イイ人やめました。うまく行ってたんだけどな

田中葵

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2 前日譚

【主人公】おもいだした。

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「やすい」人だった私の忘れることのできない【無自覚な会話】。


 とくに職場で、
 手が塞がっている時に限って、
 気安く、

「これ、お願いしてもいいですか?
 Aさんなら早いと思って」

「急で申し訳ないんですけど、
 他の人だとちょっと心配で」

「断ってもいいですよ?
 あ、でも困るの私なんですけどね」

「助かります~、ほんと。
 この件、Aさんに振っといて正解でした」

「前も似たようなの、
 うまく回してくれましたよね」

「いや、責任者ってほどじゃないです。
 名義は私でいいんで、実務だけお願いできれば」

「今回はイレギュラーなので。
 次はちゃんと調整します」

「無理してる感じしないから、
 つい頼っちゃうんですよね」

「嫌なら言ってくださいよ。
 言わないってことは、大丈夫ってことですよね?」

「気遣いができる人って、
 やっぱり信頼できるじゃないですか」

「揉めないのが一番ですし」

「ここで空気悪くするのも、
 大人じゃないですもんね」

「感情的にならないところ、
 本当に尊敬してます」

「だからこそお願いしたいっていうか」

「今回だけ、今回だけですから」

「これ終わったら、
 ゆっくり休んでください」

「……え? まだ終わってない?
 あ、そっか。じゃあ、もう少しだけ」

「助かりました!」



        *


 いつかの、
 休憩のとき、
 複数人から口々に、

「え、なんで急に距離取ったんですか?」

「そんなつもりじゃなかったんですけど」

「誤解ですよ」

「みんな、Aさんのこと評価してますよ?」

「でも、黙ってたじゃないですか」

「言ってくれれば、考えましたのに」

「急に変わるの、正直ちょっと困ります」

「前は、もっとやりやすかったのに」





 フゥー……


 ここでムカつくのは、

 選んでいるのに「頼ってる」顔

 断る自由を与えている“体裁”

 沈黙を同意にすり替える詭弁


 いや、
「全て詭弁」。

 更にいうなら、

「大人」「空気」を盾にする暴力





  「前は、もっとやりやすかったのに」


 ーーそう。
「やりやすかったのは、私が黙ってただけです」





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