ブラザーフッド:インテリヤクザと三下ヤクザの洒落にならない話 【全話執筆完了!毎日更新中!】

美風慶伍

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伍:横浜港

伍の十一:横浜港/―Finished―

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 先に帰る。その言葉を残して天龍のオヤジのその姿はかき消えた。まるで影か幻のように。そして、その後に残ったのは――
 
「ふぅ――ミミクリー真似モード終了!」

――可愛らしい女の子の声だった。そしてそれは以前にも聞き慣れた声だ。シンプルな少女型フィギュアロボットタイプのアバターでカラーがライムイエロー。それが大柄なフード付きのパーカージャケットを着込んでいた。俺はコイツの名を知っていた。

「3子、天龍のオヤジの身代わり、おつかれ」
「永慶さんもね!」

 彼女はビークラスターのフォーの部下で、明治村の一件で出会ったあの3子だ。天龍のオヤジの身代わりをしていたのだ。遠隔通信で天龍のオヤジの声と外見とモーションを受けて、自らのホログラム能力でそれを擬似的に再現していたのだ。
 
「な!? なんだそれは?」

 驚きの声を榊原があげている。それまで天龍陽二郎本人だと思いこんでいたモノが、幻のようにかき消えたのだから。
 そんなあいつに俺は言ってやった。
 
「お前ごときが知る必要はない」

 その言葉がトリガーだった。その周辺一帯に仕掛けられていた。ホログラム迷彩能力がシャットダウンされたのだ。
 
「ホログラムシェード、オフ」

 年頃の女の子らしい、甘ったるい声でそれは告げられた。それと同じに3両の偽装トレーラーの真上から一斉に複数のシルエットが姿を表したのだ。
 
 天龍のオヤジの子分で俺の弟分となる木原と牛尾――
 サイレントデルタのメンバーで、ガトリングのエイトの部下の、ID818のいっぱち、ID858のごっぱち、ID878のしちはち――
 その他にも数人、見慣れぬ姿があった。いずれも天龍のオヤジの配下の者と、サイレントデルタのエイト組とチーム4の手合の者による混成部隊である。
 それにビークラスターのフォーの部下で3子と同じ能力を持つ6美の姿もあった。シルエットは3子と似ているが、イメージカラーはパステルピンクである。
 
「もう逃げられないよ。粛清命令が出ている以上、あたしらサイレントデルタに睨まれて逃げられる場所なんてどこにも無いんだからさ」

 女の子らしい鼻に抜ける甘い声だったが、話している内容はマフィアそのものだった。
 サイレントデルタの連中はそれぞれの固有機能をスタンバイしている。
 木原と牛尾はオートマチックのショットガンを手にしていた。装填している弾は散弾ではなく外殻の付いた単発弾だ。
 俺も単発弾を装填したオートマチックショットガンを取り出し榊原の影武者へと向けて狙いを定めた。

――ベレッタA400――

 安定した性能のオートマチックショットガンだ。口径は12番、ハンティングやクレー射撃でも使われるメジャーな機種である。
 装填している弾丸は、一般にサボ弾と呼ばれる外殻付きの一発弾丸だ。散弾銃で散弾以外のものを打つ時に用いられる。
 周囲は完全に囲まれていた。
 強欲の榊原に逃げ場はなかった。
 トレーラーの上に待機していた〝いっぱち〟が言う。

「なんだ、伏兵でも待機させてるのかと思ったらご本尊様と腰巾着一匹だけじゃねえか」

 その傍らで〝ごっぱち〟が言う。

「マジに信じてたんでしょ? 俺たちからセブンカウンシルの代表に選んでもらえるって」

 さらにトレーラーの上に佇んでいたパステルピンクの〝6美〟が言う。

「冗談! あんな糞団塊ジュニアみたいなジジイがなれるわけないでしょ! 電子マネー7桁積まれたってお断り!」

 俺が乗っているトレーラーの上では木原と牛尾がオートマチックのショットガンを構えている。
 弾丸は既に装填され、セーフティーは外されている。沈黙したまま二人とも俺の言葉を待っていた。
 誰も声を発しない。
 周囲の人々を散々食い物にし肥え太ってきた強欲の榊原も、いよいよ自らの逃げ場がなくなったという事実に固まるばかりだ。
 あるいはおそらくは、影武者の〝アバター〟である以上、ネットの向こう側でパニックに陥ってるのかもしれない。
 俺は右手で、ショットガンのベレッタA400を構えて狙い澄ます。
 つっと、視線をセブンとファイブの方に投げれば、ファイブが慇懃な仕草で右手を差し出し『どうぞ』と意思表示をしていた。
 俺は告げる。溜まりに溜まった思いを込めて。

「榊原のオジキ! ヤクザならヤクザらしく最後は潔くしようぜ!」

 そして俺もトリガーに力を込めた。

「殺れ!」

 一際強く叫ぶとトリガーを引く。
 強欲の榊原を取り囲む全てのものが攻撃を開始した。
 弾丸が、
 雷撃が、
 飛来する白刃が、
 鋭利な槍と化したワイヤーが、 

 強欲の榊原が横領していたアバターボディを破壊していく。榊原に同参していた側近の男も巻き添えを食って絶命する。
 緋色会と、サイレントデルタ、二つの組織からこめられた恨みつらみのありったけを食らって、かつて強欲の榊原は粉砕されたのである。
 俺は告げる。

「止めろ」

 俺の声に皆が一斉に攻撃を停止する。あたりに攻撃の残響が響いていた。
 完了した処刑を目の当たりにしてセブンが宣告する。

「ご苦労様です。規定の採決に基づく〝処断行為〟確かに確認致しました」

【    F    】
【    I    】
【    N    】
【    I    】
【    S    】
【    H    】
【    E    】
【    D    】

―Finished―

 セブンの頭部に表示されたその言葉が意味することは『終了』――、少なくともこの場でできることはこれで終わりになる。

「ご苦労様です、緋色会の皆様方。〝後片付け〟は我々がいたします」

 だが俺は顔を左右に振る。ショットガンを自らの肩にかけながらこう漏らした。

「いや、もう一つ残ってる」
「おや? 何でしょう?」

 俺は内ポケットからスマホを取り出しながらこう告げる。

「あの強欲野郎にくっついて、散々甘い汁を吸ってきた銀蝿どもだ」

 その言葉が意味するところをセブンもファイブも理解していた。ファイブが言う。

「それはご自由に、ここの外でおきている事は干渉外ですから。それより――」

 ファイブは空間上に投影したバーチャルディスプレイを見つめながら伝えてきた。

「〝別働隊〟がターゲットを順調に補足したようです」
「それは楽しみだな」

 ファイブの言葉にそう答えると、誰となく皆が頷いていたのであった。
 俺は作戦現場の外で待機していた有勝のやつに声をかけたのだ。

「カツ、聞こえるか?」

 俺の仕事はここまでだ。
 ここからあとは有勝のやつの仕事なのだから。
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