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第十章:【毒の花の凋落】愛は金で買えるが、忠誠は金がなければ腐る
ミレーヌが発動した「内宮聖域なき構造改革」――通称・贅沢禁止令は、リリアーヌを物理的にも精神的にも追い詰めていた。
かつてアルフォンスが「野に咲く花のようだ」と愛でたその姿は、今や見る影もない。高級な化粧水は安物の蒸留水に取って代わられ、肌は荒れ、着古した一昨年のドレスは彼女の自尊心を削り取っていた。
「……愛さえあれば、なんて。あんなの嘘よ」
リリアーヌは王宮の片隅、掃除も行き届かない離宮の自室で、鏡の中の自分を睨んだ。
アルフォンスは軍拡計画の失敗以降、公務に忙殺される(という名のミレーヌによる再教育)日々で、彼女を顧みる余裕すらない。
そこへ、一人の男が接触を図ってきた。
隣国バルディア帝国の御用商人だと名乗る、胡散臭い笑みを浮かべた男だ。
「リリアーヌ様。お可哀想に。このような場所で朽ち果てるには、貴女様はあまりに美しい。……どうでしょう。王宮の『秘密の鍵』の写しをいただければ、貴女様の口座に、一生遊んで暮らせるだけの金貨をご用意いたしますが?」
数日後。
深夜の書庫で、震える手で宝物庫の図面を写し取っていたリリアーヌの背後に、冷ややかな影が落ちた。
「……その図面、今の市場価格では金貨一万枚といったところかしら? 貴女の価値にしては、随分と高く見積もってもらえたものですわね」
リリアーヌが悲鳴を上げて振り返ると、そこには燭台を手にしたミレーヌが、完璧な姿勢で立っていた。
「王、王妃様……! これは、その、違うんです! 私はただ……!」
「言い訳は結構ですわ。貴女が隣国のスパイと接触した瞬間から、すべての動きは把握しておりましたの。……残念ですわ、リリアーヌさん。貴女がただの『無能な愛妾』でいてくれれば、せめて食い扶持だけは保証して差し上げましたのに」
ミレーヌは冷徹に、一歩、また一歩とリリアーヌを追い詰める。
「国家反逆罪。これこそが貴女が最後に手に入れた『系譜』の肩書きですわ。殿下がこれを教えられた時、どのような顔をなさるかしら? 自分が愛した女が、自分の国を売ろうとした。……その滑稽な悲劇の幕引きを、特等席で見せて差し上げますわ」
「助けて、助けてください! 殿下を愛していたんです! お金が、ただ、お金が必要だっただけで……!」
床に縋り付くリリアーヌを、ミレーヌは扇で軽く制した。
「愛? 貴女が愛していたのは、殿下が提供する『特権』という名の温室でしょう。根の腐った野の花は、もはや引き抜くしかありませんの。……衛兵。この者を地下牢へ。殿下への報告は、明朝の『朝食会』にて、最高のデザートとしてお出ししますわ」
リリアーヌが引きずられていく廊下に、ミレーヌの冷たい笑い声が、シャンデリアの結晶のように鋭く響いた。
かつてアルフォンスが「野に咲く花のようだ」と愛でたその姿は、今や見る影もない。高級な化粧水は安物の蒸留水に取って代わられ、肌は荒れ、着古した一昨年のドレスは彼女の自尊心を削り取っていた。
「……愛さえあれば、なんて。あんなの嘘よ」
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「リリアーヌ様。お可哀想に。このような場所で朽ち果てるには、貴女様はあまりに美しい。……どうでしょう。王宮の『秘密の鍵』の写しをいただければ、貴女様の口座に、一生遊んで暮らせるだけの金貨をご用意いたしますが?」
数日後。
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「……その図面、今の市場価格では金貨一万枚といったところかしら? 貴女の価値にしては、随分と高く見積もってもらえたものですわね」
リリアーヌが悲鳴を上げて振り返ると、そこには燭台を手にしたミレーヌが、完璧な姿勢で立っていた。
「王、王妃様……! これは、その、違うんです! 私はただ……!」
「言い訳は結構ですわ。貴女が隣国のスパイと接触した瞬間から、すべての動きは把握しておりましたの。……残念ですわ、リリアーヌさん。貴女がただの『無能な愛妾』でいてくれれば、せめて食い扶持だけは保証して差し上げましたのに」
ミレーヌは冷徹に、一歩、また一歩とリリアーヌを追い詰める。
「国家反逆罪。これこそが貴女が最後に手に入れた『系譜』の肩書きですわ。殿下がこれを教えられた時、どのような顔をなさるかしら? 自分が愛した女が、自分の国を売ろうとした。……その滑稽な悲劇の幕引きを、特等席で見せて差し上げますわ」
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