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第23章「廃階段の足音(影の通り道)」
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別邸への出立は、
あと数時間に迫っていた。
なのに、屋敷には
異様な緊張が張り詰めている。
廊下を歩く使用人たちは、
皆どこか怯えた顔をしていた。
(……昨夜の影が……
まだどこかに……いる)
シャルロットは歩きながら、
心臓を押さえた。
カルロスは彼女の隣にいた。
触れない距離で。
けれど、
“守る位置”に確実に立っていた。
(触れてくださらないのに……
誰よりも近くにいる……)
その矛盾が
胸にぼんやりと温かく、そして痛い。
廊下の角を曲がった時だった。
――コンコン……
階下から、乾いた“足音”がした。
シャルロットは足を止めた。
「今の音……?」
カルロスも眉を寄せる。
「聞こえたな」
その方向は、
東棟のさらに奥――
“使用禁止になった廃階段” のほう。
(あそこは……
前妻エリザベラ様が亡くなった夜、
唯一立ち入り禁止になった場所……)
シャルロットは身震いした。
カルロスはすぐに剣を抜いた。
「シャルロット、後ろに」
「で、でも……カルロス様……」
「いいから」
声が強いのに、優しい。
(心配してくださっている……
なのに……触れられない……)
胸が熱くなる。
影の気配を感じながら、
二人はゆっくり階下へ向かった。
廃階段の前は、薄暗かった。
使用人が誰も近づかないせいで
埃が積もり、
壁のランプはかすかにしか灯っていない。
ふとシャルロットの目に入った。
――階段の上に、
“足跡”があった。
細い女性の靴跡。
(誰か……ここを通った……?
こんな埃だらけの場所を……靴跡が……)
一段目。
二段目。
上へ続いている。
カルロスも気づき、
顔を硬くする。
「……ここには誰も入れないはずだ。
鍵も、俺と執事長しか持っていない」
「では……
鍵を開けたのは……?」
シャルロットの声が震える。
カルロスは階段に目を凝らす。
「……靴跡は……
一度“上へ行き”、
その後“戻って来ている”」
確かに。
上へ向かう足跡と、
下へ戻る足跡。
(影は……
ここを通った……?
昨夜の後……?)
シャルロットは階段の先を見上げた。
暗い闇が続く。
風も、音も、何もないのに――
ひどく冷たい。
その時。
――コツ、コツ。
上の階から、
また“足音”がした。
シャルロットの肩が跳ねる。
(いる……
まだ……上にいる……!)
カルロスは剣を構え、
シャルロットを背に庇った。
「シャルロット、絶対にここから動くな」
「で、でも……カルロスさま一人では……!」
「いいから!」
言い方は強い。
けれど、震えていた。
(怖いのは……わたくしではなく……
わたくしを失うこと……?)
シャルロットは胸に手を当てた。
その時、
階段の上の暗闇が――
ふっと揺れた。
影だ。
細い影が、
階段の途中に立っていた。
(っ……!)
月明かりもないはずなのに、
影の“髪の長さ”まで分かるほど
輪郭がはっきりしている。
シャルロットは声を失いかけた。
(この影は……昨日の……!)
影は動かない。
ただ、こちらを見ている。
カルロスが剣を構えた。
「出てこい……!」
影は返事の代わりに
――すうっ……
ひとつ段を降りた。
シャルロットは思わずカルロスの袖を掴んだ。
「来る……来ています……!」
カルロスは驚いて
一瞬シャルロットを見た。
(……袖……
初めて……触れた……)
シャルロットが触れたのは、
彼の服の端。
それだけなのに、
カルロスの表情が一瞬だけ柔らかくなった。
だがすぐに影へ目を戻す。
影は階段の中央まで降り、
うっすらと首を傾けた。
ふふ……
今度ははっきり笑った。
シャルロットは膝から力が抜けた。
(わたくしを……誘っている……?
階段の上へ……?
あの“死んだはずの階”へ……?)
影は
“おいで”
とでも言うように
指先だけ動かした。
カルロスは怒りと恐怖を押し殺し、
低く叫ぶ。
「シャルロットから離れろ……!!」
その瞬間――
影は消えた。
階段の上へ、
影だけ残して。
シャルロットは震えながら言った。
「影は……階段の上へ……
行きました……
あの……前妻様が……亡くなられた場所へ……」
カルロスは唇を強く噛みしめた。
「……シャルロット。
“廃階段”は――
エリザベラが死んだ夜、
唯一“証拠”が残った場所だ」
「証拠……?」
シャルロットが問い返した瞬間、
廃階段の上の暗闇で、
誰かがひとつ
“足を踏み外す音”が響いた。
ガタンッ――。
シャルロットは悲鳴を上げた。
カルロスが叫ぶ。
「シャルロット、目を閉じろ!!」
暗闇の中。
影は、
まるでエリザベラが死んだ夜を再現するように
ゆっくり立ち尽くしていた。
そして――
その姿が消える寸前、
はっきりとこちらを見た。
その瞳は、
シャルロットではなく
**“カルロス”**を見ていた。
まるで
「あなたを迎えに来たわ」
と言うように。
廊下に、
白百合の香りが満ちる。
影は、
廃階段の奥へと
完全に姿を消した。
ーーシャルロットの手は、
まだカルロスの袖を掴んでいた。
カルロスはその手に触れられないまま、
言った。
「……あいつは……
俺たちを廃階段へ誘っている……
“あの夜の真相”へ……」
シャルロットは小さく震えながら言う。
「わたくし……
怖いです……カルロスさま……」
カルロスはその言葉に苦しみ、
触れられない手を握りしめた。
「……大丈夫だ。
必ず守る。
シャルロットだけは……絶対に」
廃階段には、
まだ“足音”の残響が
ゆっくり、ゆっくり残っていた。
まるで、影が
二人を上へと誘い続けているかのように。
あと数時間に迫っていた。
なのに、屋敷には
異様な緊張が張り詰めている。
廊下を歩く使用人たちは、
皆どこか怯えた顔をしていた。
(……昨夜の影が……
まだどこかに……いる)
シャルロットは歩きながら、
心臓を押さえた。
カルロスは彼女の隣にいた。
触れない距離で。
けれど、
“守る位置”に確実に立っていた。
(触れてくださらないのに……
誰よりも近くにいる……)
その矛盾が
胸にぼんやりと温かく、そして痛い。
廊下の角を曲がった時だった。
――コンコン……
階下から、乾いた“足音”がした。
シャルロットは足を止めた。
「今の音……?」
カルロスも眉を寄せる。
「聞こえたな」
その方向は、
東棟のさらに奥――
“使用禁止になった廃階段” のほう。
(あそこは……
前妻エリザベラ様が亡くなった夜、
唯一立ち入り禁止になった場所……)
シャルロットは身震いした。
カルロスはすぐに剣を抜いた。
「シャルロット、後ろに」
「で、でも……カルロス様……」
「いいから」
声が強いのに、優しい。
(心配してくださっている……
なのに……触れられない……)
胸が熱くなる。
影の気配を感じながら、
二人はゆっくり階下へ向かった。
廃階段の前は、薄暗かった。
使用人が誰も近づかないせいで
埃が積もり、
壁のランプはかすかにしか灯っていない。
ふとシャルロットの目に入った。
――階段の上に、
“足跡”があった。
細い女性の靴跡。
(誰か……ここを通った……?
こんな埃だらけの場所を……靴跡が……)
一段目。
二段目。
上へ続いている。
カルロスも気づき、
顔を硬くする。
「……ここには誰も入れないはずだ。
鍵も、俺と執事長しか持っていない」
「では……
鍵を開けたのは……?」
シャルロットの声が震える。
カルロスは階段に目を凝らす。
「……靴跡は……
一度“上へ行き”、
その後“戻って来ている”」
確かに。
上へ向かう足跡と、
下へ戻る足跡。
(影は……
ここを通った……?
昨夜の後……?)
シャルロットは階段の先を見上げた。
暗い闇が続く。
風も、音も、何もないのに――
ひどく冷たい。
その時。
――コツ、コツ。
上の階から、
また“足音”がした。
シャルロットの肩が跳ねる。
(いる……
まだ……上にいる……!)
カルロスは剣を構え、
シャルロットを背に庇った。
「シャルロット、絶対にここから動くな」
「で、でも……カルロスさま一人では……!」
「いいから!」
言い方は強い。
けれど、震えていた。
(怖いのは……わたくしではなく……
わたくしを失うこと……?)
シャルロットは胸に手を当てた。
その時、
階段の上の暗闇が――
ふっと揺れた。
影だ。
細い影が、
階段の途中に立っていた。
(っ……!)
月明かりもないはずなのに、
影の“髪の長さ”まで分かるほど
輪郭がはっきりしている。
シャルロットは声を失いかけた。
(この影は……昨日の……!)
影は動かない。
ただ、こちらを見ている。
カルロスが剣を構えた。
「出てこい……!」
影は返事の代わりに
――すうっ……
ひとつ段を降りた。
シャルロットは思わずカルロスの袖を掴んだ。
「来る……来ています……!」
カルロスは驚いて
一瞬シャルロットを見た。
(……袖……
初めて……触れた……)
シャルロットが触れたのは、
彼の服の端。
それだけなのに、
カルロスの表情が一瞬だけ柔らかくなった。
だがすぐに影へ目を戻す。
影は階段の中央まで降り、
うっすらと首を傾けた。
ふふ……
今度ははっきり笑った。
シャルロットは膝から力が抜けた。
(わたくしを……誘っている……?
階段の上へ……?
あの“死んだはずの階”へ……?)
影は
“おいで”
とでも言うように
指先だけ動かした。
カルロスは怒りと恐怖を押し殺し、
低く叫ぶ。
「シャルロットから離れろ……!!」
その瞬間――
影は消えた。
階段の上へ、
影だけ残して。
シャルロットは震えながら言った。
「影は……階段の上へ……
行きました……
あの……前妻様が……亡くなられた場所へ……」
カルロスは唇を強く噛みしめた。
「……シャルロット。
“廃階段”は――
エリザベラが死んだ夜、
唯一“証拠”が残った場所だ」
「証拠……?」
シャルロットが問い返した瞬間、
廃階段の上の暗闇で、
誰かがひとつ
“足を踏み外す音”が響いた。
ガタンッ――。
シャルロットは悲鳴を上げた。
カルロスが叫ぶ。
「シャルロット、目を閉じろ!!」
暗闇の中。
影は、
まるでエリザベラが死んだ夜を再現するように
ゆっくり立ち尽くしていた。
そして――
その姿が消える寸前、
はっきりとこちらを見た。
その瞳は、
シャルロットではなく
**“カルロス”**を見ていた。
まるで
「あなたを迎えに来たわ」
と言うように。
廊下に、
白百合の香りが満ちる。
影は、
廃階段の奥へと
完全に姿を消した。
ーーシャルロットの手は、
まだカルロスの袖を掴んでいた。
カルロスはその手に触れられないまま、
言った。
「……あいつは……
俺たちを廃階段へ誘っている……
“あの夜の真相”へ……」
シャルロットは小さく震えながら言う。
「わたくし……
怖いです……カルロスさま……」
カルロスはその言葉に苦しみ、
触れられない手を握りしめた。
「……大丈夫だ。
必ず守る。
シャルロットだけは……絶対に」
廃階段には、
まだ“足音”の残響が
ゆっくり、ゆっくり残っていた。
まるで、影が
二人を上へと誘い続けているかのように。
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