Bloody Rose

紫月音湖(旧HN/月音)

文字の大きさ
15 / 69
第3章 異端の子

不機嫌なライリ

しおりを挟む
「なぁなぁ、ちょっと俺らに付き合ってくんない?」

 気持ちの良い朝……と言っても、太陽は昼のような位置にいるのだけれども。
 ちょっぴり遅い目覚めを迎えたレフィスは、ちょっとした買い物の帰りに、このあからさまで芸も品もないナンパ文句で呼び止められた。今までこういう風に声をかけられた事などなかったが、初々しい乙女にありがちな恐れや怯みなどレフィスにある訳がなく……レフィスは先程道具屋で買ったばかりの硝子玉――属性魔法を封じ込めた、初心者御用達のアイテムを袋の中から取り出そうとさえしていた。

「いやぁ、それにしても君、すごく綺麗だね。今までこんな綺麗な子、見た事ないよ」

 そのたった一言で、ナンパ男に投げられるはずだった硝子玉が袋の中に逆戻りする。何だか胸もちょっとだけ高鳴ったようだ。
 レフィスだって年頃の女の子だ。誉められれば素直に嬉しい。例え相手がナンパ男であろうとも、普段誰からも言われない言葉でレフィスを誉めたのだ。付いていく気はないが、笑顔のひとつくらいは見せてあげてもいいだろう。そう思い、自分なりに最高級の笑顔を浮かべたレフィスが、勿体つけるようにゆっくりと後ろを振り返った。

「そんな事言っても何も出ないわよ。でも名前くらいなら教えてあげても……」

 うふふと笑ったレフィスの前で、いかにもなナンパ男が二人、月色の髪をしたエルフに話しかけていた。

「なぁ、ちょっとでいいから相手してくんねぇ? 損はさせないよ」

「そうそう、楽しませてやるからさぁ」

 声をかけられたのが自分ではない事に気付いて一瞬顔を真っ赤にさせたレフィスだったが、よくよく見れば絡まれているエルフに見覚えがあるような気がして、自然と足がそちらへ向いていく。

「……その自信がどこから来るのか、全くもって謎だね。君たちに呼び止められた時点で、既に損してるんだけど」

 こちらに背中を向けてはいるものの、その後姿と聞き覚えのある声、そして毒すら含んでいるであろう鋭い棘を持つ言葉。間違いないと、レフィスはなぜか寂しい溜息をついた。

「まずよく磨かれた鏡を買う事を勧めるよ。そして眼鏡も買った方がいい。視力が悪い訳ではないなら……その瞳は無用の長物だね。特別に僕が安くで抉り取ってあげようか」

 言葉の最後にはどす黒いオーラを巻きつけて、月色の髪をしたエルフ……ライリが男たちに向かって人差し指を突き出した。その細い指先に、不似合いな黒い邪気が見る間に絡み付いていく。

「おぁ! やべぇっ、こいつライリだ! 殺されるっ」

「ライリっ? ライリって……闇堕ちのっ?」

「何、その闇堕ちって。変な二つ名付けないでくれる?」

 この上なく不機嫌な音を言葉に纏わせたライリが、邪気の絡みついた人差し指を男たちの目に向かって弾いた。宙を漂う黒い邪気はライリの意図した通り、男たちの両目にべっとりと張り付いて離れない。それはさながら黒い目隠しをしているようでもあった。

「うわっ、うわぁ!」

「目がぁぁっ! 目がぁぁぁっ!」

 どこかで聞いたようなセリフを吐きながら、男たちが両目に張り付いたそれを必死で引き剥がそうとする。あちこちぶつかっては転がって、行き交う人々に不審な眼差しで見つめられながら、哀れな男たちはそのままレフィスの視界から無様に消えていった。



「……それで? 何か用?」

 突然かけられた声に、ライリのすぐ後ろで見物していたレフィスがぎくんと肩を竦めた。無意識に後ずさりして逃げようとするも空しく、数歩下がったところでライリがこちらを振り返った。何だか目を合わせるのも怖くて、レフィスは思わずその場にしゃがみ込むと、地面に落ちていた何だか物凄く煌く透明の石を今しがた発見しましたと言わんばかりの勢いで掴み上げた。

「うわぁ! 何これ綺麗な石。透明なんて珍しいし、持って帰って皆に見せようそうしようーっと、あれ、ライリじゃない」

 完璧――と心の中でガッツポーズして、レフィスがこれまた今しがた気付いた風に装ってライリを見上げた。逆光なので表情はよく見えないが、何だかとても綺麗な笑顔を浮かべているような気がする。

「そんなところに屈み込んでどうしたのさ。……あぁ、転送石だね」

 いつもと同じ感じで話すライリに、レフィスもほっと胸を撫で下ろしながら、その透明の石の話題をもう少しだけ引き伸ばす。

「転送石?」

「そう。魔法陣が繋がれていない辺境の場所なんかに行く時に持ってると重宝する。何時でもどこでも、瞬時に自分が思い浮かべた場所に行く事が出来るんだよ。さっきの愚かな男たちが落したようだね。それを使って逃げれば良かったのに」

「そう言えばそうね。パニックになりすぎて、こんないいもの落していくなんて、よっぽどライリが怖かったんじゃ……」

 そこまで言って、しまったと硬直したレフィスだったが、時既に遅し――してやったりとほくそ笑むライリが至近距離でレフィスを見つめていた。

「ふぅん……やっぱり見てたんじゃないか」

「ななな何の事? 別にライリが女に間違われるなんておかしくないじゃない、ね?」

 言って、また後悔する。ライリに見つめらたレフィスは、まさに蛇に睨まれた蛙状態。だらだらと嫌な汗が全身から噴出していくのが解る。

「レフィス」

 いつもは石女としか呼ばないライリが、レフィスの名前を口にした。それだけでレフィスの心臓がどくんと跳ね上がる。勿論、怖い意味で。

「のぞき見は良くないよ。君の目も無用の長物だね」

 にっこりと笑ったライリが、先程男たちにしたのと同じように、細い指をレフィスの目元へ優雅に伸ばした。

 数秒後。
 耳の奥を掻き毟るような、醜く潰れた悲鳴が通りに細く長く響き渡った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

東京ダンジョン物語

さきがけ
ファンタジー
10年前、世界中に突如として出現したダンジョン。 大学3年生の平山悠真は、幼馴染の綾瀬美琴と共に、新宿中央公園ダンジョンで探索者として活動していた。 ある日、ダンジョン10階層の隠し部屋で発見した七色に輝く特殊なスキルストーン。 絶体絶命の危機の中で発動したそれは、前代未聞のスキル『無限複製』だった。 あらゆる物を完全に複製できるこの力は、悠真たちの運命を大きく変えていく。 やがて妹の病を治すために孤独な戦いを続ける剣士・朝霧紗夜が仲間に加わり、3人は『無限複製』の真の可能性に気づき始める。 スキルを駆使して想像を超える強化を実現した彼らは、誰も到達できなかった未踏の階層へと挑んでいく。 無限の可能性を秘めた最強スキルを手に、若き探索者たちが紡ぐ現代ダンジョンファンタジー、ここに開幕!

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...