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第二部 パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される
88. ファーストキスの行方
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75階層から帰還したエレイン達は、少しずつ日常を取り戻しつつあった。エレインは一週間しっかりと療養し、すっかり元気いっぱいだ。
そして今、ホムラは数日ぶりの挑戦者の相手をしている。居住空間ではホムラの吠える声や挑戦者の悲鳴、壁や床が破壊される音を聞きながら、エレインとアグニはまったりお茶を楽しんでいた。
「それにしてもウォンとやらには何度も驚かされましたね」
エレインが元気になるまではと、話したくて仕方がないのを我慢していたアグニが早速ウォンのことを話題にあげた。
「吸魂鬼っていう種族のことは詳しく知らないんだけど、とっても珍しいんだよね?」
「ええ、僕も初めて聞きましたよ。本人も言っていましたが、文字通り魂を吸い取る鬼ということでしょうね」
「ウォンは自分の力が嫌いだって言ってたけど、私はその能力に助けられたし、ウォンにはもっと自分のことを好きになってほしいし大事に考えてほしいなぁ…」
エレインは寂しそうにそう言うと、ずず、とハーブティーで口内を潤した。
アレクのパーティに属しており、毎日卑下されていた頃は自分の存在価値を見失い、暗い気持ちが心を支配していたエレイン。もしウォンがエレインよりももっとずっと、途方もない時間、自らの力を呪い続けていたとしたら…それはあまりにも悲しすぎる。
エレインの心が沈んだのを察知したのか、アグニが明るい声でエレインを励ました。
「ウォンはエレインには心を開いているように見えました。これからもたくさん遊びに行けばいいんですよ。もしよければ僕もお友達になりたいです」
「アグニちゃん…!ぜひ!ウォンはパンが好きだからきっと料理の話で盛り上がると思う!」
エレインはアグニとウォンと三人で、あの大樹の前で膝を突き合わせて話す姿を想像し、思わず頬が緩んだ。美味しいパンやジャムをたくさん持参して、森の中でピクニックをするのも楽しそうだ。
「でも、何より驚いたのはウォンが女性だったということですね。僕は色々と安心しましたよ」
「?」
アグニが何を安心したのか見当がつかないエレインである。
「そういえばあの時、口吸いのことにひどく動揺していましたね。救命措置なのですからそこまで気にしなくてもいいのでは?」
「うーん…ウォンとチューしちゃったのは嫌じゃないよ?命を救うための行為っていうのも理解してる。でも…はぁ、私のファーストキスが…」
案外ファーストキスに夢を見ていたエレインである。深く息を吐き、がくりと項垂れるエレインに、アグニは首を傾げる。
「ん?あれは救命措置で人工呼吸みたいなものですよね?カウントするんですか?」
「えぇー…そうだとしても私はカウントしちゃうかなぁ…やっぱり好きな人と素敵なロケーションでロマンチックなキスがしたかった…」
「ほうほう、ではエレインのファーストキスの相手はウォンではなくてホ…ぶふぉ」
「だーーーーー!!!」
「ホムラさん!?」
二人で話し込んでいる間に、挑戦者を片づけていつの間にやら居住空間へと戻っていたらしいホムラが、凄まじい速さでアグニの口を塞いだ。エレインは突然のホムラの登場とそれに伴う大きな声に身体が飛び跳ねた。
どきどきとエレインの心臓が未だ落ち着かない間、「お前それは言わねぇ約束だろうが」とホムラが低い声でアグニに迫っている。アグニは白々しくフスーフスーと下手な口笛を吹きながら明後日の方向を向いていた。
あの一件以来、ホムラは更にエレインに過保護になった気がする。
この一週間、エレインがちょっとリハビリがてらにと魔法を使おうとしては杖を取り上げられ、ダンジョンで走ったりベッドでぴょんぴょん飛び跳ねたりしていたら、ひょいと捕獲されて椅子に座らされた。
せめて一週間の間は目の届くところでジッと療養してほしいとホムラに切に願われては従わざるを得ず、エレインはゆっくりと身体を休めたのだった。
流石に暇だったのでドリューンに付き合ってもらって祖母の手記の解読に勤しんだ。ハイエルフの魂に触れたからか、いくつか光魔法の呪文を読み解くことが出来たので早く試してみたかった。
それ以外にホムラに変わった素振りはない。エレインはハイエルフに身体を乗っ取られていた間の会話を深い意識の底からしっかりと聞いていた。
ホムラはエレインのことを『惚れた女』と言った。
が、ホムラの態度は相変わらずで、エレインは自分の聞き間違いだったのかと密かに肩を落としていた。
今のままの関係を維持したいと思っていたけれど、ホムラに異性として好意を寄せてもらえているかもと考えると、情けなくも今より一歩踏み込んだ関係になりたいという欲がむくむくと膨らんでくる。
ホムラの気持ちが知りたい、自分の気持ちを伝えたい、気持ちを通わせて、それからーーー
エレインが知る限りの恋人同士のあれやそれやを想像し、ボンッと顔が赤くなってしまう。
(あーあ、ファーストキスの相手はホムラさんが良かったな…)
なんて、頭の中でそんなことを呟いてみる。
ふと視線を感じて顔を上げると、カップからハーブティーをぼたぼた零しながらホムラが目を見開いてエレインを見ていた。アグニがいつの間にかお茶を用意していたらしい。
「ホホホホムラさん!?お茶お茶!零れてますって!」
「もー何しているんですか。はい、タオルですよ。しっかり拭いてくださいね。全く、エレインもホムラ様を動揺させるようなことを言うのは慎んでくださいよ」
「……え?私何か変なこと言った?」
キョトンとエレインが尋ねると、アグニはテーブルを拭きながら呆れた顔で恐ろしいことを口にした。
「自分でつい先ほど口にしたことも覚えていないなんて、エレインは馬鹿ですか?『ファーストキスの相手はホムラさんが良かっーーー』」
「きゃーーーーー!?!?」
エレインは真っ赤になった顔を両手で覆い、アグニの言葉を遮った。先ほどから言葉を断たれてばかりで少しブスッと頬を膨らませるアグニである。
「嘘っ!?私、口に出てた!?」
「ええ、そりゃもうしっかりと」
「いやーーーー!!!」
エレインは羞恥のあまりに両手で顔を覆ったままテーブルに突っ伏してしまった。
一方のホムラは固まったまま動けずにいた。唯一動く頭を回転させてエレインの言葉の真意を考える。
ホムラはファーストキスの話題辺りからエレインとアグニの会話を聞いていた。エレインは、ファーストキスは好きな人とがいいと言った。そして、ホムラがよかったと、本人は無自覚だったが口にした。
(…つまり、そういうこと、なのか?)
つい、自分に都合よく考えてしまうが、どう考えてもそうとしか思えない。
(自惚れても、いいのか…?)
テーブルに突っ伏してブツブツと何かを呟いているエレインをジッと見つめていると、少し顔を上げて指の隙間からエレインもこちらを覗き見てきて、しっかりと視線が交差してしまった。
「「!!」」
慌ててお互いにそっぽを向くが、両者の顔は夕日よりも真っ赤に染まっていた。その様子にアグニがまた呆れたようにため息をついたのであった。
そして今、ホムラは数日ぶりの挑戦者の相手をしている。居住空間ではホムラの吠える声や挑戦者の悲鳴、壁や床が破壊される音を聞きながら、エレインとアグニはまったりお茶を楽しんでいた。
「それにしてもウォンとやらには何度も驚かされましたね」
エレインが元気になるまではと、話したくて仕方がないのを我慢していたアグニが早速ウォンのことを話題にあげた。
「吸魂鬼っていう種族のことは詳しく知らないんだけど、とっても珍しいんだよね?」
「ええ、僕も初めて聞きましたよ。本人も言っていましたが、文字通り魂を吸い取る鬼ということでしょうね」
「ウォンは自分の力が嫌いだって言ってたけど、私はその能力に助けられたし、ウォンにはもっと自分のことを好きになってほしいし大事に考えてほしいなぁ…」
エレインは寂しそうにそう言うと、ずず、とハーブティーで口内を潤した。
アレクのパーティに属しており、毎日卑下されていた頃は自分の存在価値を見失い、暗い気持ちが心を支配していたエレイン。もしウォンがエレインよりももっとずっと、途方もない時間、自らの力を呪い続けていたとしたら…それはあまりにも悲しすぎる。
エレインの心が沈んだのを察知したのか、アグニが明るい声でエレインを励ました。
「ウォンはエレインには心を開いているように見えました。これからもたくさん遊びに行けばいいんですよ。もしよければ僕もお友達になりたいです」
「アグニちゃん…!ぜひ!ウォンはパンが好きだからきっと料理の話で盛り上がると思う!」
エレインはアグニとウォンと三人で、あの大樹の前で膝を突き合わせて話す姿を想像し、思わず頬が緩んだ。美味しいパンやジャムをたくさん持参して、森の中でピクニックをするのも楽しそうだ。
「でも、何より驚いたのはウォンが女性だったということですね。僕は色々と安心しましたよ」
「?」
アグニが何を安心したのか見当がつかないエレインである。
「そういえばあの時、口吸いのことにひどく動揺していましたね。救命措置なのですからそこまで気にしなくてもいいのでは?」
「うーん…ウォンとチューしちゃったのは嫌じゃないよ?命を救うための行為っていうのも理解してる。でも…はぁ、私のファーストキスが…」
案外ファーストキスに夢を見ていたエレインである。深く息を吐き、がくりと項垂れるエレインに、アグニは首を傾げる。
「ん?あれは救命措置で人工呼吸みたいなものですよね?カウントするんですか?」
「えぇー…そうだとしても私はカウントしちゃうかなぁ…やっぱり好きな人と素敵なロケーションでロマンチックなキスがしたかった…」
「ほうほう、ではエレインのファーストキスの相手はウォンではなくてホ…ぶふぉ」
「だーーーーー!!!」
「ホムラさん!?」
二人で話し込んでいる間に、挑戦者を片づけていつの間にやら居住空間へと戻っていたらしいホムラが、凄まじい速さでアグニの口を塞いだ。エレインは突然のホムラの登場とそれに伴う大きな声に身体が飛び跳ねた。
どきどきとエレインの心臓が未だ落ち着かない間、「お前それは言わねぇ約束だろうが」とホムラが低い声でアグニに迫っている。アグニは白々しくフスーフスーと下手な口笛を吹きながら明後日の方向を向いていた。
あの一件以来、ホムラは更にエレインに過保護になった気がする。
この一週間、エレインがちょっとリハビリがてらにと魔法を使おうとしては杖を取り上げられ、ダンジョンで走ったりベッドでぴょんぴょん飛び跳ねたりしていたら、ひょいと捕獲されて椅子に座らされた。
せめて一週間の間は目の届くところでジッと療養してほしいとホムラに切に願われては従わざるを得ず、エレインはゆっくりと身体を休めたのだった。
流石に暇だったのでドリューンに付き合ってもらって祖母の手記の解読に勤しんだ。ハイエルフの魂に触れたからか、いくつか光魔法の呪文を読み解くことが出来たので早く試してみたかった。
それ以外にホムラに変わった素振りはない。エレインはハイエルフに身体を乗っ取られていた間の会話を深い意識の底からしっかりと聞いていた。
ホムラはエレインのことを『惚れた女』と言った。
が、ホムラの態度は相変わらずで、エレインは自分の聞き間違いだったのかと密かに肩を落としていた。
今のままの関係を維持したいと思っていたけれど、ホムラに異性として好意を寄せてもらえているかもと考えると、情けなくも今より一歩踏み込んだ関係になりたいという欲がむくむくと膨らんでくる。
ホムラの気持ちが知りたい、自分の気持ちを伝えたい、気持ちを通わせて、それからーーー
エレインが知る限りの恋人同士のあれやそれやを想像し、ボンッと顔が赤くなってしまう。
(あーあ、ファーストキスの相手はホムラさんが良かったな…)
なんて、頭の中でそんなことを呟いてみる。
ふと視線を感じて顔を上げると、カップからハーブティーをぼたぼた零しながらホムラが目を見開いてエレインを見ていた。アグニがいつの間にかお茶を用意していたらしい。
「ホホホホムラさん!?お茶お茶!零れてますって!」
「もー何しているんですか。はい、タオルですよ。しっかり拭いてくださいね。全く、エレインもホムラ様を動揺させるようなことを言うのは慎んでくださいよ」
「……え?私何か変なこと言った?」
キョトンとエレインが尋ねると、アグニはテーブルを拭きながら呆れた顔で恐ろしいことを口にした。
「自分でつい先ほど口にしたことも覚えていないなんて、エレインは馬鹿ですか?『ファーストキスの相手はホムラさんが良かっーーー』」
「きゃーーーーー!?!?」
エレインは真っ赤になった顔を両手で覆い、アグニの言葉を遮った。先ほどから言葉を断たれてばかりで少しブスッと頬を膨らませるアグニである。
「嘘っ!?私、口に出てた!?」
「ええ、そりゃもうしっかりと」
「いやーーーー!!!」
エレインは羞恥のあまりに両手で顔を覆ったままテーブルに突っ伏してしまった。
一方のホムラは固まったまま動けずにいた。唯一動く頭を回転させてエレインの言葉の真意を考える。
ホムラはファーストキスの話題辺りからエレインとアグニの会話を聞いていた。エレインは、ファーストキスは好きな人とがいいと言った。そして、ホムラがよかったと、本人は無自覚だったが口にした。
(…つまり、そういうこと、なのか?)
つい、自分に都合よく考えてしまうが、どう考えてもそうとしか思えない。
(自惚れても、いいのか…?)
テーブルに突っ伏してブツブツと何かを呟いているエレインをジッと見つめていると、少し顔を上げて指の隙間からエレインもこちらを覗き見てきて、しっかりと視線が交差してしまった。
「「!!」」
慌ててお互いにそっぽを向くが、両者の顔は夕日よりも真っ赤に染まっていた。その様子にアグニがまた呆れたようにため息をついたのであった。
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