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序:ステルスヤクザ
序ノ壱:ステルスヤクザ/柳澤永慶
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俺の視界の片隅に二人のOLが休憩室でくつろいでいた。
地上12階建てのビルの中、3階のエレベーターホール脇の休憩室、自販機でかった紙コップコーヒーを傾けながら会話に興じている。俗っぽい言い方をするなら井戸端会議ってやつだ。
俺はビルの奥からエレベーターホールへと歩いている途中だった。彼女たちに気取られないようにしながら、彼女たちの雑談に耳をそばだてる。
――でさ、カスタマーサポート室でね――
――それ、きついよね。全然減らないよね――
――モンスタークレーマー――
――しかたないよ。うちってそう言う仕事だからさ――
――教育産業ってもっと楽だとおもったんだけど――
――だよねぇ――
いわゆる愚痴の類だ。
彼女たちは顧客からよせられる要望や苦情の類を処理するカスタマーサポート部の職員だ。
我々の会社だが、教育産業をメインとしている。通信教育や模擬試験の提供、家庭教師派遣などを軸に、教育に関する大規模データを集めることを最大のウリにしている。
今の時代〝情報〟は金になる。
それだけに少しでも多くの〝一般客〟を集めることが必須となる。
その要の役割となるのが、営業担当であり、また顧客対応の役目を持つカスタマー受付担当の彼女たちだ。
言葉遣いもよく 臨機な対応ができる人材を特にあつめているが、内容が内容だけにストレスも多いだろう。これくらいの無駄話は許容範囲と言うところだ。
――でもうち、福利厚生いいからさ――
――社長の方針でしょ? 働いた分はしっかり評価する――
――毎年昇給あるし、残業代カットも無いし――
――有給もちゃんと取らせてくれるからね――
――有給取らせなかった管理職クビにしたって言うし――
――うん。まともな方だよ――
――これくらいは我慢だね――
そんな会話をもらしていた彼女たちの視線がすっと俺の方へと向く。
俺が気づかないふりをすれば、彼女たちも気づかないふりしていた。
通り過ぎ際にひそひそ声がする。
――ねぇ、あのひと――
――社長室の専属秘書の――
――〝柳澤〟さんって言ったっけ?――
――そうそう、柳澤永慶さん――
――かっこいいよね――
――スポーツやってそうだよね――
――てかボクシングとか?――
――脱いだらすごかったりして――
俺に聞かれていないつもりなのだろうが筒抜けだった。内心、苦笑しながら通り過ぎ去ろうとした。
と、その時だった。
――そう言えば。知ってる?――
――なに?――
――3班の鹿島さん――
――あ、様子がおかしいって話?――
――うん、無断欠勤も目立ってきたって。変に痩せてきたって言うし――
――なんかやばいね――
――新しい恋人できてからだって言うけど――
――でも怖いよ。〝隠れヤクザ〟だったら巻き込まれるし――
――〝ステルスヤクザ〟って言ったっけ――
――そうそう――
聞き逃がせない話だった。
――カスタマーサポート室の受付担当第3班――
――そこの〝鹿島〟と言う女子職員――
急に痩せたと言うのは病気かもしくは〝薬物〟
その新しい恋人と言うのが元凶だろう。そしておそらくは〝本職〟だ。
その女子職員個人が破滅するか、もしくは巧妙にあやつり人形にしたてられるか――
そのまま企業スパイ役にされる恐れもある。看過は出来ない。
俺はポケットの中に入れてあった愛車のリモコンキーをさり気なく落とす。
――チャリン!――
海外の銅貨を仕込んだキーホルダーが音をたてれば、それに驚いた先の二人が振り向いていた。
俺はキーを拾いながら彼女たちへと視線をなげかける。
会話の内容が内容だけに、彼女たちも戸惑っていた。だが俺は――
「―――」
――人差し指を唇の前に縦にして添えながら、彼女たちに視線を投げかけた。表情はできるだけ穏やかにしつつ。
その仕草の意味を彼女たちもわかったのだろう。はっきりと頷きながらそれっきり沈黙しはじめた。
井戸端会議の話題として切り出していい内容ではない事は伝わったはずだ。
「行こう」
「うん」
二人は紙コップを片付けるながらその場を後にする。途中、俺へと会釈で挨拶をしてくれた。
同時に社内制服の胸元にそえらえているIDカードの名前を記憶する。
【 カスタマーサポート室 】
【 カスタマー受付担当第2班 】
【 三代貴子 】
【 カスタマーサポート室 】
【 カスタマー受付担当第2班 】
【 小手川真理 】
二人の周辺で何かが起きているのはたしかなはずだ。
エレベーターのドアが開き中へと入る。同乗者が居ないのを確かめて目的階数を指定する。
――第12階――
この会社は12階と11階は一般社員と部外者は立ち入り禁止なのだ。その最上階フロアへと俺は向かう。
俺の名は〝柳澤 永慶〟
そう、俺は立ち入り禁止の場へと足を踏み入れることを許された人間なのである。
地上12階建てのビルの中、3階のエレベーターホール脇の休憩室、自販機でかった紙コップコーヒーを傾けながら会話に興じている。俗っぽい言い方をするなら井戸端会議ってやつだ。
俺はビルの奥からエレベーターホールへと歩いている途中だった。彼女たちに気取られないようにしながら、彼女たちの雑談に耳をそばだてる。
――でさ、カスタマーサポート室でね――
――それ、きついよね。全然減らないよね――
――モンスタークレーマー――
――しかたないよ。うちってそう言う仕事だからさ――
――教育産業ってもっと楽だとおもったんだけど――
――だよねぇ――
いわゆる愚痴の類だ。
彼女たちは顧客からよせられる要望や苦情の類を処理するカスタマーサポート部の職員だ。
我々の会社だが、教育産業をメインとしている。通信教育や模擬試験の提供、家庭教師派遣などを軸に、教育に関する大規模データを集めることを最大のウリにしている。
今の時代〝情報〟は金になる。
それだけに少しでも多くの〝一般客〟を集めることが必須となる。
その要の役割となるのが、営業担当であり、また顧客対応の役目を持つカスタマー受付担当の彼女たちだ。
言葉遣いもよく 臨機な対応ができる人材を特にあつめているが、内容が内容だけにストレスも多いだろう。これくらいの無駄話は許容範囲と言うところだ。
――でもうち、福利厚生いいからさ――
――社長の方針でしょ? 働いた分はしっかり評価する――
――毎年昇給あるし、残業代カットも無いし――
――有給もちゃんと取らせてくれるからね――
――有給取らせなかった管理職クビにしたって言うし――
――うん。まともな方だよ――
――これくらいは我慢だね――
そんな会話をもらしていた彼女たちの視線がすっと俺の方へと向く。
俺が気づかないふりをすれば、彼女たちも気づかないふりしていた。
通り過ぎ際にひそひそ声がする。
――ねぇ、あのひと――
――社長室の専属秘書の――
――〝柳澤〟さんって言ったっけ?――
――そうそう、柳澤永慶さん――
――かっこいいよね――
――スポーツやってそうだよね――
――てかボクシングとか?――
――脱いだらすごかったりして――
俺に聞かれていないつもりなのだろうが筒抜けだった。内心、苦笑しながら通り過ぎ去ろうとした。
と、その時だった。
――そう言えば。知ってる?――
――なに?――
――3班の鹿島さん――
――あ、様子がおかしいって話?――
――うん、無断欠勤も目立ってきたって。変に痩せてきたって言うし――
――なんかやばいね――
――新しい恋人できてからだって言うけど――
――でも怖いよ。〝隠れヤクザ〟だったら巻き込まれるし――
――〝ステルスヤクザ〟って言ったっけ――
――そうそう――
聞き逃がせない話だった。
――カスタマーサポート室の受付担当第3班――
――そこの〝鹿島〟と言う女子職員――
急に痩せたと言うのは病気かもしくは〝薬物〟
その新しい恋人と言うのが元凶だろう。そしておそらくは〝本職〟だ。
その女子職員個人が破滅するか、もしくは巧妙にあやつり人形にしたてられるか――
そのまま企業スパイ役にされる恐れもある。看過は出来ない。
俺はポケットの中に入れてあった愛車のリモコンキーをさり気なく落とす。
――チャリン!――
海外の銅貨を仕込んだキーホルダーが音をたてれば、それに驚いた先の二人が振り向いていた。
俺はキーを拾いながら彼女たちへと視線をなげかける。
会話の内容が内容だけに、彼女たちも戸惑っていた。だが俺は――
「―――」
――人差し指を唇の前に縦にして添えながら、彼女たちに視線を投げかけた。表情はできるだけ穏やかにしつつ。
その仕草の意味を彼女たちもわかったのだろう。はっきりと頷きながらそれっきり沈黙しはじめた。
井戸端会議の話題として切り出していい内容ではない事は伝わったはずだ。
「行こう」
「うん」
二人は紙コップを片付けるながらその場を後にする。途中、俺へと会釈で挨拶をしてくれた。
同時に社内制服の胸元にそえらえているIDカードの名前を記憶する。
【 カスタマーサポート室 】
【 カスタマー受付担当第2班 】
【 三代貴子 】
【 カスタマーサポート室 】
【 カスタマー受付担当第2班 】
【 小手川真理 】
二人の周辺で何かが起きているのはたしかなはずだ。
エレベーターのドアが開き中へと入る。同乗者が居ないのを確かめて目的階数を指定する。
――第12階――
この会社は12階と11階は一般社員と部外者は立ち入り禁止なのだ。その最上階フロアへと俺は向かう。
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そう、俺は立ち入り禁止の場へと足を踏み入れることを許された人間なのである。
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