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第十話 成人の儀と古代兵器 3
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「ふふ、アリエッタちゃんったら、もう少し落ち着きなさいな」
「だ、だって……!」
ルイ様が世界樹に向かわれて七日が経った。
この七日間、魔界は平和そのもので小さな諍いもなく平穏に過ごしていた。
けれど、ルイ様が居ない七日はひどく長く感じて、心にポカリと穴が空いたような、そんな寂しさがずっと付き纏っていた。
「まぁ、仕方ないわよねえ~。アリエッタちゃんったらこの七日の間ずっと上の空だったし?」
「その節はご迷惑を……」
ボーッと城内を歩いてカロン爺にぶつかったり、お皿を割ってマルディラムさんに叱られたり、夕食時に飲み物をこぼしてミーシャお姉様の服を汚してしまったり……実に散々なことをしでかしてしまった。
「よかったわねえ。今日ようやく愛しのルイス様が戻ってくるんだもの」
「うっ……そう、ですね」
ニヤニヤ笑いを隠す素振りもないミーシャお姉様。
私は唇を尖らせつつも小さく頷いて同意した。
早くルイ様に会いたい。
声を聞きたい。
名前を呼んで欲しい。
触れたい。
離れて過ごした七日で、私は否応なしにルイ様への気持ちを再認識することとなった。
一分一秒でも早くルイ様に会って、自分の気持ちを伝えたい。ルイ様はきっと幸せそうにはにかんでくれるはず。
そう考えるだけで胸がポカポカ温かくなる。
「わ、私やっぱり外で待ってます!」
「うふふ、行ってらっしゃあい」
ルイ様にもう直ぐ会えると思うと居ても立っても居られず、廊下へと飛び出した。
中庭でフェリックスと遊びながら待つ?
ルイ様のお部屋で待つ?
廊下を歩きながら悩んだ結果、私はお城の中で一番高くて周囲の様子を見渡せる塔に向かった。
「ふわあ……綺麗」
外に出ると、少し強めの風に髪が遊ばれる。慌てて両手で押さえてお城の周辺を見渡した。
美しい緑が生い茂る草原、前にみんなでピクニックに行った丘、あっちの森には夜光虫の湖がある。
魔界に来て、本当にたくさんの素敵な思い出ができた。
私は深く息を吸いながら、魔界の美しさを噛み締める。
ルイ様、早く帰って来ないかな……なんて考えながら空を仰いだ。
――それは、一瞬の出来事だった。
「うっ……なに? きゃぁっ!」
ぐわん、と脳が揺れる感覚に襲われて私は僅かによろめいた。
そして、遠くで赤い光がピカッと弾けたかと思うと、遅れて凄まじい突風が吹き荒れた。咄嗟に両腕を顔の前で構えて足を踏ん張る。突風が止んだタイミングで前髪を整えながら目をうっすら開いた私は、目の前に広がる光景に絶句した。
「うそ……」
先程までキラキラ輝いて見えた新緑の草原が真っ黒に焼け焦げている。血のように真っ赤な炎が、大好きな魔界を焼いている。
ドクンドクンと心臓が嫌な音を立てている。
先程抱いた不快感――ああ、結界が破られたんだ。
魔界と人間界を繋ぐ門に施した結界。それが外側から破られたということは、人間界側から攻撃されているということ。
最近結界に干渉してこなくなったから、やっと諦めてくれたのかと油断していた。
サッと身体中から血の気が引く。ふらつきながらもなんとか踏ん張った私は、踵を返して城内に駆け込んだ。
「みんなに知らせなきゃ……!」
ウェインさんを探して廊下を駆ける。突然焼け野原になった草原や、ズゥンズゥンと響き始めた大地の揺れに城内は騒然としていた。
「いました! アリエッタ殿!」
「ウェインさん! みんなも!」
ちょうどウェインさんたちも私を探していたようで、ルイ様の部屋の前でバッタリ遭遇した。
「大変です! 結界が破られました。恐らく、人間界からの侵攻です」
私は膝と胸に手を当てて呼吸を整えながら報告した。
ウェインさんとマルディラムさんは険しい顔をして(マルディラムさんに顔はないけど……って言ってる場合じゃない!)、カロン爺はカタカタ震える骨を必死で押さえている。ミーシャお姉様も怖い顔をしていて、緊急事態ということは誰の目から見ても明らかだった。
「すみません……私の結界が破られたせいで、魔界が……」
グッと歯を食いしばって頭を下げようとして、ウェインさんに片手で制止された。
「アリエッタ殿のせいではありません。むしろルイス様が幼い期間、結界で魔界を守ってくれたことに感謝しています。その結界が破られたのであれば、次の策を講じるまでです。ひとまず敵の全容を確認しなくては」
私たちは頷き合うと、カロン爺が持ってきていた遠隔地を見るための魔導鏡を覗き込んだ。
「こ、これは……」
魔界と人間界を繋ぐ門のど真ん中に巨大な風穴が空いている。穴の周りが焼け焦げていることから、先程草原を焼いたものによると推測できた。
「自分で言うのもおかしな話なのですが、私の結界を破れる人間が向こうに存在するとは思えません。余程の人数での一斉攻撃か、あるいは――」
「……なるほど、結界を破ったのはこいつね」
ザザッと魔導鏡の映像が乱れて、次に映し出されたのは、赤い目を光らせ、大きく開かれた口から煙を吐き出す巨大な人型の像のようなものだった。
その全長は王城に匹敵するほどの大きさで、ゴツゴツとした岩肌のような表面をしているが、不思議な輝きを放っている。
「なんということでしょう……まさか、こんなものを持ち出すとは」
「ウェインさん、知っているのですか?」
いつも冷静沈着なウェインさんが顔面を蒼白にするほどの兵器なのかとその場の面々に緊張が走る。
「ええ……これは古代兵器と呼ばれる殺戮兵器です。千年以上も前に破壊されたはずのものがなぜ……」
人間界にいた時に、伝承として耳にした程度だけれど、古代兵器の名前は聞いたことがある。
そのポカリと空いた巨大な口からは何ものをも焼き尽くす光線が放たれ、その表皮は何ものをも通さない最強硬度のミスリルと魔石の超合金でできている。鋭い爪は行手を阻むもの全てを薙ぎ払い、対象物を破壊し尽くすまで止まらない、まさに殺戮兵器。
「そんな……そんなものが実在するなんて」
「実在したのですよ。まだ魔界と人間界が分たれていなかった頃、争いの最中生み出されたのがこの殺戮兵器でした。敵味方関係なく襲いかかる厄災にも近しいものでしたから、人間の手に負えるものでもなく……当時の魔王様と聖女様が共闘して破壊したはずだったのです」
恐らく、もしもの時に備えて秘密裏に破壊された欠片を保管して修復してきたのだろう。そしてそんな古代兵器を持ち出したのは、きっとあの男――
「くっ……!」
忌まわしい勘違い野郎の顔を思い浮かべたと同時に、古代兵器の足元で得意げな顔をしている男が魔導鏡に映し出された。二度と見たくない、見る予定もなかった顔に、思わず前面に不快感を表してしまった。
「アリエッタちゃん、この男……」
「ええ。あの日私と共に魔王討伐に来た勇者です」
ファルガはポンコツだけど、腕は確かだ。
そんなファルガが古代兵器を率いて魔界に攻め入って来た。しかも古代兵器の後ろには数千もの兵士と魔導士の姿が見える。後ろで糸を引いているのが誰なのか想像も容易い。
「あんのクソ国王……! ねえ、カロン爺。この鏡で向こうの音声は拾えないの?」
「むう、音質は良くないだろうが……試してみよう」
ギリッと歯を食いしばった私は、ふうと息を吐いて気持ちを落ち着かせてからカロン爺に頼んでみた。カロン爺は魔導鏡の細工を少し弄ると、「よし、どうじゃ」と鏡に耳を寄せた。私も同じく耳を寄せる。
『ザザッ……ふはは……ザッ、ザッ――これ、で……アリエッ……を――救出……ザザッ』
「……ありがとう。よくわかったわ」
やっぱり、ファルガの目的はこの私。
つまり、私がファルガの元へ行けば、不用意な攻撃は仕掛けてこないだろうということ。
そう都合よく行けばいいが、今はその一縷の望みに託して行動するしかない。
「皆さん、私が行きます。必ず魔界を守ります」
「なっ! 一人じゃ危険よ! ダメっ!」
「そうだ、立ち向かうのならば某らも共に」
「そうじゃぞ、小娘一人に行かせるわけにはいかん!」
「いくらアリエッタ殿の頼みでも、そればかりは受け入れられません。ルイス様にこっぴどく叱られてしまいますよ?」
やっぱり止められるよね。
私は覚悟を決めてみんなの目を見て言った。
「大丈夫! 私、こう見えても結構強いんですから! 必ずファルガたちを追い返して帰ってきます! だから、皆さんはお城を守っていてください!」
言うや否や、私は中庭に向かって駆け出した。
「アリエッタちゃん!」
後ろから必死に名前を呼ぶ声が聞こえるけれど、今立ち止まったら決心が鈍ってしまう。甘えたくなってしまう。それ程までに魔界のみんなが大好きだし頼りにしているから。
だからこそ、振り返るわけにはいかない。
私は窓から軽やかに飛び降りると、フェリックスの小屋に駆け込んだ。フェリックスは魔界に起こっている異常を感じ取りピリリと気を張り詰めていた。
「フェリックス! 私を連れて行ってちょうだい」
「キュアッ!」
どこに、とは言わずとも伝わったらしい。
フェリックスは頼もしい声を上げると、私を背に放り投げて素早く小屋から出た。
「行くわよ!」
「キュー!」
ガシッとフェリックスの首にしがみつくと、フェリックスがぶわりと浮き上がって空高く飛び上がった。
私は眼下に聳え立つ魔王の城に手を翳すと、門に張っていたものと同等の結界を五枚重ね張りした。これで中からも外からも、結界を破るとこはできないだろう。
「ごめんね。必ずケリをつけてくるから――」
私は中庭に出てこちらに向かって何か叫んでいるウェインさん、ミーシャお姉様、マルディラムさん、カロン爺に詫びると、フェリックスと共に猛スピードで門へと向かった。
「だ、だって……!」
ルイ様が世界樹に向かわれて七日が経った。
この七日間、魔界は平和そのもので小さな諍いもなく平穏に過ごしていた。
けれど、ルイ様が居ない七日はひどく長く感じて、心にポカリと穴が空いたような、そんな寂しさがずっと付き纏っていた。
「まぁ、仕方ないわよねえ~。アリエッタちゃんったらこの七日の間ずっと上の空だったし?」
「その節はご迷惑を……」
ボーッと城内を歩いてカロン爺にぶつかったり、お皿を割ってマルディラムさんに叱られたり、夕食時に飲み物をこぼしてミーシャお姉様の服を汚してしまったり……実に散々なことをしでかしてしまった。
「よかったわねえ。今日ようやく愛しのルイス様が戻ってくるんだもの」
「うっ……そう、ですね」
ニヤニヤ笑いを隠す素振りもないミーシャお姉様。
私は唇を尖らせつつも小さく頷いて同意した。
早くルイ様に会いたい。
声を聞きたい。
名前を呼んで欲しい。
触れたい。
離れて過ごした七日で、私は否応なしにルイ様への気持ちを再認識することとなった。
一分一秒でも早くルイ様に会って、自分の気持ちを伝えたい。ルイ様はきっと幸せそうにはにかんでくれるはず。
そう考えるだけで胸がポカポカ温かくなる。
「わ、私やっぱり外で待ってます!」
「うふふ、行ってらっしゃあい」
ルイ様にもう直ぐ会えると思うと居ても立っても居られず、廊下へと飛び出した。
中庭でフェリックスと遊びながら待つ?
ルイ様のお部屋で待つ?
廊下を歩きながら悩んだ結果、私はお城の中で一番高くて周囲の様子を見渡せる塔に向かった。
「ふわあ……綺麗」
外に出ると、少し強めの風に髪が遊ばれる。慌てて両手で押さえてお城の周辺を見渡した。
美しい緑が生い茂る草原、前にみんなでピクニックに行った丘、あっちの森には夜光虫の湖がある。
魔界に来て、本当にたくさんの素敵な思い出ができた。
私は深く息を吸いながら、魔界の美しさを噛み締める。
ルイ様、早く帰って来ないかな……なんて考えながら空を仰いだ。
――それは、一瞬の出来事だった。
「うっ……なに? きゃぁっ!」
ぐわん、と脳が揺れる感覚に襲われて私は僅かによろめいた。
そして、遠くで赤い光がピカッと弾けたかと思うと、遅れて凄まじい突風が吹き荒れた。咄嗟に両腕を顔の前で構えて足を踏ん張る。突風が止んだタイミングで前髪を整えながら目をうっすら開いた私は、目の前に広がる光景に絶句した。
「うそ……」
先程までキラキラ輝いて見えた新緑の草原が真っ黒に焼け焦げている。血のように真っ赤な炎が、大好きな魔界を焼いている。
ドクンドクンと心臓が嫌な音を立てている。
先程抱いた不快感――ああ、結界が破られたんだ。
魔界と人間界を繋ぐ門に施した結界。それが外側から破られたということは、人間界側から攻撃されているということ。
最近結界に干渉してこなくなったから、やっと諦めてくれたのかと油断していた。
サッと身体中から血の気が引く。ふらつきながらもなんとか踏ん張った私は、踵を返して城内に駆け込んだ。
「みんなに知らせなきゃ……!」
ウェインさんを探して廊下を駆ける。突然焼け野原になった草原や、ズゥンズゥンと響き始めた大地の揺れに城内は騒然としていた。
「いました! アリエッタ殿!」
「ウェインさん! みんなも!」
ちょうどウェインさんたちも私を探していたようで、ルイ様の部屋の前でバッタリ遭遇した。
「大変です! 結界が破られました。恐らく、人間界からの侵攻です」
私は膝と胸に手を当てて呼吸を整えながら報告した。
ウェインさんとマルディラムさんは険しい顔をして(マルディラムさんに顔はないけど……って言ってる場合じゃない!)、カロン爺はカタカタ震える骨を必死で押さえている。ミーシャお姉様も怖い顔をしていて、緊急事態ということは誰の目から見ても明らかだった。
「すみません……私の結界が破られたせいで、魔界が……」
グッと歯を食いしばって頭を下げようとして、ウェインさんに片手で制止された。
「アリエッタ殿のせいではありません。むしろルイス様が幼い期間、結界で魔界を守ってくれたことに感謝しています。その結界が破られたのであれば、次の策を講じるまでです。ひとまず敵の全容を確認しなくては」
私たちは頷き合うと、カロン爺が持ってきていた遠隔地を見るための魔導鏡を覗き込んだ。
「こ、これは……」
魔界と人間界を繋ぐ門のど真ん中に巨大な風穴が空いている。穴の周りが焼け焦げていることから、先程草原を焼いたものによると推測できた。
「自分で言うのもおかしな話なのですが、私の結界を破れる人間が向こうに存在するとは思えません。余程の人数での一斉攻撃か、あるいは――」
「……なるほど、結界を破ったのはこいつね」
ザザッと魔導鏡の映像が乱れて、次に映し出されたのは、赤い目を光らせ、大きく開かれた口から煙を吐き出す巨大な人型の像のようなものだった。
その全長は王城に匹敵するほどの大きさで、ゴツゴツとした岩肌のような表面をしているが、不思議な輝きを放っている。
「なんということでしょう……まさか、こんなものを持ち出すとは」
「ウェインさん、知っているのですか?」
いつも冷静沈着なウェインさんが顔面を蒼白にするほどの兵器なのかとその場の面々に緊張が走る。
「ええ……これは古代兵器と呼ばれる殺戮兵器です。千年以上も前に破壊されたはずのものがなぜ……」
人間界にいた時に、伝承として耳にした程度だけれど、古代兵器の名前は聞いたことがある。
そのポカリと空いた巨大な口からは何ものをも焼き尽くす光線が放たれ、その表皮は何ものをも通さない最強硬度のミスリルと魔石の超合金でできている。鋭い爪は行手を阻むもの全てを薙ぎ払い、対象物を破壊し尽くすまで止まらない、まさに殺戮兵器。
「そんな……そんなものが実在するなんて」
「実在したのですよ。まだ魔界と人間界が分たれていなかった頃、争いの最中生み出されたのがこの殺戮兵器でした。敵味方関係なく襲いかかる厄災にも近しいものでしたから、人間の手に負えるものでもなく……当時の魔王様と聖女様が共闘して破壊したはずだったのです」
恐らく、もしもの時に備えて秘密裏に破壊された欠片を保管して修復してきたのだろう。そしてそんな古代兵器を持ち出したのは、きっとあの男――
「くっ……!」
忌まわしい勘違い野郎の顔を思い浮かべたと同時に、古代兵器の足元で得意げな顔をしている男が魔導鏡に映し出された。二度と見たくない、見る予定もなかった顔に、思わず前面に不快感を表してしまった。
「アリエッタちゃん、この男……」
「ええ。あの日私と共に魔王討伐に来た勇者です」
ファルガはポンコツだけど、腕は確かだ。
そんなファルガが古代兵器を率いて魔界に攻め入って来た。しかも古代兵器の後ろには数千もの兵士と魔導士の姿が見える。後ろで糸を引いているのが誰なのか想像も容易い。
「あんのクソ国王……! ねえ、カロン爺。この鏡で向こうの音声は拾えないの?」
「むう、音質は良くないだろうが……試してみよう」
ギリッと歯を食いしばった私は、ふうと息を吐いて気持ちを落ち着かせてからカロン爺に頼んでみた。カロン爺は魔導鏡の細工を少し弄ると、「よし、どうじゃ」と鏡に耳を寄せた。私も同じく耳を寄せる。
『ザザッ……ふはは……ザッ、ザッ――これ、で……アリエッ……を――救出……ザザッ』
「……ありがとう。よくわかったわ」
やっぱり、ファルガの目的はこの私。
つまり、私がファルガの元へ行けば、不用意な攻撃は仕掛けてこないだろうということ。
そう都合よく行けばいいが、今はその一縷の望みに託して行動するしかない。
「皆さん、私が行きます。必ず魔界を守ります」
「なっ! 一人じゃ危険よ! ダメっ!」
「そうだ、立ち向かうのならば某らも共に」
「そうじゃぞ、小娘一人に行かせるわけにはいかん!」
「いくらアリエッタ殿の頼みでも、そればかりは受け入れられません。ルイス様にこっぴどく叱られてしまいますよ?」
やっぱり止められるよね。
私は覚悟を決めてみんなの目を見て言った。
「大丈夫! 私、こう見えても結構強いんですから! 必ずファルガたちを追い返して帰ってきます! だから、皆さんはお城を守っていてください!」
言うや否や、私は中庭に向かって駆け出した。
「アリエッタちゃん!」
後ろから必死に名前を呼ぶ声が聞こえるけれど、今立ち止まったら決心が鈍ってしまう。甘えたくなってしまう。それ程までに魔界のみんなが大好きだし頼りにしているから。
だからこそ、振り返るわけにはいかない。
私は窓から軽やかに飛び降りると、フェリックスの小屋に駆け込んだ。フェリックスは魔界に起こっている異常を感じ取りピリリと気を張り詰めていた。
「フェリックス! 私を連れて行ってちょうだい」
「キュアッ!」
どこに、とは言わずとも伝わったらしい。
フェリックスは頼もしい声を上げると、私を背に放り投げて素早く小屋から出た。
「行くわよ!」
「キュー!」
ガシッとフェリックスの首にしがみつくと、フェリックスがぶわりと浮き上がって空高く飛び上がった。
私は眼下に聳え立つ魔王の城に手を翳すと、門に張っていたものと同等の結界を五枚重ね張りした。これで中からも外からも、結界を破るとこはできないだろう。
「ごめんね。必ずケリをつけてくるから――」
私は中庭に出てこちらに向かって何か叫んでいるウェインさん、ミーシャお姉様、マルディラムさん、カロン爺に詫びると、フェリックスと共に猛スピードで門へと向かった。
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