イイ人やめました。うまく行ってたんだけどな

田中葵

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2 前日譚

【主人公】振り返ると、

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 振り返ると、
 皆、
 私をひとりの人間として、見ていなかった。

 でも、
 彼らのことを私は、どう見て【-た・-る】んだろうか。
 ほんとうに、
 一人一人のことを、解ろうとしていただろうか?

 答えは、ノー。
 ある程度知ったつもりで、知らなかったこともたくさんある。
 作為は、少なかった、はず。
 けれど、
 心をつかみたくなるくらい知りたくはなかった。
 そうなりかけると、必ずと言っていいほど、逃げてきた。



 だから私は、
 彼らに「雑に扱われた」のではなく、
 雑に扱える距離に、自分を置いていたのだと思う。

 踏み込まれないように。
 踏み込みすぎないように。
 ちょうどいいところで止まれるように。

 それは、優しさじゃない。
 臆病さだ。

 誰かを深く知るということは、
 同時に、自分も知られてしまうということだった。
 相手の歪みや弱さを知れば、
 こちらの歪みも、見せざるを得なくなる。

 だから私は、
 「わかってるよ」という顔だけをして、
 ほんとうには、触れなかった。

 頼られる位置は、安全だった。
 期待される役割は、わかりやすかった。
 そこにいれば、嫌われにくかった。

 でもその代わり、
 誰にも選ばれなかった。

 選ばれないというのは、
 拒絶されるより、ずっと静かな孤独だ。
 理由もなく、説明もなく、
 ただ最初から数に入っていない。

 私はそれを、
 「大人だから」
 「波風を立てない性格だから」
 そんな言葉で、丁寧に包んできた。

 違う。
 近づかれたくなかっただけだ。

 安く見られるほうが、
 深く見られるより、怖くなかった。

 だから私は、
 やすい人でいることを、
 どこかで選んでいた。

 それでも今は、
 その選択を、もう続けられない。

 人として見られない痛みより、
 人として見られる怖さのほうを、
 引き受けようとしている。

 たぶん、
 それが、
 私がやすくなくなる、最初の一歩だ。





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