迷宮踏破

テル

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旅立ち

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 旅立ちの日の朝、ディードは海にいた。
「しばらくこの景色ともお別れか」
 丘の上、潮風を受けながら煙草に火をつける。目の前には小さな墓石があった。
「行ってくるぜ親父」
 そう言ってディードは父親の墓石から背を向けた。
 
 旅立ちに際してディードは家財道具を売り払っていた。旅に必要な物を買い揃える為である。
「水と食料、革製の防具と……後は……」
 その時背後で扉を開ける音が響いた。振り向けばそこにいたのは1人の老女であった。
「随分綺麗になったじゃないかこの部屋、夜逃げでもするんかいディード坊や」
「ミシェル婆さんか……いや、夜逃げじゃない。旅に出るのさ」
 ミシェルと呼ばれたその老女は驚いた様子もなくすっかり片付いた部屋を眺めていた。
「いつかこんな日が来るとは思っていたよ。あんたの親父が死んでもう何年になるかねぇ……」
「10年ってとこだな。あんたには感謝してるよ婆さん。両親が死んでまだガキだった俺をここまで育ててくれたんだ」
「感謝してるならせめて育てた恩くらい返していくのが筋ってもんじゃないかねぇ」
 窓の外を見つめながらミシェルは呟いた。
「ほらよ婆さん」
 ディードはミシェルに銀貨の入った革袋を手渡した。
「家具を売った金は旅支度に使っちまってもうないが、それはこの前仕留めた海竜の報奨金だ。半分はウィルに渡しちまったけどな」
 呆然としていたミシェルだったがやがて呆れ果てたように溜息をついてこう続けた。
「バカだねあんた。この場合恩返しってのは孫の顔見せるってことに決まってんだろう?それが年寄りの数少ない楽しみだってのにあんたは……」
 やれやれと肩を竦めるミシェル、だがやがて諦めたように手を振って笑ってみせた。
「ま、あんたに期待したあたしがバカだったね。こいつはありがたく受け取っておくよ。それとこれは餞別だ」
 ミシェルがディードに手渡したのは小さな麻袋だった。中身を出して見るとそこに入っていたのは2つの宝石。方や海のように青い石、方や森のように深い緑だった。
「婆さん、なんだこれは……」
「どこぞの行商人から爺さんが買った物らしいけど詳しいことはあたしも知らないよ。なんでも不思議な力を秘めてるらしいけどあたしは魔法とかの類いには興味がないんだ」
「まあ冒険するならいずれそういう物とも関わってくるだろうし持ってても損はないだろう。ありがたく貰っとくよ」
 ミシェルは優しく微笑むと杖をつきながら扉の方へと進んでいった。
「ディードや、あたしより先に死ぬんじゃないよ」
「ああ、婆さんこそ長生きしろよ」
 ミシェルはフンっと鼻で笑い部屋を後にした。ディードはミシェルに貰った宝石を麻袋に戻し失くさぬよう紐を首にかけた。
「さてと行くか」
 住み慣れた家を後にするディード、その顔はまるで少年のように活き活きとしていた。
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