戦国武将異世界転生冒険記

詩雪

文字の大きさ
46 / 200
第二章 帝国中央編

第44話 スクエアガーデン

しおりを挟む
「こちらになります。どうぞお入り下さい」

「はい。失礼します」

 カーネル卿アルバニア別邸を訪れた俺は、管理人のワイドさんに邸内に通され、目的の庭に到着した。
 
「こちらの東側の壁沿いの木を、西の壁際に移して頂きたいのです」

 指示された木は合計で10本。何でもカーネル卿が娘の年齢と同じ数だけ植えているらしく、東側の壁が一杯になってしまったので、広い西側に植え替えて欲しいとの事だ。

 事情は正直どうでもいいが、部外者の俺にわざわざそんな事を教えるという事は、カーネル卿の愛娘絡みの木である事をそれとなく伝え、大事に扱えという事を言いたいのであろう。回りくどい言い方をせずはっきりと言えばいいのではと思うが、そういう所が貴族の貴族たる所以なのだろうか。

「わかりました。早速作業に入らせて頂きます」

「よろしくお願い致します。本日の作業が終わりましたら、そこの女中メイドにお申し付けください」

「承知いたしました」

 特に大きな木でもない。7~8mと言ったところか…10本同時でも問題無いが、ここは念のため2回に分けて移動させるか。

 地魔法と同じように地面に手を付け、魔法を発動する。

「――― 樹霊の意思ドリアドウィル 」

 魔法が発動すると木がウネウネと動き出し、あちこちから木の根が顔を出す。木の根が土中からすべて出ると、次は根が足の役割をし、5本の木が西側に行進を始める。魔法を知らなければただの怪現象だ。

「あ、怖がらないで大丈夫ですよ! 魔力を通して私の意思で操ってますから!」

 そばで様子を監視みていた女中メイドの顔が引きつっていたので一応フォロー。コクコクと頷いている。そうしている間にも5本の木は目的地まで行進し、俺は魔力の方向を変える。

 ズズズッ ボコッ ボコッ ボコボコボコ

 指定の場所で木は根を下ろし、移動完了。同じように残りの5本も移動させ、もともと木があった場所に空いた穴を、あらかじめ借りていた道具で埋めて作業終了。

 所要時間10分。

 うむ、仕事は早いに越したことは無い。

 終わった事を女中メイドに伝えようとするが既にいなくなっており、代わりに管理人のワイドさんがこちらに来て、現場を見て口を開けている。

「リカルド様! 女中メイドからの報告で参ったのですが、あまりの速さに驚いております」

「魔法を使わせて頂きましたので。木には手を触れておりませんので、傷も付いていません。ご安心ください」

「いやはや…恐れ入りました。これほど早い仕事はここにお仕えして30年で初めてでございます。追加報酬を付けさせて頂きますので、またの機会がございましたら、是非リカルド様にお願いしたく存じます」

「光栄です。こちらこそ再度ご縁を頂けましたなら是非」

 深々と頭を下げ、その場を後にした。

 追加報酬までもらえるとは運がいいな。魔法師団本部も近いし、ギルドへの報告は後にしてこのまま向かう事にしよう。


◇ ◇ ◇ ◇


 魔法師団本部前に着いた俺はガラスのカードを見せて衛士に通してもらい、応接室で茶を頂きながら担当者を待っている。本部と言うだけあって、建物はとても立派だ。魔法師団は戦いだけでなく、魔法の研究開発、優秀な魔法師の育成なども行う帝国唯一の魔法師専門の教育機関らしく、ここの卒業生は皆優秀な魔法師となって、貴族に仕えたり騎士団や魔法師団に入ったりするらしい。

 帝国が大陸最大の版図を有する理由は、こういう所からも見て取れる。

「お待たせして申し訳ない。若きアジェンテ」

「とんでもありません。私こそお忙しい中ご対応頂き感謝しております。改めてジン・リカルドです。お見知りおきを」

 出て来たのは、少し白髪の混ざった独特の雰囲気を纏う初老の男。

「お若いのに見事な立ち居振る舞い。私はパルテール・クシュナーと申します。この魔法師団で魔法研究を主にしています。早速本題に入りましょう。陣魔空間の生成をお求めのようで」

「その通りです。私のような者にも扱えるのかは分からないのですが」

「魔法陣を描くことが出来れば、問題なく扱うことが出来ますよ。アジェンテである君に資格や人柄をあれこれ問いません。早速試してみましょうか」

「あ、あの代金は…」

「ああ、そこに置いておいてください。有り難く魔法研究に活用させて頂きますよ」

 この関心の無さ…やはり金は大して重要では無いらしい。

 ベルモッドさんの言う通り、帝国繁栄に役立てる事が出来るかどうかが重要なようだ。

 応接室を出て、陣魔空間の魔法陣が設置されている研究室のような場所へ案内される。目の前には複雑怪奇な大きな魔法陣が設置されていた。

「これは途方もない…一体どれだけの魔法陣を組み込んでおられるのでしょうか」

「ははっ、皆最初は驚きます。なんせ私が5年の歳月をかけて組み上げたものですから」

「な、なんと! 魔法陣はクシュナーのご功績でしたか! 御見それいたしました!」

「いいえ。別に自慢したいが為に組んだものではありません。研究の果てに辿り着いただけの事です。さぁ、魔法陣に触れて君の魔力を流してみて下さい」

 言われた通り魔法陣に魔力を流す。

 すると、流した魔力が魔法陣により変換され、こちらに逆流してくる感覚に陥る。この重たい感覚、どこかで…

「この感覚。ダンジョンに似てる?」

「なっ!? 分かるのかい!?」

 先生が突然大きな声を出して驚いている。

「え、ええ。先日、初めてダンジョンに潜った際に感じた、魔素ではない何かの感覚に似ていると感じました」

「す、素晴らしいよジン君! あの感覚に気付けるものが私以外にいたとは! では君はその感覚を陣魔空間にどう結び付ける!?」

 逆に驚いて固まっている俺に先生は気付き、咳払いを一つし続ける。

「すまない、突然興奮して驚かせてしまったね。その感覚を感じたならもう陣から離れて大丈夫だ。よければ聞かせてくれないか、先程の事」

 俺は今感じた感覚とダンジョンで感じた感覚を擦り合わせ、持ちうる情報を組み合わせ思案する。詳しい事は勿論わからないが、考えている内に繋がりのありそうな情報に行き着いた。

「そうですね…この魔法陣は使用者の魔力をダンジョンと同じ魔素に変化させた後、その変化させた魔素を使って、使用者とは異なる魔力に変換しているのではと推察します。最初重く感じたのは自分の魔力では無い、異質な魔力が流れ込んできたからだと思います」

 ここでチラリとクシュナー先生の様子を伺う。

「…続けて」

「はい。その異質な魔力は私達が普段扱う魔力とは違い、例えば…そう、ダンジョンのみで扱える帰還魔法陣のような、特別な魔法陣を発動する際に使用されるものでは無いでしょうか?」

(という事は…)

 自分で話しながら次々と推論を立ててゆく。そばで見ている先生は俺の思案顔をじっと見つめていた。

「…そうか。この魔法陣はダンジョンの帰還魔法陣の応用と言えるのかもしれない。ならば、帰還魔法陣とは発動と同時に目には見えない空間を作り上げ、空間の入口と出口、つまり魔法陣同士を繋げているのか。入口から出口は下りの傾斜であると仮定すれば、出口から入口に移動できないのは必然。さらに、という記憶が無いとなれば、自我の無い状態…例えば石ころが坂を転げ落ちるのと同じ事という事になる。しかも一瞬で移動している事を考えると、空間内は時が止まっている可能性も? いや…自我が無ければ時の流れを認識する事など出来ない。この部分は分かり様が無いか―――」

 ブツブツと喋りながら、ふと側に居るクシュナー先生を置き去りにして考え込んでしまっている事に気付いた。

「はっ! すみません…この魔法陣ではなく帰還魔法陣の事に思案が変わっていました」

「一向に構わない! どころか、原理に行き着くには必要な考察だよ。さぁ、ここまでの考察で出し得る君の答えを聞かせてくれ!」

「はい! つまり、帰還魔法陣は肉体を一瞬で別の場所に飛ばしているように見えるが、その実、別の一本道の空間を作り出すと同時に魔法陣内の者をそこに送り込み、入った者はそこから出口に転げ落ちているに過ぎない、という事です」

 帰還魔法陣の仕組みを推論立てて、本題の陣間空間につなげる。

「すなわち、この陣魔空間の魔法陣は出口の無い空間、言い換えるなら出入口が同じ空間を作り上げているという事です。傾斜ではなく平坦に」

「……す、す、」

「?」

「素晴らしいぃぃぃっ!」

 先生の様子がおかしくなった。

「ジン君! 今すぐ私と同じ研究職に就くべきだ! その若さでありながら、少ない情報を元によくそこまでたどり着いた! 君みたいな逸材が突然現れるなんて私はツイている! はーっはっは!」

「あ、いえ先生、私は…」

 陣魔空間の存在があればこそ出来た推察であり、自分は冒険者として世界を見て回りたいので研究職は勘弁してほしい旨を滔々とうとうと話し、何とか興奮するクシュナー先生をなだめた。

「むぅ、そうかぁ…非常に残念だが…いつか君は世界の理に近づけるのかもしれないな。まぁいい。折角君と言う逸材に出会えたんだ。少しは私の研究を聞いていく気はあるかい?」

「はい! もちろんです!」

 パルテールが陣魔空間の研究の過程で辿り着いたものは、ジンにとって非常に有意義なものだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

タイム連打ってなんだよ(困惑)

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
「リオ、お前をパーティから追放する。お前のようなハズレスキルのザコは足手まといなんだよ」  王都の冒険者ギルドにて、若手冒険者のリオは、リーダーの身勝手な都合によってパーティから追い出されてしまい、同時に後宮では、聖女の降臨や第一王子の婚約破棄などが話題になっていた。  パーティを追放されたリオは、ある日商隊の護衛依頼を受けた際、野盗に襲われる可憐な少女を助けることになるのだが、彼女は第一王子から婚約破棄された上に濡れ衣を着せられて迫害された元公爵令嬢こと、アイリスだった。  アイリスとの出会いから始まる冒険の旅、行く先々で様々な思惑によって爪弾きにされてしまった者達を受け入れていく内に、彼はある決意をする。 「作ろう。誰もが幸せに過ごせる、そんな居場所を」  目指すべき理想、突き動かされる世界、そしてハズレスキル【タイム連打】に隠されたリオの本当の力とは?    ※安心安全安定安泰の四安揃った、ハピエン確定のハズレスキル無双です。 『エ○ーマンが倒せない』は関係ありません。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

処理中です...