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第38話 海賊
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「今日で三日目か…」
ラルフはマリアンヌが出立した港の側の岩礁に座り、真剣な眼差しで海を見つめていた。
意気揚々とマリアンヌがリェン国に向けて旅立って早くも三日が経過した。順調にいけば、そろそろリェン国に到着して薬を手にしている頃合いだ。
一方のシャーロットと言えば、大きく息巻いていたものの、リェン国までの陸路が崩れた山道以外に整備されていないため、結局は何の進展もなく毎日従者たちを怒鳴り散らしている。
地盤の調査を進めつつ、少しずつ土砂の撤去は進めているが、到底後数日で終わるものではない。
シェリルの容体は安定しているものの、ずっと床に臥せり、両親が交代で看病をしていた。
「ちっ、待つしかできないことがこうも心苦しいとは」
ラルフはこの日何度目か分からない舌打ちをした。
毎日港を訪れてはマリアンヌの無事を祈り、海を見つめている。すっかり天気が回復した陽光によって、海面はまるで宝石のようにキラキラと輝いている。
その輝きを見ていると、マリアンヌの無邪気な瞳が連想されて、ラルフはブルブルと首を振った。
「……ったく、流石に認めざるを得ないか」
自分でも素直ではない気質だと理解はしている。
先日カミラにもせっつかれたが、そろそろ目を逸らし、言い訳をして逃れてきた想いに向き合う時が来たらしい。
真っ直ぐに清らかな心を持つマリアンヌ。
獣人を愛し、そして獣人からも愛されるマリアンヌ。
もちろん魚人だからと差別されたことも少なくはないのだが、マリアンヌと交流を深めることでその誰もが考えを改めていく。そんな影響力も持ち合わせた稀有な魚人。
(マリアンヌとならば、本当に獣人と魚人の関係を変えることができるかもしれんな…)
ラルフはいずれ国を背負って立つ身である。
そのことは幼い頃から強く自覚しており、そろそろ伴侶を決める年頃であるものの、中々相手を決めきれずにいたのも、強すぎる責任感ゆえであった。
ラルフは獣王国の未来を共に見据え、支えてくれる女性を探し求めていた。もちろん、恋愛結婚である両親を見ているため、自らの気持ちが激しく揺さぶられる女性との出会いに焦がれてきた。
そんな時に現れたマリアンヌは、そのどちらにも当てはまる人物であった。ラルフは初めて自分の気持ちをかき乱され、そしてその人と共に在りたいと思うようになっていた。
獣人好きのマリアンヌのことだ。
いつも冗談半分で求婚してくるが、片や本気であるのにいつまでもヘラヘラ緩んだ表情をしている様子が正直面白くなかった。
もっと、自分を求めて欲しい。『ラルフだから』と伴侶に望んで欲しい。そう思えば思うほどに胸の中の秘めた想いも燃え上がる。
マリアンヌが無事に戻ったら……この想いを伝えてみようか?
マリアンヌの到着を待つ時間は、自問自答するには十分過ぎた。
◇◇◇
「順調ね!あと一日もあればザバンの港に着くわ!」
丸二日泳ぎ通したマリアンヌは、無事にリェン国に到着していた。
レナード王が鳩を飛ばしてくれていたため、薬屋の店主との話も早く済み、無事にシェリルの薬を手にすることができた。
マリアンヌは持参した特殊加工の袋をポシェットから取り出して、その中に薬を入れる。
この袋は海王国への輸出入によく使われている特別なもので、海中に長時間浸していても中に入れた荷物は湿気らない。薬を運ぶのにピッタリだと思い、持ってきていたのだ。
リェン国でしばし仮眠と食事を済ませて、マリアンヌは再び海に潜った。正直少し疲れてはいたが、苦しむシェリルを救うため、そして愛しのもふもふを堪能するために、多少の無理ぐらいは我慢できる。
往路と同じく魚たちに導かれながら、マリアンヌは深く広い海を泳ぐ。
順調に泳ぎ進め、岩礁が多く波が荒い海域に差し掛かった時――マリアンヌの頭上に影が差した。
「なにかしら…なっ!?」
スピードを落として訝しげに見上げると、そこには立派な船の竜骨が海面を走っていた。
「まさか、海賊……!?」
こんな危険な海域に商業船は入り込まない。船底を岩礁で擦って座礁することが目に見えているからだ。
一般的な航路から大きく外れた海域でもあり、こんなところに出没する船は普通ではない。
考えうる船の乗り手に、マリアンヌはピリリと警戒心を強める。
音を立てないように海面から顔を出したマリアンヌであるが、次の瞬間、バサリ!と大きな網が頭の上から降ってきた。
「きゃあっ!?」
慌てて逃げようとするが、抵抗虚しく素早く網は引き上げられていく。捉えられたマリアンヌは海水を滴らせながら、カラカラ乾いた音を立てる滑車によってぐんぐん持ち上げられていく。
そして船の上に用意されていた巨大な水槽に乱雑に落とされてしまう。ザブンと水飛沫をあげて水槽に落ちたマリアンヌは、体勢を立て直すと、キッと周囲を取り囲む男たちを睨みつけた。
「おいおい、魚人だぜ!しかも随分上物じゃねぇか」
低く喉を鳴らすように笑いながら水槽に歩み寄る一人の男。
海賊の頭だろうか?
切れ長の目に、鱗に覆われた艶やかな尻尾。その身体的特徴から、彼らが獣人であることは見るに明らかであった。
ラルフはマリアンヌが出立した港の側の岩礁に座り、真剣な眼差しで海を見つめていた。
意気揚々とマリアンヌがリェン国に向けて旅立って早くも三日が経過した。順調にいけば、そろそろリェン国に到着して薬を手にしている頃合いだ。
一方のシャーロットと言えば、大きく息巻いていたものの、リェン国までの陸路が崩れた山道以外に整備されていないため、結局は何の進展もなく毎日従者たちを怒鳴り散らしている。
地盤の調査を進めつつ、少しずつ土砂の撤去は進めているが、到底後数日で終わるものではない。
シェリルの容体は安定しているものの、ずっと床に臥せり、両親が交代で看病をしていた。
「ちっ、待つしかできないことがこうも心苦しいとは」
ラルフはこの日何度目か分からない舌打ちをした。
毎日港を訪れてはマリアンヌの無事を祈り、海を見つめている。すっかり天気が回復した陽光によって、海面はまるで宝石のようにキラキラと輝いている。
その輝きを見ていると、マリアンヌの無邪気な瞳が連想されて、ラルフはブルブルと首を振った。
「……ったく、流石に認めざるを得ないか」
自分でも素直ではない気質だと理解はしている。
先日カミラにもせっつかれたが、そろそろ目を逸らし、言い訳をして逃れてきた想いに向き合う時が来たらしい。
真っ直ぐに清らかな心を持つマリアンヌ。
獣人を愛し、そして獣人からも愛されるマリアンヌ。
もちろん魚人だからと差別されたことも少なくはないのだが、マリアンヌと交流を深めることでその誰もが考えを改めていく。そんな影響力も持ち合わせた稀有な魚人。
(マリアンヌとならば、本当に獣人と魚人の関係を変えることができるかもしれんな…)
ラルフはいずれ国を背負って立つ身である。
そのことは幼い頃から強く自覚しており、そろそろ伴侶を決める年頃であるものの、中々相手を決めきれずにいたのも、強すぎる責任感ゆえであった。
ラルフは獣王国の未来を共に見据え、支えてくれる女性を探し求めていた。もちろん、恋愛結婚である両親を見ているため、自らの気持ちが激しく揺さぶられる女性との出会いに焦がれてきた。
そんな時に現れたマリアンヌは、そのどちらにも当てはまる人物であった。ラルフは初めて自分の気持ちをかき乱され、そしてその人と共に在りたいと思うようになっていた。
獣人好きのマリアンヌのことだ。
いつも冗談半分で求婚してくるが、片や本気であるのにいつまでもヘラヘラ緩んだ表情をしている様子が正直面白くなかった。
もっと、自分を求めて欲しい。『ラルフだから』と伴侶に望んで欲しい。そう思えば思うほどに胸の中の秘めた想いも燃え上がる。
マリアンヌが無事に戻ったら……この想いを伝えてみようか?
マリアンヌの到着を待つ時間は、自問自答するには十分過ぎた。
◇◇◇
「順調ね!あと一日もあればザバンの港に着くわ!」
丸二日泳ぎ通したマリアンヌは、無事にリェン国に到着していた。
レナード王が鳩を飛ばしてくれていたため、薬屋の店主との話も早く済み、無事にシェリルの薬を手にすることができた。
マリアンヌは持参した特殊加工の袋をポシェットから取り出して、その中に薬を入れる。
この袋は海王国への輸出入によく使われている特別なもので、海中に長時間浸していても中に入れた荷物は湿気らない。薬を運ぶのにピッタリだと思い、持ってきていたのだ。
リェン国でしばし仮眠と食事を済ませて、マリアンヌは再び海に潜った。正直少し疲れてはいたが、苦しむシェリルを救うため、そして愛しのもふもふを堪能するために、多少の無理ぐらいは我慢できる。
往路と同じく魚たちに導かれながら、マリアンヌは深く広い海を泳ぐ。
順調に泳ぎ進め、岩礁が多く波が荒い海域に差し掛かった時――マリアンヌの頭上に影が差した。
「なにかしら…なっ!?」
スピードを落として訝しげに見上げると、そこには立派な船の竜骨が海面を走っていた。
「まさか、海賊……!?」
こんな危険な海域に商業船は入り込まない。船底を岩礁で擦って座礁することが目に見えているからだ。
一般的な航路から大きく外れた海域でもあり、こんなところに出没する船は普通ではない。
考えうる船の乗り手に、マリアンヌはピリリと警戒心を強める。
音を立てないように海面から顔を出したマリアンヌであるが、次の瞬間、バサリ!と大きな網が頭の上から降ってきた。
「きゃあっ!?」
慌てて逃げようとするが、抵抗虚しく素早く網は引き上げられていく。捉えられたマリアンヌは海水を滴らせながら、カラカラ乾いた音を立てる滑車によってぐんぐん持ち上げられていく。
そして船の上に用意されていた巨大な水槽に乱雑に落とされてしまう。ザブンと水飛沫をあげて水槽に落ちたマリアンヌは、体勢を立て直すと、キッと周囲を取り囲む男たちを睨みつけた。
「おいおい、魚人だぜ!しかも随分上物じゃねぇか」
低く喉を鳴らすように笑いながら水槽に歩み寄る一人の男。
海賊の頭だろうか?
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