33 / 49
第34章「白百合の刃(夫の崩れる瞬間)」
しおりを挟む
カルロスの胸を貫いた白百合の刃が
空気に溶けるように消えていった瞬間、
シャルロットは泣き叫びながら彼の身体を抱きとめた。
「カルロス様!!
しっかり……しっかりしてください……!」
カルロスの身体は重く、
いつもの温度とは違う冷たさを帯びていた。
(だめ……
公爵さまの……温度が……)
彼の手は、
白く、薄く、
まるで血の気を失った花弁のように冷たい。
胸元には淡い白い痕が残り、
そこからじわじわと色が抜けていく。
「……シャルロット……」
カルロスは力を振り絞り、
シャルロットの顔にかすかに触れた。
触れた瞬間、
彼の体がびくりと震え、
さらに痛みが走ったようだった。
(わたくしに触れるだけで……
こんなにも……)
シャルロットの胸は張り裂けそうだった。
「だめです……
触れては……!」
「触れないと……
お前が……泣く……だろう……」
声は途切れ途切れで、
呼吸も荒い。
シャルロットの頬を伝う涙に、
カルロスの指が震えながら触れた。
そのたびに彼の顔がさらに苦しげに歪む。
影の呪い——
“触れた者の痛みを引き受ける呪い”。
カルロスはそれを、
エリザベラに気づかれないよう隠し、
シャルロットにも隠し続けてきた。
影の刃の痛み……
シャルロットの苦しみ……
すべて、彼の身体が引き受けている。
(こんなの……
公爵さま一人が背負っていいものではない……)
シャルロットは震える唇を噛んだ。
その時だった。
――「ねえ」
影の声が、
部屋の奥から響いた。
白い花が一斉に散り、
影がふわりと形を取る。
ミレイユの姿が、
薄い光の中にゆらりと浮かび上がった。
白いナイトドレスの裾が、
風もないのに揺れる。
瞳は闇を映す鏡のよう。
しかしその顔は——
シャルロットの顔と酷似していた。
(あなたは……
わたくしに……似すぎている……)
シャルロットの喉が締めつけられる。
影は笑った。
――「はじめて見たわ……
こんなに“倒れた”公爵様」
――「触れたからよ。
あなたに、ね」
シャルロットは震える声で問いつめる。
「どうして……
どうして公爵さまを……?」
影の瞳が細められる。
――「返してほしいだけ」
――「“わたしの席”を」
シャルロットは胸に手を当てた。
(妻の席……
わたくしの席……
本来……ミレイユのもの……と……?)
影は続ける。
――「あなたが愛されているのが許せないの。
だって……
あなたは“わたしの代わり”なんだから」
シャルロットは息が止まる。
(代わり……
わたくしが……?)
カルロスが苦しげに言う。
「……シャルロットは……
誰の代わりでもない……
俺の……妻だ……」
その言葉に、
影の顔が初めて歪んだ。
――「どうして……
どうして“わたし”ではないの……?」
影は、
自分でも知らなかった痛みを噛みしめたように震える。
――「わたしは……
あなたのための影として……
作られたのよ……?」
――「それなのに……
本物はシャルロットだなんて……」
影の声が震えている。
怒りではなく——
悲しみで。
シャルロットは気づく。
(この娘は……
愛されなかった影……
愛されるはずのなかった娘……)
「ミレイユ……」
シャルロットが一歩前へ出た瞬間。
――「来ないで!!!!」
影の叫びが轟き、
白百合の花が破裂するように散った。
カルロスの身体が、
さらに激しく震えた。
シャルロットはすぐさま抱き寄せた。
「公爵さま……!
どうか……どうか……!」
影の声が、
白い花の嵐の中で囁く。
――「いいわ。
今日のところは……
“代償”だけで許してあげる」
――「でもその代わり……
あなたの夫は、
もうすぐ“動けなくなる”」
シャルロットは叫ぶ。
「やめて!!!
どうか……!」
影は悲しげに微笑む。
――「だって……
壊れてほしいのよ。
あなたを選んだ罰として」
白百合の香りが濃く渦巻き、
影は完全に姿を消した。
静寂だけが残る。
シャルロットは涙で滲む視界の中、
カルロスの顔を覗き込んだ。
「カルロス様……
どうか……目を開けて……
わたくしの声が……聞こえますか……?」
カルロスは微かにまぶたを震わせた。
「……シャル……ロ……ット……
……ま……も……」
その言葉の途中で、
彼の意識は途切れた。
シャルロットは抱きしめたまま、
崩れ落ちた。
(わたくしが……
守らなくては……
公爵さまを……
この影から……)
その手はまだ冷たく、
奪われた温度は戻らなかった。
しかしシャルロットの瞳には、
影より濃い決意が宿っていた。
——今度は、わたくしがあなたを守ります。
空気に溶けるように消えていった瞬間、
シャルロットは泣き叫びながら彼の身体を抱きとめた。
「カルロス様!!
しっかり……しっかりしてください……!」
カルロスの身体は重く、
いつもの温度とは違う冷たさを帯びていた。
(だめ……
公爵さまの……温度が……)
彼の手は、
白く、薄く、
まるで血の気を失った花弁のように冷たい。
胸元には淡い白い痕が残り、
そこからじわじわと色が抜けていく。
「……シャルロット……」
カルロスは力を振り絞り、
シャルロットの顔にかすかに触れた。
触れた瞬間、
彼の体がびくりと震え、
さらに痛みが走ったようだった。
(わたくしに触れるだけで……
こんなにも……)
シャルロットの胸は張り裂けそうだった。
「だめです……
触れては……!」
「触れないと……
お前が……泣く……だろう……」
声は途切れ途切れで、
呼吸も荒い。
シャルロットの頬を伝う涙に、
カルロスの指が震えながら触れた。
そのたびに彼の顔がさらに苦しげに歪む。
影の呪い——
“触れた者の痛みを引き受ける呪い”。
カルロスはそれを、
エリザベラに気づかれないよう隠し、
シャルロットにも隠し続けてきた。
影の刃の痛み……
シャルロットの苦しみ……
すべて、彼の身体が引き受けている。
(こんなの……
公爵さま一人が背負っていいものではない……)
シャルロットは震える唇を噛んだ。
その時だった。
――「ねえ」
影の声が、
部屋の奥から響いた。
白い花が一斉に散り、
影がふわりと形を取る。
ミレイユの姿が、
薄い光の中にゆらりと浮かび上がった。
白いナイトドレスの裾が、
風もないのに揺れる。
瞳は闇を映す鏡のよう。
しかしその顔は——
シャルロットの顔と酷似していた。
(あなたは……
わたくしに……似すぎている……)
シャルロットの喉が締めつけられる。
影は笑った。
――「はじめて見たわ……
こんなに“倒れた”公爵様」
――「触れたからよ。
あなたに、ね」
シャルロットは震える声で問いつめる。
「どうして……
どうして公爵さまを……?」
影の瞳が細められる。
――「返してほしいだけ」
――「“わたしの席”を」
シャルロットは胸に手を当てた。
(妻の席……
わたくしの席……
本来……ミレイユのもの……と……?)
影は続ける。
――「あなたが愛されているのが許せないの。
だって……
あなたは“わたしの代わり”なんだから」
シャルロットは息が止まる。
(代わり……
わたくしが……?)
カルロスが苦しげに言う。
「……シャルロットは……
誰の代わりでもない……
俺の……妻だ……」
その言葉に、
影の顔が初めて歪んだ。
――「どうして……
どうして“わたし”ではないの……?」
影は、
自分でも知らなかった痛みを噛みしめたように震える。
――「わたしは……
あなたのための影として……
作られたのよ……?」
――「それなのに……
本物はシャルロットだなんて……」
影の声が震えている。
怒りではなく——
悲しみで。
シャルロットは気づく。
(この娘は……
愛されなかった影……
愛されるはずのなかった娘……)
「ミレイユ……」
シャルロットが一歩前へ出た瞬間。
――「来ないで!!!!」
影の叫びが轟き、
白百合の花が破裂するように散った。
カルロスの身体が、
さらに激しく震えた。
シャルロットはすぐさま抱き寄せた。
「公爵さま……!
どうか……どうか……!」
影の声が、
白い花の嵐の中で囁く。
――「いいわ。
今日のところは……
“代償”だけで許してあげる」
――「でもその代わり……
あなたの夫は、
もうすぐ“動けなくなる”」
シャルロットは叫ぶ。
「やめて!!!
どうか……!」
影は悲しげに微笑む。
――「だって……
壊れてほしいのよ。
あなたを選んだ罰として」
白百合の香りが濃く渦巻き、
影は完全に姿を消した。
静寂だけが残る。
シャルロットは涙で滲む視界の中、
カルロスの顔を覗き込んだ。
「カルロス様……
どうか……目を開けて……
わたくしの声が……聞こえますか……?」
カルロスは微かにまぶたを震わせた。
「……シャル……ロ……ット……
……ま……も……」
その言葉の途中で、
彼の意識は途切れた。
シャルロットは抱きしめたまま、
崩れ落ちた。
(わたくしが……
守らなくては……
公爵さまを……
この影から……)
その手はまだ冷たく、
奪われた温度は戻らなかった。
しかしシャルロットの瞳には、
影より濃い決意が宿っていた。
——今度は、わたくしがあなたを守ります。
35
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
【3月中――完結!】
積み上がった伏線の回収目前!!
夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。
長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。
待っていたのは、凍てつく絶望。
けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。
「夫は愛人と生きればいい。
今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」
それでも私は誓う――
「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」
歪で、完全な幸福――それとも、破滅。
“石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。
【完結】愛していないと王子が言った
miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。
「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」
ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。
※合わない場合はそっ閉じお願いします。
※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。
私と幼馴染と十年間の婚約者
川村 あかり
恋愛
公爵令嬢ロゼリアは、王子アルベルトとの婚約を結んでいるが、彼の心は無自覚に幼馴染のミナに奪われていた。ミナの魔法【魅了】が無意識に周りの男性を狂わせ、アルベルトもその例外ではない。
それぞれが生まれつき得意な魔法があり、ロゼリアは見たものや聞いたものを完璧に記録できる【記録・再生】の魔法を持ち、二人の関係に耐えきれず胃の痛みに悩む日々。そんな中、彼女の唯一の理解者の冷静沈着なキースや毒舌のマリーが心の支えとなる。
アルベルトの側近であるガストンは、魔法【増幅】で騒動を盛り上げる一方、ミナの友人リリィは【幻影】の魔法を使ってロゼリアを貶めようと画策する。
婚約者と幼馴染の行動に振り回されるロゼリア。魔法が絡んだ恋愛模様の中で、彼女は本当の愛を見つけられるのか?
さようなら、私の初恋
しょくぱん
恋愛
「さよなら、私の初恋。……もう、全部お返しします」
物心ついた時から、彼だけが世界のすべてだった。 幼馴染の騎士団長・レオンに捧げた、十数年の純粋な初恋。 彼が「無敵」でいられたのは、アリアが無自覚に与え続けた『治癒の加護』があったから。
だが婚約直前、アリアは知ってしまう。 彼にとって自分は、仲間内で競い合う「賭けの対象」でしかなかったことを。
「あんな女、落とすまでのゲームだよ」
悪女の最後の手紙
新川 さとし
恋愛
王国を揺るがす地震が続く中、王子の隣に立っていたのは、婚約者ではなかった。
人々から「悪女」と呼ばれた、ひとりの少女。
彼女は笑い、奪い、好き勝手に振る舞っているように見えた。
婚約者である令嬢は、ただ黙って、その光景を見つめるしかなかった。
理由も知らされないまま、少しずつ立場を奪われ、周囲の視線と噂に耐えながら。
やがて地震は収まり、王国には安堵が訪れる。
――その直後、一通の手紙が届く。
それは、世界の見え方を、静かに反転させる手紙だった。
悪女と呼ばれた少女が、誰にも知られぬまま選び取った「最後の選択」を描いた物語。
表紙の作成と、文章の校正にAIを利用しています。
白い結婚は終わりました。――崩れない家を築くまで
しおしお
恋愛
「干渉しないでくださいませ。その代わり、私も干渉いたしません」
崩れかけた侯爵家に嫁いだ私は、夫と“白い結婚”を結んだ。
助けない。口を出さない。責任は当主が負う――それが条件。
焦りと慢心から無謀な契約を重ね、家を傾かせていく夫。
私は隣に立ちながら、ただ見ているだけ。
放置された結果、彼は初めて自分の判断と向き合うことになる。
そして――
一度崩れかけた侯爵家は、「選び直す力」を手に入れた。
無理な拡張はしない。
甘い条件には飛びつかない。
不利な契約は、きっぱり拒絶する。
やがてその姿勢は王宮にも波及し、
高利契約に歪められた制度そのものを立て直すことに――。
ざまあは派手ではない。
けれど確実。
焦らせた者も、慢心した者も、
気づけば“選ばれない側”になっている。
これは、干渉しない約束から始まる静かな逆転劇。
そして、白い結婚を終え、信頼で立つ家へと変わっていく物語。
隣に立つという選択こそが、最大のざまあでした。
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?
綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。
相手はとある貴族のご令嬢。
確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。
別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。
何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?
七年目の裏切り 〜赴任先の夫から届く愛の手紙は、愛人の代筆でした〜
恋せよ恋
恋愛
「君は僕の最愛だ。もう二度と、君を危険に晒したくない」
命懸けの出産後、涙を流して私を抱きしめた夫ジュリアン。
その言葉通り、彼は「私を大切にするため」に夜の営みを断った。
私は、女としての寂しさを「愛されている誇り」に変え、
隣国へ赴任した夫を信じて二人の子供と家を守り続けていた。
毎週届く、情熱的な愛の手紙。タイプライターで綴られた
その愛の言葉を、私は宝物のように抱きしめていた。
……しかし、その手紙は「裏切り」だった。
夫が異国の地で、愛人と肌を重ねながら綴らせていた「偽りの愛」。
身分を隠して夫の赴任先の隣国へと向かった私が見たのは……。
果たして、貞淑な妻・メラニアが選んだ結論は……。
子供たちのため結婚生活の継続か、それとも……。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる