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29:ダンジョンクリア
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キーラとの会話を切り上げてーー自ら切ってーーアーサーがいるところに戻るセリム。道中、さくらんぼのような大きさの赤い木の実を見つけ何となく捥ぎ取る。
「すっぺ!」
口にしたのを吐き出し、手に持っているのも捨てる。食べてみると酸味が強くお世辞にもおいしいとは言えなかった。行きはキーラになんて話そうか考えていた所為で気付かなかったが話し終えた今、胸のつかえがとれたような軽い気持ちになったお陰で木の実を見つける事が出来たが、おいしくなかったので特に得をしたとかいう気分にはならなかった。
アーサーの所に戻ると剣の手入れをしていた。一瞬こちらを向くアーサーだったが直ぐに視線を戻したり今はこの大人の対応とでも呼ぶべきものがありがたかった。
「何を話したんだ?」と聞かれたらこの前の件を話さなければならなかったので面倒だった。
セリムも地面に腰を下ろし休む。
「なぁ、あんたのその剣ってオーダーメイド品なのか?」
特にすることも無く暇を持て余していたセリムはアーサーが手入れをしている剣に関して聞いた。野宿した時に手合わせで使っていたのは飾り気などがほどんどない普通のロングソードだったのだが、今手入れをしているのは金を基本とし青い色の入った剣だ。
「ん、あぁ そうだ。昔、国に使える騎士だって話したよな?んで、俺は聖騎士だったわけだがその時に聖剣をつくんだよ。もちろん本物の聖剣じゃないけどな」
本物は国に使える選ばれた聖騎士に貸与されるもんだと付け加えた。アーサーが持っている聖剣は一応"聖剣"と言う名を持ってはいるが本物には威力など全てにおいての性能が及ばないらしい。そして"せいけん"名の付く剣がもう一本あるとアーサーが教えてくれた。
「騎士になった者でもうすぐ聖騎士に上がれるって者が使う剣が"青剣(せいけん)"だ」
"青剣"は聖剣の最下位の物であり、劣化版聖剣よりも劣るそうだ。だが、聖属性はきちんと付与されおり悪魔などのモンスターなどには対して威力を発揮するのだそうだ。
その話を軽く聞きながら剣の手入れを見ている。手入れと言っても使ってもいない剣なので状態のチェック位だが…
その日はキーラとの一件などもあり食事をしたら直ぐに休むことにする。食事時にはキーラは戻ってきたので今後の事について多少は話し合った。
「明日でこのダンジョンはクリアできるだろう。セリムが張り切ってくれたお陰でな」
そう言いながらこちらを見るアーサー。言い方に何か含みを感じたが無視する。
「で、明日はボス戦だ。俺はこれまで通り手は出さない。二人で何とかしろ。危険だと判断したら俺も参戦するがな」
二人での所をやたらと強調するアーサー。言われなくたって分かってはいるつもりだ。
そして就寝することになりダンジョンの中だと言う事で、見張りを立てる。見張りは大体一時間交代でアーサー、キーラ、セリムの順番だ。二巡したら出発する段取りになった。見張りをしてそのまま出発になるのはちょっとつらいかとも思ったが経験だと言い聞かせ納得する。
見張りの最中は特に何も起こることも無く終始、火の弾ける音と時折吹く風を浴びて過ぎていった。
翌。
寝ている二人を起こす。
(このおやじは自分で起きろよな)
そう文句をつけ腹を蹴って起こす。「いっ!」と叫びを上げていたので気分が多少晴れた。単純にストレス発散だ。キーラに関してはアーサーの声で目が覚めたらしく、目ゴシゴシしながらも支度を整えている。
朝食を適当に済ませ探索を再開する。最下層まではあと、十階だが、ボスが三十階層目にいるので実質後、九層。昨日と同じ隊列で進んでいく。
森の中と言う事で視界は良いとは言えないが、スキル"気配感知"で探れる。振動魔法の応用で振動探査ーーエコーのようなイメージーーを使い視界には左右されにくい状態を作っているので森であろうと心配はほとんどない。
そのスキルに反応があり声を掛けようとするが、昨日の件もあり一瞬躊躇してしまった。
「何してるのよ、セリムは右 私は左をやるから」
だが、キーラから指示が飛ばされる。意外感を覚えながらも返事をする。敵はオーガ三匹だ。セリムが二匹でキーラが一匹。自身との力量差を考えてセリムの方に多く割り振ったのだろう。
「我の求めたるは炎 形を成し集いて 敵を射抜け」
詠唱をし始めると赤い魔方陣が浮かび上がる。この前とは違う詠唱に何の魔法だ?と思っているとキーラの翳した手の前に複数の炎の矢が出現していた。この前のはファイアーボールだったが今回のはフレイムアローの詠唱だったようだ。使う魔法により詠唱が違うと言うのは見ていればわかったが、使う魔法の詠唱全て覚えているんだろうかと少し疑問が浮かんだ。
フレイムアロー自体は然程威力がある魔法ではない。その為キーラは数で攻めているのである。そして今現在オーガに当たってはいるが貫くことはできておらず、接触し多少食い込んで爆発するという行為を繰り返していた。何はともあれ倒せるだろう。
そう思いセリムは己の敵を見据える。敵はオーガ二体。所詮はただのオーガだ。セリムも魔法を使う。手を前に翳すと青色の魔方陣が構築される。
二条の水がうねりを上げオーガに突き刺さる。簡単にオーガの腹に穴が開き貫通する。くぐもった悲鳴らしきものを途中まであげると力尽きたオーガは地面に倒れた。それを確認しキーラにもう行けるかと言う確認の意味を込めた振り向きをするとこっちを見ていた。
「何だ?」
見られれば問い返すのは誰しもする事だろう。何の意味の込められた視線か分からなければ尚更。
「何でもないわよっ」
それだけ言うとさっさと行くわよと言って先頭に出て、ツカツカと進んで行くキーラ。隊列を崩し進むことにいいのかと疑問に思わないでもなかったがまぁいいか思い直し進むことにした。
昨日とはえらいちがいだなと二人の後ろ姿を見ていたアーサーは思えざる得なかった。昨日セリムと話して何か吹っ切れたのだろうと喜ばしく感じのと、何を話したのかが気になってしまう。その為、ちょっと出しゃばってしまう。
「セリム、昨日はうまくやったようだな」
何のことだと訝し気になりながらもアーサーの方を振り返る。
「キーラの事だよ。昨日とは違ってえれー積極的じゃねーか」
何故それが自身がうまくやった事とつながるのか訳が分からなかった。事実、昨日のセリムは辛いなら距離を置くと言う一種の逃げともいえる選択を取り実際に最後は逃げたのだから。あれでキーラの事をどうにかできたとは思っていないのでどうしても自身がやった事とは思えなかったのだ。
「つーか、アーサー。 お前口出しも手出しもしねーんじゃねーのかよ」
「むっ」
痛い所を付かれたとでもいうかのように顔をしかめる。
「はいはい、おっさんは邪魔者でしたね。あとはお若い二人に任せますよーだ」
三十を超えたおっさんがいじけているようにもとれる言い方をする。自身で言ったことなのに何拗ねてんだかと思うセリム。これ以上何か言うと面倒になるかもと思い前に向き直る。
そんな会話をしながら順調に進み続け現在二十九階層目にまで到達した。ここまで来るのに昨日と比べれば時間は食ったが然程問題だろう。寧ろあるとすればそれはキーラと言えるだろ。
何せセリムが魔法を使う度にこちらを凝視してくるのだ。そこで理由を聞いてみても「何でもないわよ」と言って答えない。これの繰り返しだ。何がしたいんだか…
二十九階層目を進み続け漸く、三十階層、ボスが待ち受ける部屋の階段を見つけた。
(やっと三十層目か)
長かったような短かったような、よくわからない気持ちになりつつ階段を下っていく。下りきると普通ならすぐに次の階層があるはずなのだがその部屋は違った。階段をおりた先には二十mくらいの何もないただ真っ直ぐな空間がありその向こうに岩らしきもので出来た扉があった。
扉に向かいながらちょっとどう開くのか疑問が浮かぶ。
(開けゴマっていえば開くのか?それともバルスか?)
そんな阿保なことを考えながら扉の前に到着。すると勝手に扉が開き始める。まるで入れとでも言っているかのように。何の躊躇も見せずその扉をくぐるセリム。元々この程度のダンジョンなどクリアが当たり前と思っているセリムなので今更怖気付いたりなどはしない。それに倣いキーラが続きその後にアーサーが着いてくる。
中に入るとそこには何もなかった。ボスはいないのかと思っているといきなり地面に魔方陣が描かれ、その上部に何かの形が形成され始めた。
魔方陣が消えると形成された何かの姿は完全に見えるようになった。そう、闘技のダンジョンボス:ミノタウロスだ。三m近い身長に頭が牛、手には強大な両刃の斧を持っている。地球でもよく知られている姿だ。ミノタウロスがグロォォォォと吠えそれが戦闘開始の合図となり戦いは始まった。
アーサーは部屋の隅に移動し完全に傍観を決め込む。キーラはと言えばミノタウロスを見つめどうするかと作戦を練っているようだった。セリムは鑑定を使いミノタウロスのステータスを確認する。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
・ミノタウロス
レベル:58
体力 :7200
魔力 :2400
筋力 :5900
敏捷 :4400
耐性 :2900
スキル
斧技 Lv4
筋力強化 LV4
体力強化 Lv5
硬化 Lv3
闘魂 Lv4
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
さすがはBと言えばいいのだろうか?今までに戦ってきたモンスターよりはステータスもレベルも段違いと言ってもいいほど高い。まず肉体的な戦いでは近接職じゃなければ戦えないだろう。しかし、敏捷も中々高く筋力だけに気を配ればいいといいものではないことが分かる。
(俺が前衛でキーラが後衛が一番無難か…)
だが、セリムが出したこたえは逆だった。
「俺が援護すっから、キーラが戦え」
「えっ? 何でっ!」
若干混乱しているキーラだが、ミノタウロス程度セリムなら一人でどうとでもできてしまう。その為キーラに戦わせて、二重発動を使う所を観察することにしたのである。
「昨日何もしなかったからな」
昨日の事を持ち出されてはどうしようもないのか「わかったわよ、しっかり援護してよね」と言い渋々頷くのだった。
「んじゃ、行くぞ」
その声を合図にセリムが魔法を放ち牽制。キーラは詠唱する時間が必要なので時間を稼ぐ。
セリムの攻撃を鬱陶しく思ったのかセリムの方へと突進してくる。突進を避けるが、ミノタウロスは勢い余り壁に突っ込む。鋭い角が岩を簡単に貫き抉る。直撃を喰らえば死ぬことは無いにしても風穴確定だなと考えていると詠唱が終わったらしい。
「我が求めたるは炎 重装なる一撃により 敵を穿て」 「フレイムランス」
「我の求めたるは風 大気を掛け 舞え」 「ストームウィンド」
いきなりの二重発動。フレイムランスをストームウィンドの風の力で炎をより巨大化し威力を上げた複合魔法だ。初めて見る複合魔法に関心を抱く。
魔法が当たりミノタウロスは爆発により上がった煙で姿が隠れる。が、煙が晴れる前にミノタウロスは出てきた。身体は所々焼けて傷を負っているがそこまで大きなダメージは受けていないようだった。キーラは驚いているらしく固まっている。多分複合魔法で倒せないとは分かってはいたが、でももう少しダメージはあると踏んでいたのだろう。
セリムは再び牽制に入ろうとするが、ミノタウロスは今度はキーラに向かい突進をはじめる所だった。
「キーラ、避けろ」
キーラに対して指示を出す。だが、キーラが避けるよりも速くミノタウロスは突進を繰り出していた。元々後衛職と言う事もあり敏捷値はそれほど高くないのだろう。回避が間に合わないとみるや魔法で迎撃しようと切り替える。
(ダメだ、キーラの魔法じゃ詠唱が入って間に合わない。仮に間に合った所で止められるか分からない)
一瞬で考えを纏めるとミノタウロスとキーラの間に割って入る。一瞬だけでも纏衣を使えばこの程度どうという事はない。突然眼前に現れたセリムに気を取られるキーラだったが魔法発動の最中だと言う事を思い出す。
「何してんのよ、巻き込まれたいの?」
詰問口調で言い放つがセリムはそれを無視する。
スキル"硬化"を使い突っ込んできたミノタウロスを真正面から受け止める。念の為に手袋と上下服の魔方陣にも魔力を流し込み効果を発動させる。
突っ込んできたミノタウロスの角を掴み受け止める。ミノタウロスはそのことに驚きをあらわにして声をあげていたがそんな事はお構いなしに投げ飛ばす。
「オラァァァァァァ」
掛け声と共に投げ飛ばされたミノタウロスは空中に放りだされ放物線を描きながら地面に叩きつけられる。
「グガッ」
ミノタウロスが落ちた所に走り追撃を仕掛ける。現状でのキーラでは倒せないだろうなという判断のもとセリムがやることにしたのだ。
"拳技"と"振動魔法"を使い止めを刺す。殴った瞬間に振動魔法で体内を揺らし、かき混ぜるのである。それにより体内がぐちゃぐちゃになり"溶ける"と言うような状態を作り出す。そうしてミノタウロスを殺した。
ミノタウロスを殺したことを告げるアナウンスが入り、次いでスキルを習得する。
(ちっ、やっぱり身体を揺らす振動を出すにはこっちの拳がもたんか…)
先程使った振動魔法は振動を調整することで様々な応用が利くがミノタウロスに放ったようにやった場合自身にも影響がでてしまうのだ。白魔法で傷を治す。
こうして闘技のダンジョンはクリアしたのだった。だが、キーラはより一層自身の力の無さを知ることになるのだった…
「すっぺ!」
口にしたのを吐き出し、手に持っているのも捨てる。食べてみると酸味が強くお世辞にもおいしいとは言えなかった。行きはキーラになんて話そうか考えていた所為で気付かなかったが話し終えた今、胸のつかえがとれたような軽い気持ちになったお陰で木の実を見つける事が出来たが、おいしくなかったので特に得をしたとかいう気分にはならなかった。
アーサーの所に戻ると剣の手入れをしていた。一瞬こちらを向くアーサーだったが直ぐに視線を戻したり今はこの大人の対応とでも呼ぶべきものがありがたかった。
「何を話したんだ?」と聞かれたらこの前の件を話さなければならなかったので面倒だった。
セリムも地面に腰を下ろし休む。
「なぁ、あんたのその剣ってオーダーメイド品なのか?」
特にすることも無く暇を持て余していたセリムはアーサーが手入れをしている剣に関して聞いた。野宿した時に手合わせで使っていたのは飾り気などがほどんどない普通のロングソードだったのだが、今手入れをしているのは金を基本とし青い色の入った剣だ。
「ん、あぁ そうだ。昔、国に使える騎士だって話したよな?んで、俺は聖騎士だったわけだがその時に聖剣をつくんだよ。もちろん本物の聖剣じゃないけどな」
本物は国に使える選ばれた聖騎士に貸与されるもんだと付け加えた。アーサーが持っている聖剣は一応"聖剣"と言う名を持ってはいるが本物には威力など全てにおいての性能が及ばないらしい。そして"せいけん"名の付く剣がもう一本あるとアーサーが教えてくれた。
「騎士になった者でもうすぐ聖騎士に上がれるって者が使う剣が"青剣(せいけん)"だ」
"青剣"は聖剣の最下位の物であり、劣化版聖剣よりも劣るそうだ。だが、聖属性はきちんと付与されおり悪魔などのモンスターなどには対して威力を発揮するのだそうだ。
その話を軽く聞きながら剣の手入れを見ている。手入れと言っても使ってもいない剣なので状態のチェック位だが…
その日はキーラとの一件などもあり食事をしたら直ぐに休むことにする。食事時にはキーラは戻ってきたので今後の事について多少は話し合った。
「明日でこのダンジョンはクリアできるだろう。セリムが張り切ってくれたお陰でな」
そう言いながらこちらを見るアーサー。言い方に何か含みを感じたが無視する。
「で、明日はボス戦だ。俺はこれまで通り手は出さない。二人で何とかしろ。危険だと判断したら俺も参戦するがな」
二人での所をやたらと強調するアーサー。言われなくたって分かってはいるつもりだ。
そして就寝することになりダンジョンの中だと言う事で、見張りを立てる。見張りは大体一時間交代でアーサー、キーラ、セリムの順番だ。二巡したら出発する段取りになった。見張りをしてそのまま出発になるのはちょっとつらいかとも思ったが経験だと言い聞かせ納得する。
見張りの最中は特に何も起こることも無く終始、火の弾ける音と時折吹く風を浴びて過ぎていった。
翌。
寝ている二人を起こす。
(このおやじは自分で起きろよな)
そう文句をつけ腹を蹴って起こす。「いっ!」と叫びを上げていたので気分が多少晴れた。単純にストレス発散だ。キーラに関してはアーサーの声で目が覚めたらしく、目ゴシゴシしながらも支度を整えている。
朝食を適当に済ませ探索を再開する。最下層まではあと、十階だが、ボスが三十階層目にいるので実質後、九層。昨日と同じ隊列で進んでいく。
森の中と言う事で視界は良いとは言えないが、スキル"気配感知"で探れる。振動魔法の応用で振動探査ーーエコーのようなイメージーーを使い視界には左右されにくい状態を作っているので森であろうと心配はほとんどない。
そのスキルに反応があり声を掛けようとするが、昨日の件もあり一瞬躊躇してしまった。
「何してるのよ、セリムは右 私は左をやるから」
だが、キーラから指示が飛ばされる。意外感を覚えながらも返事をする。敵はオーガ三匹だ。セリムが二匹でキーラが一匹。自身との力量差を考えてセリムの方に多く割り振ったのだろう。
「我の求めたるは炎 形を成し集いて 敵を射抜け」
詠唱をし始めると赤い魔方陣が浮かび上がる。この前とは違う詠唱に何の魔法だ?と思っているとキーラの翳した手の前に複数の炎の矢が出現していた。この前のはファイアーボールだったが今回のはフレイムアローの詠唱だったようだ。使う魔法により詠唱が違うと言うのは見ていればわかったが、使う魔法の詠唱全て覚えているんだろうかと少し疑問が浮かんだ。
フレイムアロー自体は然程威力がある魔法ではない。その為キーラは数で攻めているのである。そして今現在オーガに当たってはいるが貫くことはできておらず、接触し多少食い込んで爆発するという行為を繰り返していた。何はともあれ倒せるだろう。
そう思いセリムは己の敵を見据える。敵はオーガ二体。所詮はただのオーガだ。セリムも魔法を使う。手を前に翳すと青色の魔方陣が構築される。
二条の水がうねりを上げオーガに突き刺さる。簡単にオーガの腹に穴が開き貫通する。くぐもった悲鳴らしきものを途中まであげると力尽きたオーガは地面に倒れた。それを確認しキーラにもう行けるかと言う確認の意味を込めた振り向きをするとこっちを見ていた。
「何だ?」
見られれば問い返すのは誰しもする事だろう。何の意味の込められた視線か分からなければ尚更。
「何でもないわよっ」
それだけ言うとさっさと行くわよと言って先頭に出て、ツカツカと進んで行くキーラ。隊列を崩し進むことにいいのかと疑問に思わないでもなかったがまぁいいか思い直し進むことにした。
昨日とはえらいちがいだなと二人の後ろ姿を見ていたアーサーは思えざる得なかった。昨日セリムと話して何か吹っ切れたのだろうと喜ばしく感じのと、何を話したのかが気になってしまう。その為、ちょっと出しゃばってしまう。
「セリム、昨日はうまくやったようだな」
何のことだと訝し気になりながらもアーサーの方を振り返る。
「キーラの事だよ。昨日とは違ってえれー積極的じゃねーか」
何故それが自身がうまくやった事とつながるのか訳が分からなかった。事実、昨日のセリムは辛いなら距離を置くと言う一種の逃げともいえる選択を取り実際に最後は逃げたのだから。あれでキーラの事をどうにかできたとは思っていないのでどうしても自身がやった事とは思えなかったのだ。
「つーか、アーサー。 お前口出しも手出しもしねーんじゃねーのかよ」
「むっ」
痛い所を付かれたとでもいうかのように顔をしかめる。
「はいはい、おっさんは邪魔者でしたね。あとはお若い二人に任せますよーだ」
三十を超えたおっさんがいじけているようにもとれる言い方をする。自身で言ったことなのに何拗ねてんだかと思うセリム。これ以上何か言うと面倒になるかもと思い前に向き直る。
そんな会話をしながら順調に進み続け現在二十九階層目にまで到達した。ここまで来るのに昨日と比べれば時間は食ったが然程問題だろう。寧ろあるとすればそれはキーラと言えるだろ。
何せセリムが魔法を使う度にこちらを凝視してくるのだ。そこで理由を聞いてみても「何でもないわよ」と言って答えない。これの繰り返しだ。何がしたいんだか…
二十九階層目を進み続け漸く、三十階層、ボスが待ち受ける部屋の階段を見つけた。
(やっと三十層目か)
長かったような短かったような、よくわからない気持ちになりつつ階段を下っていく。下りきると普通ならすぐに次の階層があるはずなのだがその部屋は違った。階段をおりた先には二十mくらいの何もないただ真っ直ぐな空間がありその向こうに岩らしきもので出来た扉があった。
扉に向かいながらちょっとどう開くのか疑問が浮かぶ。
(開けゴマっていえば開くのか?それともバルスか?)
そんな阿保なことを考えながら扉の前に到着。すると勝手に扉が開き始める。まるで入れとでも言っているかのように。何の躊躇も見せずその扉をくぐるセリム。元々この程度のダンジョンなどクリアが当たり前と思っているセリムなので今更怖気付いたりなどはしない。それに倣いキーラが続きその後にアーサーが着いてくる。
中に入るとそこには何もなかった。ボスはいないのかと思っているといきなり地面に魔方陣が描かれ、その上部に何かの形が形成され始めた。
魔方陣が消えると形成された何かの姿は完全に見えるようになった。そう、闘技のダンジョンボス:ミノタウロスだ。三m近い身長に頭が牛、手には強大な両刃の斧を持っている。地球でもよく知られている姿だ。ミノタウロスがグロォォォォと吠えそれが戦闘開始の合図となり戦いは始まった。
アーサーは部屋の隅に移動し完全に傍観を決め込む。キーラはと言えばミノタウロスを見つめどうするかと作戦を練っているようだった。セリムは鑑定を使いミノタウロスのステータスを確認する。
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・ミノタウロス
レベル:58
体力 :7200
魔力 :2400
筋力 :5900
敏捷 :4400
耐性 :2900
スキル
斧技 Lv4
筋力強化 LV4
体力強化 Lv5
硬化 Lv3
闘魂 Lv4
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さすがはBと言えばいいのだろうか?今までに戦ってきたモンスターよりはステータスもレベルも段違いと言ってもいいほど高い。まず肉体的な戦いでは近接職じゃなければ戦えないだろう。しかし、敏捷も中々高く筋力だけに気を配ればいいといいものではないことが分かる。
(俺が前衛でキーラが後衛が一番無難か…)
だが、セリムが出したこたえは逆だった。
「俺が援護すっから、キーラが戦え」
「えっ? 何でっ!」
若干混乱しているキーラだが、ミノタウロス程度セリムなら一人でどうとでもできてしまう。その為キーラに戦わせて、二重発動を使う所を観察することにしたのである。
「昨日何もしなかったからな」
昨日の事を持ち出されてはどうしようもないのか「わかったわよ、しっかり援護してよね」と言い渋々頷くのだった。
「んじゃ、行くぞ」
その声を合図にセリムが魔法を放ち牽制。キーラは詠唱する時間が必要なので時間を稼ぐ。
セリムの攻撃を鬱陶しく思ったのかセリムの方へと突進してくる。突進を避けるが、ミノタウロスは勢い余り壁に突っ込む。鋭い角が岩を簡単に貫き抉る。直撃を喰らえば死ぬことは無いにしても風穴確定だなと考えていると詠唱が終わったらしい。
「我が求めたるは炎 重装なる一撃により 敵を穿て」 「フレイムランス」
「我の求めたるは風 大気を掛け 舞え」 「ストームウィンド」
いきなりの二重発動。フレイムランスをストームウィンドの風の力で炎をより巨大化し威力を上げた複合魔法だ。初めて見る複合魔法に関心を抱く。
魔法が当たりミノタウロスは爆発により上がった煙で姿が隠れる。が、煙が晴れる前にミノタウロスは出てきた。身体は所々焼けて傷を負っているがそこまで大きなダメージは受けていないようだった。キーラは驚いているらしく固まっている。多分複合魔法で倒せないとは分かってはいたが、でももう少しダメージはあると踏んでいたのだろう。
セリムは再び牽制に入ろうとするが、ミノタウロスは今度はキーラに向かい突進をはじめる所だった。
「キーラ、避けろ」
キーラに対して指示を出す。だが、キーラが避けるよりも速くミノタウロスは突進を繰り出していた。元々後衛職と言う事もあり敏捷値はそれほど高くないのだろう。回避が間に合わないとみるや魔法で迎撃しようと切り替える。
(ダメだ、キーラの魔法じゃ詠唱が入って間に合わない。仮に間に合った所で止められるか分からない)
一瞬で考えを纏めるとミノタウロスとキーラの間に割って入る。一瞬だけでも纏衣を使えばこの程度どうという事はない。突然眼前に現れたセリムに気を取られるキーラだったが魔法発動の最中だと言う事を思い出す。
「何してんのよ、巻き込まれたいの?」
詰問口調で言い放つがセリムはそれを無視する。
スキル"硬化"を使い突っ込んできたミノタウロスを真正面から受け止める。念の為に手袋と上下服の魔方陣にも魔力を流し込み効果を発動させる。
突っ込んできたミノタウロスの角を掴み受け止める。ミノタウロスはそのことに驚きをあらわにして声をあげていたがそんな事はお構いなしに投げ飛ばす。
「オラァァァァァァ」
掛け声と共に投げ飛ばされたミノタウロスは空中に放りだされ放物線を描きながら地面に叩きつけられる。
「グガッ」
ミノタウロスが落ちた所に走り追撃を仕掛ける。現状でのキーラでは倒せないだろうなという判断のもとセリムがやることにしたのだ。
"拳技"と"振動魔法"を使い止めを刺す。殴った瞬間に振動魔法で体内を揺らし、かき混ぜるのである。それにより体内がぐちゃぐちゃになり"溶ける"と言うような状態を作り出す。そうしてミノタウロスを殺した。
ミノタウロスを殺したことを告げるアナウンスが入り、次いでスキルを習得する。
(ちっ、やっぱり身体を揺らす振動を出すにはこっちの拳がもたんか…)
先程使った振動魔法は振動を調整することで様々な応用が利くがミノタウロスに放ったようにやった場合自身にも影響がでてしまうのだ。白魔法で傷を治す。
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「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
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