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ゆきさん
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きっぱりとホントのことを言って、元夫を見上げた。
その顔が『傷ついてます』って語っていて、腹が立った。
なんであなたがそんな顔するの。
ホントに身勝手だ。
「悪いけど、彼と待ち合わせなの。誤解されたくないから、帰ってくれる?」
「……え?」
こうなったらとことん悪者になっちゃえばいい。
もう二度とこの男があたしに関わりあいになろうと思わないくらい。
そう思って、少しだけ嘘を混ぜてあたしは元夫に告げる。
告げられた元夫は、ものすごく意外なことを言われたって顔をした。
何よ。
自分は再婚してるくせに、あたしにそういう相手がいるのは許せないとか、ふざけたこと言いだすんじゃないでしょうね?
構ってられないから、元夫を放置して、もう一度待ち合わせ場所を見回す。
ふ、と、目に留まる人がいた。
今時すっかり珍しくなった、公衆電話ボックスの横。
あたしと同じ年頃の、細身で、少し長い髪を後ろで一つにくくっていて、何をするわけでもなく立っている男性。
シンプルで質のいいシャツとスラックスを身につけている、特記するほど目立つわけじゃないけど、目につく人。
確かに『間違い探しをしたくなる』人、だわ。
椎くんは地味で普通だと言っていたけれど、王子さま顔の椎くんと同じように、整った繊細な顔立ち。
間違いない、あの人だ。
あたしは元夫を振り切って、そのまま早足で、近づいた。
「ゆきちゃん!」
あたしの声に反応して、椎くんの従兄はきょろりと周囲を見回す。
よし。
「ちょ、待てよ、裕子!」
「ごめんなさい、ゆきちゃん。待った?」
「裕子!」
大きな声であたしに呼びかける元夫を無視して、あたしは椎くんの従兄の前に立つ。
さあ、この人はどうするんだろう。
巻き込んで申し訳ないけど、助けてくれたりしたら、嬉しいな。
「忘れないうちに、渡すわね。これ、預かってきたの」
椎くんからの預かり物を差し出すと、その人はゆっくりと笑う。
自分の笑顔をちゃんと知ってる人の笑顔だ。
椎くんは散々に言っていたけど、そう思った。
繊細なふりをして面倒くさがり。
そうね。
この人は多分、本当に繊細で頭のいい人だ。
色んな事が見えてしまうから、見ないことにしたんだろうなって、思った。
そして、この一瞬であたしと元夫と自分の関係を理解して、あたしに味方することを決めてくれたんだって、わかった。
「ありがとう、裕子さん。重たかったでしょう?」
「ううん、大丈夫。そうでもなかった」
「足を運んでもらって、ごめんね。仕事、大丈夫だった?」
「椎くんが替わってくれたの。ゆきちゃんによろしくって」
「ふみが?」
そう、と紙袋を受け取って、ゆきさんは微笑んだ。
そしてその微笑みのままあたしに手を差し出して、こう言ってのける。
「どこ食べに行く? なんだったら、裕子さんの家でもいいよ」
のりのりですね、ゆきさん。
助かります、ありがとう。
あたしの手を取ったゆきさんはそのまま、当たり前のようにあたしの身体を元夫から引き離した。
そして、当然のように歩き出す。
「ちょ、っと待てよ!」
キレイな顔をした人が無表情に人を見るさまって、ひゃってすることだって、椎くんで知っていた。
けど。
それ以上に。
椎くんはまだまだなんだって、実感した。
元夫に視線をむけたゆきさんはそう、まさに見下す、そんな感じ。
それほど大柄な人ではないしむしろひょろっとしている感じがするのに、ものすごく冷たい顔で元夫に対面したその顔を見て、背中がざわってなった。
「裕子さん、これ、誰?」
「……元夫」
「ふぅ、ん。で、その元夫が何の用?」
「……さあ?」
「裕子さん?」
その延長であたしまで見ないでよ、怖いから。
笑って誤魔化そうとしたけど、何もないわけないよね? 瞳でそう言っているのがわかって、あたしは観念した。
巻き込んでいるんだものね、ちゃんと説明する義務はあるでしょう。
「お墓参り、したいんですって」
「誰の?」
「ウチの両親」
その顔が『傷ついてます』って語っていて、腹が立った。
なんであなたがそんな顔するの。
ホントに身勝手だ。
「悪いけど、彼と待ち合わせなの。誤解されたくないから、帰ってくれる?」
「……え?」
こうなったらとことん悪者になっちゃえばいい。
もう二度とこの男があたしに関わりあいになろうと思わないくらい。
そう思って、少しだけ嘘を混ぜてあたしは元夫に告げる。
告げられた元夫は、ものすごく意外なことを言われたって顔をした。
何よ。
自分は再婚してるくせに、あたしにそういう相手がいるのは許せないとか、ふざけたこと言いだすんじゃないでしょうね?
構ってられないから、元夫を放置して、もう一度待ち合わせ場所を見回す。
ふ、と、目に留まる人がいた。
今時すっかり珍しくなった、公衆電話ボックスの横。
あたしと同じ年頃の、細身で、少し長い髪を後ろで一つにくくっていて、何をするわけでもなく立っている男性。
シンプルで質のいいシャツとスラックスを身につけている、特記するほど目立つわけじゃないけど、目につく人。
確かに『間違い探しをしたくなる』人、だわ。
椎くんは地味で普通だと言っていたけれど、王子さま顔の椎くんと同じように、整った繊細な顔立ち。
間違いない、あの人だ。
あたしは元夫を振り切って、そのまま早足で、近づいた。
「ゆきちゃん!」
あたしの声に反応して、椎くんの従兄はきょろりと周囲を見回す。
よし。
「ちょ、待てよ、裕子!」
「ごめんなさい、ゆきちゃん。待った?」
「裕子!」
大きな声であたしに呼びかける元夫を無視して、あたしは椎くんの従兄の前に立つ。
さあ、この人はどうするんだろう。
巻き込んで申し訳ないけど、助けてくれたりしたら、嬉しいな。
「忘れないうちに、渡すわね。これ、預かってきたの」
椎くんからの預かり物を差し出すと、その人はゆっくりと笑う。
自分の笑顔をちゃんと知ってる人の笑顔だ。
椎くんは散々に言っていたけど、そう思った。
繊細なふりをして面倒くさがり。
そうね。
この人は多分、本当に繊細で頭のいい人だ。
色んな事が見えてしまうから、見ないことにしたんだろうなって、思った。
そして、この一瞬であたしと元夫と自分の関係を理解して、あたしに味方することを決めてくれたんだって、わかった。
「ありがとう、裕子さん。重たかったでしょう?」
「ううん、大丈夫。そうでもなかった」
「足を運んでもらって、ごめんね。仕事、大丈夫だった?」
「椎くんが替わってくれたの。ゆきちゃんによろしくって」
「ふみが?」
そう、と紙袋を受け取って、ゆきさんは微笑んだ。
そしてその微笑みのままあたしに手を差し出して、こう言ってのける。
「どこ食べに行く? なんだったら、裕子さんの家でもいいよ」
のりのりですね、ゆきさん。
助かります、ありがとう。
あたしの手を取ったゆきさんはそのまま、当たり前のようにあたしの身体を元夫から引き離した。
そして、当然のように歩き出す。
「ちょ、っと待てよ!」
キレイな顔をした人が無表情に人を見るさまって、ひゃってすることだって、椎くんで知っていた。
けど。
それ以上に。
椎くんはまだまだなんだって、実感した。
元夫に視線をむけたゆきさんはそう、まさに見下す、そんな感じ。
それほど大柄な人ではないしむしろひょろっとしている感じがするのに、ものすごく冷たい顔で元夫に対面したその顔を見て、背中がざわってなった。
「裕子さん、これ、誰?」
「……元夫」
「ふぅ、ん。で、その元夫が何の用?」
「……さあ?」
「裕子さん?」
その延長であたしまで見ないでよ、怖いから。
笑って誤魔化そうとしたけど、何もないわけないよね? 瞳でそう言っているのがわかって、あたしは観念した。
巻き込んでいるんだものね、ちゃんと説明する義務はあるでしょう。
「お墓参り、したいんですって」
「誰の?」
「ウチの両親」
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