きっとやり直せる。双子の妹に幸せを奪われた私は別の場所で幸せになる。

しげむろ ゆうき

文字の大きさ
6 / 9

6

しおりを挟む
 去っていくトラン様の後ろ姿を物陰から見つめていると修道長が声をかけてくる。

「言っておいたわよ」

 続けて「本当に良いのね?」とも。

「……はい」

 そう答えるなり今度は別の質問も。

「それで、これからどうする気なの?」

 もしも、行くあてがないのなら——と、他の修道女の方に視線を向けて。
 ただし、私が首を横に振り「リリスの事を知らない遠くの街に行こうと思います」
 そう答えると、優しく微笑みながら頷いてきたが。
 「それなら、聖アレッシス修道院か教会が近い場所を探しましょう。何かあればそこを頼れば良いわけだし」と、素晴らしい提案を。
 何しろ、生活が落ち着いた後、気軽に恩返しもかねて足を運ぶこともできると思ったので。
 そして、いつかはこの場所にも——と、私は頭を深く下げる。

「ありがとうございます」
「じゃあ、早速、候補地を探しましょう。良い場所をいくつか知ってるから」

 更にはそう言い、私と一緒に候補地を探してくれる修道長に感謝も。いつかではなく、なるべく早くこの場所にお礼をしに戻り、私は貴女達のおかげでやり直せたのだと元気な姿を見せれるようにと。

 だから、絶対に頑張ろう。

 そう心に近いながら、泊まり込みで働ける宿の仕事を聖アレッシス会経由で紹介してもらうなり私はすぐに旅立ったのだ。


三ヶ月後

「ふう、疲れたわ……」

 そう呟くなり私は自室のベッドに倒れ込み、グッタリする。充実感と満足感を感じながらも、まだ上手く仕事ができていないことに反省して。
 もう、三か月も経っているのに今だに容量良くできないので。同じタイミングで入った同期の子と違って——と、自分はとても非力だったのだと実感する毎日である。
 何しろ、彼女や他の子はこちらが持てない重い物を鼻歌を歌いながら軽々と運んでしまうので。ペースも落とさずに。
 まあ、ただ、今日は違っていたけれど。あるものに気を取られて私より仕事をできていなかったので——と、彼女達が夢中で読んでいた新聞を手に取る。
 ただし、盛り上がっていた大きな見出し、『子爵令息と宿娘の大恋愛結婚』ではなく、別の見出し『悪名高いハートラル伯爵家のリリス嬢、子供の父親を偽った罪で訴えられる』に目がいってしまったが。
 更にハートラル伯爵家もリリスの嘘に加担した罪で近々、王家より爵位を取り上げられるという記事に驚いてしまいも。

 まあ、よくよく考えたら王家の執政に関わっている公爵家を騙そうとしたのだのだから仕方ないわよね。

 そう納得もしてしまうが。
 特に次の見出しを見てしまったらなおさら。

『トラン・スペンド公爵令息が近いうちにどこかの貴族令嬢と婚約する可能性が』

 何しろ、リリスの嘘でスペンド公爵家には確実に迷惑がかかってしまったのだから。
 それこそ、忙しいトラン様には沢山。

 だから今度は、きっと良いご令嬢と……

 そう願ってもしまったけど。
 チクリとする胸をそっと押さえながら——と、頬を伝う涙を拭っていると、扉がノックされる。
 続けて、女主人が「あんたにお客さんが来てるよ」と。
 私にそんな人なんて来るはずないのに。

「は、はい。今、いきます」

 ただ、もしかしたら聖アレッシス会の人かもしれない。そう思い返事後、すぐに向かうことにしたが。お礼の言葉を考えながら。
 それと、元気でやっていることを見せるために表情も作って。
 ただし、今だにできない偽物の笑顔だっだけれど。それでもここでは問題ない——と、お客様を迎え入れるように感じで宿の待合室の扉を開ける。
 そして、元気良く声を出そうとしたのだが……
 喪服じゃなく着飾った服を着たエルドラ侯爵夫の姿を視界に入れるなりすぐ驚いてしまって……

「ど、どうしてここへ?」
「言っただろう。心の整理を付けたら必ず妻と一緒に君に会いに行くと」
「私達、やっとそれが出来たから貴女に会いに来たの」

 そして、その言葉を聞くなり納得も。

「そうだったのですか……。きっと、エルドラ侯爵令嬢も喜んでますよ」

 心からそう思いながら——と、私の手を取りそっと包み込んでくるエルドラ侯爵夫人に頷く。
 ただし、彼女の隣にいたエルドラ侯爵が「……私達はエブリンにもっと喜んで欲しいと思っているんだ。それも最高にね」
 そう言ってきたことで思わず首を傾げてしまったが。

「最高にですか?」
「ああ、それはね……私達に喪服を脱がせ、またこうやって前を見て歩けるようにしてくれた恩人のアイリスさん、君にお礼をすることなんだ」

 そう言ってきたことで今度は驚きに変わって。

「わ、私にですか?」
「ええ、間違いなくエブリンが……いいえ、本当はエブリンじゃなく、貴女に喜んで欲しいの」

 そう言ってエルドラ侯爵夫人が私の後ろを指差すことで更に。

「アイリス……」

 何しろ、振り向かなくても聞こえてきた声で私は誰がそこに立っているかを理解してしまったので。
 トラン様だと。
 ただ、それでも私は恐々と振り向いてしまったが。
 そして、彼が優雅に私の手を取り口付けをしようとしたので慌てて手を引っ込めも。

「いけません。貴方のようなお方がそんな事をされては……」

 今の私の立場を痛いほど自覚しながら。
 公爵家の立場では決して新聞の見出しのようなことには絶対にならないので。
 絶対に。
 ただし、彼がすぐに「いや、必ずエルドラ侯爵令嬢を婚約者にするつもりだよ」
 そう言ってきたことで頭の中が疑問だらけになってしまったが。

「えっ……」

 思わずエルドラ侯爵夫妻の方を向いてしまいも。

「まだ、娘はいないんだが養女にしたい娘さんがいてね」
「ええ、とっても素敵な方なの。名前はアイリスさんって言うのよ」

 その言葉で私は再びトラン様の方を。

「これなら、君が心配してる事は全て解消になるはずだよ」

 更に続けて「私は諦めが悪くてね。あの日、修道院に君が居たのはわかったのだけど、修道長の言葉を聞いて君に嫌われたと思い、いったん離れたんだ……。何しろ、まずは誤解を解くために各方面に色々と動かなければならなかったのでね。後、嘘が広まらないようにも。宿に送った新聞にも誤情報は載らなかっただろう?」
 そう言われ私は自分の部屋の方に顔を向けた後、再びトラン様を見ると、頷いてくる。

「ここは実をいうと留学した時に私と仲良くなった貴族の領地でね。君がここを選んでくれてほっとしてたんだ」
「あっ、でも、ここは修道長にお勧めされ……まさか」
「どうやら、そうみたいだね。なるほど、私は彼女の手の中だったという事か……。だが、感謝しかないな。おかげで君に危険がないように見守る事ができたから」

 トラン様はそう言って私の前に跪き、こちらを見上げてくる。

「どうか、私にチャンスをくれないだろうかアイリス。今度こそ君を必ず幸せにすると誓う」
「トラン様、でも……」

 私は迷ってしまう。
 何しろ、こうなった原因は自分自身にもあると思っているので。しっかりと家族に言えばこうはならなかったのではないかと……

 つまりは自業自得。

 そんな事を考えていたら、エルドラ侯爵が誰にともなく言ってくる。

「人は間違いや誤ちをする生き物だ。だが、やり直すことはできる……」

 私はその言葉を聞きトラン様の方向くと彼は頷いてくる。

「私は判断を間違った……。もっと早くアイリスを救う為に動くべきだった」
「そんな事はありません。私は何度、トラン様に救われたか。そもそも、この結果は自分自身が選んだ結果ですから。でも……」

 私はエルドラ侯爵を見ると頷いてきたので、トラン様に向き直る。

「私もやり直したいです。皆様と一緒に」

 するとトラン様は立ち上がって私の肩に手を置く。そして、心からの笑顔で「アイリス、今の君、とても良い笑顔だよ」と。
 信じられない言葉を。

「えっ……。私、今笑っていましたか?」
「ああ、とても自然な笑顔だった」

 トラン様がそう言うとエルドラ侯爵夫妻が私達の側にくる。

「娘の笑顔を最初に間近で見るのは私達だと思ったんだがね」
「ふふ、でも、これからいつだって見れるわよ。何しろ彼女は私達の自慢の娘なのだから」

 そして、トラン様と一緒に頷きあって。
 まるで、本当の家族のように。

 だから、大丈夫。
 きっとやり直せる。

 そう思いながら私は彼らに微笑んだのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

自称病弱いとこを優先させ続けた婚約者の末路

泉花ゆき
恋愛
令嬢エルアナは、ヴィンセントという婚約者がいた。 しかし彼は虚言癖のあるいとこ、リリアンの嘘に騙されてエルアナとの大切な約束を破り続ける。 「すまない、リリアンが風邪を引いたらしくて……」 エルアナが過労で倒れても、彼はリリアンの元へ走り去る始末。 ついに重大な婚約披露パーティまでも欠席した彼に、エルアナは婚約者への見切りをつけた。 「さようなら、ヴィンセント」 縋りつかれてももう遅いのです。

幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ

猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。 そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。 たった一つボタンを掛け違えてしまったために、 最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。 主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?

いつまでも甘くないから

朝山みどり
恋愛
エリザベスは王宮で働く文官だ。ある日侯爵位を持つ上司から甥を紹介される。 結婚を前提として紹介であることは明白だった。 しかし、指輪を注文しようと街を歩いている時に友人と出会った。お茶を一緒に誘う友人、自慢しちゃえと思い了承したエリザベス。 この日から彼の様子が変わった。真相に気づいたエリザベスは穏やかに微笑んで二人を祝福する。 目を輝かせて喜んだ二人だったが、エリザベスの次の言葉を聞いた時・・・ 二人は正反対の反応をした。

【完結】妹ばかり愛され追い出された姉ですが、無口な夫と暮らす日々が幸せすぎます

コトミ
恋愛
 セラフィナは、実の親と、妹によって、家から追い出されることとなった。セラフィナがまだ幼い頃、両親は病弱なカタリナのため設備環境が良い王都に移り住んだ。姉のセラフィナは元々両親とともに住んでいた田舎に使用人のマーサの二人きりで暮らすこととなった。お金のない子爵家な上にカタリナのためお金を稼がなくてはならないため、子供二人を王都で暮らすには無理があるとセラフィナだけ残されたのだ。そしてセラフィナが19歳の時、3人が家へ戻ってきた。その理由はカタリナの婚約が上手くいかず王宮にいずらくなったためだ。やっと家族で暮らせると心待ちにしていたセラフィナは帰宅した父に思いがけないことを告げられる。 「お前はジェラール・モンフォール伯爵と結婚することになった。すぐに荷物をまとめるんだ。一週間後には結婚式だ」  困惑するセラフィナに対して、冷酷にも時間は進み続け、結婚生活が始まる。

〖完結〗妹は私の物が大好きなようです。

藍川みいな
恋愛
カサブランカ侯爵家に双子として生まれた、姉のブレアと妹のマリベル。 妹は姉の物を全て欲しがり、全て譲ってきたブレア。 ある日、ダリアル公爵家長男のエルヴィンとの縁談が来た。 ダリアル公爵は姉のブレアを名指しし、ブレアとエルヴィンは婚約をした。 だが、マリベルはブレアの婚約者エルヴィンを欲しがり、ブレアを地下に閉じこめ、ブレアになりすまし結婚した...。 主人公ブレアがあまり出てきません。 本編6話+番外編1話で完結です。 毎日0時更新。

可愛い姉より、地味なわたしを選んでくれた王子様。と思っていたら、単に姉と間違えただけのようです。

ふまさ
恋愛
 小さくて、可愛くて、庇護欲をそそられる姉。対し、身長も高くて、地味顔の妹のリネット。  ある日。愛らしい顔立ちで有名な第二王子に婚約を申し込まれ、舞い上がるリネットだったが──。 「あれ? きみ、誰?」  第二王子であるヒューゴーは、リネットを見ながら不思議そうに首を傾げるのだった。

甘やかされすぎた妹には興味ないそうです

もるだ
恋愛
義理の妹スザンネは甘やかされて育ったせいで自分の思い通りにするためなら手段を選ばない。スザンネの婚約者を招いた食事会で、アーリアが大事にしている形見のネックレスをつけているスザンネを見つけた。我慢ならなくて問い詰めるもスザンネは知らない振りをするだけ。だが、婚約者は何か知っているようで──。

【完結】我儘で何でも欲しがる元病弱な妹の末路。私は王太子殿下と幸せに過ごしていますのでどうぞご勝手に。

白井ライス
恋愛
シャーリー・レインズ子爵令嬢には、1つ下の妹ラウラが居た。 ブラウンの髪と目をしている地味なシャーリーに比べてラウラは金髪に青い目という美しい見た目をしていた。 ラウラは幼少期身体が弱く両親はいつもラウラを優先していた。 それは大人になった今でも変わらなかった。 そのせいかラウラはとんでもなく我儘な女に成長してしまう。 そして、ラウラはとうとうシャーリーの婚約者ジェイク・カールソン子爵令息にまで手を出してしまう。 彼の子を宿してーー

処理中です...