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四:明治村・後編
四の壱:明治村後編/逃げる男
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俺の名は柳澤永慶――
俺は明治村の敷地をひた走った。
田沼――いや、カツの奴に囮を任せると、すきをついて別行動をとった。明治村の売りである蒸気機関車の走るレールの上を足音を潜めて走り抜ける。あたりはすっかり暗がりの中である。だが、普段からやばい橋を何度も渡っている。こう言う状況への対策はとってある。
俺のメガネにはいろいろな細工が仕掛けてある。暗視フィルターも搭載済みであり、明かりがなくとも足元の確認くらいは造作も無い。
蒸気機関車のレールを終点まで走り終えると次は京都市電だ。俺はそのレールの上を再び走り始める。
そして、俺はやがて、指定しておいた場所へとたどり着くことになったのだった――
@ @ @
チャンスは一度きりだ。仕掛けを見抜かれたら終わりだ。
そしてなにより、カツのやつが俺の意図にどれだけ気づいているのか――、それが一番重要だった。
「信じるしかねえか」
俺はトラップを敷設しながらひとりごちる。それはまるで獲物を待つスナイパーそのものだった。
〝その場所〟の周囲の茂みの中に身を潜める。気配を殺し、さらにはカモフラージュを施す。立体映像などのホログラフ迷彩を用いないのは、ある意図が有ってのことだった。
そして、暗がりの中、ひたすら時を待ったのだった。
――どれだけの時間が経過しただろう。気配を殺すことに徹しながら待機する。その耳を澄ませていれば、それはついにやってきたのだった。
――ザッ、ザッ、ザッ、ザッ――
砂利混じりの石畳を走る足音が聞こえてくる。それも〝二人分〟――
それに続いて声も聞こえてくる。
「どうした?! 逃げるだけか? それとも鉛弾だけでおしまいか?」
響いてくるのは野太い中年男性の声。そして、その声と同時に――
――ウォオオオン――
――モーターが回転するような唸り音が響いている。
「何を考えているのかわからんが、集合場所には行かせんぞ。お前を先に始末する。なにしろ――」
――ザッ!!――
足音が強く踏みしめられる。声の主はその場にいきり立った。
「――袋のネズミだからな」
その挑発する声に、もう一つの声が響く。
「畜生――」
悔しさを吐露する声。追い詰められた状況を認める言葉だった。そしてその言葉の主は〝カツ〟のやつだった。
「バレてたのか」
失敗を認める声が漏れる。全身いたるところに粒子ビームがかすったあとがある。貫通する傷も一つ追加されているようだ。ジャケットに血が滲んでいる。まさにそれは満身創痍。
カツのやつのその姿は、そのガトリング砲の異形頭の人物を相手にどれだけの激戦を繰り広げてきたかがよくわかった。
ガトリング頭が言う。
「うちのツレが優秀でな。目と耳は抜群にいいんだ」
「あの蜂か」
「あぁ、二度もやってくれたな。相当、痛めつけられてた。落とし前はつけてもらうぞ」
「勘弁してくれよ。蜂を焼いたのは俺じゃねえよ」
「しるか。おとなしく殺られとけ。三下」
「三下、三下言うなっての。この俺にも有勝って名前があるんだよ」
そこは明治村の敷地の中でも東のハズレに位置する場所だった。
――品川燈台――
江戸時代末期に建てられた高さ9mほどの洋式灯台。日本の幕末の列強諸国への開国を象徴する貴重な遺構だった。
その周囲は濃い茂みに囲まれており、燈台前の砂利混じりの敷地のかたすみにはレンガ造りの菅島燈台附属官舎が建てられている。前後に長い敷地の構成だった。
カツはガトリング頭に追われながら敷地の中を燈台のある方へとジリジリと後退していった。
俺はカツのボロボロの姿をじっと見ていたが――
――ダメージは深くはなさそうだな――
――と、その状況を見抜いていた。
確かに傷は増え、着ているジャケットも痛みがひどくなっている。だが、それはすべて上半身に集中している。動き回るのに重要な下半身はさほどにやられていないのだ。
にもかかわらず、ガトリング男はカツを追い詰めたと信じて疑っていなかった。
カツのやつの深謀遠慮が伺える。囮としての役目を完璧にこなしてくれている。押されていると見せかけて、致命傷は負っていない。むしろ相手を調子に乗らせて、誘導すると言う囮としての重要な役目をきっちりとこなしているのだ。
――流石だな――
まさに見事だった。
俺は明治村の敷地をひた走った。
田沼――いや、カツの奴に囮を任せると、すきをついて別行動をとった。明治村の売りである蒸気機関車の走るレールの上を足音を潜めて走り抜ける。あたりはすっかり暗がりの中である。だが、普段からやばい橋を何度も渡っている。こう言う状況への対策はとってある。
俺のメガネにはいろいろな細工が仕掛けてある。暗視フィルターも搭載済みであり、明かりがなくとも足元の確認くらいは造作も無い。
蒸気機関車のレールを終点まで走り終えると次は京都市電だ。俺はそのレールの上を再び走り始める。
そして、俺はやがて、指定しておいた場所へとたどり着くことになったのだった――
@ @ @
チャンスは一度きりだ。仕掛けを見抜かれたら終わりだ。
そしてなにより、カツのやつが俺の意図にどれだけ気づいているのか――、それが一番重要だった。
「信じるしかねえか」
俺はトラップを敷設しながらひとりごちる。それはまるで獲物を待つスナイパーそのものだった。
〝その場所〟の周囲の茂みの中に身を潜める。気配を殺し、さらにはカモフラージュを施す。立体映像などのホログラフ迷彩を用いないのは、ある意図が有ってのことだった。
そして、暗がりの中、ひたすら時を待ったのだった。
――どれだけの時間が経過しただろう。気配を殺すことに徹しながら待機する。その耳を澄ませていれば、それはついにやってきたのだった。
――ザッ、ザッ、ザッ、ザッ――
砂利混じりの石畳を走る足音が聞こえてくる。それも〝二人分〟――
それに続いて声も聞こえてくる。
「どうした?! 逃げるだけか? それとも鉛弾だけでおしまいか?」
響いてくるのは野太い中年男性の声。そして、その声と同時に――
――ウォオオオン――
――モーターが回転するような唸り音が響いている。
「何を考えているのかわからんが、集合場所には行かせんぞ。お前を先に始末する。なにしろ――」
――ザッ!!――
足音が強く踏みしめられる。声の主はその場にいきり立った。
「――袋のネズミだからな」
その挑発する声に、もう一つの声が響く。
「畜生――」
悔しさを吐露する声。追い詰められた状況を認める言葉だった。そしてその言葉の主は〝カツ〟のやつだった。
「バレてたのか」
失敗を認める声が漏れる。全身いたるところに粒子ビームがかすったあとがある。貫通する傷も一つ追加されているようだ。ジャケットに血が滲んでいる。まさにそれは満身創痍。
カツのやつのその姿は、そのガトリング砲の異形頭の人物を相手にどれだけの激戦を繰り広げてきたかがよくわかった。
ガトリング頭が言う。
「うちのツレが優秀でな。目と耳は抜群にいいんだ」
「あの蜂か」
「あぁ、二度もやってくれたな。相当、痛めつけられてた。落とし前はつけてもらうぞ」
「勘弁してくれよ。蜂を焼いたのは俺じゃねえよ」
「しるか。おとなしく殺られとけ。三下」
「三下、三下言うなっての。この俺にも有勝って名前があるんだよ」
そこは明治村の敷地の中でも東のハズレに位置する場所だった。
――品川燈台――
江戸時代末期に建てられた高さ9mほどの洋式灯台。日本の幕末の列強諸国への開国を象徴する貴重な遺構だった。
その周囲は濃い茂みに囲まれており、燈台前の砂利混じりの敷地のかたすみにはレンガ造りの菅島燈台附属官舎が建てられている。前後に長い敷地の構成だった。
カツはガトリング頭に追われながら敷地の中を燈台のある方へとジリジリと後退していった。
俺はカツのボロボロの姿をじっと見ていたが――
――ダメージは深くはなさそうだな――
――と、その状況を見抜いていた。
確かに傷は増え、着ているジャケットも痛みがひどくなっている。だが、それはすべて上半身に集中している。動き回るのに重要な下半身はさほどにやられていないのだ。
にもかかわらず、ガトリング男はカツを追い詰めたと信じて疑っていなかった。
カツのやつの深謀遠慮が伺える。囮としての役目を完璧にこなしてくれている。押されていると見せかけて、致命傷は負っていない。むしろ相手を調子に乗らせて、誘導すると言う囮としての重要な役目をきっちりとこなしているのだ。
――流石だな――
まさに見事だった。
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