1001通目の真実 〜捨てられた王妃と、私を捨てた騎士王〜

柴田はつみ

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第七章:最後通牒

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結婚三周年の前日。
離宮の重い鉄門が、かつてないほど騒がしい音を立てて開いた。

ミリアは鏡の前で、たった一着だけ残された、汚れのない白いドレスを身にまとっていた。
顔色は青白く、頬は削げている。だが、その背筋は、これまでになく真っ直ぐに伸びている。

「お嬢様……本宮から……陛下の名代が参りました!」

サラが震える声で駆け込んできた。
ミリアは無言で立ち上がる。

――ついに、この時が来た。

三年間、一度も会いに来なかった夫。
自分の手紙を焼き、食事を奪い、孤独の底へ突き落とした男が、ようやく自分を「認識」したのだ。

応接間に立っていたのは、側近の長・バルカスだった。
彼はミリアの姿を見るなり、隠そうともせず鼻で笑う。

「これはこれは、王妃様。幽霊かと思えば、まだ息をしておられたとは」

ミリアはその侮辱を柳に風と受け流し、冷ややかな瞳で彼を射抜いた。

「……用件は何?」

「ほう、随分と威勢がよろしい。では手短に。陛下からの“贈り物”でございます」

バルカスは仰々しく、一通の書状を差し出した。
王家の黒い蝋封が押された、重々しい封筒。
かつてミリアが送り続けた青い封筒とは、あまりにも対照的だった。

震える指先を悟らせぬよう、それを受け取る。

(……陛下。最後に一度だけ、何をおっしゃるの……?)

封を切り、紙を広げる。
そこに記されていたのは、アルティスの筆で綴られた、あまりにも短い言葉だった。

『ミリア。君をこの場所に縛り続けるのは、あまりに酷だ。
自由を与える。早急にこの国を去れ。
二度と私の前に姿を見せないことが、私にできる最後の手向けだ』

「……え……?」

指から力が抜け、書状が床に落ちる。

そこにあったのは謝罪でも、説明でもない。
ただの――追放。

三年間、彼に捧げたすべてを、「酷だ」という身勝手な憐れみで切り捨てられたのだ。

「陛下は……私の顔も、見たくないと?」

「左様でございます。陛下は、あなたという存在そのものが、この国の汚点だとお考えです」

バルカスは歪んだ笑みを浮かべた。

その瞬間、ミリアの中で、何かが音を立てて弾けた。
悲しみは消え、あとに残ったのは、煮えたぎる憎悪だけ。

「……自由、ですって?」

ひび割れた笑いが、喉からこぼれる。

「私の三年間を奪い、灰にして、今さら“自由”を与える? ……ふざけないで」

床に落ちた書状を、ヒールで踏みつける。

「バルカス。陛下に伝えなさい。……ええ、去ってあげるわ。こんな腐った国、こちらから願い下げよ」

その瞳に、復讐の炎が宿る。

「でも、覚えておきなさい、アルティス。
あなたが私を捨てたことを、骨の髄まで後悔させてあげる。
死ぬ瞬間に私の名を呼び、許しを乞うまで――私は、あなたを決して許さない」

三周年を祝うはずだった離宮の庭で、
枯れ果てたリナリアの茎が、風に吹かれて虚しく折れた。

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