十年越しの幼馴染は今や冷徹な国王でした

柴田はつみ

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第一章 突然の宣告

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「エラナ、お前にはアレン国王陛下との婚姻を命ずる」

父である侯爵の言葉は、まるで鋭利な刃物のようにエラナの心を切り裂いた。突然の宣告に、エラナはただ呆然と立ち尽くすしかなかった。


窓の外では、春の柔らかな日差しが庭園を照らし、鳥たちが楽しげにさえずっている。あまりにも穏やかな景色と、あまりにも非情な現実のギャップに、エラナは眩暈を覚えた。



「父上、どういうことでございましょうか。わたくしが国王陛下と…?」


震える声で尋ねると、父は冷たい視線を向けた。


「聞こえなかったのか?政略結婚だ。国のため、家のための大儀である」



「しかし、わたくしと陛下は…十年もの歳月が過ぎ、もはや昔の幼馴染みとは言えません。それに、陛下はわたくしよりも十歳も年上です」


エラナは必死に言葉を紡ぐ。だが、父は鼻で笑った。


「それがどうした。お前が産まれたときから決まっていたことだ。陛下も承知の上だ」


「そんな…」


父の言葉は、エラナの希望をすべて打ち砕いた。


その夜、自室に戻ったエラナは、机に突っ伏して嗚咽を漏らした。


「なぜ…どうしてこんなことに…」


幼い頃、アレンは優しいお兄様だった。共に庭を駆け回り、本を読み、笑い合った。


しかし、彼が王太子となり、自身が成長するにつれて、二人の間には越えられない溝ができてしまった。


『もう、僕に構うな』


そう冷たく言い放ったアレンの横顔が脳裏に蘇る。あの日の言葉が、今もエラナの心を深く傷つけていた。


翌日、エラナは国王の元へと向かう馬車の中にいた。窓の外を流れる景色は、まるで過去と現在を分かつ川のようだ。


「…お兄様、もう、わたくしのことなどお忘れでしょうに」


エラナはそっと呟いた。馬車はゆっくりと王宮の門をくぐり、壮麗な宮殿へと吸い込まれていく。
 
再会は果たしてどんなものになるのだろうか。希望も絶望もない、ただ虚無だけがエラナの心を満たしていた。
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