相死相哀

戸山紫煙

文字の大きさ
3 / 11
邂逅

3

しおりを挟む
綾川は不安を押し殺しながら歩いていた。こんな見知った人しか通らないような住宅街で怪しまれないように堂々とした姿勢でいた。
少しずつ街灯が増えて明るくなっている気がしたが、それすら気のせいかと思うほど景色が変わらない。
それでもひたすら自分を信じながら歩みを進める綾川を止める声があった。
「あの、すみません。」
少し後ろから聞こえた声にびっくりしながら振り返ると、ひとりの女性が立っていた。
やや小柄ながら大人っぽい長い髪。季節に合ったブラウスと長いスカートにヒールの靴を履いている。顔はよく見えないが、少し腰を低くした姿勢を見ると困っているように見えた。
「はい、なんでしょう?」
綾川は気を取り直していつもの笑顔で返した。
「道、合ってるか不安で…柳川駅に行きたいんですけど…」
そう言いながら女性はスマホの地図を差し出した。どうやら駅まではまだかかるようだった。
「実は僕も駅に向かっていたんです。一緒に行きましょうか、この辺りは暗いですし。」
綾川は内心助かったと思いつつ、自然に返した。女性はホッとしたように明るく返して、二人は並んで歩きだした。
歩いている間は他愛もないことばかり話していた。といっても、綾川はここまで来た理由や、先程までしていたことを隠そうと少しずつ嘘を散りばめていた。

10分ほど歩くと話題は概ね尽きた。静かな街をほとんど話さず歩いていると綾川もさまざまに考えを巡らせてしまった。
初めは『こんなにいい人にたまたま出会えるなど、幸運だったなあ。』とか、そういった他愛もないことばかりだったが、ふと良からぬことを考えてしまった。
『こんなに人気のないところなら、自分の欲のために殺してしまえるのではないか。』
そう自らが考えたことにゾクっとしながら動揺を見せないように頭を空にした。
しかし、一度考えると止まらない。
先程手にかけた猫の感覚が蘇る。
今ならやれる。
この出会いを知っているのは互いだけなのだから。
ポケットに手が伸びそうな衝動を綾川は精一杯抑える。

気がつけば周りの音が聞こえないほどに気が散っていた。
めまいがする。世界が回る。
呼吸が浅くなり、歩くことが、立っていることが難しくなる。
「大丈夫ですか?」
すぐ隣にいるはずの女性の声が、今は遠くで鳴っているように聞こえた。
気がつけばうずくまって動けなくなっているようだった。
女性の心配する手が綾川の肩に伸び、そっと触れた。
途端に綾川の頭はくらくらとして、視界が暗く、狭くなっていく。
「ちょっと、どうしよう…」
焦る女性の声だけが微かに綾川に届く。
その言葉を最後に、綾川の意識は途絶えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...