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第3章 異端の子
予期せぬ訪問者
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冒険者の街ベルズに、夜はない。空が闇に包まれようと街の明かりが完全に消える事はなく、どこかで必ず一人は酒を飲んだり、踊りながら酒を飲んだり、泣きながら酒を飲んだりしている。そういう者たちに扉を開けている酒場も少なくなく、ベルズは昼夜問わず明かりがついているのだ。
だから、冒険者の街ベルズは眠らない。
「ふぅ……。今日もよく働いた」
凝り固まった肩を回して、フレズヴェールが疲れた溜息を吐く。狼頭をぐるりと回すと、ぼきっ、ごきっ、ばきっと筋肉が凄まじい音を立てて鳴った。
「最近依頼も増えたしなぁ。……魔族関係が増えたって事は、やっぱりあれだな。ルナティルスが……」
ぶつぶつと独り言には聞こえない独り言を普通サイズの声で呟くフレズヴェールは、誰もいないギルドの明かりをひとつずつ消しながら、何気なく窓の外へと目を向けた。
ギルドのある表通りは、ベルズでありながら唯一「夜」の来る場所だ。冒険者たちが寝泊りしている宿もこの表通りにあり、朝までは静かな時間が守られる。
今でも裏通りでは若さを武器にする冒険者たちが、笑ったり怒ったりしながら酒を飲んでいるのだろう。その若さをちょっぴり羨ましく思えど、フレズヴェールはもうそんな馬鹿騒ぎの輪には入りたいとも思わなくなっていた。それが、年を取ったと言う事なのだろう。……まだ三十後半なのだが。
「風呂入って酒でも飲むか。ロダはまだ冷やしてあったかな」
相変わらず大きな独り言を零しながら、フレズヴェールが入り口の扉の鍵を閉めようとしたその時――がたんっと派手な音を立てて、扉が勢いよく開かれた。流石のフレズヴェールも思わずぎょっとしたが、その緊張は入ってきた人物を見るなり、別の意味合いを含んだ緊張に変わった。
扉を開け、転がるように入ってきたのは、美しいエルフの女だった。しかしその顔は青黒くくすんでしまい、唇も干乾びてかさかさに荒れている。青い目の下には深い隈が出来ており、エルフ特有の美しさはかけらも残っていない。フレズヴェールを目に留めたエルフは、たどたどしい足取りで近寄ろうとし、力及ばず床に倒れこんだ。
「おい! しっかりしろ!」
慌てて駆け寄ったフレズヴェールが体を抱き起こしても、エルフはもう自分で体を支える事が出来ずに、フレズヴェールの腕にぐったりともたれかかったまま短い呼吸を繰り返した。
「一体どうしたって言うんだ!」
「……て。……――おねが……い」
途切れ途切れに辛うじてそれだけを呟くと、そこでエルフの意識がぱったりと途絶えてしまった。思わず死んだのかと心臓が鳴ったが、どうやらエルフは気を失っただけのようで、短い呼吸が弱くはあるがまだ辛うじて続いていた。
「何なんだ、一体」
突然の事態の急変に最初は驚いたものの、その後のフレズヴェールの行動は早かった。とりあえずエルフを二階の自宅へ運び、ベッドに寝かせると、フレズヴェールはその足で顔馴染みの医者を呼びにギルドを飛び出していった。
静かな表通りを、息を切らして全力疾走しながら、フレズヴェールは思った。
今夜はギルドに「夜」は来ないのだろう、と。
だから、冒険者の街ベルズは眠らない。
「ふぅ……。今日もよく働いた」
凝り固まった肩を回して、フレズヴェールが疲れた溜息を吐く。狼頭をぐるりと回すと、ぼきっ、ごきっ、ばきっと筋肉が凄まじい音を立てて鳴った。
「最近依頼も増えたしなぁ。……魔族関係が増えたって事は、やっぱりあれだな。ルナティルスが……」
ぶつぶつと独り言には聞こえない独り言を普通サイズの声で呟くフレズヴェールは、誰もいないギルドの明かりをひとつずつ消しながら、何気なく窓の外へと目を向けた。
ギルドのある表通りは、ベルズでありながら唯一「夜」の来る場所だ。冒険者たちが寝泊りしている宿もこの表通りにあり、朝までは静かな時間が守られる。
今でも裏通りでは若さを武器にする冒険者たちが、笑ったり怒ったりしながら酒を飲んでいるのだろう。その若さをちょっぴり羨ましく思えど、フレズヴェールはもうそんな馬鹿騒ぎの輪には入りたいとも思わなくなっていた。それが、年を取ったと言う事なのだろう。……まだ三十後半なのだが。
「風呂入って酒でも飲むか。ロダはまだ冷やしてあったかな」
相変わらず大きな独り言を零しながら、フレズヴェールが入り口の扉の鍵を閉めようとしたその時――がたんっと派手な音を立てて、扉が勢いよく開かれた。流石のフレズヴェールも思わずぎょっとしたが、その緊張は入ってきた人物を見るなり、別の意味合いを含んだ緊張に変わった。
扉を開け、転がるように入ってきたのは、美しいエルフの女だった。しかしその顔は青黒くくすんでしまい、唇も干乾びてかさかさに荒れている。青い目の下には深い隈が出来ており、エルフ特有の美しさはかけらも残っていない。フレズヴェールを目に留めたエルフは、たどたどしい足取りで近寄ろうとし、力及ばず床に倒れこんだ。
「おい! しっかりしろ!」
慌てて駆け寄ったフレズヴェールが体を抱き起こしても、エルフはもう自分で体を支える事が出来ずに、フレズヴェールの腕にぐったりともたれかかったまま短い呼吸を繰り返した。
「一体どうしたって言うんだ!」
「……て。……――おねが……い」
途切れ途切れに辛うじてそれだけを呟くと、そこでエルフの意識がぱったりと途絶えてしまった。思わず死んだのかと心臓が鳴ったが、どうやらエルフは気を失っただけのようで、短い呼吸が弱くはあるがまだ辛うじて続いていた。
「何なんだ、一体」
突然の事態の急変に最初は驚いたものの、その後のフレズヴェールの行動は早かった。とりあえずエルフを二階の自宅へ運び、ベッドに寝かせると、フレズヴェールはその足で顔馴染みの医者を呼びにギルドを飛び出していった。
静かな表通りを、息を切らして全力疾走しながら、フレズヴェールは思った。
今夜はギルドに「夜」は来ないのだろう、と。
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