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たかせまこと

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優しい時間のズルい笑顔

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 そのあとのことといったら、とてもあっけないもので、元夫はあっさりと姿を消した。
 ウチの営業担当からも外れたらしくて、職場にやってくることもない。
 待ち伏せもない。
 そのあっけなさに、少しだけ、あたしは申し訳なく思ってしまった。
 もっと早くに、きっぱりと言えたらよかったのかもしれない。
 あたしがずるずると結末を引き伸ばしてしまったのかもって。

「裕子さんはいい人すぎますよ」

 すっかり飲み友達になってしまったゆきさんは、うだうだとくだをまくあたしを前に、微笑みながら料理を置く。
 あれから、お互いの都合がつくときに、ゆきさんの家で手料理をごちそうになるようになった。
 椎くんにも時々声をかける。
 そういう時、椎くんはとても微妙な顔をして、首を横にふる。
 親戚づきあいは濃い方だと言っていたけど、個人的にはあまりお付き合いがあるわけじゃないみたい。
 ホントに、あたしを助けてくれた時は、たまたまだったらしい。

「そう、ですかね?」
「と、僕は思いますけどね」

 ゆきさんは丁寧に話すのがデフォルトだと、緩い付き合いの中で知った。
 踏み込みすぎず離れすぎず、探るようにそっと距離を測る人だ。
 だからあたしも、一線をひいておつきあいしている。
 今までの知り合いの中で一番甘えさせてもらっているとは思うけど。

「あたしが未練がましいことをしたんじゃないかっていう、反省なんですけどね」
「そう思うこと自体が、優しいと思いますよ」

 そこはずるい男と手を切れてよかったと喜ぶところじゃないのか、と、ゆきさんは笑う。
 そう言われてしまえば、見方によってはずるい男なんだなぁって、改めて思うけど……
 でも、悔しいことにあたしはあの人を知っているから。
 二度と関わり合いになりたくないとは思っても、切れたことを喜ぶのは何だか違うって思ってしまう。
 縁が切れて残念だな、なんてことはふと思うけれど。
 そういったら

「だから、付け込まれるんですよ」

 困った人だというように、ゆきさんは酒を口に含みながら言う。
 新たに手に入れた緩やかなこんな時間は、ふとした瞬間に時々あたしを襲うすうすうとしたものを、遠くに追いやってくれる。
 ゆきさんの料理は、本格的なものから簡単なものまで幅広い。
 基本的には男性が家で作っているとは思えないほど、優しい味の家庭料理。
 おいしいと褒めたら、目を細めて懐かしそうに笑うときがある。
 多分、過去に作ってあげていた誰かを思い出しているんだろうな、そう思う顔で。

「付け込まれているつもりはなかったんですよ」
「そう?」
「はっきりさせてなかった自覚は、ありますけど」
「まあ、話を聞く限りでは無理のない状況だったと思うけど……やっぱり、あなたは優しいと思いますよ」
「ゆきさんには負けます」
「僕はずるいだけですから」
「ずるいんですか?」
「ずるいんです」

 怖がりで弱いから、ずるくいるんです。
 ゆきさんは、いつもの笑顔でそう言って笑う。
 ちゃんと地面に足がついていない感じの、キレイな笑顔で。
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