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第一章 スルト村編
第29話 旅立ち
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父上、母上と一緒に家に帰る。
家族との団欒は今日を持って一旦終わる。
取り立てて変わる事のない、何気ない会話で始まるが、やはり話は俺の今後の話になるのは当然の流れだと思う。
「ジン、冒険者ギルドってのがあるってのは聞いたな?」
「はい父上」
「父さんと母さんの冒険者としての知識は20年前で止まってる。今は色々変わっている事もあるだろうが、ギルドに登録すればお前が世界中どこにいても生存確認はこの村で取れるようになるはずだ。その部分は心配しなくていい。お前の事だ、しょっちゅう手紙を送らなければとか思ってたりするんだろう?」
「そうなのですか。それは少し安心しましたが、お知らせしたいことはお手紙しますよ?」
「もちろんだ。母さんも喜ぶし皆も喜ぶ。そうしてくれ」
「出立は早朝か?」
「はい、そうするつもりです」
「わかった。――ジェシカ」
「はい、貴方」
そういって母上は部屋の奥にある引出しから布袋2つを取り出し、俺の前に置いた。何だと思い不思議に袋を開けると、1つは見たことの無い大きさの金貨数十枚に、たまに見かける金貨と見慣れた銀貨、もう1つは手に納まる程の大きさの、青黒く所々が薄っすら赤く光っている、こちらも見たことの無い石だった。
石はよくわからないが、この金貨はダメだ。あまりに多すぎる。
「は、母上っ! 路銀にしては多すぎます! こちらの銀貨だけで十分です!この大きな金貨も見た事がありませんし、きっと高額なのでしょう。どうか母上がお使い下さい!」
「ジン。これは貴方が2年前に1人で狩りを始めた頃からの報酬よ。少しお父さんの酒代も入っているけどね」
ジンの目の前にはアルバ大金貨40枚、金貨10枚、銀貨10枚が置かれている。本当は15年前の神獣騒ぎで皇帝からの褒美として拝領した、夫婦2人分の大金貨10枚が含まれているのだが、当然ジンが知る必要のない事だし、この2年間でジンが狩った魔獣の報酬は、それほどの価値があったという事になる。
「うぉっ、こんなに貯まってたのか! 村で軽く家が何軒か…」
とロンが言いかけたところで、ジェシカに笑顔を向けられ黙る。
「母を思ってくれるのは嬉しいわ。だけど母はこんなに使えません。今は不要でしょうが、いざという時の為に、ギルドに預かってもらいなさい。ジン、これはお願いではありませんよ」
俺が食い下がるのを母上は知っているから、早々にこう言う。
つまり、命令である。
「っ! わ、わかりました…母上がそう仰るのなら、ありがたく。ですが、この石は?」
コロンと置かれた見慣れぬ石を指差し、母上に問うた。
「この石は、村の皆からジンが産まれた時に送って頂いたものです。ジンが元気に産まれ、健やかに育つようにと、願いが込められています。これは正真正銘あなたの物です。どうするかはあなたが決めなさい」
「そうでしたか…では、ありがたく、旅の御守りにさせて頂きます」
その後、もう一度家族3人で酒を飲み、色々話をした。
父上は酔って『お前の名前はジェシカのジとロンのンを繋げたオレら2人分の名前だ!』と何度もいい、それは伺いました、と言ってもまた繰り返す。父上がここまで酔うのは珍しい。こう見えて俺の旅立ちを寂しくお思いなのだと思う。
母上はいつも通りで酒に飲まれることは全くない。俺は前世では酒は得意では無かったが、今は母上の酒の強さを受け継いでいるらしく、いくら飲んでもあまり酔わない。
最後の夜だというのに、父上と違って、母上は昔話をあまりしない。
後日旅先での手紙のやり取りで、なぜだったのか分かったのだが。
実はこの時、酔いつぶれて寂しさを紛らわせていた父上より、ニコニコと微笑んでいた母上の方がよっぽど寂しかったのだ。
つまり、簡単に言ってしまえば『泣いてしまうから』だったそうだ。そうなって、出立に際し俺に一抹のためらいも与えたくなかったのだと。
この手紙を旅先で読んだ俺は泣いてしまったがな…
これまで父上に怒られた記憶はあまりないが、母上に怒られた記憶なら山ほどある。この事からも分かるだろう、父上は俺の事は全然心配していないのだ。
以前、父とエドガーさんが話していたのを思い出す。
『ジンは男だ。メシ食わして、ちょっと鍛えてやりゃ勝手にデカくなる! 他はジェシカとコーデリアが何とかする!』
当時はまだ小さくてどういう意味かよくわからなかったが、しばらくして思えば、俺の事は母上達にほぼ丸投げでは無いか、と恨めしさを通り越して笑ったものだ。
父上がそんなんだから、俺は父が3人、母が2人、妹が1人、という環境になったのかもしれない。
そんな事を思いながら、母上が最後の言葉を掛けてくれた。
「ジン。元気でやるのですよ。たまには村を思ってもらえると嬉しいわ」
「はい母上。それに父上。これまで育てて頂き、ありがとうございました。まだまだ未熟ですが、俺は世界を見て回りたいと思っています。帰ったら、その話を沢山させて下さい」
「ああ、楽しみにしているぞ」
「私も。楽しみに待っていますね」
そうして家族の団欒は終わり、受け取った石を眺めながら眠りについた。
◇ ◇ ◇ ◇
翌朝。
旅装を身に纏い支度をする。動きやすい布製の上下にショートブーツを履き、腕を通さず外套を羽織る。
着る物に頓着が無かったので、いつもの格好で行こうとしたところ、父上と母上に止められた。前世でも旅をしたことが無かったので、今回は何もかもが初めてなのだ。
上から下まで母上に準備して頂くという情けない事になってしまったが、この格好なら旅塵で汚れても、街に入って浮浪児に間違われなくて済むとの事だったので、納得している。
何より前世の着物に似ている外套が気に入った。
両腰に舶刀を差し、背に木刀と折りたためる弓と矢3本を背負い、最低限の食料と金袋、傷薬などをニットさんから頂いたローグバイソンの革製の袋に入れて肩に下げ、準備は完了。
深呼吸をして扉を開けると、そこにはアリアが居た。
「おはようございます。ジンさま」
「おはようアリア。見送りに来てくれたのかい?」
「はい。私はこの日が来ることを受け入れられず、何も言えずに今日まで来てしまいました…だけど、こうかいはしたくありませんでしたので、勇気を出してお別れを言いにきました。ジンさま、左うでを出していただけませんか?」
アリアに言われるがまま、外套に隠れていた左腕を出す。するとアリアは傷痕にシュルシュルと白い布を巻いていく。
「これは?」
「はい、これはジェシカお母さまに教わってつくろったストールです。魔法陣をかいて、そこに治癒魔法を込めました。もしおけがをなさったら、これをまいておけば少しずつですが良くなります。こうかは込めた魔力がなくなれば終わってしまいますが…これを私の代わりにお持ちいただきたいのです」
それを聞いた俺は母上に目線をやると、母上は微笑んでコクリと頷いた。
感心しながらストールが巻かれた腕を振ってみる。
「すごいねアリア。1年前は治癒魔法がやっとだったのに。自分で繕って、しかも魔法陣まで…大切にするよ。ありがとう」
そういって、アリアを抱きしめて頭を撫でた。
「ふぐっ…ジンさま…アリアはかならずジンさまに追いつきます…それまでどうか…どうか私をお忘れにならないで下さい」
「約束する、絶対に忘れたりしないよ。また会えるのを楽しみにしている。訓練、頑張ってね。アリア」
「はぃ!」
「それでは、父上、母上、アリア」
「ああ」
「はい」
――― 行って参ります!
―――いってらっしゃい!
この世界に彼が生を受けて15年。
これからジンは何を得て何を失うのか。
転生者ジンの異世界冒険記。
歴史に名を刻みしその伝説が幕を開ける。
――――――――――――――――――――――――――――――――
次回、まとめを挟んで第三章に入ります。
ここまでご一読下さり誠にありがとうございます。
ラスト盛り過ぎた感がありますが、後々自爆しないように三章からも頑張ります。
今後ともよろしくお願いいたします。
家族との団欒は今日を持って一旦終わる。
取り立てて変わる事のない、何気ない会話で始まるが、やはり話は俺の今後の話になるのは当然の流れだと思う。
「ジン、冒険者ギルドってのがあるってのは聞いたな?」
「はい父上」
「父さんと母さんの冒険者としての知識は20年前で止まってる。今は色々変わっている事もあるだろうが、ギルドに登録すればお前が世界中どこにいても生存確認はこの村で取れるようになるはずだ。その部分は心配しなくていい。お前の事だ、しょっちゅう手紙を送らなければとか思ってたりするんだろう?」
「そうなのですか。それは少し安心しましたが、お知らせしたいことはお手紙しますよ?」
「もちろんだ。母さんも喜ぶし皆も喜ぶ。そうしてくれ」
「出立は早朝か?」
「はい、そうするつもりです」
「わかった。――ジェシカ」
「はい、貴方」
そういって母上は部屋の奥にある引出しから布袋2つを取り出し、俺の前に置いた。何だと思い不思議に袋を開けると、1つは見たことの無い大きさの金貨数十枚に、たまに見かける金貨と見慣れた銀貨、もう1つは手に納まる程の大きさの、青黒く所々が薄っすら赤く光っている、こちらも見たことの無い石だった。
石はよくわからないが、この金貨はダメだ。あまりに多すぎる。
「は、母上っ! 路銀にしては多すぎます! こちらの銀貨だけで十分です!この大きな金貨も見た事がありませんし、きっと高額なのでしょう。どうか母上がお使い下さい!」
「ジン。これは貴方が2年前に1人で狩りを始めた頃からの報酬よ。少しお父さんの酒代も入っているけどね」
ジンの目の前にはアルバ大金貨40枚、金貨10枚、銀貨10枚が置かれている。本当は15年前の神獣騒ぎで皇帝からの褒美として拝領した、夫婦2人分の大金貨10枚が含まれているのだが、当然ジンが知る必要のない事だし、この2年間でジンが狩った魔獣の報酬は、それほどの価値があったという事になる。
「うぉっ、こんなに貯まってたのか! 村で軽く家が何軒か…」
とロンが言いかけたところで、ジェシカに笑顔を向けられ黙る。
「母を思ってくれるのは嬉しいわ。だけど母はこんなに使えません。今は不要でしょうが、いざという時の為に、ギルドに預かってもらいなさい。ジン、これはお願いではありませんよ」
俺が食い下がるのを母上は知っているから、早々にこう言う。
つまり、命令である。
「っ! わ、わかりました…母上がそう仰るのなら、ありがたく。ですが、この石は?」
コロンと置かれた見慣れぬ石を指差し、母上に問うた。
「この石は、村の皆からジンが産まれた時に送って頂いたものです。ジンが元気に産まれ、健やかに育つようにと、願いが込められています。これは正真正銘あなたの物です。どうするかはあなたが決めなさい」
「そうでしたか…では、ありがたく、旅の御守りにさせて頂きます」
その後、もう一度家族3人で酒を飲み、色々話をした。
父上は酔って『お前の名前はジェシカのジとロンのンを繋げたオレら2人分の名前だ!』と何度もいい、それは伺いました、と言ってもまた繰り返す。父上がここまで酔うのは珍しい。こう見えて俺の旅立ちを寂しくお思いなのだと思う。
母上はいつも通りで酒に飲まれることは全くない。俺は前世では酒は得意では無かったが、今は母上の酒の強さを受け継いでいるらしく、いくら飲んでもあまり酔わない。
最後の夜だというのに、父上と違って、母上は昔話をあまりしない。
後日旅先での手紙のやり取りで、なぜだったのか分かったのだが。
実はこの時、酔いつぶれて寂しさを紛らわせていた父上より、ニコニコと微笑んでいた母上の方がよっぽど寂しかったのだ。
つまり、簡単に言ってしまえば『泣いてしまうから』だったそうだ。そうなって、出立に際し俺に一抹のためらいも与えたくなかったのだと。
この手紙を旅先で読んだ俺は泣いてしまったがな…
これまで父上に怒られた記憶はあまりないが、母上に怒られた記憶なら山ほどある。この事からも分かるだろう、父上は俺の事は全然心配していないのだ。
以前、父とエドガーさんが話していたのを思い出す。
『ジンは男だ。メシ食わして、ちょっと鍛えてやりゃ勝手にデカくなる! 他はジェシカとコーデリアが何とかする!』
当時はまだ小さくてどういう意味かよくわからなかったが、しばらくして思えば、俺の事は母上達にほぼ丸投げでは無いか、と恨めしさを通り越して笑ったものだ。
父上がそんなんだから、俺は父が3人、母が2人、妹が1人、という環境になったのかもしれない。
そんな事を思いながら、母上が最後の言葉を掛けてくれた。
「ジン。元気でやるのですよ。たまには村を思ってもらえると嬉しいわ」
「はい母上。それに父上。これまで育てて頂き、ありがとうございました。まだまだ未熟ですが、俺は世界を見て回りたいと思っています。帰ったら、その話を沢山させて下さい」
「ああ、楽しみにしているぞ」
「私も。楽しみに待っていますね」
そうして家族の団欒は終わり、受け取った石を眺めながら眠りについた。
◇ ◇ ◇ ◇
翌朝。
旅装を身に纏い支度をする。動きやすい布製の上下にショートブーツを履き、腕を通さず外套を羽織る。
着る物に頓着が無かったので、いつもの格好で行こうとしたところ、父上と母上に止められた。前世でも旅をしたことが無かったので、今回は何もかもが初めてなのだ。
上から下まで母上に準備して頂くという情けない事になってしまったが、この格好なら旅塵で汚れても、街に入って浮浪児に間違われなくて済むとの事だったので、納得している。
何より前世の着物に似ている外套が気に入った。
両腰に舶刀を差し、背に木刀と折りたためる弓と矢3本を背負い、最低限の食料と金袋、傷薬などをニットさんから頂いたローグバイソンの革製の袋に入れて肩に下げ、準備は完了。
深呼吸をして扉を開けると、そこにはアリアが居た。
「おはようございます。ジンさま」
「おはようアリア。見送りに来てくれたのかい?」
「はい。私はこの日が来ることを受け入れられず、何も言えずに今日まで来てしまいました…だけど、こうかいはしたくありませんでしたので、勇気を出してお別れを言いにきました。ジンさま、左うでを出していただけませんか?」
アリアに言われるがまま、外套に隠れていた左腕を出す。するとアリアは傷痕にシュルシュルと白い布を巻いていく。
「これは?」
「はい、これはジェシカお母さまに教わってつくろったストールです。魔法陣をかいて、そこに治癒魔法を込めました。もしおけがをなさったら、これをまいておけば少しずつですが良くなります。こうかは込めた魔力がなくなれば終わってしまいますが…これを私の代わりにお持ちいただきたいのです」
それを聞いた俺は母上に目線をやると、母上は微笑んでコクリと頷いた。
感心しながらストールが巻かれた腕を振ってみる。
「すごいねアリア。1年前は治癒魔法がやっとだったのに。自分で繕って、しかも魔法陣まで…大切にするよ。ありがとう」
そういって、アリアを抱きしめて頭を撫でた。
「ふぐっ…ジンさま…アリアはかならずジンさまに追いつきます…それまでどうか…どうか私をお忘れにならないで下さい」
「約束する、絶対に忘れたりしないよ。また会えるのを楽しみにしている。訓練、頑張ってね。アリア」
「はぃ!」
「それでは、父上、母上、アリア」
「ああ」
「はい」
――― 行って参ります!
―――いってらっしゃい!
この世界に彼が生を受けて15年。
これからジンは何を得て何を失うのか。
転生者ジンの異世界冒険記。
歴史に名を刻みしその伝説が幕を開ける。
――――――――――――――――――――――――――――――――
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