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邂逅
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「おはようございます。明後日8時をまわりました。本日も『朝カツ』スタートです。」
ピシッと決まった紺色のスーツ、すらっと高い身長に整えられた黒い髪。
毎朝のニュースをかざるキャスター、綾川徹。
人気タレントとして様々な番組に引っ張りだこだが、なによりも朝の顔といった印象が今は強い。
爽やかな笑顔、ニュースに対する真摯な姿が巷では好評だった。
「さて、本日は極めて悲しい事件からです。昨夜未明…」
憂いを帯びたその顔すら美しく整っている。広い世代から支持されることも納得だ。
番組は2時間弱もの間展開される。その間に彼は様々な表情を魅せる。
悲しいニュースでは哀れんだ顔。嬉しいニュースでは喜んだ顔。時には食レポで無邪気な笑顔を見せることさえある。それが巷では一つの話題だった。
そんな彼の魅力が溢れた番組『朝カツ』の今日の放送は終了した。
「はい、カット。本日の放送終了です!ありがとうございます!」
「はい、お疲れ様です!ありがとうございました!」
スタッフからの元気な声にも疲れを見せずに笑顔で応える。カメラが回っていなくても爽やかな姿を出し惜しみしない。
帰っていく彼の背後からふと声がかかる。
「綾川さん、今日はありがとうございました。」
番宣で出演していた若手のアイドル女優だ。ほんの数分の出演時間。それでも彼は疲れも見せずに笑顔で返す。
「ああ、お疲れ様。ドラマ、頑張ってね。」
そう応え、番組の感想など他愛もないことを話す。最後には激励の言葉と共に最高の笑顔を振りまく。
控室でも人柄の良さは変わらない。
使い終われば楽屋はさっと掃除して、その後の打ち合わせをするマネージャーにも優しく対応する。
今日はこのあと、ちょっと都心を離れたところでロケをこなす。
そこまで向かうにも、タクシーや街ゆく人々にも優しく丁寧に接する。
「いつもありがとうございます。」
そんな言葉と共に向けられる笑顔は輝いて見えた。
少し都心を離れて寂れた商店街でのロケ。ご当地のマイナーなコロッケや、キャラクターを紹介しながら歩く。
昼過ぎからのロケは夕方まで続いた。一通りを終えると、スタッフにお辞儀して解散の雰囲気となる。
「ありがとうございました、綾川さん。今日もいい感じでしたね!」
ロケの担当者が明るく声をかけると恐縮したようにお辞儀しながらお礼を述べる。
「この後、どうですか?」
「あ、いや。僕は…」
スタッフや共演者との打ち上げを綾川はほとんど断る。これだけは皆が不思議がるところだった。
「では、僕はこれで。ありがとうございました。」
そそくさと駅前のタクシーへ向かう綾川を見送りながら、番組スタッフが話す。
「綾川さん、飲み会来てくれたら最高なんだけどなあ。」
「まあ、色々あるんじゃない?人気者だしさ。」
そんなことを言われながら綾川はタクシーへ乗り込み、遠くへ消えていった。
「お客さま、どちらまで。」
「ちょっと、離れるんですけど…」
綾川はスタッフたちの邪推に沿わず、都心からさらに離れた土地へと向かった。
ただでさえ人の少ないロケ地からさらに離れた人通りの少ない静かな街。
そんな街の駅も近くないであろう住宅街の真ん中でタクシーを停めた。
「ありがとうございます。」
そう言って支払いを済ませて降りた綾川は、少し歩いたところにある公園へ向かう。
家もやや少なく開けたところにある、街灯も少ない公園。日も暮れて薄暗いそこへ綾川は一人で入って行った。
ピシッと決まった紺色のスーツ、すらっと高い身長に整えられた黒い髪。
毎朝のニュースをかざるキャスター、綾川徹。
人気タレントとして様々な番組に引っ張りだこだが、なによりも朝の顔といった印象が今は強い。
爽やかな笑顔、ニュースに対する真摯な姿が巷では好評だった。
「さて、本日は極めて悲しい事件からです。昨夜未明…」
憂いを帯びたその顔すら美しく整っている。広い世代から支持されることも納得だ。
番組は2時間弱もの間展開される。その間に彼は様々な表情を魅せる。
悲しいニュースでは哀れんだ顔。嬉しいニュースでは喜んだ顔。時には食レポで無邪気な笑顔を見せることさえある。それが巷では一つの話題だった。
そんな彼の魅力が溢れた番組『朝カツ』の今日の放送は終了した。
「はい、カット。本日の放送終了です!ありがとうございます!」
「はい、お疲れ様です!ありがとうございました!」
スタッフからの元気な声にも疲れを見せずに笑顔で応える。カメラが回っていなくても爽やかな姿を出し惜しみしない。
帰っていく彼の背後からふと声がかかる。
「綾川さん、今日はありがとうございました。」
番宣で出演していた若手のアイドル女優だ。ほんの数分の出演時間。それでも彼は疲れも見せずに笑顔で返す。
「ああ、お疲れ様。ドラマ、頑張ってね。」
そう応え、番組の感想など他愛もないことを話す。最後には激励の言葉と共に最高の笑顔を振りまく。
控室でも人柄の良さは変わらない。
使い終われば楽屋はさっと掃除して、その後の打ち合わせをするマネージャーにも優しく対応する。
今日はこのあと、ちょっと都心を離れたところでロケをこなす。
そこまで向かうにも、タクシーや街ゆく人々にも優しく丁寧に接する。
「いつもありがとうございます。」
そんな言葉と共に向けられる笑顔は輝いて見えた。
少し都心を離れて寂れた商店街でのロケ。ご当地のマイナーなコロッケや、キャラクターを紹介しながら歩く。
昼過ぎからのロケは夕方まで続いた。一通りを終えると、スタッフにお辞儀して解散の雰囲気となる。
「ありがとうございました、綾川さん。今日もいい感じでしたね!」
ロケの担当者が明るく声をかけると恐縮したようにお辞儀しながらお礼を述べる。
「この後、どうですか?」
「あ、いや。僕は…」
スタッフや共演者との打ち上げを綾川はほとんど断る。これだけは皆が不思議がるところだった。
「では、僕はこれで。ありがとうございました。」
そそくさと駅前のタクシーへ向かう綾川を見送りながら、番組スタッフが話す。
「綾川さん、飲み会来てくれたら最高なんだけどなあ。」
「まあ、色々あるんじゃない?人気者だしさ。」
そんなことを言われながら綾川はタクシーへ乗り込み、遠くへ消えていった。
「お客さま、どちらまで。」
「ちょっと、離れるんですけど…」
綾川はスタッフたちの邪推に沿わず、都心からさらに離れた土地へと向かった。
ただでさえ人の少ないロケ地からさらに離れた人通りの少ない静かな街。
そんな街の駅も近くないであろう住宅街の真ん中でタクシーを停めた。
「ありがとうございます。」
そう言って支払いを済ませて降りた綾川は、少し歩いたところにある公園へ向かう。
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