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しおりを挟む朝食のため食堂に行くと、すでに揃っていて、僕が最後だった。
忙しい父様は、今日も朝食を摂らずに仕事に向かったらしい。
母様はスッと背筋を伸ばし、朝食を食べるだけなのに絵になる姿で座っている。
兄様はアルノーの世話を嬉しそうに焼いているが、嫌がられてる。可哀想に。
あと、その席、僕の席です。
「お待たせしました」
「おはよう、シャルル」
僕を見て、名残惜しそうにアルノーの頭から手を外すと、兄様は自分の席に戻った。
愛で足りなかったんですね、さすがブラコン。
「おはようございます、シャルル」
「おはようございます、母様、兄様」
「にぃさま、おはよ」
「おはよう、アルノー」
君は、もう挨拶しただろう。アルノー君や。
「では、いただきましょう」
夕食に比べて、朝食の場では基本会話はない。
黙々と音を立てずに食べるだけだ。
しかし、今朝は違った。
「シャルル、今日は授業お休みだったかしら」
「はい」
「そう、でしたらカーネリアン家のお茶会に参加しなさい」
「今日ですか?」
「ええ。私と共に参りましょう」
カーネリアン侯爵家か。
母様とカーネリアン侯爵夫人って、お茶会に参加するような仲だったっけ。
というか、いきなりお茶会とは……ハードルが高すぎるよ、マイマザー。
「僕はまだ、お茶会の経験が」
少人数かつ、交流がある家の子供達としかしたことがない。
無理だ、貴族恐いよ。
「ですから、ちょうど良いでしょう。
あちらには、貴方と同じくらいの令嬢がいたはずよ。
11歳くらいだったかしら」
ほう。3歳差、行きましょう。お供します、お母様!
「行きます」
「そう、失礼のないようにね」
「はいっ」
そうと決まれば、このフリルブラウスを脱ごう!
食事中、アルノーが一緒に行きたいとごねていたが、それどころではない。
少しでも好印象を残すために、身だしなみを整えなければ。
マリーには、ブーイングをくらったが、レースやフリルが最小限な服を探し出し、着ることに成功した。
つか、あったんかい。
「あら、少し地味ではなくて?」
「そうでしょうか」
母様まで、何を言ってるんだ。
そもそも見るからに高級な布地で作られた服だ。
地味っぽさは、微塵も感じない。
「まあ、それくらいの方が良いかもしれないわ。
カーネリアン家の方は、貴方のことを知らないでしょうし」
「? そうですね」
僕も知らないけどね。
馬車で移動中、注意事項や侯爵夫人がどんな方なのかを説明され、緊張が高まっていく。
「着いたわね」
執事に案内されたのは、綺麗に手入れされた侯爵家の庭園だった。
オルロフの庭は、花々で華やかなカーネリアン家と違い、緑一色だ。
こう、左右対称にきっちり手入れされた感じの、フランス式庭園って言うのかな。
だとすると、カーネリアン家はイギリス式庭園?
「まあ! お待ちしておりましたわ!
オルロフ公爵夫人」
真っ先に立ち上がり、駆け寄って歓迎してくれた女性こそ、主催者のカーネリアン侯爵夫人だろう。
他の参加者達もその場で立ち上がり、母様に対して会釈する。
やはりと言うべきか、この会で1番位が高いのは母様のようだ。
というか、子供いなくない? 僕だけ?!
「ご招待、ありがとうございます。カーネリアン侯爵夫人。こんなに素敵なお庭でお茶がいただけるだなんて、嬉しいですわ」
「まあまあ! ありがとう存じます!
我が家の庭師が喜びますわ。
シャルル様、ごきげんよう。マティス様のお披露目会で、遠くからお見かけしただけでしたけど……なんてお綺麗なのかしら」
夫人はなかなか明るい方らしい。
母様への接し方に棘はないし、嘘ではなく、本当に喜んでくれている様に見える。
ただ、できれば綺麗じゃなくて、カッコいいが良かった。
でも容姿はお眼鏡にかなったってことだよね?
さあ! カーネリアン嬢を紹介してください。夫人!
「ありがとうございます」
「今、私の娘や他の皆様のご子息達は、屋敷で遊んでおりますが、シャルル様もいかがですか?」
「ぜひ!」
待ってましたぁ!
「では、この者が案内いたしますわ」
「はい、ありがとうございます。
母様、行って参ります」
「ええ」
ここまで送ってくれた執事さんが、また案内してくれるらしい。
なんなんだ、この空間は!
通された部屋では、僕が知る貴族の子供の遊び方を180度変えたおままごとが繰り広げられていた。
これは俗に言う「リアルおままごと」!
まさか、貴族の子供にネ◯ちゃんがいたとはっ。
いったい誰がネ◯ちゃんなんだ!
僕、マ◯オ君ポジションだけは、嫌なんだけど。
「こほんっ。皆様、お楽しみのところ失礼いたします。オルロフ公爵家のシャルル様がいらっしゃいました」
えっ。執事さん、このタイミングで紹介するの?
今まさに、ドロ沼の不倫劇の最高潮だったよ。
正妻が愛人を懲らしめるとこだったよ!
「……あ、あら。
お会いできて嬉しいですわ。オルロフ公爵令息様」
「ええ、ありがとうございます。えっと」
最悪のタイミングではあったが、正妻役?のご令嬢が、少し恥ずかしそうにしながらも、背筋を正して迎え入れてくれた。
彼女がカーネリアン家の子だろうか。
淡いピンク色の髪が、侯爵夫人とそっくりだ。
「私、カーネリアン家の三女、エレアと申します」
11歳とは思えない、見事なカーテシーに驚いていると、彼女は両手で僕の手を引き、皆んなの輪の中に入れてくれた。
わー! まって、ドキドキしちゃう!
こんな可愛い子に手を握られたら、8歳児の僕には恥ずかしさMAXですうぅ!!
「皆様を紹介させていただいてもよろしいですか?」
「あ、はい、ぜひ」
「ではまずミラー伯爵家の─────
──────────……ですわ」
ヤバイ、あんまり聞いてなかった。
ごめんエレア嬢。
「はじめまして。シャルル・オルロフです。
シャルルとお呼びください」
「シャルル様とお呼びしてもいいのですか?
ではっ、私のこともエレアとお呼びください!」
会って5分で下の名前を呼び合うなんて……母様、派閥は違うけど、カーネリアン家に婿入りも悪くないと思います!
ん? 待てよ。彼女、三女って言ったよね。
………婿入りできないじゃないかっ!
「っはあぁぁ~っ、生シャルルきゅん、かわいいっ」
「え゛」
「え」
生しゃる、シャルルきゅん?
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