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第十三章 婚約の発表と、孤独な反撃
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数日後、社交界は一つの報せで騒然となった。
――クリス公爵と、アメリア伯爵令嬢の正式な婚約発表。
公爵家はこの縁談を大々的に公表し、二人の幸福な未来を揺るぎないものとして保証した。
その知らせは、当然のように、リリー夫人の耳にも届いた。
そして――
その報を、誰よりも勝利として受け取ったのは、カイル侯爵だった。
「見たか、リリアーヌ!
あのクリスは、完全に君を諦めたのだ!」
陶酔した声で、カイルはリリーの手を強く握る。
「君が私を選んだのだから、当然の結果だ。
君の愛が、あの男を追い払ったのだよ」
その指先は、熱を帯びているのに、
リリーには、氷のように冷たく感じられた。
それでも彼女は、心の奥で、深く息をついた。
(……クリストファー様。良かった)
(これで、あなたは――
清らかな光の道を、迷うことなく歩める)
リリーにとって、クリスの婚約は、
彼への想いを断ち切り、公爵としての未来を守りきったという、
最終的な成功を意味していた。
自分は「氷の檻」に囚われた。
けれど、愛する人の未来は守られた――
そう、信じようとした。
だが、その安堵の裏側で、
彼女の心は、愛する人を永久に失った深い孤独へと沈んでいった。
婚約発表を境に、
カイル侯爵は侯爵家内部での権力をさらに強め、
公爵家からの介入を、露骨に拒絶する姿勢を見せ始めた。
彼は、リリーの**「愛の告白(演技)」**を盾に、
傲慢さを増し、
彼女の行動、言葉、交友関係――
そのすべてを、執拗に監視するようになった。
リリーは悟る。
(このままでは……
私は永遠に、カイル様の支配の中に閉じ込められる)
クリスの未来を守るための献身は、すでに果たした。
だが、彼女自身の解放は、まだ何一つ成されていない。
(このままでは、
私はいつか正気を失ってしまう)
リリーは、誰にも知られぬまま、
孤独な反撃を開始した。
彼女が目を向けたのは、
侯爵家の財務資料――
そして、カイルが過去に関与したとされる
**「公金横領疑惑」**に繋がる、微かな痕跡だった。
それはかつて、
クリスがカイルを排除するために掴もうとした、同じ疑惑。
もし、この事実を自分の手で表に引きずり出すことができれば――
カイルは外部への警戒に追われ、
自分への監視を緩めざるを得なくなる。
それは、
侯爵家から離れるための、
たった一筋の道になるかもしれなかった。
夜更け。
カイルが眠りについた後、
リリーは秘密の引き出しを開けた。
そこには、
クリスからの手紙と、
ライラックのブローチが静かに横たわっている。
「……クリストファー様」
小さく呟き、彼女はブローチを手に取った。
「あなたは、本当に……
私を嫌いになったのですね」
自分の拒絶を、
心からのものだと、疑いもせず信じて。
彼がアメリア令嬢を選んだのは、
自分の「献身」が実を結んだから――
そう理解していながらも、
完全に切り捨てられたという事実が、胸を締めつけた。
リリーは、ブローチをガウンの裏地から外す。
そして裏側――
クリスのイニシャルが刻まれた部分に、
細工用の針で、ごく小さな印を刻んだ。
それは、
**「私はここにいる、助けて」**という合図ではない。
それは、
「この愛は、過去のものとなった」
そう、自分自身に言い聞かせるための、静かな儀式だった。
リリーは、
クリスとの愛に、完全に蓋をした。
そして――
カイルとの戦い、
すなわち **「自らの解放」**という孤独な戦いへと、
静かに、しかし決然と歩み出す。
その瞳には、
愛を失った女の哀しみと、
生き残るために剣を取った者の、冷たい決意が宿っていた。
――クリス公爵と、アメリア伯爵令嬢の正式な婚約発表。
公爵家はこの縁談を大々的に公表し、二人の幸福な未来を揺るぎないものとして保証した。
その知らせは、当然のように、リリー夫人の耳にも届いた。
そして――
その報を、誰よりも勝利として受け取ったのは、カイル侯爵だった。
「見たか、リリアーヌ!
あのクリスは、完全に君を諦めたのだ!」
陶酔した声で、カイルはリリーの手を強く握る。
「君が私を選んだのだから、当然の結果だ。
君の愛が、あの男を追い払ったのだよ」
その指先は、熱を帯びているのに、
リリーには、氷のように冷たく感じられた。
それでも彼女は、心の奥で、深く息をついた。
(……クリストファー様。良かった)
(これで、あなたは――
清らかな光の道を、迷うことなく歩める)
リリーにとって、クリスの婚約は、
彼への想いを断ち切り、公爵としての未来を守りきったという、
最終的な成功を意味していた。
自分は「氷の檻」に囚われた。
けれど、愛する人の未来は守られた――
そう、信じようとした。
だが、その安堵の裏側で、
彼女の心は、愛する人を永久に失った深い孤独へと沈んでいった。
婚約発表を境に、
カイル侯爵は侯爵家内部での権力をさらに強め、
公爵家からの介入を、露骨に拒絶する姿勢を見せ始めた。
彼は、リリーの**「愛の告白(演技)」**を盾に、
傲慢さを増し、
彼女の行動、言葉、交友関係――
そのすべてを、執拗に監視するようになった。
リリーは悟る。
(このままでは……
私は永遠に、カイル様の支配の中に閉じ込められる)
クリスの未来を守るための献身は、すでに果たした。
だが、彼女自身の解放は、まだ何一つ成されていない。
(このままでは、
私はいつか正気を失ってしまう)
リリーは、誰にも知られぬまま、
孤独な反撃を開始した。
彼女が目を向けたのは、
侯爵家の財務資料――
そして、カイルが過去に関与したとされる
**「公金横領疑惑」**に繋がる、微かな痕跡だった。
それはかつて、
クリスがカイルを排除するために掴もうとした、同じ疑惑。
もし、この事実を自分の手で表に引きずり出すことができれば――
カイルは外部への警戒に追われ、
自分への監視を緩めざるを得なくなる。
それは、
侯爵家から離れるための、
たった一筋の道になるかもしれなかった。
夜更け。
カイルが眠りについた後、
リリーは秘密の引き出しを開けた。
そこには、
クリスからの手紙と、
ライラックのブローチが静かに横たわっている。
「……クリストファー様」
小さく呟き、彼女はブローチを手に取った。
「あなたは、本当に……
私を嫌いになったのですね」
自分の拒絶を、
心からのものだと、疑いもせず信じて。
彼がアメリア令嬢を選んだのは、
自分の「献身」が実を結んだから――
そう理解していながらも、
完全に切り捨てられたという事実が、胸を締めつけた。
リリーは、ブローチをガウンの裏地から外す。
そして裏側――
クリスのイニシャルが刻まれた部分に、
細工用の針で、ごく小さな印を刻んだ。
それは、
**「私はここにいる、助けて」**という合図ではない。
それは、
「この愛は、過去のものとなった」
そう、自分自身に言い聞かせるための、静かな儀式だった。
リリーは、
クリスとの愛に、完全に蓋をした。
そして――
カイルとの戦い、
すなわち **「自らの解放」**という孤独な戦いへと、
静かに、しかし決然と歩み出す。
その瞳には、
愛を失った女の哀しみと、
生き残るために剣を取った者の、冷たい決意が宿っていた。
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