9 / 32
第9章 噂はもう私だけを残していた
三日後の茶会で、リディアはそれを知った。
王妃主催の慈善会に関わる夫人たちが集まる、小さな茶会だった。
会場はシャルム伯爵夫人の邸宅。集まる顔ぶれは十数人ほどで、人数が少ないぶん、ここで交わされる言葉はよく広がる。
「リディア様、ごきげんよう」
「ごきげんよう」
リディアはいつものように微笑み、席についた。
薄い藤色のドレス。真珠の耳飾り。華やかではないが、侯爵夫人として不足のない装いだ。
鏡の前では何度も確かめた。顔色は悪くない。目元も腫れていない。今日の自分は、どこから見てもきちんとした侯爵夫人のはずだった。
けれど席についてすぐ、空気が少しだけおかしいことに気づいた。
誰も露骨ではない。
ただ、視線が一拍遅れて逸らされる。
会話が一度途切れてから、また別の話題へつながる。
その小さな間が、どうにも気になった。
気のせいかもしれない。
そう思おうとしたとき、向かいの席の夫人がふわりと笑った。
「ルーヴェン侯爵家は、最近お忙しそうですわね」
「ええ。春先はいろいろと動きますもの」
無難に返す。
すると別の夫人が、扇を口元に当てた。
「学院への寄付の件も、ずいぶん熱心に関わっていらっしゃるとか」
「旦那様が責任を持っておりますので」
「まあ、そうでしたの」
そこまでなら、ただの社交辞令だった。
だがそのあと、小さな笑いとともに、誰かが言った。
「セシリア様も、最近はずいぶん熱心でいらっしゃるそうですものね」
その名前が出た瞬間、リディアの指先がわずかに止まった。
止まったのは一瞬だけだ。
けれど自分にははっきり分かった。
「ヴァレンタイン子爵令嬢ですか」
できるだけ自然にそう尋ねると、夫人たちは顔を見合わせた。
その一瞬の躊躇いが、何より雄弁だった。
「まあ、リディア様はお聞きになっていなかったの?」
「いえ、別に大したことではないのですけれど」
「学院支援でご一緒する機会が多いようで」
大したことではない。
そう言うときほど、大したことでは済んでいない。
リディアは静かに微笑んだ。
「旦那様はそのあたりのことを、あまり細かくお話しなさらないのです」
「まあ……」
その「まあ」に、いくつもの意味が含まれている気がした。
知らないのだ。
あの奥方は。
そんな気配が、もう隠しきれないほど漂っていた。
シャルム伯爵夫人が慌てたように話題を変える。
「そういえば、春の慈善会では座席をどうなさるのかしら」
「王都からの来賓も増えるそうですわね」
「学院の評判もずいぶんよろしいようで」
会話は動いた。
けれど、リディアにはもう十分だった。
知らなかったのは、自分だけだったのだ。
それが、じわじわと胸の奥へ落ちてくる。
茶会は続く。
焼き菓子が運ばれ、茶葉が変わり、笑い声も上がる。
誰もがいつものように淑女らしく振る舞っていた。
その中で、話題はまた少しずつ戻っていった。
「セシリア様は本当にお綺麗ですものね」
「ええ、あの方が入ると場がぱっと華やぎますわ」
「ルーヴェン侯爵様も、さぞお話ししやすいでしょうね」
誰も名前を並べて断言はしない。
けれど、並べているのと同じだった。
リディアはカップを持ち上げる。
紅茶の香りはよかった。けれど味はほとんど分からない。
「リディア様は、本当に落ち着いていらっしゃるのね」
ふいに、年配の夫人がそう言った。
「わたくしなら、あんなに美しい方がそばにいらしたら、少し気後れしてしまいそうですわ」
その言葉に、周囲が曖昧に笑う。
気後れ。
そう見えているのだろうか。
侯爵夫人である自分が、薔薇のような美人の前で引け目を感じている女に。
リディアは笑みを崩さなかった。
「セシリア様は本当にお美しいですもの。街を歩けば、誰だってまず目を奪われるでしょう」
「まあ、さすがリディア様。お心が広いこと」
お心が広い。
それも違う。
広いのではない。ただ、ここで顔を変えられないだけだ。
「それに旦那様は、もともとどなたに対してもお優しい方ですから」
自分で口にしていて、胸が少しだけ痛む。
優しい。
ええ、本当に優しい人だ。
だからこそ、自分はここまで勘違いしてしまった。
そのとき、隣の席の若い夫人が、悪気なく言った。
「でも、最近はセシリア様のことをずいぶんお気にかけていらっしゃるようですわよ。学院でも、夜会でも」
周囲の空気が、一瞬だけ固まる。
「ちょっと、あなた」
「まあ、そんな言い方」
たしなめる声が続いた。
けれど遅かった。
学院でも、夜会でも。
もう一度、はっきりした。
あの二人のことは、とっくに人の口に乗っている。
ただ、私の耳にだけ届いていなかった。
「失礼いたしましたわ」
若い夫人が頬を染めて俯く。
恥じているのか、それとも余計なことを言ったと気づいただけなのかは分からない。
リディアは穏やかに首を振った。
「いいえ。お気になさらないで」
声はちゃんと出た。
少しも震えていない。
そのことだけが、今の自分を支えていた。
茶会が終わる頃には、リディアは自分でも不思議なくらい静かだった。
怒りはまだない。
泣きたいわけでもない。
ただ、ひどく冷えていた。
帰りの馬車に乗り込み、扉が閉まる。
向かいに座ったエマが、おそるおそるこちらを見た。
「奥様……」
「大丈夫よ」
反射のようにそう言ってから、リディアは小さく息を吐いた。
「……いいえ、大丈夫ではないわね」
エマが目を見開く。
「奥様」
「知らなかったのは、私だけだったの」
そう口にした瞬間、その事実がようやくはっきり自分の中で形を持った。
夜会で見た笑顔。
昼の来訪。
薔薇の髪飾り。
そして今日の茶会での、あの空気。
全部つながっていた。
社交界の人たちは、とっくに気づいていたのだ。
ルーヴェン侯爵が、薔薇のような美人を特別に扱っていることに。
その美人が、当然のように侯爵のそばにいることに。
それなのに、自分だけが、まだ「気のせいかもしれない」と思おうとしていた。
「奥様は悪くありません」
エマがきっぱりと言った。
「旦那様が何もおっしゃらないからです」
その言葉に、リディアは少しだけ笑った。
慰められているのだと分かったから。
「ありがとう」
でも、それだけでは済まなかった。
旦那様は何も言わない
優しくしてくれる
気づかってもくれる
けれど、一番大事なことは何ひとつ言わない。
その曖昧さの中で、私だけが最後まで取り残されていたのだ。
馬車の窓の外で、王都の街並みが流れていく。
人々の姿が小さく揺れ、店先の色が夕方の光に沈んでいく。
街を歩けば、誰だって美しい人に目を奪われる。
それは分かる。
分からないわけではない。
でもそのあとで、静かな妻には何も言わず、何も選ばず、何も終わらせないままにしておくのはあまりにも残酷だった。
侯爵家へ戻る馬車の中で、リディアはそっと膝の上で手を組んだ。
私は今まで、何を信じていたのだろう。
優しい旦那様
穏やかな結婚
少しずつ近づけるかもしれない未来。
そんなものは、最初からどこにもなかったのかもしれない。
あったのはただ、
もう周囲の誰もが知っていることを、私だけが知らされていなかった
という、それだけだった。
その事実が、今まででいちばん静かに、いちばん深く、リディアを傷つけた。
王妃主催の慈善会に関わる夫人たちが集まる、小さな茶会だった。
会場はシャルム伯爵夫人の邸宅。集まる顔ぶれは十数人ほどで、人数が少ないぶん、ここで交わされる言葉はよく広がる。
「リディア様、ごきげんよう」
「ごきげんよう」
リディアはいつものように微笑み、席についた。
薄い藤色のドレス。真珠の耳飾り。華やかではないが、侯爵夫人として不足のない装いだ。
鏡の前では何度も確かめた。顔色は悪くない。目元も腫れていない。今日の自分は、どこから見てもきちんとした侯爵夫人のはずだった。
けれど席についてすぐ、空気が少しだけおかしいことに気づいた。
誰も露骨ではない。
ただ、視線が一拍遅れて逸らされる。
会話が一度途切れてから、また別の話題へつながる。
その小さな間が、どうにも気になった。
気のせいかもしれない。
そう思おうとしたとき、向かいの席の夫人がふわりと笑った。
「ルーヴェン侯爵家は、最近お忙しそうですわね」
「ええ。春先はいろいろと動きますもの」
無難に返す。
すると別の夫人が、扇を口元に当てた。
「学院への寄付の件も、ずいぶん熱心に関わっていらっしゃるとか」
「旦那様が責任を持っておりますので」
「まあ、そうでしたの」
そこまでなら、ただの社交辞令だった。
だがそのあと、小さな笑いとともに、誰かが言った。
「セシリア様も、最近はずいぶん熱心でいらっしゃるそうですものね」
その名前が出た瞬間、リディアの指先がわずかに止まった。
止まったのは一瞬だけだ。
けれど自分にははっきり分かった。
「ヴァレンタイン子爵令嬢ですか」
できるだけ自然にそう尋ねると、夫人たちは顔を見合わせた。
その一瞬の躊躇いが、何より雄弁だった。
「まあ、リディア様はお聞きになっていなかったの?」
「いえ、別に大したことではないのですけれど」
「学院支援でご一緒する機会が多いようで」
大したことではない。
そう言うときほど、大したことでは済んでいない。
リディアは静かに微笑んだ。
「旦那様はそのあたりのことを、あまり細かくお話しなさらないのです」
「まあ……」
その「まあ」に、いくつもの意味が含まれている気がした。
知らないのだ。
あの奥方は。
そんな気配が、もう隠しきれないほど漂っていた。
シャルム伯爵夫人が慌てたように話題を変える。
「そういえば、春の慈善会では座席をどうなさるのかしら」
「王都からの来賓も増えるそうですわね」
「学院の評判もずいぶんよろしいようで」
会話は動いた。
けれど、リディアにはもう十分だった。
知らなかったのは、自分だけだったのだ。
それが、じわじわと胸の奥へ落ちてくる。
茶会は続く。
焼き菓子が運ばれ、茶葉が変わり、笑い声も上がる。
誰もがいつものように淑女らしく振る舞っていた。
その中で、話題はまた少しずつ戻っていった。
「セシリア様は本当にお綺麗ですものね」
「ええ、あの方が入ると場がぱっと華やぎますわ」
「ルーヴェン侯爵様も、さぞお話ししやすいでしょうね」
誰も名前を並べて断言はしない。
けれど、並べているのと同じだった。
リディアはカップを持ち上げる。
紅茶の香りはよかった。けれど味はほとんど分からない。
「リディア様は、本当に落ち着いていらっしゃるのね」
ふいに、年配の夫人がそう言った。
「わたくしなら、あんなに美しい方がそばにいらしたら、少し気後れしてしまいそうですわ」
その言葉に、周囲が曖昧に笑う。
気後れ。
そう見えているのだろうか。
侯爵夫人である自分が、薔薇のような美人の前で引け目を感じている女に。
リディアは笑みを崩さなかった。
「セシリア様は本当にお美しいですもの。街を歩けば、誰だってまず目を奪われるでしょう」
「まあ、さすがリディア様。お心が広いこと」
お心が広い。
それも違う。
広いのではない。ただ、ここで顔を変えられないだけだ。
「それに旦那様は、もともとどなたに対してもお優しい方ですから」
自分で口にしていて、胸が少しだけ痛む。
優しい。
ええ、本当に優しい人だ。
だからこそ、自分はここまで勘違いしてしまった。
そのとき、隣の席の若い夫人が、悪気なく言った。
「でも、最近はセシリア様のことをずいぶんお気にかけていらっしゃるようですわよ。学院でも、夜会でも」
周囲の空気が、一瞬だけ固まる。
「ちょっと、あなた」
「まあ、そんな言い方」
たしなめる声が続いた。
けれど遅かった。
学院でも、夜会でも。
もう一度、はっきりした。
あの二人のことは、とっくに人の口に乗っている。
ただ、私の耳にだけ届いていなかった。
「失礼いたしましたわ」
若い夫人が頬を染めて俯く。
恥じているのか、それとも余計なことを言ったと気づいただけなのかは分からない。
リディアは穏やかに首を振った。
「いいえ。お気になさらないで」
声はちゃんと出た。
少しも震えていない。
そのことだけが、今の自分を支えていた。
茶会が終わる頃には、リディアは自分でも不思議なくらい静かだった。
怒りはまだない。
泣きたいわけでもない。
ただ、ひどく冷えていた。
帰りの馬車に乗り込み、扉が閉まる。
向かいに座ったエマが、おそるおそるこちらを見た。
「奥様……」
「大丈夫よ」
反射のようにそう言ってから、リディアは小さく息を吐いた。
「……いいえ、大丈夫ではないわね」
エマが目を見開く。
「奥様」
「知らなかったのは、私だけだったの」
そう口にした瞬間、その事実がようやくはっきり自分の中で形を持った。
夜会で見た笑顔。
昼の来訪。
薔薇の髪飾り。
そして今日の茶会での、あの空気。
全部つながっていた。
社交界の人たちは、とっくに気づいていたのだ。
ルーヴェン侯爵が、薔薇のような美人を特別に扱っていることに。
その美人が、当然のように侯爵のそばにいることに。
それなのに、自分だけが、まだ「気のせいかもしれない」と思おうとしていた。
「奥様は悪くありません」
エマがきっぱりと言った。
「旦那様が何もおっしゃらないからです」
その言葉に、リディアは少しだけ笑った。
慰められているのだと分かったから。
「ありがとう」
でも、それだけでは済まなかった。
旦那様は何も言わない
優しくしてくれる
気づかってもくれる
けれど、一番大事なことは何ひとつ言わない。
その曖昧さの中で、私だけが最後まで取り残されていたのだ。
馬車の窓の外で、王都の街並みが流れていく。
人々の姿が小さく揺れ、店先の色が夕方の光に沈んでいく。
街を歩けば、誰だって美しい人に目を奪われる。
それは分かる。
分からないわけではない。
でもそのあとで、静かな妻には何も言わず、何も選ばず、何も終わらせないままにしておくのはあまりにも残酷だった。
侯爵家へ戻る馬車の中で、リディアはそっと膝の上で手を組んだ。
私は今まで、何を信じていたのだろう。
優しい旦那様
穏やかな結婚
少しずつ近づけるかもしれない未来。
そんなものは、最初からどこにもなかったのかもしれない。
あったのはただ、
もう周囲の誰もが知っていることを、私だけが知らされていなかった
という、それだけだった。
その事実が、今まででいちばん静かに、いちばん深く、リディアを傷つけた。
あなたにおすすめの小説
〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?
詩海猫(9/10受賞作発売中!)
恋愛
私の家は子爵家だった。
高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。
泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。
私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。
八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。
*文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*
「言ってくれれば手伝ったのに」過労で倒れた私に微笑む無神経な夫。~親友を優先させ続けた夫の末路~
水上
恋愛
夫の持病を和らげるため、徹夜で煮詰めた特製コーディアル。
彼はそれを数秒で飲み干し、私の血を吐くような努力を「ただの甘い水だね。もっとパッと作れないの?」と笑った。
彼の健康も商会の名声も、私が裏で支えているとも知らずに。
ある日、過労で倒れた私は、「言ってくれれば手伝ったのに」と無神経な夫に微笑まれた時、心の中で決意した。
地下室にあるコーディアルの瓶は残り15本。
これがすべて空になるまでに彼が変わらなければ、離縁状を叩きつけよう。
私を失い、体調も商会も崩壊して這いつくばる夫をよそに、私は真の評価を得て自分の人生を歩み始める。
これは、透明な存在として扱われ続けた私が、失望のカウントダウンを進めて自立するまでの、そして、すべてを失った夫が惨めに後悔するまでの物語。
愛される女と利用される女 ~すぐ怪我する義妹と心配する王子、私はお見合いで何を見せられているのでしょうか~
夢窓(ゆめまど)
恋愛
スミッシィ公爵家のひとり娘ハーミヤは、王太子のお見合い相手に選ばれた。
しかし何度会っても、会話は天気と花だけ。毎回、王子の義妹が怪我をして乱入してお見合いは、途中で終わる。
断ったはずのプロポーズ。サインしていない婚約書類。気づけば結婚式の準備だけが、勝手に進んでいた。
これは、思い込みの激しい王子と、巻き込まれた公爵令嬢の話。
【完結】貴方が好きなのはあくまでも私のお姉様
すだもみぢ
恋愛
伯爵令嬢であるカリンは、隣の辺境伯の息子であるデュークが苦手だった。
彼の悪戯にひどく泣かされたことがあったから。
そんな彼が成長し、年の離れたカリンの姉、ヨーランダと付き合い始めてから彼は変わっていく。
ヨーランダは世紀の淑女と呼ばれた女性。
彼女の元でどんどんと洗練され、魅力に満ちていくデュークをカリンは傍らから見ていることしかできなかった。
しかしヨーランダはデュークではなく他の人を選び、結婚してしまう。
それからしばらくして、カリンの元にデュークから結婚の申し込みが届く。
私はお姉さまの代わりでしょうか。
貴方が私に優しくすればするほど悲しくなるし、みじめな気持ちになるのに……。
そう思いつつも、彼を思う気持ちは抑えられなくなっていく。
8/21 MAGI様より表紙イラストを、9/24にはMAGI様の作曲された
この小説のイメージソング「意味のない空」をいただきました。
https://www.youtube.com/watch?v=L6C92gMQ_gE
MAGI様、ありがとうございます!
イメージが広がりますので聞きながらお話を読んでくださると嬉しいです。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
『「ママは我慢してればいいんでしょ?」と娘に言われた日、私は妻をやめた』~我慢をやめた母と、崩れていく家族、そして再生~
まさき
恋愛
私はずっと「いい妻」でいようとしてきた。
夫に逆らわず、空気を読み、波風を立てないように生きる。
それが、この家を守る唯一の方法だと思っていた。
娘にも、そうであってほしかった。
けれど──
その願いは、静かに歪んでいく。
夫の言葉をなぞるように、娘は私を軽んじるようになった。
そしてある日、夕食の後片付けをしていた私に、娘は言った。
「ママはさ、我慢してればいいんでしょ?」
その一言で、何かが壊れた。
我慢することが、母である証だと思っていた。
だがそれは、私自身をすり減らすだけの“呪い”だった。
──もう、我慢するのはやめる。
妻であることをやめ、母として生き直すために。
私は、自分の人生を取り戻す決意をした。
その選択は、家族を大きく揺るがしていく。
崩れていく夫婦関係。
離れていく娘の心。
そして、待ち受ける“ざまぁ”の行方。
それでも私は問い続ける。
母とは何か。
家族とは何か。
そして──私は、どう生きるべきなのか。
別に要りませんけど?
ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」
そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。
「……別に要りませんけど?」
※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。
※なろうでも掲載中
夫は私を愛していないそうなので、遠慮なく離婚します。今さら引き止められても遅いです
藤原遊
恋愛
王妃付き護衛騎士である夫に、「お前を愛したことはない」と告げられた。
理由は単純。
愛などなくても、仕事に支障はないからだという。
──そうですか。
それなら、こちらも遠慮する必要はありませんね。
王妃の機嫌、侍女たちとの関係、贈り物の選定。
夫が「当然のように」こなしていたそれらは、すべて私が整えていたもの。
離婚後、少しずつ歯車は狂い始める。
気づいたときにはもう遅い。
積み上げてきた信用は、静かに崩れていく。
一方で私は、王妃のもとへ。
今さら引き止められても、遅いのです。