文字の大きさ
大
中
小
4 / 21
3月16日(木)
日没後に子供の手を引かずに夜道を歩くのは、なんだかとても久しぶりな気がする。旦那も子供も自宅に残し、一日お手伝いに来てくださったお義母さんを最寄りのバス停までお見送り。
大人が二人並んで歩くにはやや細い歩道を抜け、橋に差し掛かったところでお義母さんが申し訳なさそうに口を開いた。
「食べ散らかしたまま出てきちゃったけど、大丈夫だった?」
夕方に帰宅予定だった康徳さんが、19時を過ぎてようやく帰宅したのと入れ違いになる形で、娘二人と晩ご飯の後片付けもお願いして、少々バタバタと出てきてしまった。
「大丈夫ですよ。こちらこそ、追い立てるみたいになっちゃって、すみません」
「気にしないで。世間の嫁と姑なんて、そんなもんだから」
お義母さんは目を細めて笑った。肯定したものか、否定したものか迷っている間に、お義母さんは話題を切り替える。
「義理の妹さん、予定日いつだっけ?」
「来月末とか、GWとか......」
「じゃあ、あちらはバタバタね。どんどん、うちに頼りなさい。無茶振りも大歓迎」
お義母さんは軽く胸を叩いて、「ドーンとね」とウインクした。
「あの子たちにもイトコができるんだ......。よかった、よかった」
アルプラザの裏口から中に入って、向かいの出入り口を目指す。食品売り場の横を抜けて目の前の道路を左に曲がれば、国道171号線に突き当たる。お義母さんの少し前を歩いて先導しながら、話を拾う。
「お義姉さんも、敬子さんも、まだまだコレからありそうですけど」
「あの子たちはダメダメ。敬子もすっかりアラサー、郁美はアラフォー。昔は浮いた話も聞いたけど、最近はね......」
手に職を持っていて、女一人で生きていくには問題なさそうだけど、器量も性格も問題なさそうに見えるところが、かえって災いしてるのか。とはいえ、姉妹の恋愛事情どころか、本人の色恋沙汰にも一切興味を持ってなさそうな康徳さんが立派なイクメンになるぐらいだから、何があるかは分からない。
171号線との交差点で、お義母さんは「ココまででいいわ」と言った。
「あっちの吉野家の前よね?」
「そうです。最後まで、」
「ココでいいわ。信号変わっちゃったし」
お義母さんは、歩行者用の信号を指差した。向かいに渡って左へ戻ったところに、石橋方面行きのバス停がある。
「大事な孫と、出来の悪い息子をよろしく」
お義母さんは私に手を振ると、信号待ちをするために横断歩道へ、二、三歩近付いた。背中をじっと見ていたら、私の視線を気にすることなく、スマホを取り出して何やら操作をし始めた。
箕面方面行きは順調に流れているように見える。バスは時刻表通りに来て、大した遅延もなく終点へ送り届けてくれるだろう。見えていないと思いつつ、お義母さんの背中に頭を下げ、踵を返した。
来た道を戻り始めると信号が変わったらしい。ちょっとだけ立ち止まって後ろを振り返ると、お義母さんの姿はとっくに見えなくなっていた。
大人が二人並んで歩くにはやや細い歩道を抜け、橋に差し掛かったところでお義母さんが申し訳なさそうに口を開いた。
「食べ散らかしたまま出てきちゃったけど、大丈夫だった?」
夕方に帰宅予定だった康徳さんが、19時を過ぎてようやく帰宅したのと入れ違いになる形で、娘二人と晩ご飯の後片付けもお願いして、少々バタバタと出てきてしまった。
「大丈夫ですよ。こちらこそ、追い立てるみたいになっちゃって、すみません」
「気にしないで。世間の嫁と姑なんて、そんなもんだから」
お義母さんは目を細めて笑った。肯定したものか、否定したものか迷っている間に、お義母さんは話題を切り替える。
「義理の妹さん、予定日いつだっけ?」
「来月末とか、GWとか......」
「じゃあ、あちらはバタバタね。どんどん、うちに頼りなさい。無茶振りも大歓迎」
お義母さんは軽く胸を叩いて、「ドーンとね」とウインクした。
「あの子たちにもイトコができるんだ......。よかった、よかった」
アルプラザの裏口から中に入って、向かいの出入り口を目指す。食品売り場の横を抜けて目の前の道路を左に曲がれば、国道171号線に突き当たる。お義母さんの少し前を歩いて先導しながら、話を拾う。
「お義姉さんも、敬子さんも、まだまだコレからありそうですけど」
「あの子たちはダメダメ。敬子もすっかりアラサー、郁美はアラフォー。昔は浮いた話も聞いたけど、最近はね......」
手に職を持っていて、女一人で生きていくには問題なさそうだけど、器量も性格も問題なさそうに見えるところが、かえって災いしてるのか。とはいえ、姉妹の恋愛事情どころか、本人の色恋沙汰にも一切興味を持ってなさそうな康徳さんが立派なイクメンになるぐらいだから、何があるかは分からない。
171号線との交差点で、お義母さんは「ココまででいいわ」と言った。
「あっちの吉野家の前よね?」
「そうです。最後まで、」
「ココでいいわ。信号変わっちゃったし」
お義母さんは、歩行者用の信号を指差した。向かいに渡って左へ戻ったところに、石橋方面行きのバス停がある。
「大事な孫と、出来の悪い息子をよろしく」
お義母さんは私に手を振ると、信号待ちをするために横断歩道へ、二、三歩近付いた。背中をじっと見ていたら、私の視線を気にすることなく、スマホを取り出して何やら操作をし始めた。
箕面方面行きは順調に流れているように見える。バスは時刻表通りに来て、大した遅延もなく終点へ送り届けてくれるだろう。見えていないと思いつつ、お義母さんの背中に頭を下げ、踵を返した。
来た道を戻り始めると信号が変わったらしい。ちょっとだけ立ち止まって後ろを振り返ると、お義母さんの姿はとっくに見えなくなっていた。
感想 0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冷酷伯爵が可愛すぎて溺愛せずにはいられません!
猫塚ルイ
冷酷と噂の伯爵様は私の前でだけ可愛くなる───政略結婚から始まる、甘すぎる夫婦生活
「冷酷伯爵」と噂されるベルと政略結婚したリリア。
しかし彼の正体は、甘党でぬいぐるみを大切にする可愛すぎる男性だった。
素顔を肯定したリリアと、彼女に心を開いていくベルの、政略結婚から始まる波乱万丈なロマンスファンタジー
冷酷公爵と呼ばれる彼は、幼なじみの前でだけ笑う
由香“冷酷”“無慈悲”“氷の貴公子”――そう恐れられる公爵アレクシスには、誰も知らない秘密がある。
それは、幼なじみのリリアーナの前でだけ、優しく笑うこと。
貴族社会の頂点に立つ彼と、身分の低い彼女。
決して交わらないはずの二人なのに、彼は彼女を守り、触れ、独占しようとする。
「俺が笑うのは、お前の前だけだ」
無自覚な彼女と、執着を隠しきれない彼。
やがてその歪な関係は周囲を巻き込み、彼の“冷酷”と呼ばれる理由、そして彼女への想いの深さが暴かれていく――
これは、氷のような男が、たった一人にだけ溺れる物語。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科
空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する
高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体
それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった
至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する
意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク”
消える教師
山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。