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2:特訓Ⅰ
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牢獄から出た翌日。
運が良いと言うべきか悪いと言うべきか、今日から特訓が開始される事になった。
長年牢獄で過ごしてきただけあって太陽の陽を浴びることすらきつく感じる。
気の所為か足元がふらつくような感覚もある。
もしこんな状態で住む場所もなしに夜も昼も過ごす事になっていたらと思うと身が竦む。
昨日、試験を受ける事が半ば無理矢理決まった後のこと。雷王の権限をフルに活用し一件の家を手配された。
それほど大きくは無いが一人暮らしには問題ない大きさだ。
それより問題なのは一歩家から出ると向けられる周りの視線だ。
特に騎士たちからの。
粘っこく暗い感情を宿した瞳を向けてくる者。
怒りの視線を向けてくる者。
気味悪がっったり嫌悪感を滲ませるもの。
千差万別だが皆等しく負の感情を向けてくるのだけは確かだった。
この視線が何を意味しているのか、俺には分からない。
考えられる可能性とすれば地下牢獄から出てきたからと言うのだろうか。
だが、これはラインハルトが出来る限り外に情報が漏れないようにしたと言っていた。一部の者だけしか知らないと。
状況を考えればそれは大分怪しく思えるが。
そんな訳で外を出歩くと身の危険を感じる。
だから出来るだけ人気の少ない所を歩くようにしている。
「ここか?」
裏道みたいな細い道を通った先。
辿りついたのは川に掛る橋の上だ。
ラインハルトから渡された簡易地図にはここらへんだと書かれている。
如何せん地図など見る機会もなく、加えて昨日地上に出てきたばかり地図の見方も怪しい。
ここで合っているのか不安しかない。
ここに来たのは今日から始まる特訓の為だ。
騎士の騎の字も知らない奴が今から一人で特訓しても間に合うわけがない。
二ヶ月しかないのだ。
そこで専属の講師が付くことになった。
その講師との待ち合わせ場所がこの橋の上というわけだ。
現在地と地図を見比べて唸っていると背後から肩を叩かれた。
「時間通りに来るとは感心だな。ヴィル」
「あんた… ウェイバー… どうして」
「おいおい、何寝ぼけた言ってんだよ。ここに居る理由なんて一つしかないだろ。俺がお前の専属講師になったからだ」
ウェイバーの発言に驚き固まる。
ウェイバーとはあの地下牢獄に結構な頻度で面会に訪れて来た人物だ。
出会ってからもう何年も経つがこうして檻越しではない会い方は初めてだ。
やっとあの牢獄から解放されたのだと実感がわいてくる。
ウェイバー=ウィルキス。
三十代の黒髪短髪の男性。特にこれといった特徴はない。どこにでもいるような歳食ったおっさんの外見をしている。ただ体中にある傷が彼がただのおっさんではないことの証明だ。
袖や襟から覗く肌には痛々しいほどの傷が見え隠れしている。
傷跡から彼がどれほど厳しい戦いに身を置いてきたかが分かる。
今は戦場から離れ騎士見習いに授業をする教師になったと聞いていた。
現職の教師が教えてくれるのならば心強い。
「知り合いであるあんたに教えて貰えるのはこっちとしても気が楽でいいんだが、養成施設の方はいいのか?」
専属で教えると言う事はほぼ付きっきりになるということだ。
ただでさえ俺の場合は騎士になる為の下地が何もない。
ゼロの状態から試験を合格させるまでやるとなると二ヶ月の間はずっと寝食をともにする可能性が高い。
それに対しウェイバーから返って来た答えは「問題ない」といことだった。
何でもまたしても雷王であるラインハルトが、騎士見習い養成施設に権力を行使したのだそうだ。結果上司から「ウェイバー君、君今日から二ヶ月有給上げるから」と言われたらしい。
有給貰っても講師なんて仕事しちゃ休めないだろうけど。
「試験まで時間もない事だしちゃっちゃと始めるぞ」
そう言って歩き出したウェイバーの後を追い掛けた。
運が良いと言うべきか悪いと言うべきか、今日から特訓が開始される事になった。
長年牢獄で過ごしてきただけあって太陽の陽を浴びることすらきつく感じる。
気の所為か足元がふらつくような感覚もある。
もしこんな状態で住む場所もなしに夜も昼も過ごす事になっていたらと思うと身が竦む。
昨日、試験を受ける事が半ば無理矢理決まった後のこと。雷王の権限をフルに活用し一件の家を手配された。
それほど大きくは無いが一人暮らしには問題ない大きさだ。
それより問題なのは一歩家から出ると向けられる周りの視線だ。
特に騎士たちからの。
粘っこく暗い感情を宿した瞳を向けてくる者。
怒りの視線を向けてくる者。
気味悪がっったり嫌悪感を滲ませるもの。
千差万別だが皆等しく負の感情を向けてくるのだけは確かだった。
この視線が何を意味しているのか、俺には分からない。
考えられる可能性とすれば地下牢獄から出てきたからと言うのだろうか。
だが、これはラインハルトが出来る限り外に情報が漏れないようにしたと言っていた。一部の者だけしか知らないと。
状況を考えればそれは大分怪しく思えるが。
そんな訳で外を出歩くと身の危険を感じる。
だから出来るだけ人気の少ない所を歩くようにしている。
「ここか?」
裏道みたいな細い道を通った先。
辿りついたのは川に掛る橋の上だ。
ラインハルトから渡された簡易地図にはここらへんだと書かれている。
如何せん地図など見る機会もなく、加えて昨日地上に出てきたばかり地図の見方も怪しい。
ここで合っているのか不安しかない。
ここに来たのは今日から始まる特訓の為だ。
騎士の騎の字も知らない奴が今から一人で特訓しても間に合うわけがない。
二ヶ月しかないのだ。
そこで専属の講師が付くことになった。
その講師との待ち合わせ場所がこの橋の上というわけだ。
現在地と地図を見比べて唸っていると背後から肩を叩かれた。
「時間通りに来るとは感心だな。ヴィル」
「あんた… ウェイバー… どうして」
「おいおい、何寝ぼけた言ってんだよ。ここに居る理由なんて一つしかないだろ。俺がお前の専属講師になったからだ」
ウェイバーの発言に驚き固まる。
ウェイバーとはあの地下牢獄に結構な頻度で面会に訪れて来た人物だ。
出会ってからもう何年も経つがこうして檻越しではない会い方は初めてだ。
やっとあの牢獄から解放されたのだと実感がわいてくる。
ウェイバー=ウィルキス。
三十代の黒髪短髪の男性。特にこれといった特徴はない。どこにでもいるような歳食ったおっさんの外見をしている。ただ体中にある傷が彼がただのおっさんではないことの証明だ。
袖や襟から覗く肌には痛々しいほどの傷が見え隠れしている。
傷跡から彼がどれほど厳しい戦いに身を置いてきたかが分かる。
今は戦場から離れ騎士見習いに授業をする教師になったと聞いていた。
現職の教師が教えてくれるのならば心強い。
「知り合いであるあんたに教えて貰えるのはこっちとしても気が楽でいいんだが、養成施設の方はいいのか?」
専属で教えると言う事はほぼ付きっきりになるということだ。
ただでさえ俺の場合は騎士になる為の下地が何もない。
ゼロの状態から試験を合格させるまでやるとなると二ヶ月の間はずっと寝食をともにする可能性が高い。
それに対しウェイバーから返って来た答えは「問題ない」といことだった。
何でもまたしても雷王であるラインハルトが、騎士見習い養成施設に権力を行使したのだそうだ。結果上司から「ウェイバー君、君今日から二ヶ月有給上げるから」と言われたらしい。
有給貰っても講師なんて仕事しちゃ休めないだろうけど。
「試験まで時間もない事だしちゃっちゃと始めるぞ」
そう言って歩き出したウェイバーの後を追い掛けた。
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