盲目魔女さんに拾われた双子姉妹は恩返しをするそうです。

桐山一茶

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第一章 魔女さんとの不思議な日々

おつかいの道中にて

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 魔女さんに拾われてから二週間が経った。

 魔女さんの家は人里離れた草原にポツンとたたずむ木でできた小さな家だが、三人で暮らすには丁度いい大きさだ。
 ここに住み始めてから一番驚いたことは、魔女さんは家の隣に畑を持っていて、そこで出来た野菜しか食べないと言うのだ。
 すぐ近くに村があるのだから買いに行けばいいのにと言ったのだが。

「目が見えないから歩くのもひと苦労なの……でも、あなた達には美味しい物を食べさせたいわ」

 頬に手を当てて「うーん」と頭を悩ませていたので、私とナナは顔を合わせてあることをひらめいた。

「じゃあ私たちが買ってくる!」

「魔女さんのお手伝いする~」

 ルルとナナが息を合わせて言うと、魔女さんは嬉しそうに口角を緩ませたのだが。

「道中には危ない動物も居るから危ないわ」

 そう言われてしまった。
 しかし何としてでも魔女さんのお手伝いがしたい姉妹は、「大丈夫だよ!」と何の根拠もない自信を見せながら抗議をした。
 姉妹たちが一時間も駄々をこねると、魔女さんは『昔やっていた仕事』で貯めていたお金を少しだけ姉妹に与えて、買い物に出かけるのを許してくれた。

 それから何度も村へ食料や日常品を買いに行ったのだが、姉妹はまだ『危ない動物』を見たことが無かった。
 最初はビクビクとしながら道を歩いていたが、動物が出ないと分かると、気分の良い散歩くらいの気持ちで買い出しに専念することが出来た。

 だがしかし、今では油断していたことを姉妹揃って後悔していた――。

「どどどど……どうしようどうしよう……」

「お姉ちゃん……怖いよぅ……」

 村で買った食料を手に持って家に帰る途中、二人は顔を真っ青にしながら足を止めていた。

「ガルルルルルル……」

 二人の目の前には全長五メートルはありそうな真っ黒の犬が、草原に囲まれたけもの道を塞ぎながら姉妹のことを睨みつけていた。
 それだけでも怖いというのに、この犬には他にも恐怖心を煽るものがあった。

「なななななんでこのワンちゃんは首が三本もあるの!?」

 ルルが大声を出しながら、目の前の犬を指さす。
 通常なら一本しか生えることがない首が、この犬は三本も生やしている。その先にはしっかりと犬の顔もついていて、その三つが姉妹を見下ろしているのだ。

「わからないよぉ……」

 ナナはルルの後ろに隠れながら、今にでも泣き出してしまいそうな声を出した。

 ――その途端。
 さっきまでは睨みを利かせていた犬が、姉妹へと飛びかかった。

「あわわわわわわわ!」「きゃああああああああ!」

 姉妹揃って叫び声を上げると、ルルはナナの手を引いて道の脇に生える草むらへと飛び込んだ。
 間一髪の所で犬の大きな口から逃れられたが、せっかく買った食料が道端に転がってしまった。
 そんなことなどお構いなしに、犬は食料を踏み潰しながら草むらで尻もちを着く姉妹を睨みつけている。

「あ……せっかく買った食べ物が……」

 犬の足元に広がっている食料を見て、ナナが固く寂しい声を漏らした。
 しかしそんな声を漏らそうとも、犬の興奮が止むことはない。

「ガルルルルルル……」「わんわんわん!」「グルルルル……」

 三つの顔が興奮したかのような声を上げている。

「うえぇぇぇぇん……怖いよぉ……」

 ルルの横では、目元を拭いながら泣き始めてしまったナナが居る。

 こんなつもりじゃなかった。
 魔女さんの言う通り、道中には危ない動物が居たのだ。二週間もの間、道中では動物すら見たことが無かったからと完全に油断をしていた。

 この犬に私たちは食べられてしまうのだろうか……。

 いや、それだけは絶対にダメだ。
 魔女さんに助けて貰った命を、粗末にすることだけは絶対にしてはいけない。
 ルルはそう考えると、恐怖で震える足に喝を入れて立ち上がり、胸を張りながら目の前の犬を睨みつけた。

「こら! いい加減にしなさい! 私の可愛い妹を泣かせて!」

 ルルは犬を指さしながら、堂々と大声を出してみせた。
 きっと犬も叱られれば、反省して帰ってくれるはず。
 そう思ったのだが……。

「「「わんわんわんわんわん!!」」」

 逆に怒られてしまった。
 三つの頭に同時に吠えられ、ルルは一瞬だけ怯んだように身を引いたが、すぐにナナを庇うようにして立った。

「そんなにワンワンしても無駄だよ! 私は怖くないから!」

 ナナのお姉ちゃんだからしっかりしないと!
 その想いだけで、目の前の犬と睨み合うようにして立つ。
「どっかに行って」と心の中で念じながら、数秒の睨み合いが続いた。
 だがその願いも虚しく、犬は三つの大きな口を開いてルルへと勢いよく襲いかかる。

 もうダメだ。ナナも泣いていて動けないし、私も足が震えて逃げ出せない。
 私は食べられてもナナだけは助かって欲しい。それだけを思い、ナナを庇うように腕を広げた――その時。

「――止まりなさい!」

 聞き覚えのある声が草原に鳴り響く。
 その声に、犬は足を止めて声の方を向いた。
 助かった……。そう胸を撫で下ろして、姉妹も声のした方を振り返る。

「「魔女さん!」」

 姉妹の歓喜の声が重なる。
 二人の目線の先には、この草原にはアンマッチな黒いローブに身を包んだ魔女さんが居た。
 しかし、さすがの魔女さんでも、こんなに大きな犬を相手にするのは厳しいのではないだろうか。

「「「グルルルル……」」」

 犬は姉妹から魔女さんへと狙いを変え、今にでも襲いかかってしまいそうな程に身を低くしている。

「魔女さん! 逃げて!」

 目が見えない魔女さんは、この犬をどうやって見ているのだろうか。
 もしかしたら、犬が今にでも魔女さんに飛び掛かろうとしているのが分からないのでは……。
 そう考えてルルは大きな声を出して魔女さんへと知らせたが、その声が逆効果となって犬を刺激してしまい、魔女さんへと大きな口を開けて襲いかかった。

「「魔女さん!!」」

 このままじゃ魔女さんが食べられちゃう!
 どうしようどうしよう……そう思考を巡らせていると、魔女さんは犬へと素早く両手を向けた。
 その瞬間、シャッターのフラッシュのような眩しい光が辺りを包んだ。

「眩しい!」「わ、なにこれぇ……」

 すぐに眩しい光は消え去り、辺りに青空と草原の景色が戻った。

 何が起きたんだろう。

 恐る恐ると犬の様子を見てみると、「くう~ん」と情けない声を上げながら、そそくさと草原の中に帰って行った。

 何が起きたのかは分からないが、どうやら助かったようだ。

 頭でそう思うと同時に、姉妹は魔女さんの元へと駆け出していた。

「魔女さんごめんなさあああい」「ごめんなさああああい」

 姉妹は泣き顔のまま、魔女さんの太ももへと抱き着いた。
 そんな姉妹の頭を、魔女さんは優しく撫でてくれる。

「どうしてあなた達が謝るの?」

「だってだって……せっかく買った食べ物がああああ」

「魔女さんがせっかくくれたお小遣いで買ったのにいいいい」

 私たちが無理を言って買い出しに行っておいてこの結果だ、怒られても仕方がないと腹をくくる。
 だが、魔女さんは撫でる手を止めることは無かった。

「あなた達が無事なら何だっていいのよ。ただ……今日の夜ご飯は家にあるものになってしまうわね……」

 とても穏やかな声だった。
 そんな優しい魔女さんに、姉妹は同時に顔を見上げた。

「私たちのこと怒らないの?」「ぶたないの?」

 二人同時に口を開くと、魔女さんは「馬鹿ねえ」と言って姉妹の手を取った。

「私はそんな事しないわよ。それもこれも二人が頑張ってくれた結果だもの。生きていてくれれば何だっていいわ」

 ふふっと口角を吊り上げて笑ってくれる。
 それがとても嬉しくて、魔女さんと手を繋いでいる二人は笑顔を取り戻した。

「じゃあじゃあ、このまま村に買いに行こうよ!」

 ルルがぴょんぴょんと跳ねながら言うと、魔女さんは首を左右に振った。

「それは出来ないの。ごめんね」

 なんで?
 そう尋ねようとしたが、魔女さんの口元を見て聞くのを止めた。

 最近、目隠しで目元を見せてくれない魔女さんの表情を、口元だけで判断出来るようになった気がする。
 それはナナも同じようで、母親の気分を害さないために得た術だったのだが、こんな所でも役に立つとは思わなかった。

「うん! じゃあ今日はお野菜が食べたい!」

「ナナもナナも! お野菜取るの手伝う!」

 手を繋ぎながらぴょんぴょんと跳ねる姉妹を、魔女さんは「はいはい」と微笑みながら言う。

「それと……帰ったら魔法のお勉強もしましょうか」

「魔法?」

「まほー?」

 私たちが……魔法の勉強……?

「そうよ、今日みたいなもしもの時に少しでも役立つようにね」

「私たちでも出来るの?」

「時間は掛かるけれど少しは出来るはずよ」

 もし、それが本当なら……。

「すごい! 楽しそう! 魔女さん魔法教えて!」

「ナナもナナも……!」

 興奮が抑えられない様子の二人に、魔女さんはもう一度「はいはい」と言って、優しく笑う口元を見せてくれた。
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