Bloody Rose

紫月音湖(旧HN/月音)

文字の大きさ
14 / 69
第3章 異端の子

予期せぬ訪問者

しおりを挟む
 冒険者の街ベルズに、夜はない。空が闇に包まれようと街の明かりが完全に消える事はなく、どこかで必ず一人は酒を飲んだり、踊りながら酒を飲んだり、泣きながら酒を飲んだりしている。そういう者たちに扉を開けている酒場も少なくなく、ベルズは昼夜問わず明かりがついているのだ。
 だから、冒険者の街ベルズは眠らない。

「ふぅ……。今日もよく働いた」

 凝り固まった肩を回して、フレズヴェールが疲れた溜息を吐く。狼頭をぐるりと回すと、ぼきっ、ごきっ、ばきっと筋肉が凄まじい音を立てて鳴った。

「最近依頼も増えたしなぁ。……魔族関係が増えたって事は、やっぱりあれだな。ルナティルスが……」

 ぶつぶつと独り言には聞こえない独り言を普通サイズの声で呟くフレズヴェールは、誰もいないギルドの明かりをひとつずつ消しながら、何気なく窓の外へと目を向けた。
 ギルドのある表通りは、ベルズでありながら唯一「夜」の来る場所だ。冒険者たちが寝泊りしている宿もこの表通りにあり、朝までは静かな時間が守られる。
 今でも裏通りでは若さを武器にする冒険者たちが、笑ったり怒ったりしながら酒を飲んでいるのだろう。その若さをちょっぴり羨ましく思えど、フレズヴェールはもうそんな馬鹿騒ぎの輪には入りたいとも思わなくなっていた。それが、年を取ったと言う事なのだろう。……まだ三十後半なのだが。

「風呂入って酒でも飲むか。ロダはまだ冷やしてあったかな」

 相変わらず大きな独り言を零しながら、フレズヴェールが入り口の扉の鍵を閉めようとしたその時――がたんっと派手な音を立てて、扉が勢いよく開かれた。流石のフレズヴェールも思わずぎょっとしたが、その緊張は入ってきた人物を見るなり、別の意味合いを含んだ緊張に変わった。
 扉を開け、転がるように入ってきたのは、美しいエルフの女だった。しかしその顔は青黒くくすんでしまい、唇も干乾びてかさかさに荒れている。青い目の下には深い隈が出来ており、エルフ特有の美しさはかけらも残っていない。フレズヴェールを目に留めたエルフは、たどたどしい足取りで近寄ろうとし、力及ばず床に倒れこんだ。

「おい! しっかりしろ!」

 慌てて駆け寄ったフレズヴェールが体を抱き起こしても、エルフはもう自分で体を支える事が出来ずに、フレズヴェールの腕にぐったりともたれかかったまま短い呼吸を繰り返した。

「一体どうしたって言うんだ!」

「……て。……――おねが……い」

 途切れ途切れに辛うじてそれだけを呟くと、そこでエルフの意識がぱったりと途絶えてしまった。思わず死んだのかと心臓が鳴ったが、どうやらエルフは気を失っただけのようで、短い呼吸が弱くはあるがまだ辛うじて続いていた。

「何なんだ、一体」

 突然の事態の急変に最初は驚いたものの、その後のフレズヴェールの行動は早かった。とりあえずエルフを二階の自宅へ運び、ベッドに寝かせると、フレズヴェールはその足で顔馴染みの医者を呼びにギルドを飛び出していった。
 静かな表通りを、息を切らして全力疾走しながら、フレズヴェールは思った。
 今夜はギルドに「夜」は来ないのだろう、と。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

東京ダンジョン物語

さきがけ
ファンタジー
10年前、世界中に突如として出現したダンジョン。 大学3年生の平山悠真は、幼馴染の綾瀬美琴と共に、新宿中央公園ダンジョンで探索者として活動していた。 ある日、ダンジョン10階層の隠し部屋で発見した七色に輝く特殊なスキルストーン。 絶体絶命の危機の中で発動したそれは、前代未聞のスキル『無限複製』だった。 あらゆる物を完全に複製できるこの力は、悠真たちの運命を大きく変えていく。 やがて妹の病を治すために孤独な戦いを続ける剣士・朝霧紗夜が仲間に加わり、3人は『無限複製』の真の可能性に気づき始める。 スキルを駆使して想像を超える強化を実現した彼らは、誰も到達できなかった未踏の階層へと挑んでいく。 無限の可能性を秘めた最強スキルを手に、若き探索者たちが紡ぐ現代ダンジョンファンタジー、ここに開幕!

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...