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しおりを挟むあれから、私とラムダス様は正式に婚約したのだが、前回の事もありなるべく会う機会を多くしてみたのだ。
その結果、私達は思いのほかうまがあうことがわかり、今ではお互いの領地経営の手伝いまでする仲になっていた。
「いやあ、驚いてますよ。まさか、リリーナ嬢とこんなに仲良くなれるなんて」
公園を歩きながら私の手を握り、ラムダス様はそう言って微笑んでくる。
「私も今、同じ事を思っていましたわ。やはり、話が合うのが一番なのでしょうか?」
私は領地経営の手伝いをする際、よくラムダス様と色々と話し合うのだが、それがとても楽しくて堪らないのだ。
するとラムダス様はなぜか視線をずらしてきながら言ってきた。
「そ、それもありますが……リリーナ嬢が魅力的というのもあります」
そう言ってラムダス様は頬を赤らめるので私も同じように赤くなってしまう。
「……あ、ありがとうございます」
私は思いのほか恥ずかしくなり俯いてしまう。
そして、しばらくお互い黙りこんでしまったのだが、繋いだ手のおかげで会話をする必要は全くなかった。
それからしばらく公園を散策してから私は口を開いた。
「一年前のあの日、私は真実の愛なんてどうかしてると思っていましたが、こうやってラムダス様と出会えた事で王太子殿下達の事をもう悪く思う事ができなくなってしまいました」
「それは、僕も同じですよ。正直、リリーナ嬢に出会えた今はあの二人には感謝しかないです」
「そうですわね……」
私達はお互いに見つめあった後、笑ってしまう。しかし、今でもこうやって笑える事が信じられない時がある。それだけお妃教育が染み込んでいるのだろう。
だから思うのだ。エリザベス様が今、どんな思いでお妃教育を受けているか。
きっと、今頃は夢から覚め始めているでしょうね。
私はそう思いながらエリザベス様のお妃教育が上手くいく事を願うのだった。
◇
一年後
私達は王太子殿下とエリザベス様の婚約発表パーティーに呼ばれていた。
まあ、二人の婚約発表よりもロクサーヌ王国を盛り上げるお兄様や、他の若い貴族を各国の関わりのある要人にお披露目する場としての方が本命と言っても過言ではない。
ちなみに、王太子殿下はお飾りだということは今回呼ばれた各国の要人も理解しているとお兄様は言っていた。
「では、エリザベス様はどうなるのですか?」
「見切りをつけられた王太子殿下と違って頑張っているから、もうちょっと様子を見るみたいだよ」
「そうですか……」
私はお兄様の話を聞き、現在、ターバンを巻いたダリシュ公国の要人と話をしている王太子殿下とエリザベス様を見る。
王太子殿下はただ笑っているだけだが、エリザベス様はなんとか会話ができるレベルね。やはり、一年ではあれが限界よね。
私はエリザベス様が少し不憫になってしまい、後で話に行くことにした。しかし、会いに行ったらなぜか弱気な発言をエリザベス様がしてきたので、つい嫌味を言ってしまった。
まあ、一番言いたかった事は言えたので良しとしたが……。そんな、ちょっとスッキリした私に王妃陛下が声をかけてきた。
「リリーナ、今幸せかしら?」
「はい、王妃様のおかげです」
「あら、嬉しい事を言ってくれるじゃない。モルガン伯爵令息はきっとあなたに合うと思ったのよ」
「ふふ、それだけですか?」
私が微笑むと、王妃陛下は満面の笑みを浮かべる。
「将来、モルガン伯爵家の海側に大きな港を作ろうと思ってるのよ。だから、太いパイプが欲しくて……。でも、よくわかったわね」
「モルガン伯爵家の領地経営のお手伝いをしているうちに気付きました。それに最近、ロクサーヌ王国は隣の大陸との国交にも力を入れてますものね」
「あらあら、やっぱりあなたを手放したのは失敗だったかしら」
「いいえ、エリザベス様もなかなかではありませんか」
「ふふ、今はまだまだだけど、将来は楽しみね。まあ、当面はルシアン達に頑張ってもらいましょう」
「大丈夫ですよ。王妃陛下の時みたいに上手くいきますから。ただ……」
私はそう言って言葉を止めると、王妃様は首を傾げた。
「ただ?」
「……二人にお子様ができたらしっかりと貴族の常識を教えて下さいね」
私は心から微笑むと、王妃陛下は驚いた顔をした後に苦笑する。
「ふふふふっ、わかったわ。必ず、常識ある子に育てるわね」
「お願いしますね」
私は王妃様と別れた後、遠くでお兄様と話す王太子殿下を見つめる。周りに無能と言われようが操り人形と言われようが、耳に入らない限りきっと幸せなのだろう。
だけど、可哀想だとは思わない。だって、王太子殿下はとても楽しそうに笑っているからだ。
だから、どうかそのまま真実の愛という幻想の中でいつまでもお幸せにお過ごし下さいね。
私はそう心の中で言うと、愛する人の元へと歩いていくのだった。
fin.
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