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えれきてる
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源内を探し出す、とは言ったものの、ヒントがあまりにも少なすぎる。
「北斎さん、出かけますよ」
「儂は……いやだ。今日は外に出る気分ではない!」
「そう言ったって、帰れるかもしれないのに……」
「いやだと言ったら、いやだ!」
テコでも動かないつもりらしい。部屋の真ん中で丸まったままである。仕方なく岡田はひとり部屋を後にした。描きかけの原稿が、実はまだ残っていたのだが……。
両国といえども、その土地は広大である。どこに行けばよいやら、てんで見当もつかない。
北斎から隅田川の色の話をされてから、水面の見方が変わった。以前よりも、より克明に澱みが見えるというか、ある種の恐ろしさを感じるようになった。するとどうだろう、普段見慣れている両国その土地が、完全な異世界そのものに生まれ変わっているように感じた。もしかすると、迷い混んでいるのは、北斎ではなく自分自身なのではないか……。そんな話を誰にしたとしても、首を傾げるに決まっているのだが、そう思わずにはいられなかった。
岡田にとってもうひとつ有意義だったのは、源内探しと銘打って、人間観察の機会を得たことである。ランニングしている男のフォームは、岡田の想像していたものと大きく異なっており、小さい子どもは思いもよらないところで転びそうになる。
「先生、お子さんには興味ないんですか」
「岡田くん、それ聞いちゃうの?僕は奥さんにも興味がないし、子育てなんか大の苦手なんだ。わかるだろ?」
「そうでもないと思いますよ。先生みたいなタイプは、きっと子煩悩ですね。娘なんかが産まれた日には……」
「ふん……女の子なんて、マンガの中だけで十分さ」
いつか冬の時期だったかと思うが、先生はなぜかその夜いつもより深く布団をかぶっていたのを覚えている。
歩き通して、清洲橋のあたりまで来た。
「何か手がかりになりそうなものは……」
ふとあるものが岡田の目に止まった。
「平賀源内電気実験の地、だって……?」
石碑には、確かにそう刻まれていた。注意しなければ素通りしてしまうほど地味な石碑である。
「へえ……歴史で習ったエレキテルの実験場所ってここなんだ……」
岡田が感心していると、
「知らなくっても、無理ねえな」
背中から突然男の声がした。
「わあっ!誰?」
岡田は慌てて振り向いた。その声の主は、あの蕎麦屋の主人であった。
「あなたは……蕎麦屋の……」
岡田が言い終わらない内に、
「ひらが、げんない、ね……あいつはうちの、常連だったんだ。マンガ先生と一緒によく来ていたのさ。どこか、あんたと似ていてね……」
「それって……」
岡田は念のためにバッグにしまっていた原稿を取り出し、主人に見せた。
「おお……この絵は実にそっくりだね……。あんた、やっぱり弟子か何かかい?」
主人はしみじみと原稿を眺めて、岡田に尋ねた。
「そうです」
「はは……似ている訳だな。先生は元気か?」
「先生は……亡くなりました」
主人はひどく驚いて、
「……そうだったのか。まだまだ若い才能だったろうに……」
と俯いた顔から小さな言葉を漏らした。
「僕は……先生を知っている方がいるだけで、嬉しいです」
「あんた……。ふ。奴もいい弟子を……。おっと、俺はもう行くからな。それじゃ」
主人は見かけによらず、歩くのが早かった。
「あ!待ってください!」
「ん?」
「さっき仰っていた、平賀源内……さんは、今どこにいるか、ご存知でないですか?」
「源内、ね……ははは。奴は今どこに居るんだろうなあ!はははは!」
主人は両の手をポッケに突っ込んで、陽気にその場を去っていった。
「北斎さん、出かけますよ」
「儂は……いやだ。今日は外に出る気分ではない!」
「そう言ったって、帰れるかもしれないのに……」
「いやだと言ったら、いやだ!」
テコでも動かないつもりらしい。部屋の真ん中で丸まったままである。仕方なく岡田はひとり部屋を後にした。描きかけの原稿が、実はまだ残っていたのだが……。
両国といえども、その土地は広大である。どこに行けばよいやら、てんで見当もつかない。
北斎から隅田川の色の話をされてから、水面の見方が変わった。以前よりも、より克明に澱みが見えるというか、ある種の恐ろしさを感じるようになった。するとどうだろう、普段見慣れている両国その土地が、完全な異世界そのものに生まれ変わっているように感じた。もしかすると、迷い混んでいるのは、北斎ではなく自分自身なのではないか……。そんな話を誰にしたとしても、首を傾げるに決まっているのだが、そう思わずにはいられなかった。
岡田にとってもうひとつ有意義だったのは、源内探しと銘打って、人間観察の機会を得たことである。ランニングしている男のフォームは、岡田の想像していたものと大きく異なっており、小さい子どもは思いもよらないところで転びそうになる。
「先生、お子さんには興味ないんですか」
「岡田くん、それ聞いちゃうの?僕は奥さんにも興味がないし、子育てなんか大の苦手なんだ。わかるだろ?」
「そうでもないと思いますよ。先生みたいなタイプは、きっと子煩悩ですね。娘なんかが産まれた日には……」
「ふん……女の子なんて、マンガの中だけで十分さ」
いつか冬の時期だったかと思うが、先生はなぜかその夜いつもより深く布団をかぶっていたのを覚えている。
歩き通して、清洲橋のあたりまで来た。
「何か手がかりになりそうなものは……」
ふとあるものが岡田の目に止まった。
「平賀源内電気実験の地、だって……?」
石碑には、確かにそう刻まれていた。注意しなければ素通りしてしまうほど地味な石碑である。
「へえ……歴史で習ったエレキテルの実験場所ってここなんだ……」
岡田が感心していると、
「知らなくっても、無理ねえな」
背中から突然男の声がした。
「わあっ!誰?」
岡田は慌てて振り向いた。その声の主は、あの蕎麦屋の主人であった。
「あなたは……蕎麦屋の……」
岡田が言い終わらない内に、
「ひらが、げんない、ね……あいつはうちの、常連だったんだ。マンガ先生と一緒によく来ていたのさ。どこか、あんたと似ていてね……」
「それって……」
岡田は念のためにバッグにしまっていた原稿を取り出し、主人に見せた。
「おお……この絵は実にそっくりだね……。あんた、やっぱり弟子か何かかい?」
主人はしみじみと原稿を眺めて、岡田に尋ねた。
「そうです」
「はは……似ている訳だな。先生は元気か?」
「先生は……亡くなりました」
主人はひどく驚いて、
「……そうだったのか。まだまだ若い才能だったろうに……」
と俯いた顔から小さな言葉を漏らした。
「僕は……先生を知っている方がいるだけで、嬉しいです」
「あんた……。ふ。奴もいい弟子を……。おっと、俺はもう行くからな。それじゃ」
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「あ!待ってください!」
「ん?」
「さっき仰っていた、平賀源内……さんは、今どこにいるか、ご存知でないですか?」
「源内、ね……ははは。奴は今どこに居るんだろうなあ!はははは!」
主人は両の手をポッケに突っ込んで、陽気にその場を去っていった。
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