62 / 200
第三章 帝国西部・刀編
第59話 名工の柵と刀
しおりを挟む
「し、失礼します。あ、お取込み中すみません」
親子喧嘩真っただ中に来訪者が1人。恰幅の良い商人風の男だ。
「あ、ジェンキンスさん! お久しぶりです! 武具の買い付けですか?」
「こんにちはカミラさん。ええ、ご再考頂けたかお伺いしたくて…」
「てめぇ! もうどこの店にも卸さねぇって何度も言ってるだろ! 出てけ!」
「おっ父! 折角また買うって言って下さってるのに!」
「もう半端な奴らに俺の武具が使われるなんざまっぴらだ!しかもジェンキンス、ふざけた値段で売ってたらしいじゃねぇか」
「そ、それは誤解です! かのウォルター工房作の武具ならと、妥当な値段を付けさせて頂いたまでです!」
「はっ! おべっかのつもりか? いいか、武具ってのはな―――」
次はジェンキンスと呼ばれた商店主らしき男が加わり、次なる口論の種が生まれた。俺の事はすっかり忘れられているようだ。そこにさらにまた新たな火種が。
「ウォルター工房ってのはここか!」
冒険者風の男2人と女1人が工房の扉を威勢よく開ける。だが、扉は物音一つ立たず、スーッと閉まる。折角の威勢が台無し。
だが、次の来訪者は扉やジェンキンスのように穏やかではなかった。
カミラが如何致しましたかと、その3人の要件を聞きに行く。
「どうしたもこうしたもねぇ! ここで作られたって聞いたから大枚はたいて買った剣が戦闘中に折れちまったんだよ! おかげで死にかけたんだ! どうしてくれるんだ!」
「そうよ! 弁償しなさいよね!」
「リーダーの剣が折れちゃ俺達は狩り出来ねぇんだよ。その慰謝料も貰わねぇとな!」
またこの手合いかと、頭を掻きながらグリンデルは折れた剣を見せてみなといい、リーダーと呼ばれた男の剣を手に取る。男の剣は刀身の中央で真っ二つに折れており、残った刀身にも蜘蛛の巣のようにヒビが入っていた。
「確かにウチで打ったもんだ。だが、こいつの素材はアテライト鉱だ。最後に精錬しなおしたのはいつだ?」
「は? せいれん? 知らねえよそんなもん! 買ったのは3年前だ。たった3年で折れる剣ってふざけてるだろ!」
「はぁ…アテライト鉱ってのはな、見てくれは綺麗だが繊細で不純物が混ざりやすい素材だ。それを最低年1回、再精錬で取り除かねぇと当然剣は脆くなる。騎士ならいざ知らず、毎日のように魔物や魔獣をぶった切る冒険者には向かない素材の武器だ。3年も手入れせず使い続けて折れちまうのは当然だ!」
「なんだとっ! 大金貨3枚もしたってのに毎年精錬なんざしてられるかよ! 不純物か何だか知らねぇが、そうならねぇように作んのがお前らの仕事だろ! どうでもいいから金返しやがれ!」
会話になっていない。再精錬が嫌なら違う素材のものを買えばいい。そんな事は売った武具屋から説明を受けているはずだ。つまりこのリーダーの男は、自身の生命線である剣を養う金も器量も無かったという事だろう。見てくれに惑わされ、自己満足の為に格好だけで武器を選んだ証拠だ。
「お、お客さん。すみませんが再精錬が必要な事は、買う前にその武具店から説明を受けていらっしゃいますよね? 流石に今回はウチではなんとも…」
カミラがおずおずとリーダーの男に納得してもらおうと声をかけるが、
「は? 俺が悪いってのか? お前らの腕が悪いせいだろが! ふざけんじゃねぇ!」
「きゃっ!」
怒り任せにカミラを蹴飛ばすリーダーの男。それを見て残りの2人はニヤついている。
「カミラっ! てめぇ娘に何しやがる!」
「さっさと弁償して慰謝料払っときゃいいんだよ!」
「そうよ。私達も暇じゃないのよね。」
そういって今度はグリンデルさんの胸倉を掴んで突き飛ばす。俺は他人の関係に口を出さないよう我慢していたが、あまりの理不尽な光景にその限界を超えた。
「カミラさん! グリンデルさん!」
「おい、ガキはすっこんでろ。てめぇもガキなりに冒険者なんだろ? こんなぼったくり工房潰しちまうのが世の為なんだよ」
「ちょっと! 貴方達いい加減に―――」
言い返そうとするカミラさんを俺は手で制し、彼らの間に立つ。
「なんと情けない事でしょうか。自らの至らなさを他人のせいにした挙句、暴力を振るい、さらに金まで巻き上げようとするとは。それに年に1度精錬しなければならない剣が3年も持ったんですよ? この事実を理解なさっていないようなら、剣に見放されるのも当然ですね」
「ガ、ガキの分際でCランクの俺様に生意気な事言ってんじゃねぇ!」
リーダーの男のブンっと振られた拳をスッと避けると同時に腕を掴み、掴んだまま後ろに回り込む。
ミシミシと音を立てる腕に、男は悲鳴をあげた。
「て、てめ放しやが…ひぃぃぃぃ! 痛い痛い痛い!」
「引いて頂けませんか? あなた方はこの工房に来られる次元ではありません」
「な、なんなのこの子!?」
「認めて頂けますね? こんな子供にも勝てないのです。自分たちがどれだけ弱く愚かなのかを」
「わ、わかった! 認める! 精錬の事は聞いてた! 俺が悪かったからっ!」
その言葉を聞いて、俺は男を投げ飛ばす。
ドガッ!
「ぐえっ!」
「お二人はどうします?」
「や、やめておくわ!」
「ああ! 俺らが悪かった!」
投げ飛ばされたリーダーの男を担ぎ、3人はそそくさと工房を出ていった。
グリンデル、カミラ、ジェンキンスの3人は唖然とした様子でその場に固まっていた。
「すみません。勝手な事をして場を荒らしてしまいました。私も今日はお暇させて頂きます」
「ま、待て! 坊主! いやジンだったか。礼ぐらいさせろ。それからジェンキンス」
「はぃ…」
グリンデルさんは出て行こうとする俺を呼び止め、ジェンキンスさんに武具を卸さない理由を話す。
「こういう事だ。魔物が増え始めて、世の為になるならと数年前から武具を卸していたが、結果ああいう手合いが増えて俺はもう嫌気がさしている。こうして娘も危険に晒された。もう来ないでくれ」
「よくわかりました…我々も考え直さなければなりません。残念ではありますが、諦める事と致します…」
そう言って静かに店を後にするジェンキンスさん。彼にも悪い事をしたのかもしれない。後で店に顔を出して謝っておこう。
一方のカミラさんの目には涙が浮かんでいた。
「おっ父…あたしの心配して…ふぐっ…何にも知らんと今までキツイ事言うてごめんなさいっ」
「よせよせ! 気持ち悪い! 大体あんな攻撃で、頑丈なドワーフがどうこうなるかってんだ!」
父の悪態にカミラさんは涙をぬぐい、言い返しつつ俺の背中を押してくれた。
「素直じゃないっ。でもジンのお願いは聞いてもらうからね! ジン君もありがとう! すっごい強いんだね、かっこよかった!」
満面の笑みのカミラさん。少しは役に立てて何よりだ。
◇ ◇ ◇ ◇
「ジン。さっきは助かった。礼を言う」
「いいえ。結局お二人に危害が及ぶまで見ていた私も私です。即座に排除すべきだったかもしれません」
「排除と来たか! ぶぁっはっは! まぁ済んだことはどうでもいい。さっきカミラも言ったが俺はグリンデル・ウォルター。ここの工房主だ。礼としてお前の話は聞いてやる。だが、請け負うかは別の話だ。いいな」
「それで結構です。私が鍛えて頂きたいのはこれです」
俺は収納魔法から木刀と黒王竜の鱗を取り出し、グリンデルさんの前に差し出す。
「「収納魔法!?」」
「あたし初めて見たよ! すげーっ!」
「それだけでお前さんが只者じゃない事はよくわかった。だがこの木剣にこの素材は―――!?」
「――!? お…お…おっ父、こ、これって…」
「「黒王竜の鱗!!」」
親子がまた揃った。息ぴったりだな。
「ジン君! これどうしたの!?」
「まさか! てめぇ盗んだとかじゃ! …無いわな。すまん。会って間もねぇが、お前さんはそんな下らねぇマネはしねぇ。そういや、帝都の冒険者ギルドで黒王竜の素材が出回って、貴族やら大手商会やらがこぞって群がったって、ちょっと前に聞いた気がする」
「赤子でしたが仕留めて得た素材です」
「仕留めた? 仕留めたって、それじゃあお前さん…」
「商人さんや冒険者さんが噂してた、帝都の王竜殺しってもしかしてジン君なのっ!?」
こんなとこまで噂が広がっているのか。困ったものだ。
「物騒な二つ名です。広めないで頂きたい」
「握手してー! すごいすごいすごーい!」
「止めねぇかカミラ、みっともねぇ! すまねぇな。こいつ二十歳にもなって子供でよ」
え? 二十歳? すみません、年下だと思っておりました。
「い、いえ大丈夫です。ここだけの話にして頂ければ」
と、言いつつブンブンと腕を振られている。
すごい力だ。さっきのならず者共倒せたんじゃないか?
「はぁ、それにしても王竜殺しだったとはな。恐れ入ったぜ。さっきの馬鹿共が簡単にあしらわれる訳だ。で、話を進めよう。こっちの木剣はなんだ? あまり見ない形だが」
グリンデルさんは木刀を手に取り調べ始める。
「片刃、反り…それにこの刀身の重心。切先だけ両刃にしてあるのか?…仮に金属だった場合、片手では無く両手持ちが基本の運用か…両手持ちの片刃―――!?」
木刀を舐めまわすように観察しながら、グリンデルさんは木刀の特徴をブツブツと話し始めた。
「ジン。この木剣を何度か正しく振ってみてくれ」
「――? 分かりました」
何かに気が付いたのか定かでは無いが、直剣との違いを見定めたいのだろう。あえて正しくという言葉を使ったグリンデルさん。
俺は呼吸を整え正眼に構える。全身を使い縦一閃、横一閃、下段からの切り上げ、最後に納刀の状態から居合斬りを行う。
「ふっ…ふふふ…ぶぁっはっは!」
「お、おっ父?」
「グリンデルさん?」
グリンデルさんは俺の素振りを見た後ふるふると震え、高らかに笑う。
「こ…こんな…こんな出会いがあるとは! 戦神マルスの加護としか思えん! 新たな武器の誕生だ! しかもとびきりの! 最高だジン! ぜひやらせてくれ!」
「そ、それは嬉しい限りですが一体…」
「おっ父! ちゃんと説明して!」
「喜べカミラ! 俺達はとんでもない瞬間を迎えられる! この剣は斬る事に特化した武器だ! 直剣なんざ目じゃねぇ! 先端が両刃になってるって事は突きでも運用できるようにする為なんだろうが、それはおまけみたいなもんだ! ちゃんとした素材さえ用意出来れば、使い手次第で竜の鱗もぶった切れるだろう!」
ほんの数分で太刀の特性を理解し、性能の予測まで…やはりこの方は間違いない!
「そんなに凄いの?」
「ああ凄い。だが恐らく扱える奴はごく限られる。剣の運用とは全く違うからな。こいつの為の訓練が必要になるだろう。ジン、これは何という武器だ?」
「はい。これは刀という武器の一種で太刀と言います。木で作ったこっちは、そのまま木刀と呼びます」
「刀…太刀、それに木刀か。なるほどな、分かった。その太刀に木刀だがな、長すぎる。お前の身長が足りてねぇっつー意味じゃねぇ。その長さは馬上で運用するための長さだ」
「なんと!?」
その言葉を聞いて、俺の前世の記憶の引き出しがまた開く。確かに前世では太刀は馬上で矢が無くなった時の補助的な武器だった。
「徒歩で使いやすくなるように、本番は長さと反り、重心なんかも全部お前さんに調整してやる。それに素材も文句無しどころか最高だ! 竜の鱗ってのはな、皮膚が堅くなったんじゃなく、細かな毛が寄り集まって堅くなったもんなんだ。毛の向きを正しくしてやりゃ―――ってこんなのは俺の仕事だ。自分で言うのも何だが、人間にはもちろん、恐らく地人でもこれを打てるヤツは少ない。とにかくだ! 俺にやらせろ! いや、やらせてくれっ!」
武器の事になった途端、グリンデルさんの言葉は留まる事を知らない。
こんなにも早く、俺でさえ忘れていた打刀の存在にまでたどり着くとは…これはもうこの人に全てを任せるべきだ。
俺は深々と頭を下げた。
「よろしくお願いします! グリンデルさん!」
親子喧嘩真っただ中に来訪者が1人。恰幅の良い商人風の男だ。
「あ、ジェンキンスさん! お久しぶりです! 武具の買い付けですか?」
「こんにちはカミラさん。ええ、ご再考頂けたかお伺いしたくて…」
「てめぇ! もうどこの店にも卸さねぇって何度も言ってるだろ! 出てけ!」
「おっ父! 折角また買うって言って下さってるのに!」
「もう半端な奴らに俺の武具が使われるなんざまっぴらだ!しかもジェンキンス、ふざけた値段で売ってたらしいじゃねぇか」
「そ、それは誤解です! かのウォルター工房作の武具ならと、妥当な値段を付けさせて頂いたまでです!」
「はっ! おべっかのつもりか? いいか、武具ってのはな―――」
次はジェンキンスと呼ばれた商店主らしき男が加わり、次なる口論の種が生まれた。俺の事はすっかり忘れられているようだ。そこにさらにまた新たな火種が。
「ウォルター工房ってのはここか!」
冒険者風の男2人と女1人が工房の扉を威勢よく開ける。だが、扉は物音一つ立たず、スーッと閉まる。折角の威勢が台無し。
だが、次の来訪者は扉やジェンキンスのように穏やかではなかった。
カミラが如何致しましたかと、その3人の要件を聞きに行く。
「どうしたもこうしたもねぇ! ここで作られたって聞いたから大枚はたいて買った剣が戦闘中に折れちまったんだよ! おかげで死にかけたんだ! どうしてくれるんだ!」
「そうよ! 弁償しなさいよね!」
「リーダーの剣が折れちゃ俺達は狩り出来ねぇんだよ。その慰謝料も貰わねぇとな!」
またこの手合いかと、頭を掻きながらグリンデルは折れた剣を見せてみなといい、リーダーと呼ばれた男の剣を手に取る。男の剣は刀身の中央で真っ二つに折れており、残った刀身にも蜘蛛の巣のようにヒビが入っていた。
「確かにウチで打ったもんだ。だが、こいつの素材はアテライト鉱だ。最後に精錬しなおしたのはいつだ?」
「は? せいれん? 知らねえよそんなもん! 買ったのは3年前だ。たった3年で折れる剣ってふざけてるだろ!」
「はぁ…アテライト鉱ってのはな、見てくれは綺麗だが繊細で不純物が混ざりやすい素材だ。それを最低年1回、再精錬で取り除かねぇと当然剣は脆くなる。騎士ならいざ知らず、毎日のように魔物や魔獣をぶった切る冒険者には向かない素材の武器だ。3年も手入れせず使い続けて折れちまうのは当然だ!」
「なんだとっ! 大金貨3枚もしたってのに毎年精錬なんざしてられるかよ! 不純物か何だか知らねぇが、そうならねぇように作んのがお前らの仕事だろ! どうでもいいから金返しやがれ!」
会話になっていない。再精錬が嫌なら違う素材のものを買えばいい。そんな事は売った武具屋から説明を受けているはずだ。つまりこのリーダーの男は、自身の生命線である剣を養う金も器量も無かったという事だろう。見てくれに惑わされ、自己満足の為に格好だけで武器を選んだ証拠だ。
「お、お客さん。すみませんが再精錬が必要な事は、買う前にその武具店から説明を受けていらっしゃいますよね? 流石に今回はウチではなんとも…」
カミラがおずおずとリーダーの男に納得してもらおうと声をかけるが、
「は? 俺が悪いってのか? お前らの腕が悪いせいだろが! ふざけんじゃねぇ!」
「きゃっ!」
怒り任せにカミラを蹴飛ばすリーダーの男。それを見て残りの2人はニヤついている。
「カミラっ! てめぇ娘に何しやがる!」
「さっさと弁償して慰謝料払っときゃいいんだよ!」
「そうよ。私達も暇じゃないのよね。」
そういって今度はグリンデルさんの胸倉を掴んで突き飛ばす。俺は他人の関係に口を出さないよう我慢していたが、あまりの理不尽な光景にその限界を超えた。
「カミラさん! グリンデルさん!」
「おい、ガキはすっこんでろ。てめぇもガキなりに冒険者なんだろ? こんなぼったくり工房潰しちまうのが世の為なんだよ」
「ちょっと! 貴方達いい加減に―――」
言い返そうとするカミラさんを俺は手で制し、彼らの間に立つ。
「なんと情けない事でしょうか。自らの至らなさを他人のせいにした挙句、暴力を振るい、さらに金まで巻き上げようとするとは。それに年に1度精錬しなければならない剣が3年も持ったんですよ? この事実を理解なさっていないようなら、剣に見放されるのも当然ですね」
「ガ、ガキの分際でCランクの俺様に生意気な事言ってんじゃねぇ!」
リーダーの男のブンっと振られた拳をスッと避けると同時に腕を掴み、掴んだまま後ろに回り込む。
ミシミシと音を立てる腕に、男は悲鳴をあげた。
「て、てめ放しやが…ひぃぃぃぃ! 痛い痛い痛い!」
「引いて頂けませんか? あなた方はこの工房に来られる次元ではありません」
「な、なんなのこの子!?」
「認めて頂けますね? こんな子供にも勝てないのです。自分たちがどれだけ弱く愚かなのかを」
「わ、わかった! 認める! 精錬の事は聞いてた! 俺が悪かったからっ!」
その言葉を聞いて、俺は男を投げ飛ばす。
ドガッ!
「ぐえっ!」
「お二人はどうします?」
「や、やめておくわ!」
「ああ! 俺らが悪かった!」
投げ飛ばされたリーダーの男を担ぎ、3人はそそくさと工房を出ていった。
グリンデル、カミラ、ジェンキンスの3人は唖然とした様子でその場に固まっていた。
「すみません。勝手な事をして場を荒らしてしまいました。私も今日はお暇させて頂きます」
「ま、待て! 坊主! いやジンだったか。礼ぐらいさせろ。それからジェンキンス」
「はぃ…」
グリンデルさんは出て行こうとする俺を呼び止め、ジェンキンスさんに武具を卸さない理由を話す。
「こういう事だ。魔物が増え始めて、世の為になるならと数年前から武具を卸していたが、結果ああいう手合いが増えて俺はもう嫌気がさしている。こうして娘も危険に晒された。もう来ないでくれ」
「よくわかりました…我々も考え直さなければなりません。残念ではありますが、諦める事と致します…」
そう言って静かに店を後にするジェンキンスさん。彼にも悪い事をしたのかもしれない。後で店に顔を出して謝っておこう。
一方のカミラさんの目には涙が浮かんでいた。
「おっ父…あたしの心配して…ふぐっ…何にも知らんと今までキツイ事言うてごめんなさいっ」
「よせよせ! 気持ち悪い! 大体あんな攻撃で、頑丈なドワーフがどうこうなるかってんだ!」
父の悪態にカミラさんは涙をぬぐい、言い返しつつ俺の背中を押してくれた。
「素直じゃないっ。でもジンのお願いは聞いてもらうからね! ジン君もありがとう! すっごい強いんだね、かっこよかった!」
満面の笑みのカミラさん。少しは役に立てて何よりだ。
◇ ◇ ◇ ◇
「ジン。さっきは助かった。礼を言う」
「いいえ。結局お二人に危害が及ぶまで見ていた私も私です。即座に排除すべきだったかもしれません」
「排除と来たか! ぶぁっはっは! まぁ済んだことはどうでもいい。さっきカミラも言ったが俺はグリンデル・ウォルター。ここの工房主だ。礼としてお前の話は聞いてやる。だが、請け負うかは別の話だ。いいな」
「それで結構です。私が鍛えて頂きたいのはこれです」
俺は収納魔法から木刀と黒王竜の鱗を取り出し、グリンデルさんの前に差し出す。
「「収納魔法!?」」
「あたし初めて見たよ! すげーっ!」
「それだけでお前さんが只者じゃない事はよくわかった。だがこの木剣にこの素材は―――!?」
「――!? お…お…おっ父、こ、これって…」
「「黒王竜の鱗!!」」
親子がまた揃った。息ぴったりだな。
「ジン君! これどうしたの!?」
「まさか! てめぇ盗んだとかじゃ! …無いわな。すまん。会って間もねぇが、お前さんはそんな下らねぇマネはしねぇ。そういや、帝都の冒険者ギルドで黒王竜の素材が出回って、貴族やら大手商会やらがこぞって群がったって、ちょっと前に聞いた気がする」
「赤子でしたが仕留めて得た素材です」
「仕留めた? 仕留めたって、それじゃあお前さん…」
「商人さんや冒険者さんが噂してた、帝都の王竜殺しってもしかしてジン君なのっ!?」
こんなとこまで噂が広がっているのか。困ったものだ。
「物騒な二つ名です。広めないで頂きたい」
「握手してー! すごいすごいすごーい!」
「止めねぇかカミラ、みっともねぇ! すまねぇな。こいつ二十歳にもなって子供でよ」
え? 二十歳? すみません、年下だと思っておりました。
「い、いえ大丈夫です。ここだけの話にして頂ければ」
と、言いつつブンブンと腕を振られている。
すごい力だ。さっきのならず者共倒せたんじゃないか?
「はぁ、それにしても王竜殺しだったとはな。恐れ入ったぜ。さっきの馬鹿共が簡単にあしらわれる訳だ。で、話を進めよう。こっちの木剣はなんだ? あまり見ない形だが」
グリンデルさんは木刀を手に取り調べ始める。
「片刃、反り…それにこの刀身の重心。切先だけ両刃にしてあるのか?…仮に金属だった場合、片手では無く両手持ちが基本の運用か…両手持ちの片刃―――!?」
木刀を舐めまわすように観察しながら、グリンデルさんは木刀の特徴をブツブツと話し始めた。
「ジン。この木剣を何度か正しく振ってみてくれ」
「――? 分かりました」
何かに気が付いたのか定かでは無いが、直剣との違いを見定めたいのだろう。あえて正しくという言葉を使ったグリンデルさん。
俺は呼吸を整え正眼に構える。全身を使い縦一閃、横一閃、下段からの切り上げ、最後に納刀の状態から居合斬りを行う。
「ふっ…ふふふ…ぶぁっはっは!」
「お、おっ父?」
「グリンデルさん?」
グリンデルさんは俺の素振りを見た後ふるふると震え、高らかに笑う。
「こ…こんな…こんな出会いがあるとは! 戦神マルスの加護としか思えん! 新たな武器の誕生だ! しかもとびきりの! 最高だジン! ぜひやらせてくれ!」
「そ、それは嬉しい限りですが一体…」
「おっ父! ちゃんと説明して!」
「喜べカミラ! 俺達はとんでもない瞬間を迎えられる! この剣は斬る事に特化した武器だ! 直剣なんざ目じゃねぇ! 先端が両刃になってるって事は突きでも運用できるようにする為なんだろうが、それはおまけみたいなもんだ! ちゃんとした素材さえ用意出来れば、使い手次第で竜の鱗もぶった切れるだろう!」
ほんの数分で太刀の特性を理解し、性能の予測まで…やはりこの方は間違いない!
「そんなに凄いの?」
「ああ凄い。だが恐らく扱える奴はごく限られる。剣の運用とは全く違うからな。こいつの為の訓練が必要になるだろう。ジン、これは何という武器だ?」
「はい。これは刀という武器の一種で太刀と言います。木で作ったこっちは、そのまま木刀と呼びます」
「刀…太刀、それに木刀か。なるほどな、分かった。その太刀に木刀だがな、長すぎる。お前の身長が足りてねぇっつー意味じゃねぇ。その長さは馬上で運用するための長さだ」
「なんと!?」
その言葉を聞いて、俺の前世の記憶の引き出しがまた開く。確かに前世では太刀は馬上で矢が無くなった時の補助的な武器だった。
「徒歩で使いやすくなるように、本番は長さと反り、重心なんかも全部お前さんに調整してやる。それに素材も文句無しどころか最高だ! 竜の鱗ってのはな、皮膚が堅くなったんじゃなく、細かな毛が寄り集まって堅くなったもんなんだ。毛の向きを正しくしてやりゃ―――ってこんなのは俺の仕事だ。自分で言うのも何だが、人間にはもちろん、恐らく地人でもこれを打てるヤツは少ない。とにかくだ! 俺にやらせろ! いや、やらせてくれっ!」
武器の事になった途端、グリンデルさんの言葉は留まる事を知らない。
こんなにも早く、俺でさえ忘れていた打刀の存在にまでたどり着くとは…これはもうこの人に全てを任せるべきだ。
俺は深々と頭を下げた。
「よろしくお願いします! グリンデルさん!」
0
あなたにおすすめの小説
タイム連打ってなんだよ(困惑)
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
「リオ、お前をパーティから追放する。お前のようなハズレスキルのザコは足手まといなんだよ」
王都の冒険者ギルドにて、若手冒険者のリオは、リーダーの身勝手な都合によってパーティから追い出されてしまい、同時に後宮では、聖女の降臨や第一王子の婚約破棄などが話題になっていた。
パーティを追放されたリオは、ある日商隊の護衛依頼を受けた際、野盗に襲われる可憐な少女を助けることになるのだが、彼女は第一王子から婚約破棄された上に濡れ衣を着せられて迫害された元公爵令嬢こと、アイリスだった。
アイリスとの出会いから始まる冒険の旅、行く先々で様々な思惑によって爪弾きにされてしまった者達を受け入れていく内に、彼はある決意をする。
「作ろう。誰もが幸せに過ごせる、そんな居場所を」
目指すべき理想、突き動かされる世界、そしてハズレスキル【タイム連打】に隠されたリオの本当の力とは?
※安心安全安定安泰の四安揃った、ハピエン確定のハズレスキル無双です。
『エ○ーマンが倒せない』は関係ありません。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
転生したら王族だった
みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。
レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~
楠富 つかさ
ファンタジー
ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。
そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。
「やばい……これ、動けない……」
怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。
「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」
異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる