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第五章 式典の試練
しおりを挟む春の光が、式典会場の白い天幕をやわらかく照らしていた。
壇上の中央には、侯爵家と公爵家の紋章旗が並ぶ。
あの日から何度も打ち合わせを重ねたが、今日という日を迎えても胸の奥の緊張は解けない。
——この場にセリーヌが立つ。
それは予想していた。
問題は、彼女が何を言うかだ。
開会の鐘が鳴り、司会役の書記官が壇上に立つ。
次に呼ばれたのは、侯爵家代表としてのセリーヌ。
優雅な笑みを浮かべ、薄水色のドレスを揺らして登壇する。
その胸元には忘れな草のブローチ。視線が一瞬、そこに吸い寄せられた。——あれは明らかな挑発だ。
「——そして何より、本日こうして並び立つお二人が、これからも互いを支え合い、社交界に安らぎをもたらすことを願ってやみません」
会場がざわめく。
この一文は、あからさまに婚約を示唆している。
壇の脇で聞きながら、喉の奥に熱がせり上がった。
言葉を返したい衝動が走る。
だが——約束していた。
「遮らない」と。
リディアが前に出る。
背筋をまっすぐに伸ばし、マイクスタンドの前に立ったその姿を、誇りと不安が入り混じる目で見守る。
「……本日、私たちは“両家の友情”のためにここに立っています。ですが——友情と婚約は別の形です」
その声は落ち着き、会場全体に届く響きだった。
ざわめきが一層大きくなるが、彼女は怯まない。
はっきりと「婚約ではない」と否定し、この場の目的を慈善事業だと再び示した。
——見事だ。
会場の隅から父の笑い声が響く。
その瞬間、胸の奥の緊張がほどけていった。
彼女は公衆の面前で、自分を選び、そして噂を否定した。
それがどれほどの覚悟か、隣に立つ自分だからこそ分かる。
式典が終わると、セリーヌは目だけでこちらを見た。
「次は証を」とでも言いたげな、その視線に小さく頷き返す。
——構わない。
証も、形も、全部揃えてやる。
隣に立つ彼女のために。
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