戦国武将異世界転生冒険記

詩雪

文字の大きさ
31 / 200
第一章 スルト村編

第29話 旅立ち

しおりを挟む
 父上、母上と一緒に家に帰る。

 家族との団欒だんらんは今日を持って一旦終わる。

 取り立てて変わる事のない、何気ない会話で始まるが、やはり話は俺の今後の話になるのは当然の流れだと思う。

「ジン、冒険者ギルドってのがあるってのは聞いたな?」

「はい父上」

「父さんと母さんの冒険者としての知識は20年前で止まってる。今は色々変わっている事もあるだろうが、ギルドに登録すればお前が世界中どこにいても生存確認はこの村で取れるようになるはずだ。その部分は心配しなくていい。お前の事だ、しょっちゅう手紙を送らなければとか思ってたりするんだろう?」

「そうなのですか。それは少し安心しましたが、お知らせしたいことはお手紙しますよ?」

「もちろんだ。母さんも喜ぶし皆も喜ぶ。そうしてくれ」

「出立は早朝か?」

「はい、そうするつもりです」

「わかった。――ジェシカ」

「はい、貴方」

 そういって母上は部屋の奥にある引出しから布袋2つを取り出し、俺の前に置いた。何だと思い不思議に袋を開けると、1つは見たことの無い大きさの金貨数十枚に、たまに見かける金貨と見慣れた銀貨、もう1つは手に納まる程の大きさの、青黒く所々が薄っすら赤く光っている、こちらも見たことの無い石だった。

 石はよくわからないが、この金貨はダメだ。あまりに多すぎる。

「は、母上っ! 路銀にしては多すぎます! こちらの銀貨だけで十分です!この大きな金貨も見た事がありませんし、きっと高額なのでしょう。どうか母上がお使い下さい!」

「ジン。これは貴方が2年前に1人で狩りを始めた頃からの報酬よ。少しお父さんの酒代も入っているけどね」

 ジンの目の前にはアルバ大金貨40枚、金貨10枚、銀貨10枚が置かれている。本当は15年前の神獣騒ぎで皇帝からの褒美として拝領した、夫婦2人分の大金貨10枚が含まれているのだが、当然ジンが知る必要のない事だし、この2年間でジンが狩った魔獣の報酬は、それほどの価値があったという事になる。
 
「うぉっ、こんなに貯まってたのか! 村で軽く家が何軒か…」

 とロンが言いかけたところで、ジェシカに笑顔を向けられ黙る。

「母を思ってくれるのは嬉しいわ。だけど母はこんなに使えません。今は不要でしょうが、いざという時の為に、ギルドに預かってもらいなさい。ジン、これはお願いではありませんよ」

 俺が食い下がるのを母上は知っているから、早々にこう言う。
 つまり、命令である。

「っ! わ、わかりました…母上がそう仰るのなら、ありがたく。ですが、この石は?」

 コロンと置かれた見慣れぬ石を指差し、母上に問うた。

「この石は、村の皆からジンが産まれた時に送って頂いたものです。ジンが元気に産まれ、すこやかに育つようにと、願いが込められています。これは正真正銘あなたの物です。どうするかはあなたが決めなさい」

「そうでしたか…では、ありがたく、旅の御守りにさせて頂きます」

 その後、もう一度家族3人で酒を飲み、色々話をした。

 父上は酔って『お前の名前はジェシカのとロンのを繋げたオレら2人分の名前だ!』と何度もいい、それは伺いました、と言ってもまた繰り返す。父上がここまで酔うのは珍しい。こう見えて俺の旅立ちを寂しくお思いなのだと思う。

 母上はいつも通りで酒に飲まれることは全くない。俺は前世では酒は得意では無かったが、今は母上の酒の強さを受け継いでいるらしく、いくら飲んでもあまり酔わない。

 最後の夜だというのに、父上と違って、母上は昔話をあまりしない。

 後日旅先での手紙のやり取りで、なぜだったのか分かったのだが。

 実はこの時、酔いつぶれて寂しさを紛らわせていた父上より、ニコニコと微笑んでいた母上の方がよっぽど寂しかったのだ。

 つまり、簡単に言ってしまえば『泣いてしまうから』だったそうだ。そうなって、出立に際し俺に一抹いちまつのためらいも与えたくなかったのだと。

 この手紙を旅先で読んだ俺は泣いてしまったがな…

 これまで父上に怒られた記憶はあまりないが、母上に怒られた記憶なら山ほどある。この事からも分かるだろう、父上は俺の事は全然心配していないのだ。

 以前、父とエドガーさんが話していたのを思い出す。

『ジンは男だ。メシ食わして、ちょっと鍛えてやりゃ勝手にくなる! 他はジェシカとコーデリアが何とかする!』

 当時はまだ小さくてどういう意味かよくわからなかったが、しばらくして思えば、俺の事は母上達にほぼ丸投げでは無いか、と恨めしさを通り越して笑ったものだ。

 父上がそんなんだから、俺は父が3人、母が2人、妹が1人、という環境になったのかもしれない。

 そんな事を思いながら、母上が最後の言葉を掛けてくれた。

「ジン。元気でやるのですよ。たまには村を思ってもらえると嬉しいわ」

「はい母上。それに父上。これまで育てて頂き、ありがとうございました。まだまだ未熟ですが、俺は世界を見て回りたいと思っています。帰ったら、その話を沢山させて下さい」

「ああ、楽しみにしているぞ」

「私も。楽しみに待っていますね」


 そうして家族の団欒は終わり、受け取った石を眺めながら眠りについた。


◇ ◇ ◇ ◇


 翌朝。

 旅装を身にまとい支度をする。動きやすい布製の上下にショートブーツを履き、腕を通さず外套がいとうを羽織る。

 着る物に頓着が無かったので、いつもの格好で行こうとしたところ、父上と母上に止められた。前世でも旅をしたことが無かったので、今回は何もかもが初めてなのだ。

 上から下まで母上に準備して頂くという情けない事になってしまったが、この格好なら旅塵りょじんで汚れても、街に入って浮浪児に間違われなくて済むとの事だったので、納得している。

 何より前世の着物に似ている外套が気に入った。

 両腰に舶刀を差し、背に木刀と折りたためる弓と矢3本を背負い、最低限の食料と金袋、傷薬などをニットさんから頂いたローグバイソンの革製の袋に入れて肩に下げ、準備は完了。

 深呼吸をして扉を開けると、そこにはアリアが居た。

「おはようございます。ジンさま」

「おはようアリア。見送りに来てくれたのかい?」

「はい。私はこの日が来ることを受け入れられず、何も言えずに今日まで来てしまいました…だけど、こうかいはしたくありませんでしたので、勇気を出してお別れを言いにきました。ジンさま、左うでを出していただけませんか?」

 アリアに言われるがまま、外套に隠れていた左腕を出す。するとアリアは傷痕にシュルシュルと白い布を巻いていく。

「これは?」

「はい、これはジェシカお母さまに教わってつくろったストールです。魔法陣をかいて、そこに治癒魔法ヒールを込めました。もしおけがをなさったら、これをまいておけば少しずつですが良くなります。こうかは込めた魔力がなくなれば終わってしまいますが…これを私の代わりにお持ちいただきたいのです」

 それを聞いた俺は母上に目線をやると、母上は微笑んでコクリと頷いた。
 感心しながらストールが巻かれた腕を振ってみる。

「すごいねアリア。1年前は治癒魔法ヒールがやっとだったのに。自分でつくろって、しかも魔法陣まで…大切にするよ。ありがとう」

 そういって、アリアを抱きしめて頭を撫でた。

「ふぐっ…ジンさま…アリアはかならずジンさまに追いつきます…それまでどうか…どうか私をお忘れにならないで下さい」

「約束する、絶対に忘れたりしないよ。また会えるのを楽しみにしている。訓練、頑張ってね。アリア」

「はぃ!」

「それでは、父上、母上、アリア」

「ああ」

「はい」


 ――― 行って参ります!


 ―――いってらっしゃい!



 この世界に彼が生を受けて15年。

 これからジンは何を得て何を失うのか。

 転生者ジンの異世界冒険記。

 歴史に名を刻みしその伝説が幕を開ける。



――――――――――――――――――――――――――――――――

次回、まとめを挟んで第三章に入ります。

ここまでご一読下さり誠にありがとうございます。
ラスト盛り過ぎた感がありますが、後々自爆しないように三章からも頑張ります。

今後ともよろしくお願いいたします。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

タイム連打ってなんだよ(困惑)

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
「リオ、お前をパーティから追放する。お前のようなハズレスキルのザコは足手まといなんだよ」  王都の冒険者ギルドにて、若手冒険者のリオは、リーダーの身勝手な都合によってパーティから追い出されてしまい、同時に後宮では、聖女の降臨や第一王子の婚約破棄などが話題になっていた。  パーティを追放されたリオは、ある日商隊の護衛依頼を受けた際、野盗に襲われる可憐な少女を助けることになるのだが、彼女は第一王子から婚約破棄された上に濡れ衣を着せられて迫害された元公爵令嬢こと、アイリスだった。  アイリスとの出会いから始まる冒険の旅、行く先々で様々な思惑によって爪弾きにされてしまった者達を受け入れていく内に、彼はある決意をする。 「作ろう。誰もが幸せに過ごせる、そんな居場所を」  目指すべき理想、突き動かされる世界、そしてハズレスキル【タイム連打】に隠されたリオの本当の力とは?    ※安心安全安定安泰の四安揃った、ハピエン確定のハズレスキル無双です。 『エ○ーマンが倒せない』は関係ありません。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...