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第15章 沈黙の終焉
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夜の王宮は、まるで別の世界のように静かだった。
燭台の光が廊下を照らし、薄い香の煙がゆらめく。
その奥の扉の前で、リディアは立ち止まった。
扉の向こうは、かつての寝室。
結婚して三年――最初の夜、涙をこぼした部屋。
“沈黙の夜”が始まった場所でもあった。
(あの夜と同じ香り……けれど、もう私は逃げない)
深く息を吸い込み、扉を開けた。
部屋の中央に、アレクシスが立っていた。
外套を脱ぎ、手には彼女の指輪を持っている。
燭の光に照らされた横顔は、どこか儚く、それでいて強く見えた。
「……戻ってきてくれて、ありがとう」
その声は、初めて出会った頃よりも柔らかかった。
リディアは一歩、近づいた。
「この指輪を、またつけてもいいでしょうか」
アレクシスが微笑んだ。
「俺が願っても、もう一度つけてはくれなかっただろう。
けれど、今は君の意思で……」
彼は指輪をそっと掲げた。
リディアの左手を包み込み、ゆっくりと嵌める。
金属の冷たさが、指先で温もりに変わっていく。
「これが最後の誓いだ。
沈黙で傷つけるのではなく、言葉で守る。
君が笑えない夜は、俺も眠らない」
その声に、リディアの瞳が潤んだ。
「私も、怖がらずに言葉を伝えます。
あなたを愛していると、何度でも」
アレクシスの腕が彼女を包み込む。
胸の奥から、抑えてきたものがあふれ出すようだった。
「君がいなかった日々が、俺に沈黙の重さを教えた。
もう二度と、君をひとりにしない」
リディアはその胸に顔を埋めた。
彼の心音が聞こえる。
その鼓動が、かつての冷たい沈黙を溶かしていく。
「あなたの沈黙を憎んでいたのに、
本当は、その沈黙の中でずっと私の名を呼んでいたのですね」
アレクシスは微笑んだ。
「……ようやく届いたか」
燭台の炎が揺れ、窓の外で風が鳴った。
長い沈黙がようやく終わり、言葉が二人を結びつける。
やがて、彼女が顔を上げた。
「陛下。――いいえ、アレクシス」
「なんだ」
「あなたの王妃である前に、
私は“あなたの妻”でいたいのです」
その言葉に、彼の瞳が柔らかく光った。
「俺も、王である前に、君の夫でいたい」
唇が触れ合う。
それは激しさではなく、祈りのような口づけだった。
互いを確かめ合う、再生の約束。
沈黙が終わり、音もなく始まった“新しい時間”の中で、
二人の影がひとつに溶けていく。
夜明け前、リディアは窓辺に立っていた。
東の空が少しずつ明るくなる。
隣には、アレクシス。
「朝が来ますね」
「沈黙の夜が終わる」
彼が肩を抱く。
リディアはその手に自分の手を重ね、微笑んだ。
「ありがとう、アレクシス。
もう、言葉のない愛を怖れません」
彼が頷いた。
「俺もだ。沈黙ではなく、君の声と共に生きる」
朝日が差し込み、二人の影が金色に染まる。
長い冬が終わり、ようやく春が戻ってきた。
それは――
沈黙が終わり、愛が始まった朝だった。
燭台の光が廊下を照らし、薄い香の煙がゆらめく。
その奥の扉の前で、リディアは立ち止まった。
扉の向こうは、かつての寝室。
結婚して三年――最初の夜、涙をこぼした部屋。
“沈黙の夜”が始まった場所でもあった。
(あの夜と同じ香り……けれど、もう私は逃げない)
深く息を吸い込み、扉を開けた。
部屋の中央に、アレクシスが立っていた。
外套を脱ぎ、手には彼女の指輪を持っている。
燭の光に照らされた横顔は、どこか儚く、それでいて強く見えた。
「……戻ってきてくれて、ありがとう」
その声は、初めて出会った頃よりも柔らかかった。
リディアは一歩、近づいた。
「この指輪を、またつけてもいいでしょうか」
アレクシスが微笑んだ。
「俺が願っても、もう一度つけてはくれなかっただろう。
けれど、今は君の意思で……」
彼は指輪をそっと掲げた。
リディアの左手を包み込み、ゆっくりと嵌める。
金属の冷たさが、指先で温もりに変わっていく。
「これが最後の誓いだ。
沈黙で傷つけるのではなく、言葉で守る。
君が笑えない夜は、俺も眠らない」
その声に、リディアの瞳が潤んだ。
「私も、怖がらずに言葉を伝えます。
あなたを愛していると、何度でも」
アレクシスの腕が彼女を包み込む。
胸の奥から、抑えてきたものがあふれ出すようだった。
「君がいなかった日々が、俺に沈黙の重さを教えた。
もう二度と、君をひとりにしない」
リディアはその胸に顔を埋めた。
彼の心音が聞こえる。
その鼓動が、かつての冷たい沈黙を溶かしていく。
「あなたの沈黙を憎んでいたのに、
本当は、その沈黙の中でずっと私の名を呼んでいたのですね」
アレクシスは微笑んだ。
「……ようやく届いたか」
燭台の炎が揺れ、窓の外で風が鳴った。
長い沈黙がようやく終わり、言葉が二人を結びつける。
やがて、彼女が顔を上げた。
「陛下。――いいえ、アレクシス」
「なんだ」
「あなたの王妃である前に、
私は“あなたの妻”でいたいのです」
その言葉に、彼の瞳が柔らかく光った。
「俺も、王である前に、君の夫でいたい」
唇が触れ合う。
それは激しさではなく、祈りのような口づけだった。
互いを確かめ合う、再生の約束。
沈黙が終わり、音もなく始まった“新しい時間”の中で、
二人の影がひとつに溶けていく。
夜明け前、リディアは窓辺に立っていた。
東の空が少しずつ明るくなる。
隣には、アレクシス。
「朝が来ますね」
「沈黙の夜が終わる」
彼が肩を抱く。
リディアはその手に自分の手を重ね、微笑んだ。
「ありがとう、アレクシス。
もう、言葉のない愛を怖れません」
彼が頷いた。
「俺もだ。沈黙ではなく、君の声と共に生きる」
朝日が差し込み、二人の影が金色に染まる。
長い冬が終わり、ようやく春が戻ってきた。
それは――
沈黙が終わり、愛が始まった朝だった。
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