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第二十一章 暁の突入と、血塗られた真実
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深夜の侯爵邸。
静寂を切り裂くように、正面門を突破する激しい蹄の音が鳴り響いた。
「クリス公爵! 何をなさる――ここは侯爵家の私邸ですぞ!」
制止しようと駆け寄る護衛兵たちに、クリスは一瞥すらくれない。
軍人として培われた威圧感と、愛する者を奪われた怒りが、彼を鬼神のごとき存在へと変えていた。
「退け」
低く、しかし有無を言わせぬ声。
「カイル侯爵が、私の知人を不当に拘束している疑いがある。
公爵の名において――邸内を検分する」
剣の柄に手をかけたまま、クリスは正面玄関を踏み破る。
脳裏に響き続けるのは、密偵の報告にあった、忌まわしい一語。
――地下室。
一方、冷たく湿った地下牢。
薄暗い灯りの下で、リリーはカイルと対峙していた。
カイルは床に膝をつき、彼女の足首に重い鎖をかけようとしている。
「これでいい……」
恍惚とした声音で囁く。
「リリアーヌ、君はもう外の世界を見る必要はない。私の罪も、汚れも……すべて、この闇の中で私と分かち合うんだ」
その瞳は完全に濁り、現実ではなく、自らの幻想だけを映していた。
リリーの胸に湧いたのは、恐怖よりも――深い、どうしようもない悲しみ。
「カイル様……」
震える声で言う。
「そんなことをしても、あなたは救われません……」
その瞬間。
地下室の厚い鉄扉が、内側から叩き壊されるような轟音と共に吹き飛んだ。
「――そこまでだ、カイル・ヴァン・ハワード!」
土煙の中から現れたのは、煤と汗にまみれ、剥き出しの殺気を放つクリス公爵だった。
「……クリストファー様?」
リリーは、信じられない思いでその姿を見つめる。
「来るな!」
カイルは叫び、リリーを力任せに引き寄せる。
隠し持っていた短剣が、彼女の喉元に突きつけられた。
「公爵! 君はまたしても私から奪うつもりか!
私の妻を……私の救いを!」
「救いだと?」
クリスの声が、氷のように冷えた。
「彼女を檻に閉じ込め、恐怖で縛ることが――貴様の救いか!」
剣を抜かぬまま、クリスは一歩、また一歩と近づく。
短剣の先がリリーの白い肌をかすめ、細い赤が滲んだ。
その瞬間。
クリスの瞳に、戦場ですら見せなかった凍りつく怒りが宿る。
「カイル。貴様の不正は、すでに私の手が洗い出している」
断罪の声。
「エリアナも、証言を承諾した。これ以上彼女に触れれば――
貴様に残るのは、絞首台だけだ」
「嘘だ……!」
カイルの声が揺らぐ。
「彼女が、話すはずがない……!」
その動揺を、クリスは見逃さなかった。
一瞬。
踏み込み、カイルの腕を掴み、リリーを強く引き寄せる。
弾き飛ばされたカイルは壁に叩きつけられ、短剣が石床に乾いた音を立てて転がった。
クリスはリリーを抱き締めた。
震える身体を、逃げ場のないほど強く。
「遅くなってすまない、リリアーヌ……」
低く、確かな声。
「もう大丈夫だ。二度と、君を離さない」
張り詰めていた糸が切れたように、リリーの瞳から涙が溢れ落ちる。
「……ダメです……」
嗚咽混じりに言う。
「私と一緒にいたら、あなたの名誉が……
アメリア様との未来が……」
それでも、彼を守ろうとする言葉。
クリスは彼女の頬を両手で包み、真っ直ぐに見つめた。
「名誉などいらない」
即答だった。
「アメリアとの婚約は解消した。私が欲しいのは――」
一拍置き、はっきりと言い切る。
「世界でたった一人。
私を救うために、自分を殺してまで嘘をつき続けた――
愚かで、誰よりも愛おしい君だけだ」
その瞬間。
リリーが必死に被り続けてきた「完璧な拒絶」という仮面は、音を立てて崩れ落ちた。
長すぎた誤解が、
地下牢の暗闇の中で、ようやく真実の光に照らされて溶けていく。
――だが。
背後の闇で、
壁に打ちつけられたカイルが、狂気じみた笑い声を上げながら、再び立ち上がろうとしていた。
静寂を切り裂くように、正面門を突破する激しい蹄の音が鳴り響いた。
「クリス公爵! 何をなさる――ここは侯爵家の私邸ですぞ!」
制止しようと駆け寄る護衛兵たちに、クリスは一瞥すらくれない。
軍人として培われた威圧感と、愛する者を奪われた怒りが、彼を鬼神のごとき存在へと変えていた。
「退け」
低く、しかし有無を言わせぬ声。
「カイル侯爵が、私の知人を不当に拘束している疑いがある。
公爵の名において――邸内を検分する」
剣の柄に手をかけたまま、クリスは正面玄関を踏み破る。
脳裏に響き続けるのは、密偵の報告にあった、忌まわしい一語。
――地下室。
一方、冷たく湿った地下牢。
薄暗い灯りの下で、リリーはカイルと対峙していた。
カイルは床に膝をつき、彼女の足首に重い鎖をかけようとしている。
「これでいい……」
恍惚とした声音で囁く。
「リリアーヌ、君はもう外の世界を見る必要はない。私の罪も、汚れも……すべて、この闇の中で私と分かち合うんだ」
その瞳は完全に濁り、現実ではなく、自らの幻想だけを映していた。
リリーの胸に湧いたのは、恐怖よりも――深い、どうしようもない悲しみ。
「カイル様……」
震える声で言う。
「そんなことをしても、あなたは救われません……」
その瞬間。
地下室の厚い鉄扉が、内側から叩き壊されるような轟音と共に吹き飛んだ。
「――そこまでだ、カイル・ヴァン・ハワード!」
土煙の中から現れたのは、煤と汗にまみれ、剥き出しの殺気を放つクリス公爵だった。
「……クリストファー様?」
リリーは、信じられない思いでその姿を見つめる。
「来るな!」
カイルは叫び、リリーを力任せに引き寄せる。
隠し持っていた短剣が、彼女の喉元に突きつけられた。
「公爵! 君はまたしても私から奪うつもりか!
私の妻を……私の救いを!」
「救いだと?」
クリスの声が、氷のように冷えた。
「彼女を檻に閉じ込め、恐怖で縛ることが――貴様の救いか!」
剣を抜かぬまま、クリスは一歩、また一歩と近づく。
短剣の先がリリーの白い肌をかすめ、細い赤が滲んだ。
その瞬間。
クリスの瞳に、戦場ですら見せなかった凍りつく怒りが宿る。
「カイル。貴様の不正は、すでに私の手が洗い出している」
断罪の声。
「エリアナも、証言を承諾した。これ以上彼女に触れれば――
貴様に残るのは、絞首台だけだ」
「嘘だ……!」
カイルの声が揺らぐ。
「彼女が、話すはずがない……!」
その動揺を、クリスは見逃さなかった。
一瞬。
踏み込み、カイルの腕を掴み、リリーを強く引き寄せる。
弾き飛ばされたカイルは壁に叩きつけられ、短剣が石床に乾いた音を立てて転がった。
クリスはリリーを抱き締めた。
震える身体を、逃げ場のないほど強く。
「遅くなってすまない、リリアーヌ……」
低く、確かな声。
「もう大丈夫だ。二度と、君を離さない」
張り詰めていた糸が切れたように、リリーの瞳から涙が溢れ落ちる。
「……ダメです……」
嗚咽混じりに言う。
「私と一緒にいたら、あなたの名誉が……
アメリア様との未来が……」
それでも、彼を守ろうとする言葉。
クリスは彼女の頬を両手で包み、真っ直ぐに見つめた。
「名誉などいらない」
即答だった。
「アメリアとの婚約は解消した。私が欲しいのは――」
一拍置き、はっきりと言い切る。
「世界でたった一人。
私を救うために、自分を殺してまで嘘をつき続けた――
愚かで、誰よりも愛おしい君だけだ」
その瞬間。
リリーが必死に被り続けてきた「完璧な拒絶」という仮面は、音を立てて崩れ落ちた。
長すぎた誤解が、
地下牢の暗闇の中で、ようやく真実の光に照らされて溶けていく。
――だが。
背後の闇で、
壁に打ちつけられたカイルが、狂気じみた笑い声を上げながら、再び立ち上がろうとしていた。
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