【完結】神様、ちょっと黙ってて! 〜神様に愛されすぎた最強賢者は毎晩寝不足〜

水都 ミナト

文字の大きさ
3 / 25

第三話 レオンの睡眠魔法 1

しおりを挟む
 レオンを保護した翌朝。

 僕が顔を洗って寝室に戻ると、レオンは身体を起こしてベッドに座っていた。

「あ、起きた? パンを焼くからちょっと待っていて」

 そう声をかけて台所に入ってパンを焼いていると、テテテッと足音がした。振り返るとレオンが台所の入り口から中を覗き込んでいた。

 かなり警戒心は解けたみたいだな。

「こっちにおいで。一緒に用意しよう」

 そう声をかけて手を出すと、レオンは少し逡巡するように瞳を揺らした。そしておっかなびっくりといった様子で僕の手を取った。

 二人分の皿を用意してもらい、焼いたパンを乗せていく。その間に鶏の卵を焼いて目玉焼きにする。
 目玉焼きにはハーブと塩を少し散らし、パンには手作りのチーズを添える。レオンの目はキラキラ輝き、口の端からは涎が垂れている。

「今日も天気がいいし、外で食べようか」

 それぞれ自分の分の皿を手に、裏口から外に出る。そこには木を切り出して作ったテーブルと丸太の椅子を置いてある。天幕で日除けをしてあるお気に入りの場所だ。レオンは素直に僕の後ろをついてきた。

 二人並んで腰掛け、恵みに感謝を捧げてからパンにかぶりつく。うん、焼き加減もちょうどいいし、目玉焼きにまぶしたハーブがいいアクセントになっている。レオンもハフハフしながらもうっとり目を細めて味わってくれている。

 食事を終えて食器を洗う間も、レオンはピッタリ僕にくっついて離れない。随分懐かれてしまった。
 まあ、今日は風呂に入って欲しいと思っていたし、好都合かもしれない。

「レオン、ちょっと着いてきて」
「ん」

 皿を片付けてから、僕はレオンを連れて浴室へ向かった。

「……お風呂、嫌い」

 僕の意図を汲んだらしいレオンは、キュッと僕の服の袖を掴んだ。

「ダメだよ。君の身体の傷は治療したけど、汚れはそのままだ。清潔にしておかないと、弱った身体に細菌が入り込むかもしれないだろう?」

 魔法を駆使したらお風呂に入らなくても身体の汚れを取れるのだけどね。やっぱり風呂で身体を磨いて湯船に浸からないとスッキリしない。それに、僕は何でもかんでも魔法を使う主義ではない。汗水かいて身体を動かしてこそ、生きていると実感できるからね。

「むう……わかった」

 レオンは渋々頷いた。

「服もボロボロだから替えよう。僕のお古でよければ一式揃っているから取ってくるよ。先に浴室に入って身体を流しておいて」
「ん」

 そう告げると、僕は衣装部屋へと向かった。後ろで衣擦れの音がしたので、言うことを聞いてくれているようだ。

 衣装部屋といっても、普段着やお古の服を畳んで収納してある狭い物置のような部屋だ。そこで比較的綺麗でレオンサイズの服を見繕って浴室へ向かう。近いうちに町に降りてレオンに似合う服を買いに行こう。

 レオン一人だと汚れを落としきれないだろうから、僕も一緒に入るつもりだ。着替えを籠に置いて、ポイポイッと着ている服を脱ぎ捨てていく。後でシーツとまとめて洗ってしまおう。一応エチケットとして腰にタオルを巻き付けて、僕は水音がする浴室の扉を開いた。

「にゃっ」
「お待たせ。着替えの用意ができたから、一緒に入ろう」

 湯煙の中、頭から湯を浴びて橙色の髪がペタンと額に張り付いたレオンが飛び上がった。急に入ったから驚かせてしまったようだ。事前に僕も入ると伝えておけばよかったかな。まあ、男同士だし恥ずかしがることもないだろう。そう思いながら、石鹸と麻の布を手に取って、ゴシゴシと泡立てていく。

「腕や脚は自分で洗えるよね。背中洗うから、ここに座って」
「……ん」

 モジモジと恥ずかしそうに僕に背を向けたレオンが、遠慮がちにひっくり返した桶の上に座る。僕はきめ細やかな泡だらけの布を使って汚れを落とすようにゴシゴシと背中を洗ってやる。そのままたっぷりの泡を頭に乗せて、ワシワシと髪も洗っていく。

 レオンは、「ひいっ」「にゃっ」「ううっ」と小さなうめき声を上げるものの、大人しくしていてくれた。

「よし、流すから目を閉じて」
「にゃっ」

 ピカピカに磨き終えたので、頭から湯をかけて泡を流していく。うん、薄汚れていた肌もすっかり綺麗になった。

 そのまま一緒に湯船に浸かる。

「はあ……沁みるなぁ」

 レオンは鼻の下まで湯に浸かって、身体を抱き込むように丸くなっている。意外とお湯に浸かるのは平気なんだな。
 湯煙や泡であまりしっかりとは見ていないけど、レオンはひょろっとしていて随分幼く見えた。

「ねえ、レオンは幾つになるの? 僕は十五」
「……十二」

 お、十歳ぐらいかと思っていたけど、予想より少し上だったか。

 やっぱり歳の割に身体が未熟に見える。成長期真っ只中だろうに、どうして十分な食事を摂れていなかったのだろう。
 僕も口元まで湯に浸かって、うーんと唸り声を上げた。

 ほこほこ身体が温まり、レオンの頬も上気してきたことを確認し、僕はザブンと湯船から出た。扉の外に置いておいたタオルを取る。

「ほら、拭いてあげるからおいで」
「え」

 タオルを広げて、さあ、とレオンを誘う。レオンは激しく視線を彷徨わせて、観念したようにおずおずと湯船から出てきた。

 扉を開けたままにしているので、浴室に立ち込めていた湯煙が外に逃げ出していく。

「サッパリしただろう。湯上がりに冷えた牛乳を用意してあるから一緒に飲もうな」
「……ん」

 サァッとレオンを包んでいた湯煙も晴れていき、すっかりツヤツヤになった白い肌が姿を現す。胸元はペタンとしていて、もう少し鍛える必要性を感じる。手足も細いし――と、視線を腰のあたりに向けた僕の思考は停止した。



 …………え?

 ない。え? ついてない。僕と同じ、男のアレがない。

 ――と、言うことは。



「お、女の子……だったのか?」
「うう~」

 僕の言葉に、レオンはみるみるうちに顔を真っ赤に染め上げていく。
 レオンは目に涙をいっぱいに溜めて僕からタオルを奪い取ると、タオルにぐるぐる巻きになって蹲ってしまった。

 いや、ほんと、わざとじゃなくって……!

「ご、ごめんよ――――!」

 森中に僕の声が響き渡り、驚いた野鳥がバサバサと慌てて空高く飛んでいった。






 その日の晩。

『あり得んのう。あり得ん。猫耳族の小娘が女であることは、見れば分かるであろうに』
『ああ、やはりチルは勘違いしていたのですね』
「いやいやいや! だってまだ子供だし! 名前も男っぽいし、身体も出来上がってないし、誰だって勘違いするだろう!」

 顔は見えないけど、きっとじっとりとした目で見られているのだろうと分かる声音。必死で弁明するも、返ってくるのはため息ばかり。

『ないわあ』
『ないない』
『ないぞ!』
「うがあああああ!」

 この後も、神様たちに散々なことを言われてしまったのは言うまでもない。

 お風呂上がり、レオンにとっておきの特上牛乳を贈呈し、何度も何度も頭を下げた。
 どうやら僕に裸を見られたことよりも、男だと勘違いされていたことがショックだったらしい。
 結局今日一日レオンは寝室に篭って、食事の時以外は出てきてくれなかった。せっかく警戒心が解けて懐いてくれそうだったのに、非常に申し訳ないことをした。

 しょんぼりと項垂れる僕は、朝まで神様たちのお説教を聞くことになった。こればかりは素直に聞くしかない。

 ああ、耳が痛い。
 いや、神様の声が響くのは頭の中だから、頭が痛い。

 今日も今日とて、僕は寝不足だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました

蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。 家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。 アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。 閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。 養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。 ※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~

白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」 マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。 そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。 だが、この世には例外というものがある。 ストロング家の次女であるアールマティだ。 実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。 そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】 戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。 「仰せのままに」 父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。 「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」 脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。 アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃 ストロング領は大飢饉となっていた。 農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。 主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。 短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。

愛しい義兄が罠に嵌められ追放されたので、聖女は祈りを止めてついていくことにしました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。  グレイスは元々孤児だった。孤児院前に捨てられたことで、何とか命を繋ぎ止めることができたが、孤児院の責任者は、領主の補助金を着服していた。人数によって助成金が支払われるため、餓死はさせないが、ギリギリの食糧で、最低限の生活をしていた。だがそこに、正義感に溢れる領主の若様が視察にやってきた。孤児達は救われた。その時からグレイスは若様に恋焦がれていた。だが、幸か不幸か、グレイスには並外れた魔力があった。しかも魔窟を封印する事のできる聖なる魔力だった。グレイスは領主シーモア公爵家に養女に迎えられた。義妹として若様と一緒に暮らせるようになったが、絶対に結ばれることのない義兄妹の関係になってしまった。グレイスは密かに恋する義兄のために厳しい訓練に耐え、封印を護る聖女となった。義兄にためになると言われ、王太子との婚約も泣く泣く受けた。だが、その結果は、公明正大ゆえに疎まれた義兄の追放だった。ブチ切れた聖女グレイスは封印を放り出して義兄についていくことにした。

処理中です...