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いつもの日々
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南向きの窓から柔らかくも眩しい朝日が差す。机とクローゼットとベッドしかない質素な部屋が淡く照らされる。いつもの目覚め。
「ん……朝か……」
眠い目を擦りながらアランは起き抜けのぼさぼさのブロンドヘアのまま自室を出て階段を降りる。
「おはよう、アラン。」
一階のダイニングで朝食を準備しながらアランの母リリーは優しい笑顔をアランに向けた。
「……おはよう。」
素っ気なくアランは挨拶を返しながらテーブルにつく。リビングは焼き立てのパンの香りで満ち、目玉焼きにベーコンとサラダが皿の上にきれいに盛られている。春先の寒い朝に相応しく温かいコンソメスープも添えられ、器からは湯気が上がっていた。
「もうすぐ進級…じゃなくて、卒業だったわね。早いものね。」
「そうだね。」
アランは朝食を食べながら短く返す。
「卒業するのは寂しい?」
「……別に。」
少し含みのあるような返事を返し、先ほどよりも少しだけアランの表情は曇った。
「そう。卒業から試験までは何をしましょうね。何かしたいことはある?」
僅かな表情の変化を察知したリリーは長い金色の髪をかきあげ、少し都合が悪そうに話題を逸らした。
「うーん……特に、ないかなあ。」
少し考えながらゆっくりとアランは答えた。
彼には趣味らしい趣味もなく、ただ学校で勉強する剣術、戦術、歴史などを淡々と学ぶだけの生活を送っていた。その中でこれといった興味を持てる何かを見つけられていなかったのだった。
「そうなのね…一緒に考えていきましょう。さて、そろそろ準備の時間よね?」
「うん、そうだね。準備してくるよ。」
いつものようにちょうど食べ終わった朝食の片付けを母に任せ、アランは自室へ戻って投稿の準備を始める。
教科書の入った皮のリュック、訓練用の木刀を肩にかけ、士官学校の緑の制服を羽織る。着慣れた制服の鮮やかな緑は少し淡く褪せていながら、結んでいる高学年用のネクタイはやたらときれいに水色と黒がきらめいている。
アランはひとつため息をつきながら支度を終え、再び階段を降りる。
「母さん、行ってきます。」
「いってらっしゃい。気をつけてね。」
優しい笑顔で見送る母を後ろにアランは家を飛び出して学校へ向けて駆け出す。
アランの住む街、ハルフレッド。大きくもなく、小さくもない、そこそこに栄えた街。アランは花屋や雑貨屋の並ぶ商店街を駆けて街の中心にある士官学校へ急ぐ。
いつも通りの通学路を抜けて士官学校の大きな門へ辿り着く。「ハルフレッド士官学校」と大きく書かれた門の文字はかつての英雄が書いたのだと何度も先生から伝えられた。この学校には6歳から18歳までのあらゆる年齢の男子が通う。幼い時は国の歴史を、年が上がるにつれて少しずつ実戦向きの武術を習う。アランの年齢ーー10歳であれば剣は持たずに投稿する年齢である。しかし、アランは度重なる飛び級の末、18歳の“同級生”に囲まれて学校生活を送っている。
高学年棟の3階、最上階にたどり着いたアランはC組の扉をそっと開ける。低い声で響く雑談にアランの扉の音と共にその存在もかき消されていく。そっとクラスの真ん中の席に着くと誰とも話さず、もはや声を発することもなく朝の眠りの続きをとるため、机に突っ伏した。
『あと10日……』
そんな呪いのような言葉をアランは思い浮かべながら眠りについた。
「ん……朝か……」
眠い目を擦りながらアランは起き抜けのぼさぼさのブロンドヘアのまま自室を出て階段を降りる。
「おはよう、アラン。」
一階のダイニングで朝食を準備しながらアランの母リリーは優しい笑顔をアランに向けた。
「……おはよう。」
素っ気なくアランは挨拶を返しながらテーブルにつく。リビングは焼き立てのパンの香りで満ち、目玉焼きにベーコンとサラダが皿の上にきれいに盛られている。春先の寒い朝に相応しく温かいコンソメスープも添えられ、器からは湯気が上がっていた。
「もうすぐ進級…じゃなくて、卒業だったわね。早いものね。」
「そうだね。」
アランは朝食を食べながら短く返す。
「卒業するのは寂しい?」
「……別に。」
少し含みのあるような返事を返し、先ほどよりも少しだけアランの表情は曇った。
「そう。卒業から試験までは何をしましょうね。何かしたいことはある?」
僅かな表情の変化を察知したリリーは長い金色の髪をかきあげ、少し都合が悪そうに話題を逸らした。
「うーん……特に、ないかなあ。」
少し考えながらゆっくりとアランは答えた。
彼には趣味らしい趣味もなく、ただ学校で勉強する剣術、戦術、歴史などを淡々と学ぶだけの生活を送っていた。その中でこれといった興味を持てる何かを見つけられていなかったのだった。
「そうなのね…一緒に考えていきましょう。さて、そろそろ準備の時間よね?」
「うん、そうだね。準備してくるよ。」
いつものようにちょうど食べ終わった朝食の片付けを母に任せ、アランは自室へ戻って投稿の準備を始める。
教科書の入った皮のリュック、訓練用の木刀を肩にかけ、士官学校の緑の制服を羽織る。着慣れた制服の鮮やかな緑は少し淡く褪せていながら、結んでいる高学年用のネクタイはやたらときれいに水色と黒がきらめいている。
アランはひとつため息をつきながら支度を終え、再び階段を降りる。
「母さん、行ってきます。」
「いってらっしゃい。気をつけてね。」
優しい笑顔で見送る母を後ろにアランは家を飛び出して学校へ向けて駆け出す。
アランの住む街、ハルフレッド。大きくもなく、小さくもない、そこそこに栄えた街。アランは花屋や雑貨屋の並ぶ商店街を駆けて街の中心にある士官学校へ急ぐ。
いつも通りの通学路を抜けて士官学校の大きな門へ辿り着く。「ハルフレッド士官学校」と大きく書かれた門の文字はかつての英雄が書いたのだと何度も先生から伝えられた。この学校には6歳から18歳までのあらゆる年齢の男子が通う。幼い時は国の歴史を、年が上がるにつれて少しずつ実戦向きの武術を習う。アランの年齢ーー10歳であれば剣は持たずに投稿する年齢である。しかし、アランは度重なる飛び級の末、18歳の“同級生”に囲まれて学校生活を送っている。
高学年棟の3階、最上階にたどり着いたアランはC組の扉をそっと開ける。低い声で響く雑談にアランの扉の音と共にその存在もかき消されていく。そっとクラスの真ん中の席に着くと誰とも話さず、もはや声を発することもなく朝の眠りの続きをとるため、机に突っ伏した。
『あと10日……』
そんな呪いのような言葉をアランは思い浮かべながら眠りについた。
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