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才能と苦悩
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授業が始まってもアランはぼんやりとしていた。
『近代史か……王様は世襲だし、大きな争い事もないし、いつ近隣国家と面白くない条約をむすんだか結んだかばかり…』
「で、638年に我々は隣国ルナビアと国家間の行き来を自由とするラディア-ルナビア自由通行条約を結んだわけだ。」
アランは教師の話を上の空に教科書のページをパラパラとめくる。分厚い教科書も今はもう終わりに差し掛かっている。前半のページにはビッシリとメモが書かれているが、ここ最近のページは受け取ったときのままの姿をしていた。
アランの住む国ラディアが最後に戦争をしたのは157年前。もはや経験した人間はどこにもいなかった。現実味のない争いの話は物語のようで幼いアランの興味を引いた。その頃の各地での戦い、その戦略、ありとあらゆる興味のあるものをアランは片っ端から頭に詰めた。決して彼は座学で学ぶ内容がすこぶるできるというわけではない。ただ、興味を持つことを覚え、進んで学んできた。故に学年が上がるにつれて歴史の成績は徐々に落ち、現在は中の上といった成績で落ち着いている。
カランカラン、カランカラン
校舎の真ん中の講堂にそびえる鐘が鳴った。授業の区切りの合図だった。
「さて、それじゃあここまで。次で最後まで進めるから予習をしてくるように。」
教師が立ち去ると、学生はざわざわと騒ぎ出し仲間連れで教室を出て行った。
昼休みの時間は皆食堂へ集まり、自由な席について食事をとる。大抵の学生はクラスメートや他クラスの友人と並んで座り、雑談しながら休み時間の半分くらいを使って食事を取る。
アランは体格が自分よりも大きいクラスメートたちが教室をおおかた去った後に席を立った。廊下にはまだ友人との会話に夢中の人が残る中、アランは足早に食堂へ向かう。食堂は大きな机が並び、既に食事が配膳された状態になっている。アランはその中で最も食器の返却台に近い端の席に座った。
仲間連れの学生たちは各々好きな席に並んで座る。雑談をしながら食事を取る人々によって食堂は賑わっていた。そんな喧騒を遠目にアランは黙々と食事を取る。体格が違うこともあり、いつも食事は半分くらいしか取れずに残してしまうことを申し訳なく思いながらも、スプーンで器に入ったシチューを黙々と口へ運んだ。アランの周りにも数名友人連れでない者たちがいた。きっと一人でいることが好きなのだろうと思い、お互いに誰とも会話することなく静かな食事の時間が流れる。
アランはそそくさと食事を終えて食器を片付けると食堂から出た。植物が芽吹き、花をつけそうな季節の校舎の庭を散歩していた。
『もうすぐここにも来なくてよくなるのか。』
忌まわしい孤独の記憶を脳裏に巡らせながら、美しい緑の広がる庭を名残惜しそうに眺めた。そんな感慨を割るように後ろからやかましい声がかけられた。
「アランか?もうネクタイ結んでんのかよ!」
声をかけたのはアランと同い年の“元”同級生、ギルだった。その後ろには同級生の何人かを連れて、彼らも食事後の散歩のようだった。
「ギル…久しぶり。」
「お前今どこの学年なんだー?」
「18歳級…だよ。もうすぐ卒業する。」
ギルは驚いたような表情を浮かべたあと睨みつけるような顔をした。
「へー?すげーな、やっぱ天才クンは。もー卒業だってよ?」
周りの仲間に聞かせるように大きな声でギルは言った。周りの仲間も驚きの後には嘲笑うような顔をして見せた。
「俺らはまだ学生やってられるし、楽しいけどさ、お前どーすんの、卒業してから。別に騎士にもなれねーし、お家でダラダラすんの?自慢の剣術が鈍っちゃうんじゃねーの?」
ニタニタと笑いながらギルはアランをおちょくった。アランは特に気に留めることもない顔で返す。
「剣術は家でも練習するよ。騎士になるまでは……家で勉強する。」
「ははは!やっぱり引きこもりじゃん!たまには友達と遊んだら?あ、いなかったか!」
ギルは楽しそうにアランを貶め、仲間たちも同調して笑っていた。アランとしてはいつものことなので気にかけることもなく、その場を去っていった。
騎士になるまでには時間がある。通常は18歳で学校を卒業してそのまま騎士試験を受けるが、年齢制限のために10歳のアランは卒業後も8年待たなくてはならない。母やギルに卒業後のことを聞かれ、少し考えなくてはとアラン自身も焦りを感じていた。
『近代史か……王様は世襲だし、大きな争い事もないし、いつ近隣国家と面白くない条約をむすんだか結んだかばかり…』
「で、638年に我々は隣国ルナビアと国家間の行き来を自由とするラディア-ルナビア自由通行条約を結んだわけだ。」
アランは教師の話を上の空に教科書のページをパラパラとめくる。分厚い教科書も今はもう終わりに差し掛かっている。前半のページにはビッシリとメモが書かれているが、ここ最近のページは受け取ったときのままの姿をしていた。
アランの住む国ラディアが最後に戦争をしたのは157年前。もはや経験した人間はどこにもいなかった。現実味のない争いの話は物語のようで幼いアランの興味を引いた。その頃の各地での戦い、その戦略、ありとあらゆる興味のあるものをアランは片っ端から頭に詰めた。決して彼は座学で学ぶ内容がすこぶるできるというわけではない。ただ、興味を持つことを覚え、進んで学んできた。故に学年が上がるにつれて歴史の成績は徐々に落ち、現在は中の上といった成績で落ち着いている。
カランカラン、カランカラン
校舎の真ん中の講堂にそびえる鐘が鳴った。授業の区切りの合図だった。
「さて、それじゃあここまで。次で最後まで進めるから予習をしてくるように。」
教師が立ち去ると、学生はざわざわと騒ぎ出し仲間連れで教室を出て行った。
昼休みの時間は皆食堂へ集まり、自由な席について食事をとる。大抵の学生はクラスメートや他クラスの友人と並んで座り、雑談しながら休み時間の半分くらいを使って食事を取る。
アランは体格が自分よりも大きいクラスメートたちが教室をおおかた去った後に席を立った。廊下にはまだ友人との会話に夢中の人が残る中、アランは足早に食堂へ向かう。食堂は大きな机が並び、既に食事が配膳された状態になっている。アランはその中で最も食器の返却台に近い端の席に座った。
仲間連れの学生たちは各々好きな席に並んで座る。雑談をしながら食事を取る人々によって食堂は賑わっていた。そんな喧騒を遠目にアランは黙々と食事を取る。体格が違うこともあり、いつも食事は半分くらいしか取れずに残してしまうことを申し訳なく思いながらも、スプーンで器に入ったシチューを黙々と口へ運んだ。アランの周りにも数名友人連れでない者たちがいた。きっと一人でいることが好きなのだろうと思い、お互いに誰とも会話することなく静かな食事の時間が流れる。
アランはそそくさと食事を終えて食器を片付けると食堂から出た。植物が芽吹き、花をつけそうな季節の校舎の庭を散歩していた。
『もうすぐここにも来なくてよくなるのか。』
忌まわしい孤独の記憶を脳裏に巡らせながら、美しい緑の広がる庭を名残惜しそうに眺めた。そんな感慨を割るように後ろからやかましい声がかけられた。
「アランか?もうネクタイ結んでんのかよ!」
声をかけたのはアランと同い年の“元”同級生、ギルだった。その後ろには同級生の何人かを連れて、彼らも食事後の散歩のようだった。
「ギル…久しぶり。」
「お前今どこの学年なんだー?」
「18歳級…だよ。もうすぐ卒業する。」
ギルは驚いたような表情を浮かべたあと睨みつけるような顔をした。
「へー?すげーな、やっぱ天才クンは。もー卒業だってよ?」
周りの仲間に聞かせるように大きな声でギルは言った。周りの仲間も驚きの後には嘲笑うような顔をして見せた。
「俺らはまだ学生やってられるし、楽しいけどさ、お前どーすんの、卒業してから。別に騎士にもなれねーし、お家でダラダラすんの?自慢の剣術が鈍っちゃうんじゃねーの?」
ニタニタと笑いながらギルはアランをおちょくった。アランは特に気に留めることもない顔で返す。
「剣術は家でも練習するよ。騎士になるまでは……家で勉強する。」
「ははは!やっぱり引きこもりじゃん!たまには友達と遊んだら?あ、いなかったか!」
ギルは楽しそうにアランを貶め、仲間たちも同調して笑っていた。アランとしてはいつものことなので気にかけることもなく、その場を去っていった。
騎士になるまでには時間がある。通常は18歳で学校を卒業してそのまま騎士試験を受けるが、年齢制限のために10歳のアランは卒業後も8年待たなくてはならない。母やギルに卒業後のことを聞かれ、少し考えなくてはとアラン自身も焦りを感じていた。
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