2023 森田芽衣編

仮面ライター

文字の大きさ
13 / 21

8月11日(金)

しおりを挟む
 朝食を終え、早々にテレビの前で遊び始める亜衣と、隣でそれを見ている映美。私は食器を洗いながら、いつもよりエンジンの掛かりが悪そうな夫を眺めていた。彼はボサボサの寝癖を気にすることなく、ぼんやりとテレビや子供たちの方へ目を向けている。
「本当に、迎えに来てもらわなくてよかったの?」
 目の前で流れる水の音に負けないよう、少し大きめの声で言った。彼は頷いて、ゆっくりと振り返った。大きな欠伸をしながら、「僕が運転するよ」と答えた。
「最近、雄輔くんに頼ってばっかりだし。帰りは電車って訳にもいかないし」
 実家までの送り迎えぐらいなら、雄輔は喜んでやってくれると思うけど、彼なりに何かが引っかかっているのだろう。
「無理してない?」
 彼は自信たっぷりに「大丈夫」と言った。私とのやり取りで多少は血が回るようになったらしく、徐々にいつも通りの彼に戻ってきた。私は彼に新しいコーヒーを入れる。彼が「ありがとう」とゆっくりそれを飲む間に、子ども達を洗面所に誘導して歯磨きを済ませた。リビングに戻ると、今度は二人とも子供番組に釘付けになり、テレビの前で大人しく座っている。
「じゃあ、今パパッと入ってくる」
 康徳さんはコーヒーを飲み切ると、カップを流しに置いて風呂場へ向かった。しばらくすると、シャワーの音が聞こえてくる。
 時計に目をやると、まだ八時を過ぎたところ。今から準備して九時過ぎ出発は流石に早すぎるけど、必要なものぐらい整理しておいてもいい頃合い。お盆のお供えと、道中の子供たちの水分、あとはいつものお出かけセット、と。酔い止めの薬も出しておかないと。
 さっきまで朝食が並んでいた食卓に、荷物がどんどん固められていく。今回はパパッと日帰りだから、いつもより量は少ない。トローチタイプの酔い止め薬も、カバンの横に添えておく。
 実家近くの駐車場も探しておかないと。牧人も車で来ると言ってたし、実家の空きスペースはそっちに譲ろう。雄輔がもう起きていることを願って、彼に「駐車場、どこかあったっけ」とLINEした。自分で変に検索するより、彼の方が詳しいだろう。すぐに返信がなくても、向こうへ着くまでには何かしら返事があるはず。
 シャワーの音が聞こえなくなると、今度は電気シェーバーの音が聞こえてきた。私は流しに残っていた食器を洗い、食器乾燥機のつまみを回した。康徳さんは、髪もしっかりセットし終えてリビングに戻ってきた。
 彼は私に、「どうぞ」と洗面所の方を示した。私は「ありがとう」と返し、「子供たちお願い」と伝えて洗面所に移った。目元だけ簡単に化粧して、ボサボサの髪へ櫛を入れ、少しだけ整えた。
 リビングに戻ると、康徳さんは外行きの格好に着替え、子供たちと楽しそうに遊んでいた。
「牧人くんへの誕生日プレゼントとか、買って行った方がいいの?」
 彼は地図アプリを見ながら言った。私は首を振りながら、「いらない、いらない」と答える。
「了解。じゃあ、混むつもりでボチボチ行こうか」
 康徳さんはトイレに向かった。私は亜衣と映美に酔い止め薬を舐めさせ、食卓の荷物を玄関に運んだ。康徳さんがトイレから出てきたら、順番に子供達と私のトイレを済ませて、外に出る。道中の段取りもなんとなく頭の中に描き、指を折り曲げながら一つ一つ確かめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

処理中です...