5 / 78
壱:集会
壱の弐:集会/トラブルD
しおりを挟む
――気を引き締める必要がある――
そう判断して俺は部下たちに声をかけた。会場内を巡回している部下たちから集まってくるデータをVRメガネの立体映像から確認する。その上で同報通知で一斉に音声を流した。
『こちら会場警備、異常はないか?』
スーツの襟元に仕込んだ通信マイクで問いかける。通話する先は会場内に散った俺の部下たちだ。ヤクザとしての身内としては俺の弟分にあたる。いずれはこのうちの何人かを率いて〝暖簾分け〟させてもらうことになる。
昔なら新しく一家を立ち上げるのだが、今は子会社を設立してグループ企業として動くことになる。まあ当分先の話だが。
部下たちは天龍のオヤジが自分の目利きで厳選に厳選を重ねた腕っこきの優秀な奴らばかりだ。即座にレスポンスが返ってくる。
『こちら巡回1、異常なしです』
巡回担当の1番目が〝木原〟
体育大学で学生ボクシングの優秀な選手だったが傷害事件を起こしボクシングの世界から叩き出された男だ。直情径行で切れやすいが根は真面目でストイックで役目に従順なので大変重宝している。
『そのまま巡回を続けろ』
『了解』
続いて声がくる。野太くいかつい声だ。
『巡回3番。オープン休憩スペースです。異常ありません』
巡回担当の3番目が〝牛尾〟
ごつい体格が特徴的な元陸自の隊員だった男だ。格闘や戦闘スキルは高く戦闘要員としては非常に有能だったが部隊内でいじめに遭い反撃して拳銃を乱射して処分された男だ。
今時珍しいくらいに生真面目で融通が利かない。だがそれだけにやるべきことを正確に指示してやればその通りに動くので、組織の駒としては非常に優秀だ。使いこなせないやつのほうがわるいのだ。
『よし、何か不審な点があればすぐに知らせろ』
『了解』
そしてさらに声がする。帰ってきた声のキーはいささか焦りを帯びていた。
『巡回の2番です。現在正面玄関入り口付近。大変です柳澤さん』
巡回担当の2番目が〝小暮〟
痩せたシルエットの男でおおよそヤクザらしくない小役人風の外見が特徴だった。だがネット能力や詐欺のスキルが非常に高い。自分が舐められていると言う事をわかった上で行動できる実は非常に食えない男だ。
もっとも、軽口たたきでビビり屋で粗忽が多いのが欠点だが――
俺は思わず叱責する。
『馬鹿野郎、名前で呼ぶな』
何のための役割呼称なのか、実名で呼ばれたら意味がない。
『すいません! 正面玄関から集会参加者が入ってこようとしてます』
詫びの言葉からすぐに話の要件が伝えられる。それは会場警備としては一番願い下げたいことだったのだ。
『誰だ』
シンプルに問い返し、返事がすぐに返ってくる。
『〝榊原〟です』
ビンゴ、遅刻していた最後の重要人物だ。緋色会イチの鼻つまみ者、あだ名は――
――強欲の榊原――
『全員に告ぐ、トラブルD発生、動けるものは全員、正面玄関付近に集まれ。俺も行く』
『了解』
『了解です』
『了解っす』
俺の指示を理解した者から了解の声がする。それを耳にしながら俺は自分の上司へとお伺いを立てることにした。
俺のオヤジ〝天龍陽二郎〟だ。
『総括』
総括とは、会場運営総括の略号。天龍のオヤジの今回の肩書だ。俺は通信回線越しに呼びかけた。
『どうした』
『トラブルD発生』
トラブルDとは符牒であり、Dは〝身内による妨害行動〟を意味する。本来会場入場は表向きの一般客だけの正面玄関であり、極秘集会の参加者は複数ある入場口からこっそりと入ってきてもらう手筈なのだ。
ちなみにトラブルCは対立組織からの妨害行動だ。
無線回線越しに舌打ちの音がする。オヤジの苛立ちが伝わって来るようだ。だが流暢で丁寧な言い回しの声が割り込んでくる。
『総括、私が対応します』
キーの高い独特の声。
『上手くいなさないと官憲の割り込みを招きます』
『行け』
『御意』
その声の主は穏やかで柔らかな物腰と裏腹に恐ろしく切れることで有名だった。
そしてその声は俺の方へと受けられた。
『会場警備、無理に誘導しようとしないでください。一般参加者が怯えないように無難な対応をお願いします』
『了解』
その指示と同時に無線は切れる。通話相手はすでに行動を起こしている。
割り込んできた声の主の名は〝氷室淳美〟――カミソリの異名を持ち恐ろしく頭の切れる油断のならない男として知られている。天竜のオヤジの弟分であり俺にとっては〝オジキ〟にあたる。
情報収集と裏工作においては天竜のオヤジですら叶わないほどの切れ者ぶりを見せる。
そんな人が動いたのだ、俺がなすべきことは氷室のオジキが到着するまでの時間稼ぎである。
そう判断して俺は部下たちに声をかけた。会場内を巡回している部下たちから集まってくるデータをVRメガネの立体映像から確認する。その上で同報通知で一斉に音声を流した。
『こちら会場警備、異常はないか?』
スーツの襟元に仕込んだ通信マイクで問いかける。通話する先は会場内に散った俺の部下たちだ。ヤクザとしての身内としては俺の弟分にあたる。いずれはこのうちの何人かを率いて〝暖簾分け〟させてもらうことになる。
昔なら新しく一家を立ち上げるのだが、今は子会社を設立してグループ企業として動くことになる。まあ当分先の話だが。
部下たちは天龍のオヤジが自分の目利きで厳選に厳選を重ねた腕っこきの優秀な奴らばかりだ。即座にレスポンスが返ってくる。
『こちら巡回1、異常なしです』
巡回担当の1番目が〝木原〟
体育大学で学生ボクシングの優秀な選手だったが傷害事件を起こしボクシングの世界から叩き出された男だ。直情径行で切れやすいが根は真面目でストイックで役目に従順なので大変重宝している。
『そのまま巡回を続けろ』
『了解』
続いて声がくる。野太くいかつい声だ。
『巡回3番。オープン休憩スペースです。異常ありません』
巡回担当の3番目が〝牛尾〟
ごつい体格が特徴的な元陸自の隊員だった男だ。格闘や戦闘スキルは高く戦闘要員としては非常に有能だったが部隊内でいじめに遭い反撃して拳銃を乱射して処分された男だ。
今時珍しいくらいに生真面目で融通が利かない。だがそれだけにやるべきことを正確に指示してやればその通りに動くので、組織の駒としては非常に優秀だ。使いこなせないやつのほうがわるいのだ。
『よし、何か不審な点があればすぐに知らせろ』
『了解』
そしてさらに声がする。帰ってきた声のキーはいささか焦りを帯びていた。
『巡回の2番です。現在正面玄関入り口付近。大変です柳澤さん』
巡回担当の2番目が〝小暮〟
痩せたシルエットの男でおおよそヤクザらしくない小役人風の外見が特徴だった。だがネット能力や詐欺のスキルが非常に高い。自分が舐められていると言う事をわかった上で行動できる実は非常に食えない男だ。
もっとも、軽口たたきでビビり屋で粗忽が多いのが欠点だが――
俺は思わず叱責する。
『馬鹿野郎、名前で呼ぶな』
何のための役割呼称なのか、実名で呼ばれたら意味がない。
『すいません! 正面玄関から集会参加者が入ってこようとしてます』
詫びの言葉からすぐに話の要件が伝えられる。それは会場警備としては一番願い下げたいことだったのだ。
『誰だ』
シンプルに問い返し、返事がすぐに返ってくる。
『〝榊原〟です』
ビンゴ、遅刻していた最後の重要人物だ。緋色会イチの鼻つまみ者、あだ名は――
――強欲の榊原――
『全員に告ぐ、トラブルD発生、動けるものは全員、正面玄関付近に集まれ。俺も行く』
『了解』
『了解です』
『了解っす』
俺の指示を理解した者から了解の声がする。それを耳にしながら俺は自分の上司へとお伺いを立てることにした。
俺のオヤジ〝天龍陽二郎〟だ。
『総括』
総括とは、会場運営総括の略号。天龍のオヤジの今回の肩書だ。俺は通信回線越しに呼びかけた。
『どうした』
『トラブルD発生』
トラブルDとは符牒であり、Dは〝身内による妨害行動〟を意味する。本来会場入場は表向きの一般客だけの正面玄関であり、極秘集会の参加者は複数ある入場口からこっそりと入ってきてもらう手筈なのだ。
ちなみにトラブルCは対立組織からの妨害行動だ。
無線回線越しに舌打ちの音がする。オヤジの苛立ちが伝わって来るようだ。だが流暢で丁寧な言い回しの声が割り込んでくる。
『総括、私が対応します』
キーの高い独特の声。
『上手くいなさないと官憲の割り込みを招きます』
『行け』
『御意』
その声の主は穏やかで柔らかな物腰と裏腹に恐ろしく切れることで有名だった。
そしてその声は俺の方へと受けられた。
『会場警備、無理に誘導しようとしないでください。一般参加者が怯えないように無難な対応をお願いします』
『了解』
その指示と同時に無線は切れる。通話相手はすでに行動を起こしている。
割り込んできた声の主の名は〝氷室淳美〟――カミソリの異名を持ち恐ろしく頭の切れる油断のならない男として知られている。天竜のオヤジの弟分であり俺にとっては〝オジキ〟にあたる。
情報収集と裏工作においては天竜のオヤジですら叶わないほどの切れ者ぶりを見せる。
そんな人が動いたのだ、俺がなすべきことは氷室のオジキが到着するまでの時間稼ぎである。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる