけど、大昔の怪談ぽいのや色事入るやつはあんまし読まないかな。ところで今思いついたけど、そんなにハマった理由は?」
 彼女は迷うことなくスラスラと、
「私たち兄弟が育った山村に掘っ立て小屋や廃墟、少し足を伸ばせばお城の跡地なんかもあったの。春や秋の過ごしやすい季節に近所で仲の良かった子たち集めて探検したり鬼ごっこでやたらと追いかけ回したり…。オテンバだったんだね、って大学来てから田中教授にサラッと言われちゃった(笑)で、その中に一際ミステリアスでずっと気になってた緑の深い森林帯があって。ここで観られるお月さまが飛び抜けて輝いてて!今手にしてるこの本読むと必ずそれ思い出すの。あ~、春休みが待ち遠しい!」
 さすが典型的な射手座(人馬がサインのモティーフになっている)…とも思ったが、俺はすぐに打ち消した。
 ちなみに、彼女の本名は沈蒼蝶(シム チャンナビ)。韓国の田舎で育って、台北から日本に来た留学生の一人。
何時のことだったか、漢字は実家にある繁体字の経典で楽しみながらマスターし、むしろ国字のハングルで書き間違えやすいという。今は、台湾で暮らしていると風の便りで知った。
 昔の彼女曰く、
「だって、ずうっと棒や丸だらけで単調すぎて飽きるの!それが漢字や平仮名の特徴ある造りならすぐ分かるからスラスラ読めちゃう。正直アッチ(コリア)がめんどくさい。タイムマシンが欲しいよ」とも。
 活字好きが続いて文学部に進んだ俺には、分からなくないような……それでいて細かなニュアンスは違っているんだろうと今も勝手に思っている。ただ、彼女の最後に発したフレーズにつられて「タイムマシンにおねがい」のイントロ出てきたけど・・・違うな。軸はそこじゃない。


 ……あれから長く話し込んでしまった。
 久々に意識した空は、そろそろ濃い桃色に染まりかけていた。
 菊乃がふと立ち止まって、俺の顔を覗き込む。
「目ヤニついてる(笑)」
 俺はとっさに、
「い、いいって[m:78]」
 大学構内を出て駅前コンコースに向かって歩いた。
 その途中にある薄暗く狭い路地から、精霊っぽい何かが、彼女のことを伺っていた。
 元々、二人とも、霊感は備わっていた。
 見つけた彼女は、目をパチクリ。
「あ、あなた。ほんとうにいるのね……」
 菊乃の興味をグッと惹きつけてしまったそれは気恥ずかしさを隠しきれずソワソワし続けていた。
 俺は思わず、
「おい、精霊だかなんか知らないが、俺ら相手してる暇無いんだ。行こう」
 菊乃はかなり悲しげな目を俺に向けた。

――――――――

(2024年現在)
 いかんいかん、
 長々と無為な思い出は退散させねば。
 社食内に置かれている液晶テレビの画面に映ったのは・・・

“菊乃!”

 手錠をはめられ、両脇を固められながらざんばら髪と青白い顔を晒しうつむくその姿は、すでに学生の頃の溌剌さと訣別しているようにも見える。

(続)


―― 本編以外のMaterial ――
(前編)
大学時代の元友人(男性)の卒業論文のテーマ
『日本怪異妖怪事典』
「黒船」サディスティック・ミカ・バンド
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