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第二章 薔薇の君は、昼の屋敷へ来る
ヴァレンタイン家の紋章をつけた馬車は、まちがいなく侯爵家の玄関前で止まっていた。
窓辺に立ったまま、リディアはしばらく動けなかった。
胸の奥が、冷たく縮む。
どうして。
そう思うのに、答えはひとつしか浮かばない。
夜会で顔を合わせるだけの相手なら、昼の屋敷へ来る理由はそう多くない。
しかも、旦那様ご自身が玄関まで迎えに出るほどの相手なら、なおさらだった。
「奥様?」
エマの声で、ようやく我に返る。
落としたペンは机の下に転がっていた。
リディアはしゃがんでそれを拾い、何でもない顔で立ち上がる。
「どうかなさいましたか」
「……いいえ。少し、手が滑っただけよ」
そう言いながらも、自分の声が少しだけ掠れる。
窓の外では、セシリアが優雅に裾をつまんで一礼し、レオンハルトがそれに応じていた。
その仕草ひとつ取っても、絵になった。
華やかな女だった。
ただ美しいだけではない。
そこに立つだけで、空気がぱっと明るくなるような、そんな女。
男たちは、ああいう女に弱いのだろう。
街を歩けば目がいくのも、夜会で人が集まるのも、たぶんああいう女だ。
リディアは視線を外した。
「エマ、お茶の準備をお願い」
「……お客様用でございますか?」
「ええ。応接間へ。侯爵家の客人ですもの」
口にした瞬間、自分で少しだけおかしくなった。
侯爵家の客人。
まるで何も知らない奥方のような言い方だった。
「かしこまりました」
エマは一瞬ためらったが、それ以上は何も言わずに下がっていった。
リディアは机の上の書類を整える。
乱れてもいない紙の端を揃え、インク瓶の位置を直す。そうでもしていないと、手の震えが目立ちそうだった。
ほどなくして、別の侍女が呼びに来た。
「奥様、旦那様が応接間へと」
やはり、と思った。
呼ばれないほうが不自然だ。侯爵家の女主人が、客人への挨拶をしないわけにはいかない。
「すぐに参ります」
鏡の前で身なりを整える。
髪は乱れていない。顔色は少し悪いが、病人ほどではない。口元にうっすらと笑みを置けば、いつもの侯爵夫人に見えるはずだった。
応接間の扉の前で、リディアは一度だけ息を吸った。
大丈夫。
そう自分に言い聞かせて、扉を開ける。
中にはレオンハルトとセシリアがいた。
窓際のソファに腰かけたセシリアは、近くで見るとますます美しかった。
薔薇色のドレスに、白い肌。
ふわりと波打つ金髪は丁寧に結い上げられ、笑えば頬にやわらかな影が落ちる。いかにも男が好みそうな、明るく可憐な美しさだった。
彼女はリディアに気づくと、花がほころぶみたいに笑った。
「まあ、リディア様。突然お邪魔してしまって申し訳ありません」
声まで綺麗だった。
高すぎず、甘すぎず、聞いているだけで心地よい。
「ようこそおいでくださいました、セシリア様」
リディアは丁寧に礼をする。
侯爵夫人として、何の落ち度もないように。
レオンハルトが静かな声で言った。
「ヴァレンタイン家から、女子学院への寄付の相談があってな。わたしも関わっている件だから、話を聞いていた」
女子学院。
先日も寄付の書類に目を通したばかりだ。侯爵家が支援している慈善事業のひとつである。
「そうでしたの」
それなら、屋敷に来てもおかしくはない。
不自然ではない。
不自然ではないのに、なぜこんなにも胸が痛いのだろう。
「リディア様は、いつもそうして落ち着いていらして素敵ですわね」
セシリアがうっとりしたように言う。
「わたくし、こういう書類の話になりますと、すぐに頭がいっぱいになってしまって。旦那様、いえ侯爵様に助けていただいてばかりですの」
旦那様、という言いかけ方が妙に耳に残った。
わざとではないのかもしれない。
けれど、自然に口に出るほど親しいのだろうか、と考えてしまう。
リディアは笑みを崩さなかった。
「まあ。セシリア様が学院のことまで気にかけてくださっているのですね」
「ええ。できることがあればと思っておりますの。子どもたちのためですもの」
そう言って首を傾げる仕草まで愛らしい。
たしかに、悪意のある女には見えなかった。
計算してやっているとしても、ここまで自然に見せられるならそれも才能だ。男たちが好むのも分かる。
そのとき、侍女がお茶を運んできた。
テーブルに置かれたのは、薔薇の香りを移した紅茶だった。
侯爵家ではいくつか茶葉を常備しているが、この茶は普段の来客ではあまり使わない。香りが強く、好みが分かれるからだ。
セシリアの目がぱっと輝いた。
「まあ、嬉しい。わたくし、薔薇のお茶が大好きなのです」
レオンハルトが静かに言う。
「覚えていたから」
その一言で、応接間の空気が止まった気がした。
リディアはカップを持つ指先に力を入れる。
覚えていた。
旦那様は、セシリアの好きな茶を覚えていた。
どうでもいいことのはずだった。
ただ、客人の好みに気を配っただけ。侯爵として自然な振る舞いだ。
それなのに、胸の奥にひどく鋭い痛みが走る。
私は、旦那様が何を好きか知っている。
朝は濃いめの紅茶。
肉料理は香草を控えめに。長い会議の前には甘いものより温かいスープ。疲れているときは書斎の窓を少しだけ開けると気分が落ち着くことも知っている。
でも旦那様は、私の好きな茶を知っていただろうか。
考えた瞬間、喉の奥がつまった。
「侯爵様は、本当にお優しいんですの」
セシリアが嬉しそうに微笑む。
「夜会でもそうでしたけれど、困っているとすぐに手を差し伸べてくださって。昨日も、わたくしが少し気分を悪くしてしまったら、すぐに気づいてくださったんです」
昨日。
夜会の途中、レオンハルトがしばらく姿を見せなかった時間があった。
あれは、そういうことだったのか。
リディアは視線を伏せ、カップに口をつけた。
薔薇の香りがやけに強く感じる。
「それは何よりでしたわ」
声は、ちゃんと出た。
まだ大丈夫だと思った。
だがセシリアは悪気なく続ける。
「わたくし、侯爵様のようなお優しい方にお会いしたのは初めてです」
「セシリア」
レオンハルトが、少し低い声で名を呼ぶ。
たしなめるような響きだった。
けれど完全に否定するわけではなく、困ったように微笑むだけだった。
その表情がまた、リディアの知らない顔だった。
優しい旦那様。
その優しさは、私だけに向けられたものではない。
むしろ、あの人はこうして誰にでも手を差し伸べられる人なのだろう。
ただ私は、その優しさに特別な意味があると、勝手に思ってしまっていただけだった。
応接間での会話は、それ以上深いものにはならなかった。
寄付金の額、学院への視察日程、春の慈善茶会の招待客。表向きの話はきちんとしている。何もおかしくない。何ひとつ、侯爵夫人として取り乱す理由はない。
それでもリディアは、早くこの時間が終わってほしかった。
やがてセシリアが帰る時間になり、レオンハルトはまた玄関まで見送りに出た。
侯爵として当然の礼儀だ。
そう思いながら、リディアは窓辺に立つ自分に気づき、すぐにカーテンを閉じた。
これ以上見たくなかった。
夕方、レオンハルトは何事もなかったように書斎へ戻った。
リディアもまた、何事もなかったように帳簿へ向かった。
けれど数字が頭に入ってこない。
文字を追っても意味にならない。
胸の中で何度も同じ言葉が繰り返される。
覚えていたから。
侯爵様は、本当にお優しいんですの。
昨日も、すぐに気づいてくださって。
何度もその会話が頭に流れた。
「‥‥」
「奥様」
エマが小さく声をかけた。
「少し、お休みくださいませ」
「……そうね」
もう隠しきれないくらい、顔色が悪くなっていたのかもしれない。
リディアは帳簿を閉じ、立ち上がる。
窓の外では、夕暮れの光が庭園を薄く染めていた。
優しい人だった。
本当に、優しい人だったのだ。
だから私は耐えられた。
愛されていなくても、嫌われていないのなら。
妻として抱かれなくても、せめて大切にはされているのなら。
そう思って、ここまで来た。
でも、もしその優しさが私だけのものではなく、
あの人が触れたい相手、気にかけたい相手、覚えていたい相手が別にいるのだとしたら。
私は、何のためにここにいるのだろう。
その夜、食卓で向かいに座るレオンハルトはいつも通り穏やかだった。
体調を気づかう言葉もくれた。
だがリディアは、もうその優しさをまっすぐ受け取れなかった。
嬉しいと思うたび、胸の奥が痛む。
その優しさの向く先が、自分ではないと知ってしまったから。
白い結婚の理由を、ずっと私は間違えていたのかもしれない。
旦那様は誰にも触れない人なのではない。
ただ、私には触れたくなかっただけなのだ。
その考えは、昨日よりずっと深く、静かに胸へ沈んでいった。
窓辺に立ったまま、リディアはしばらく動けなかった。
胸の奥が、冷たく縮む。
どうして。
そう思うのに、答えはひとつしか浮かばない。
夜会で顔を合わせるだけの相手なら、昼の屋敷へ来る理由はそう多くない。
しかも、旦那様ご自身が玄関まで迎えに出るほどの相手なら、なおさらだった。
「奥様?」
エマの声で、ようやく我に返る。
落としたペンは机の下に転がっていた。
リディアはしゃがんでそれを拾い、何でもない顔で立ち上がる。
「どうかなさいましたか」
「……いいえ。少し、手が滑っただけよ」
そう言いながらも、自分の声が少しだけ掠れる。
窓の外では、セシリアが優雅に裾をつまんで一礼し、レオンハルトがそれに応じていた。
その仕草ひとつ取っても、絵になった。
華やかな女だった。
ただ美しいだけではない。
そこに立つだけで、空気がぱっと明るくなるような、そんな女。
男たちは、ああいう女に弱いのだろう。
街を歩けば目がいくのも、夜会で人が集まるのも、たぶんああいう女だ。
リディアは視線を外した。
「エマ、お茶の準備をお願い」
「……お客様用でございますか?」
「ええ。応接間へ。侯爵家の客人ですもの」
口にした瞬間、自分で少しだけおかしくなった。
侯爵家の客人。
まるで何も知らない奥方のような言い方だった。
「かしこまりました」
エマは一瞬ためらったが、それ以上は何も言わずに下がっていった。
リディアは机の上の書類を整える。
乱れてもいない紙の端を揃え、インク瓶の位置を直す。そうでもしていないと、手の震えが目立ちそうだった。
ほどなくして、別の侍女が呼びに来た。
「奥様、旦那様が応接間へと」
やはり、と思った。
呼ばれないほうが不自然だ。侯爵家の女主人が、客人への挨拶をしないわけにはいかない。
「すぐに参ります」
鏡の前で身なりを整える。
髪は乱れていない。顔色は少し悪いが、病人ほどではない。口元にうっすらと笑みを置けば、いつもの侯爵夫人に見えるはずだった。
応接間の扉の前で、リディアは一度だけ息を吸った。
大丈夫。
そう自分に言い聞かせて、扉を開ける。
中にはレオンハルトとセシリアがいた。
窓際のソファに腰かけたセシリアは、近くで見るとますます美しかった。
薔薇色のドレスに、白い肌。
ふわりと波打つ金髪は丁寧に結い上げられ、笑えば頬にやわらかな影が落ちる。いかにも男が好みそうな、明るく可憐な美しさだった。
彼女はリディアに気づくと、花がほころぶみたいに笑った。
「まあ、リディア様。突然お邪魔してしまって申し訳ありません」
声まで綺麗だった。
高すぎず、甘すぎず、聞いているだけで心地よい。
「ようこそおいでくださいました、セシリア様」
リディアは丁寧に礼をする。
侯爵夫人として、何の落ち度もないように。
レオンハルトが静かな声で言った。
「ヴァレンタイン家から、女子学院への寄付の相談があってな。わたしも関わっている件だから、話を聞いていた」
女子学院。
先日も寄付の書類に目を通したばかりだ。侯爵家が支援している慈善事業のひとつである。
「そうでしたの」
それなら、屋敷に来てもおかしくはない。
不自然ではない。
不自然ではないのに、なぜこんなにも胸が痛いのだろう。
「リディア様は、いつもそうして落ち着いていらして素敵ですわね」
セシリアがうっとりしたように言う。
「わたくし、こういう書類の話になりますと、すぐに頭がいっぱいになってしまって。旦那様、いえ侯爵様に助けていただいてばかりですの」
旦那様、という言いかけ方が妙に耳に残った。
わざとではないのかもしれない。
けれど、自然に口に出るほど親しいのだろうか、と考えてしまう。
リディアは笑みを崩さなかった。
「まあ。セシリア様が学院のことまで気にかけてくださっているのですね」
「ええ。できることがあればと思っておりますの。子どもたちのためですもの」
そう言って首を傾げる仕草まで愛らしい。
たしかに、悪意のある女には見えなかった。
計算してやっているとしても、ここまで自然に見せられるならそれも才能だ。男たちが好むのも分かる。
そのとき、侍女がお茶を運んできた。
テーブルに置かれたのは、薔薇の香りを移した紅茶だった。
侯爵家ではいくつか茶葉を常備しているが、この茶は普段の来客ではあまり使わない。香りが強く、好みが分かれるからだ。
セシリアの目がぱっと輝いた。
「まあ、嬉しい。わたくし、薔薇のお茶が大好きなのです」
レオンハルトが静かに言う。
「覚えていたから」
その一言で、応接間の空気が止まった気がした。
リディアはカップを持つ指先に力を入れる。
覚えていた。
旦那様は、セシリアの好きな茶を覚えていた。
どうでもいいことのはずだった。
ただ、客人の好みに気を配っただけ。侯爵として自然な振る舞いだ。
それなのに、胸の奥にひどく鋭い痛みが走る。
私は、旦那様が何を好きか知っている。
朝は濃いめの紅茶。
肉料理は香草を控えめに。長い会議の前には甘いものより温かいスープ。疲れているときは書斎の窓を少しだけ開けると気分が落ち着くことも知っている。
でも旦那様は、私の好きな茶を知っていただろうか。
考えた瞬間、喉の奥がつまった。
「侯爵様は、本当にお優しいんですの」
セシリアが嬉しそうに微笑む。
「夜会でもそうでしたけれど、困っているとすぐに手を差し伸べてくださって。昨日も、わたくしが少し気分を悪くしてしまったら、すぐに気づいてくださったんです」
昨日。
夜会の途中、レオンハルトがしばらく姿を見せなかった時間があった。
あれは、そういうことだったのか。
リディアは視線を伏せ、カップに口をつけた。
薔薇の香りがやけに強く感じる。
「それは何よりでしたわ」
声は、ちゃんと出た。
まだ大丈夫だと思った。
だがセシリアは悪気なく続ける。
「わたくし、侯爵様のようなお優しい方にお会いしたのは初めてです」
「セシリア」
レオンハルトが、少し低い声で名を呼ぶ。
たしなめるような響きだった。
けれど完全に否定するわけではなく、困ったように微笑むだけだった。
その表情がまた、リディアの知らない顔だった。
優しい旦那様。
その優しさは、私だけに向けられたものではない。
むしろ、あの人はこうして誰にでも手を差し伸べられる人なのだろう。
ただ私は、その優しさに特別な意味があると、勝手に思ってしまっていただけだった。
応接間での会話は、それ以上深いものにはならなかった。
寄付金の額、学院への視察日程、春の慈善茶会の招待客。表向きの話はきちんとしている。何もおかしくない。何ひとつ、侯爵夫人として取り乱す理由はない。
それでもリディアは、早くこの時間が終わってほしかった。
やがてセシリアが帰る時間になり、レオンハルトはまた玄関まで見送りに出た。
侯爵として当然の礼儀だ。
そう思いながら、リディアは窓辺に立つ自分に気づき、すぐにカーテンを閉じた。
これ以上見たくなかった。
夕方、レオンハルトは何事もなかったように書斎へ戻った。
リディアもまた、何事もなかったように帳簿へ向かった。
けれど数字が頭に入ってこない。
文字を追っても意味にならない。
胸の中で何度も同じ言葉が繰り返される。
覚えていたから。
侯爵様は、本当にお優しいんですの。
昨日も、すぐに気づいてくださって。
何度もその会話が頭に流れた。
「‥‥」
「奥様」
エマが小さく声をかけた。
「少し、お休みくださいませ」
「……そうね」
もう隠しきれないくらい、顔色が悪くなっていたのかもしれない。
リディアは帳簿を閉じ、立ち上がる。
窓の外では、夕暮れの光が庭園を薄く染めていた。
優しい人だった。
本当に、優しい人だったのだ。
だから私は耐えられた。
愛されていなくても、嫌われていないのなら。
妻として抱かれなくても、せめて大切にはされているのなら。
そう思って、ここまで来た。
でも、もしその優しさが私だけのものではなく、
あの人が触れたい相手、気にかけたい相手、覚えていたい相手が別にいるのだとしたら。
私は、何のためにここにいるのだろう。
その夜、食卓で向かいに座るレオンハルトはいつも通り穏やかだった。
体調を気づかう言葉もくれた。
だがリディアは、もうその優しさをまっすぐ受け取れなかった。
嬉しいと思うたび、胸の奥が痛む。
その優しさの向く先が、自分ではないと知ってしまったから。
白い結婚の理由を、ずっと私は間違えていたのかもしれない。
旦那様は誰にも触れない人なのではない。
ただ、私には触れたくなかっただけなのだ。
その考えは、昨日よりずっと深く、静かに胸へ沈んでいった。
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