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3:特訓Ⅱ
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ウェイバーの後に続いてやってきたのは雷の国王都、ベッケルンから少し出た所にある森だった。
人喰の森。
奥に進んだ者は例外なく生きて帰って来なかったことからついた名だ。
森には様々な生き物が住まうがその中でも気を付けなければならないものがいる。
魔獣だ。
元はどこにでもいる獣だったと言われている。
それがいつしか魔力を帯び変異、群れを作り子を成した結果世界各地で目撃されるようになったとか。
原因はどうであれ世界中には今や魔獣と呼ばれる明確な害意を持つ存在が数多存在している。
当然それはこの森にも。
魔獣と戦う際には装備を整え万全な状態で臨むのが基本だ。牢獄の中でウェイバーからそう教わった。だが、ウェイバーは鎧はおろか武器すら持っていない。そこらへんで売っているありきたりな服装だ。それは俺もだが。
俺の場合は装備なんて買う金もないし、今日まさか森に行くとは思ってもいなかったから準備なんてしてない。
「なぁ、昔あんたは言ったよな。外に出るなら装備はしっかりしろって」
一応警戒しているのだろう。が、恐れもせず平然と進む様は違和感を抱く。
自分自身で危険だと言っておきながらその危険さを理解していないんじゃないのかと。
教師がこの調子では些か不安を覚えてしまうのも仕方がない。
そんな事を考えながら口にした問いにウェイバーは振り返りもせずに言った。
「確かに言ったな。けどここはまだ森の浅い部分だ。余程深いところに入ることさえなければ問題ない。そもそもヴィル、お前を連れて深いところに行くわけないだろ?」
言外に足手まといだって言われているようなものだが、それはまぁいい。
事実今の俺じゃ足手纏い以外の何ものでもない。
ウェイバーは確か中級魔導騎士だったはずだ。それくらいのレベルになると素手でも魔獣を倒せるのかもしれない。かといって何も準備してこないのは明らかに舐めいると思えるが。
そんな気持ちが伝わったのか、
「心配しなくていい。ここから出てくるのは下級魔導騎士でも素手で倒せるレベルだ。王都からも近いから問題ない」
その言葉に一先ずは納得の表情を浮かべる。
王都ベッケルンから出て五分程。
目的の場所に着いたらしくウェイバーが足を止めた。
俺も止まる。
「今日はここで特訓する」
森だから当然だが周囲を木々に囲まれている。その中にぽっかりと空間の出来た場所だった。
北に聳え立つ巨大な山脈群。
龍の背びれと言われるそれは、かつて存在したと言われる魔獣からなぞられて付けられたものだ。
龍の背びれの眼下、そこから広がるのが今いる森。
特訓をすると言っても特に何か専用の道具があるとかは無い。
ただ単に動きまわれるスペースだけ。
「特訓って何をするんだ?」
「それは俺も何から教えるべきか、お前の講師になってからずっと考えてたんだ。二ヶ月と言うあまりにも短い期間で合格させるとなると一切を無駄出来ない。だから多少片寄りがあるメニューになったのは仕方ない。諦めてくれ」
時間を考えれば仕方がない。
けど、講師がいきなり諦めろって…
「最初にやるのは騎士にとって何よりも重要な魔力操作を覚えることだ」
魔導騎士。
その名が表す通り騎士でありながら魔法を使う存在。
己の身体を強化したり、火を出したり水を出したり様々な術を扱う。
元来の肉体性能だけでは勝てない強い魔獣に勝つ為には必須のことだ。
「まず魔力を感じることから始める。そうして操作、魔法の発動と手順を踏んでいく。魔力を感じるのにこれを使う」
「これは?」
「それに入っているのは体内の魔力の流れを感じやすくなる薬だ」
投げ渡された袋の紐を解くと緑っぽい色の丸薬が出てくる。
大きさ敵には丁度親指の爪程か。
臭いは結構草っぽい感じが強い。
薬草などを煎じて作ったものなのかもしれない。
しげしげと丸薬を眺めていると飲むように促された。
顔を顰めつつ口に含み噛み砕く。
数秒ほどすると最初は鳩尾あたりが温かくなった。ついで身体の全体がほんのりと温かくなってくる。
血のめぐりがよくなったような。
「どうだ?」
「いや、どうだって言われても… 身体が温かくなったくらいだな」
「それが魔力が活性化した証だ。本来魔力とは体内の一ヶ所に留まっている。その薬はそれを身体に巡らす事で魔力を感じられるようにするものだ。本当は薬を使わず魔力を引き出していくべきなんだけどな」
「それってもうはや魔力操作じゃないのか?」
「魔力操作は魔法を発動させる場合に使うのであって体内から魔力を引き出すのは分類上は違うことになっている。 …で、魔力は感じられるか?」
感じられるかって言われてもな…
身体が温かくなった以外には特に変化がない。
それを伝えると「身体の特に温かく感じる箇所、どこでもいいからそこに意識を集めろ」と言われた。
どうやらそこには魔力の流れる量が多いらしく、感じやすいそうだ。
言われた通りに意識を集中すると何か、血とは違った熱を帯びた物がある感覚がある。
「今日はひたすら魔力を感じ取れるようになってもらう。まずはそれが出来ないと話しにならないからな」
戦闘中でも安定してを感じられるようにその日から数日はみっちりと魔力感知の特訓となった。
人喰の森。
奥に進んだ者は例外なく生きて帰って来なかったことからついた名だ。
森には様々な生き物が住まうがその中でも気を付けなければならないものがいる。
魔獣だ。
元はどこにでもいる獣だったと言われている。
それがいつしか魔力を帯び変異、群れを作り子を成した結果世界各地で目撃されるようになったとか。
原因はどうであれ世界中には今や魔獣と呼ばれる明確な害意を持つ存在が数多存在している。
当然それはこの森にも。
魔獣と戦う際には装備を整え万全な状態で臨むのが基本だ。牢獄の中でウェイバーからそう教わった。だが、ウェイバーは鎧はおろか武器すら持っていない。そこらへんで売っているありきたりな服装だ。それは俺もだが。
俺の場合は装備なんて買う金もないし、今日まさか森に行くとは思ってもいなかったから準備なんてしてない。
「なぁ、昔あんたは言ったよな。外に出るなら装備はしっかりしろって」
一応警戒しているのだろう。が、恐れもせず平然と進む様は違和感を抱く。
自分自身で危険だと言っておきながらその危険さを理解していないんじゃないのかと。
教師がこの調子では些か不安を覚えてしまうのも仕方がない。
そんな事を考えながら口にした問いにウェイバーは振り返りもせずに言った。
「確かに言ったな。けどここはまだ森の浅い部分だ。余程深いところに入ることさえなければ問題ない。そもそもヴィル、お前を連れて深いところに行くわけないだろ?」
言外に足手まといだって言われているようなものだが、それはまぁいい。
事実今の俺じゃ足手纏い以外の何ものでもない。
ウェイバーは確か中級魔導騎士だったはずだ。それくらいのレベルになると素手でも魔獣を倒せるのかもしれない。かといって何も準備してこないのは明らかに舐めいると思えるが。
そんな気持ちが伝わったのか、
「心配しなくていい。ここから出てくるのは下級魔導騎士でも素手で倒せるレベルだ。王都からも近いから問題ない」
その言葉に一先ずは納得の表情を浮かべる。
王都ベッケルンから出て五分程。
目的の場所に着いたらしくウェイバーが足を止めた。
俺も止まる。
「今日はここで特訓する」
森だから当然だが周囲を木々に囲まれている。その中にぽっかりと空間の出来た場所だった。
北に聳え立つ巨大な山脈群。
龍の背びれと言われるそれは、かつて存在したと言われる魔獣からなぞられて付けられたものだ。
龍の背びれの眼下、そこから広がるのが今いる森。
特訓をすると言っても特に何か専用の道具があるとかは無い。
ただ単に動きまわれるスペースだけ。
「特訓って何をするんだ?」
「それは俺も何から教えるべきか、お前の講師になってからずっと考えてたんだ。二ヶ月と言うあまりにも短い期間で合格させるとなると一切を無駄出来ない。だから多少片寄りがあるメニューになったのは仕方ない。諦めてくれ」
時間を考えれば仕方がない。
けど、講師がいきなり諦めろって…
「最初にやるのは騎士にとって何よりも重要な魔力操作を覚えることだ」
魔導騎士。
その名が表す通り騎士でありながら魔法を使う存在。
己の身体を強化したり、火を出したり水を出したり様々な術を扱う。
元来の肉体性能だけでは勝てない強い魔獣に勝つ為には必須のことだ。
「まず魔力を感じることから始める。そうして操作、魔法の発動と手順を踏んでいく。魔力を感じるのにこれを使う」
「これは?」
「それに入っているのは体内の魔力の流れを感じやすくなる薬だ」
投げ渡された袋の紐を解くと緑っぽい色の丸薬が出てくる。
大きさ敵には丁度親指の爪程か。
臭いは結構草っぽい感じが強い。
薬草などを煎じて作ったものなのかもしれない。
しげしげと丸薬を眺めていると飲むように促された。
顔を顰めつつ口に含み噛み砕く。
数秒ほどすると最初は鳩尾あたりが温かくなった。ついで身体の全体がほんのりと温かくなってくる。
血のめぐりがよくなったような。
「どうだ?」
「いや、どうだって言われても… 身体が温かくなったくらいだな」
「それが魔力が活性化した証だ。本来魔力とは体内の一ヶ所に留まっている。その薬はそれを身体に巡らす事で魔力を感じられるようにするものだ。本当は薬を使わず魔力を引き出していくべきなんだけどな」
「それってもうはや魔力操作じゃないのか?」
「魔力操作は魔法を発動させる場合に使うのであって体内から魔力を引き出すのは分類上は違うことになっている。 …で、魔力は感じられるか?」
感じられるかって言われてもな…
身体が温かくなった以外には特に変化がない。
それを伝えると「身体の特に温かく感じる箇所、どこでもいいからそこに意識を集めろ」と言われた。
どうやらそこには魔力の流れる量が多いらしく、感じやすいそうだ。
言われた通りに意識を集中すると何か、血とは違った熱を帯びた物がある感覚がある。
「今日はひたすら魔力を感じ取れるようになってもらう。まずはそれが出来ないと話しにならないからな」
戦闘中でも安定してを感じられるようにその日から数日はみっちりと魔力感知の特訓となった。
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