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第二十三章 嵐の社交界と、公爵の宣戦布告
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ハワード侯爵の逮捕と、クリス公爵による――「略奪」とさえ囁かれる救出劇。
この衝撃的な報せは、翌朝には王都中のサロンや茶会を駆け巡っていた。
「信じられます? あの非の打ちどころのないリリー夫人が、夫を告発し、公爵の手を取っただなんて」
「アメリア令嬢は被害者よ。なのに、公爵様は“あんな女”のために名誉を捨てるなんて……どうかしているわ」
街に溢れる新聞の見出し、貴族たちの軽薄な噂――それらは、リリーを悪女へと貶める毒となって踊り続けた。
皮肉なことに、カイルが長年かけて作り上げた「献身的で完璧な妻」という仮面は、いまや彼女を追い詰める凶器へと変わっていた。
リリーは、クリスの強い意向により、公爵邸の一角で保護されていた。だが、その心は一向に晴れない。
「クリストファー様……やはり、私はここを出るべきです。私の存在が、あなたまで泥沼へ引きずり込んでいる。王宮からも、婚約破棄の説明を求める書状が届いているのでしょう?」
青ざめた顔のまま、リリーは窓の外を見つめる。
公爵邸の門前では、真実を嗅ぎ回る記者と野次馬が群れていた。
クリスは執務机に積み上げられた抗議文の束を静かに押しのけ、彼女の隣へ歩み寄る。
「リリアーヌ。君がこれまで背負ってきた闇に比べれば、紙切れの山など取るに足らない。私は最初から、こうなる覚悟で動いた。……いや、本来なら、もっと早く踏み込むべきだったのだ」
そう言うと、彼は一枚の招待状をリリーの手にそっと握らせた。
それは数日後、国王陛下も臨席する「新年祝賀会」の招待状だった。
その頃、婚約を解消されたアメリア伯爵令嬢は、静かな庭園で一人、風に揺れる木々を見つめていた。
クリスがリリーを救うため、自らの立場を投げ打ったこと――彼女はすでに知っていた。
周囲は口々に同情を寄せ、「公爵家を訴えよ」と煽り立てていたが、アメリアの胸に残っていたのは、別れ際に彼が見せた、偽りのない苦渋の表情だけだった。
(私は……彼に愛されてはいなかった。けれど、彼は私を欺きもしなかった。――本当の悪女は、誰なのかしら)
静かに思考を閉じたアメリアは、世間の期待に背を向け、ある決意を胸に秘めて祝賀会の準備を始める。
新年祝賀会当日。
王宮の大広間には、張り詰めた空気が漂っていた。
クリス公爵が姿を現した瞬間、ざわめきは止み、無数の視線が一斉に突き刺さる。
その隣には、漆黒のドレスに身を包み、凛と背筋を伸ばしたリリーが立っていた――これまでよりも気高く、美しかった。
「公爵、これは一体何の冗談ですかな。犯罪者の妻を連れて、神聖な祝賀会に出席されるとは」
嘲笑を含んだ声が広間へ響き、視線が集中する。
クリスはリリーの手を離さぬまま、広間全体へ届く声で告げた。
「勘違いをなさるな。ここにいるのは“犯罪者の妻”ではない。ハワード侯爵の罪を暴き、王国の正義を守った――勇気ある告発者だ。そして――」
一歩踏み出し、居並ぶ貴族たちを鋭く見据える。
「この場で宣言する。今後、彼女への侮辱はすべて、公爵家への敵対行為と見なす。異議のある者は……ここで私に剣を取れ」
その覇気と、地位を賭した明確な「宣戦布告」に、広間は水を打ったように静まり返った。
リリーは驚きに瞳を見開く。
守られる存在としてではなく――ともに戦う者として、公の場で求められた初めての瞬間だった。
その頬に、初めて微かな血色が戻り始める。
この衝撃的な報せは、翌朝には王都中のサロンや茶会を駆け巡っていた。
「信じられます? あの非の打ちどころのないリリー夫人が、夫を告発し、公爵の手を取っただなんて」
「アメリア令嬢は被害者よ。なのに、公爵様は“あんな女”のために名誉を捨てるなんて……どうかしているわ」
街に溢れる新聞の見出し、貴族たちの軽薄な噂――それらは、リリーを悪女へと貶める毒となって踊り続けた。
皮肉なことに、カイルが長年かけて作り上げた「献身的で完璧な妻」という仮面は、いまや彼女を追い詰める凶器へと変わっていた。
リリーは、クリスの強い意向により、公爵邸の一角で保護されていた。だが、その心は一向に晴れない。
「クリストファー様……やはり、私はここを出るべきです。私の存在が、あなたまで泥沼へ引きずり込んでいる。王宮からも、婚約破棄の説明を求める書状が届いているのでしょう?」
青ざめた顔のまま、リリーは窓の外を見つめる。
公爵邸の門前では、真実を嗅ぎ回る記者と野次馬が群れていた。
クリスは執務机に積み上げられた抗議文の束を静かに押しのけ、彼女の隣へ歩み寄る。
「リリアーヌ。君がこれまで背負ってきた闇に比べれば、紙切れの山など取るに足らない。私は最初から、こうなる覚悟で動いた。……いや、本来なら、もっと早く踏み込むべきだったのだ」
そう言うと、彼は一枚の招待状をリリーの手にそっと握らせた。
それは数日後、国王陛下も臨席する「新年祝賀会」の招待状だった。
その頃、婚約を解消されたアメリア伯爵令嬢は、静かな庭園で一人、風に揺れる木々を見つめていた。
クリスがリリーを救うため、自らの立場を投げ打ったこと――彼女はすでに知っていた。
周囲は口々に同情を寄せ、「公爵家を訴えよ」と煽り立てていたが、アメリアの胸に残っていたのは、別れ際に彼が見せた、偽りのない苦渋の表情だけだった。
(私は……彼に愛されてはいなかった。けれど、彼は私を欺きもしなかった。――本当の悪女は、誰なのかしら)
静かに思考を閉じたアメリアは、世間の期待に背を向け、ある決意を胸に秘めて祝賀会の準備を始める。
新年祝賀会当日。
王宮の大広間には、張り詰めた空気が漂っていた。
クリス公爵が姿を現した瞬間、ざわめきは止み、無数の視線が一斉に突き刺さる。
その隣には、漆黒のドレスに身を包み、凛と背筋を伸ばしたリリーが立っていた――これまでよりも気高く、美しかった。
「公爵、これは一体何の冗談ですかな。犯罪者の妻を連れて、神聖な祝賀会に出席されるとは」
嘲笑を含んだ声が広間へ響き、視線が集中する。
クリスはリリーの手を離さぬまま、広間全体へ届く声で告げた。
「勘違いをなさるな。ここにいるのは“犯罪者の妻”ではない。ハワード侯爵の罪を暴き、王国の正義を守った――勇気ある告発者だ。そして――」
一歩踏み出し、居並ぶ貴族たちを鋭く見据える。
「この場で宣言する。今後、彼女への侮辱はすべて、公爵家への敵対行為と見なす。異議のある者は……ここで私に剣を取れ」
その覇気と、地位を賭した明確な「宣戦布告」に、広間は水を打ったように静まり返った。
リリーは驚きに瞳を見開く。
守られる存在としてではなく――ともに戦う者として、公の場で求められた初めての瞬間だった。
その頬に、初めて微かな血色が戻り始める。
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