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第16章「庇護の腕の中で」
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アルベルトの腕の中で涙を流した夜が明けても、リリアナの胸の重さは消えなかった。
眠れぬまま迎えた朝、鏡に映る自分の目元は赤く腫れている。
(……あんな姿を公爵様に見せてしまった)
羞恥と後悔に頬が熱くなる。
けれど同時に、彼に抱きしめられ囁かれた言葉が耳から離れなかった。
「俺の隣に立つのはお前だけだ」――その響きが心を締めつけていた。
学園に着くと、やはりざわめきが起こった。
「昨日、公爵様に泣いて縋っていたんですって」
「まぁ、なんてみっともない」
「やっぱり悪役令嬢ね」
うわさは誇張され、事実は歪んで伝わっていた。
俯いた瞬間、影が差し、低い声が耳に届いた。
「下を向くな」
顔を上げれば、教室の入口に立つアルベルト。
瞬間、教室全体がざわめきに包まれた。
「公爵様が……」「リリアナ様を迎えに?」
アルベルトは無表情のまま教室に歩み入り、リリアナの机の横に立った。
「今日から、俺が送迎する。お前を一人にはしない」
ざわつきが大きくなる。
リリアナは慌てて立ち上がり、声を潜めて囁いた。
「アルベルト様……! そんなことをなさっては、また噂が……」
「構わん」
短く冷たい声音。
だがその瞳は鋭く真剣で、拒絶を許さない強さがあった。
「お前が泣くなら、俺が防ぐ。……庇護を拒むな」
リリアナの胸は大きく揺れる。
周囲の囁き声が耳を打ち、頬は熱を帯びた。
(駄目……。庇護を受け入れてしまえば、わたくしはシナリオ通りに破滅してしまう)
昼休み。
噴水のある中庭で、リリアナは必死に声を絞り出した。
「わたくしのことは……お気になさらないでください。
公爵様が庇えば庇うほど、周囲は“悪役”だと決めつけるのです」
アルベルトは腕を組み、低く返した。
「ならば全員を黙らせる。力で潰せばいい」
「そんなことをすれば、余計に……!」
言い募ろうとした瞬間、アルベルトの指先がリリアナの顎を持ち上げた。
氷のように冷たい眼差しの奥に、燃えるような光が宿っている。
「お前が俺から離れようとするから、噂が生まれる。
ならば逆だ。俺が堂々と隣にいると示せばいい」
至近距離で交わされる視線。
心臓が破裂しそうに高鳴る。
「……でも、わたくし……」
「うるさい」
ぶっきらぼうな言葉と共に、大きな掌がリリアナの頭を包む。
髪を撫でられ、息が詰まる。
「お前は黙って、守られていればいい」
その声音は冷たくもあり、どこまでも優しくもあった。
そのとき、背後から声がした。
「公爵様、リリアナ様……!」
振り返れば、ミリアが駆け寄ってきた。
大きな瞳が心配そうに揺れている。
「お二人、とてもお似合いです。どうか噂なんて気になさらないでくださいね」
その無邪気な励ましが、リリアナの胸をまた締めつけた。
(……あなたにそう言われると、余計に惨めになるの)
笑顔を作り、軽く会釈するしかなかった。
夜。
屋敷の窓辺に立ち、街の灯を見下ろす。
今日だけで何度「噂」という言葉を耳にしただろう。
それでもアルベルトの言葉が心から離れない。
「庇護を拒むな」
「お前は黙って守られていればいい」
冷たく突き放すようでいて、そこに宿る温もりが忘れられなかった。
(庇護の腕に甘えれば、確実に破滅する。
でも……心はもう、彼を求めてしまっている)
リリアナは胸に手を当て、小さく囁いた。
「……わたくしは、どうしてこんなに弱いのかしら」
その声は夜風に溶け、答えのないまま闇に消えていった。
眠れぬまま迎えた朝、鏡に映る自分の目元は赤く腫れている。
(……あんな姿を公爵様に見せてしまった)
羞恥と後悔に頬が熱くなる。
けれど同時に、彼に抱きしめられ囁かれた言葉が耳から離れなかった。
「俺の隣に立つのはお前だけだ」――その響きが心を締めつけていた。
学園に着くと、やはりざわめきが起こった。
「昨日、公爵様に泣いて縋っていたんですって」
「まぁ、なんてみっともない」
「やっぱり悪役令嬢ね」
うわさは誇張され、事実は歪んで伝わっていた。
俯いた瞬間、影が差し、低い声が耳に届いた。
「下を向くな」
顔を上げれば、教室の入口に立つアルベルト。
瞬間、教室全体がざわめきに包まれた。
「公爵様が……」「リリアナ様を迎えに?」
アルベルトは無表情のまま教室に歩み入り、リリアナの机の横に立った。
「今日から、俺が送迎する。お前を一人にはしない」
ざわつきが大きくなる。
リリアナは慌てて立ち上がり、声を潜めて囁いた。
「アルベルト様……! そんなことをなさっては、また噂が……」
「構わん」
短く冷たい声音。
だがその瞳は鋭く真剣で、拒絶を許さない強さがあった。
「お前が泣くなら、俺が防ぐ。……庇護を拒むな」
リリアナの胸は大きく揺れる。
周囲の囁き声が耳を打ち、頬は熱を帯びた。
(駄目……。庇護を受け入れてしまえば、わたくしはシナリオ通りに破滅してしまう)
昼休み。
噴水のある中庭で、リリアナは必死に声を絞り出した。
「わたくしのことは……お気になさらないでください。
公爵様が庇えば庇うほど、周囲は“悪役”だと決めつけるのです」
アルベルトは腕を組み、低く返した。
「ならば全員を黙らせる。力で潰せばいい」
「そんなことをすれば、余計に……!」
言い募ろうとした瞬間、アルベルトの指先がリリアナの顎を持ち上げた。
氷のように冷たい眼差しの奥に、燃えるような光が宿っている。
「お前が俺から離れようとするから、噂が生まれる。
ならば逆だ。俺が堂々と隣にいると示せばいい」
至近距離で交わされる視線。
心臓が破裂しそうに高鳴る。
「……でも、わたくし……」
「うるさい」
ぶっきらぼうな言葉と共に、大きな掌がリリアナの頭を包む。
髪を撫でられ、息が詰まる。
「お前は黙って、守られていればいい」
その声音は冷たくもあり、どこまでも優しくもあった。
そのとき、背後から声がした。
「公爵様、リリアナ様……!」
振り返れば、ミリアが駆け寄ってきた。
大きな瞳が心配そうに揺れている。
「お二人、とてもお似合いです。どうか噂なんて気になさらないでくださいね」
その無邪気な励ましが、リリアナの胸をまた締めつけた。
(……あなたにそう言われると、余計に惨めになるの)
笑顔を作り、軽く会釈するしかなかった。
夜。
屋敷の窓辺に立ち、街の灯を見下ろす。
今日だけで何度「噂」という言葉を耳にしただろう。
それでもアルベルトの言葉が心から離れない。
「庇護を拒むな」
「お前は黙って守られていればいい」
冷たく突き放すようでいて、そこに宿る温もりが忘れられなかった。
(庇護の腕に甘えれば、確実に破滅する。
でも……心はもう、彼を求めてしまっている)
リリアナは胸に手を当て、小さく囁いた。
「……わたくしは、どうしてこんなに弱いのかしら」
その声は夜風に溶け、答えのないまま闇に消えていった。
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