戦国武将異世界転生冒険記

詩雪

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第三章 帝国西部・刀編

第59話 名工の柵と刀

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「し、失礼します。あ、お取込み中すみません」

 親子喧嘩真っただ中に来訪者が1人。恰幅の良い商人風の男だ。

「あ、ジェンキンスさん! お久しぶりです! 武具の買い付けですか?」

「こんにちはカミラさん。ええ、ご再考頂けたかお伺いしたくて…」

「てめぇ! もうどこの店にも卸さねぇって何度も言ってるだろ! 出てけ!」

「おっとう! 折角また買うって言って下さってるのに!」

「もう半端な奴らに俺の武具が使なんざまっぴらだ!しかもジェンキンス、ふざけた値段で売ってたらしいじゃねぇか」

「そ、それは誤解です! かのウォルター工房作の武具ならと、妥当な値段を付けさせて頂いたまでです!」

「はっ! おべっかのつもりか? いいか、武具ってのはな―――」

 次はジェンキンスと呼ばれた商店主らしき男が加わり、次なる口論の種が生まれた。俺の事はすっかり忘れられているようだ。そこにさらにまた新たな火種が。

「ウォルター工房ってのはここか!」

 冒険者風の男2人と女1人が工房の扉を威勢よく開ける。だが、扉は物音一つ立たず、スーッと閉まる。折角の威勢が台無し。

 だが、次の来訪者は扉やジェンキンスのように穏やかではなかった。

 カミラが如何致しましたかと、その3人の要件を聞きに行く。

「どうしたもこうしたもねぇ! ここで作られたって聞いたから大枚はたいて買った剣が戦闘中に折れちまったんだよ! おかげで死にかけたんだ! どうしてくれるんだ!」

「そうよ! 弁償しなさいよね!」

「リーダーの剣が折れちゃ俺達は狩り出来ねぇんだよ。その慰謝料も貰わねぇとな!」

 またこの手合いかと、頭を掻きながらグリンデルは折れた剣を見せてみなといい、リーダーと呼ばれた男の剣を手に取る。男の剣は刀身の中央で真っ二つに折れており、残った刀身にも蜘蛛の巣のようにヒビが入っていた。

「確かにウチで打ったもんだ。だが、こいつの素材はアテライト鉱だ。最後に精錬しなおしたのはいつだ?」

「は? せいれん? 知らねえよそんなもん! 買ったのは3年前だ。たった3年で折れる剣ってふざけてるだろ!」

「はぁ…アテライト鉱ってのはな、見てくれは綺麗だが繊細で不純物が混ざりやすい素材だ。それを最低年1回、再精錬で取り除かねぇと当然剣は脆くなる。騎士ならいざ知らず、毎日のように魔物や魔獣をぶった切る冒険者には向かない素材の武器だ。3年も手入れせず使い続けて折れちまうのは当然だ!」

「なんだとっ! 大金貨3枚もしたってのに毎年精錬なんざしてられるかよ! 不純物か何だか知らねぇが、そうならねぇように作んのがお前らの仕事だろ! どうでもいいから金返しやがれ!」

 会話になっていない。再精錬が嫌なら違う素材のものを買えばいい。そんな事は売った武具屋から説明を受けているはずだ。つまりこのリーダーの男は、自身の生命線である金も器量も無かったという事だろう。見てくれに惑わされ、自己満足の為に格好だけで武器を選んだ証拠だ。

「お、お客さん。すみませんが再精錬が必要な事は、買う前にその武具店から説明を受けていらっしゃいますよね? 流石に今回はウチではなんとも…」

 カミラがおずおずとリーダーの男に納得してもらおうと声をかけるが、

「は? 俺が悪いってのか? お前らの腕が悪いせいだろが! ふざけんじゃねぇ!」

「きゃっ!」

 怒り任せにカミラを蹴飛ばすリーダーの男。それを見て残りの2人はニヤついている。

「カミラっ! てめぇ娘に何しやがる!」

「さっさと弁償して慰謝料払っときゃいいんだよ!」

「そうよ。私達も暇じゃないのよね。」

 そういって今度はグリンデルさんの胸倉を掴んで突き飛ばす。俺は他人の関係に口を出さないよう我慢していたが、あまりの理不尽な光景にその限界を超えた。

「カミラさん! グリンデルさん!」

「おい、ガキはすっこんでろ。てめぇもガキなりに冒険者なんだろ? こんなぼったくり工房潰しちまうのが世の為なんだよ」

「ちょっと! 貴方達いい加減に―――」

 言い返そうとするカミラさんを俺は手で制し、彼らの間に立つ。

「なんと情けない事でしょうか。自らの至らなさを他人のせいにした挙句、暴力を振るい、さらに金まで巻き上げようとするとは。それに年に1度精錬しなければならない剣が3年も持ったんですよ? この事実を理解なさっていないようなら、剣に見放されるのも当然ですね」

「ガ、ガキの分際でCランクの俺様に生意気な事言ってんじゃねぇ!」

 リーダーの男のブンっと振られた拳をスッと避けると同時に腕を掴み、掴んだまま後ろに回り込む。

 ミシミシと音を立てる腕に、男は悲鳴をあげた。

「て、てめ放しやが…ひぃぃぃぃ! 痛い痛い痛い!」

「引いて頂けませんか? あなた方はこの工房に来られる次元レベルではありません」

「な、なんなのこの子!?」

「認めて頂けますね? こんな子供ガキにも勝てないのです。自分たちがどれだけ弱く愚かなのかを」

「わ、わかった! 認める! 精錬の事は聞いてた! 俺が悪かったからっ!」

 その言葉を聞いて、俺は男を投げ飛ばす。

 ドガッ!

「ぐえっ!」
「お二人はどうします?」
「や、やめておくわ!」
「ああ! 俺らが悪かった!」

 投げ飛ばされたリーダーの男を担ぎ、3人はそそくさと工房を出ていった。

 グリンデル、カミラ、ジェンキンスの3人は唖然とした様子でその場に固まっていた。

「すみません。勝手な事をして場を荒らしてしまいました。私も今日はおいとまさせて頂きます」

「ま、待て! 坊主! いやジンだったか。礼ぐらいさせろ。それからジェンキンス」

「はぃ…」

 グリンデルさんは出て行こうとする俺を呼び止め、ジェンキンスさんに武具を卸さない理由を話す。

「こういう事だ。魔物が増え始めて、世の為になるならと数年前から武具を卸していたが、結果ああいう手合いが増えて俺はもう嫌気がさしている。こうして娘も危険に晒された。もう来ないでくれ」

「よくわかりました…我々も考え直さなければなりません。残念ではありますが、諦める事と致します…」

 そう言って静かに店を後にするジェンキンスさん。彼にも悪い事をしたのかもしれない。後で店に顔を出して謝っておこう。

 一方のカミラさんの目には涙が浮かんでいた。

「おっ父…あたしの心配して…ふぐっ…何にも知らんと今までキツイ事言うてごめんなさいっ」

「よせよせ! 気持ち悪い! 大体あんな攻撃もんで、頑丈なドワーフおれらがどうこうなるかってんだ!」

 父の悪態にカミラさんは涙をぬぐい、言い返しつつ俺の背中を押してくれた。

「素直じゃないっ。でもジンのお願いは聞いてもらうからね! ジン君もありがとう! すっごい強いんだね、かっこよかった!」

 満面の笑みのカミラさん。少しは役に立てて何よりだ。


◇ ◇ ◇ ◇


「ジン。さっきは助かった。礼を言う」

「いいえ。結局お二人に危害が及ぶまで見ていた私も私です。即座に排除すべきだったかもしれません」

「排除と来たか! ぶぁっはっは! まぁ済んだことはどうでもいい。さっきカミラも言ったが俺はグリンデル・ウォルター。ここの工房主だ。礼としてお前の話は聞いてやる。だが、請け負うかは別の話だ。いいな」

「それで結構です。私が鍛えて頂きたいのはこれです」

 俺は収納魔法スクエアガーデンから木刀と黒王竜ティアマットの鱗を取り出し、グリンデルさんの前に差し出す。

「「収納魔法!?」」

「あたし初めて見たよ! すげーっ!」

「それだけでお前さんが只者じゃない事はよくわかった。だがこの木剣にこの素材は―――!?」

「――!? お…お…おっ父、こ、これって…」

「「黒王竜の鱗!!」」

 親子がまた揃った。息ぴったりだな。

「ジン君! これどうしたの!?」

「まさか! てめぇ盗んだとかじゃ! …無いわな。すまん。会って間もねぇが、お前さんはそんな下らねぇマネはしねぇ。そういや、帝都の冒険者ギルドで黒王竜の素材が出回って、貴族やら大手商会やらがこぞって群がったって、ちょっと前に聞いた気がする」

「赤子でしたが仕留めて得た素材です」

「仕留めた? 仕留めたって、それじゃあお前さん…」

「商人さんや冒険者さんが噂してた、帝都の王竜殺しドラゴンキラーってもしかしてジン君なのっ!?」

 こんなとこまで噂が広がっているのか。困ったものだ。

「物騒な二つ名です。広めないで頂きたい」

「握手してー! すごいすごいすごーい!」

「止めねぇかカミラ、みっともねぇ! すまねぇな。こいつ二十歳にもなって子供でよ」

 え? 二十歳? すみません、年下だと思っておりました。

「い、いえ大丈夫です。ここだけの話にして頂ければ」

 と、言いつつブンブンと腕を振られている。
 すごい力だ。さっきのならず者共倒せたんじゃないか?

「はぁ、それにしても王竜殺しドラゴンキラーだったとはな。恐れ入ったぜ。さっきの馬鹿共が簡単にあしらわれる訳だ。で、話を進めよう。こっちの木剣はなんだ? あまり見ない形だが」

 グリンデルさんは木刀を手に取り調べ始める。

「片刃、反り…それにこの刀身の重心。切先だけ両刃にしてあるのか?…仮に金属だった場合、片手では無く両手持ちが基本の運用か…両手持ちの片刃―――!?」

 木刀を舐めまわすように観察しながら、グリンデルさんは木刀の特徴をブツブツと話し始めた。

「ジン。この木剣を何度か振ってみてくれ」

「――? 分かりました」

 何かに気が付いたのか定かでは無いが、直剣との違いを見定めたいのだろう。あえて正しくという言葉を使ったグリンデルさん。

 俺は呼吸を整え正眼に構える。全身を使い縦一閃、横一閃、下段からの切り上げ、最後に納刀の状態から居合斬りを行う。

「ふっ…ふふふ…ぶぁっはっは!」

「お、おっ父?」
「グリンデルさん?」

 グリンデルさんは俺の素振りを見た後ふるふると震え、高らかに笑う。

「こ…こんな…こんな出会いがあるとは! 戦神マルスの加護としか思えん! 新たな武器の誕生だ! しかもとびきりの! 最高だジン! ぜひやらせてくれ!」

「そ、それは嬉しい限りですが一体…」
「おっ父! ちゃんと説明して!」

「喜べカミラ! 俺達はとんでもない瞬間を迎えられる! この剣は斬る事に特化した武器だ! 直剣なんざ目じゃねぇ! 先端が両刃になってるって事は突きでも運用できるようにする為なんだろうが、それはおまけみたいなもんだ! ちゃんとした素材さえ用意出来れば、使い手次第で竜の鱗もぶった切れるだろう!」

 ほんの数分で太刀の特性を理解し、性能の予測まで…やはりこの方は間違いない!

「そんなに凄いの?」

「ああ凄い。だが恐らく扱える奴はごく限られる。剣の運用とは全く違うからな。こいつの為の訓練が必要になるだろう。ジン、これは何という武器だ?」

「はい。これは刀という武器の一種で太刀と言います。木で作ったこっちは、そのまま木刀と呼びます」

「刀…太刀、それに木刀か。なるほどな、分かった。その太刀に木刀だがな、長すぎる。お前の身長が足りてねぇっつー意味じゃねぇ。その長さは馬上で運用するための長さだ」

「なんと!?」

 その言葉を聞いて、俺の前世の記憶の引き出しがまた開く。確かに前世では太刀は馬上で矢が無くなった時の補助的な武器だった。

「徒歩で使いやすくなるように、は長さと反り、重心なんかも全部お前さんに調整してやる。それに素材も文句無しどころか最高だ! 竜の鱗ってのはな、皮膚が堅くなったんじゃなく、細かな毛が寄り集まって堅くなったもんなんだ。毛の向きを正しくしてやりゃ―――ってこんなのは俺の仕事だ。自分で言うのも何だが、人間にはもちろん、恐らく地人ドワーフでもこれを打てるヤツは少ない。とにかくだ! 俺にやらせろ! いや、やらせてくれっ!」

 武器の事になった途端、グリンデルさんの言葉は留まる事を知らない。

 こんなにも早く、俺でさえ忘れていた打刀うちがたなの存在にまでたどり着くとは…これはもうこの人に全てを任せるべきだ。

 俺は深々と頭を下げた。

「よろしくお願いします! グリンデルさん!」
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