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最終章 姉妹の選択
知らない音楽
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魔女さんの居ない家で夜を越した。
いつもは魔女さんを挟んで寝ていたのだが、今日はルルとナナがくっつきながら寝た。大きな布団で姉妹がくっついて寝ていると、余っているスペースが寂しさを誘発させる。
そんな寂しい夜を越えた朝。自分達で布団を畳み、寝室を出る。
朝ごはんはどうしよう。いつもは魔女さんに作って貰っていたので、料理なんて自分達だけでは出来たものじゃない。だから、キッチン横にあったメロンパンと冷蔵庫に入っていた牛乳が今日の朝ごはんだった。
簡易的な朝ごはんを食べ終えた姉妹は、居間にある木製の椅子に向かい合って腰を掛けていた。
「さて、魔女さんが居ない夜を過ごした訳なのですが……どうでしたでしょう……」
ルルが神妙な面持ちで問う。
「……すごく寂しかった」
魔女さんが居ない寂しさで夜な夜な泣いていたナナの目元は、痛々しそうに腫れ上がっている。
ルルはナナの言葉に首を縦に振って頷いた。
「うん、私も同じ気持ち」
ルルはそう言うと、小さく咳払いをしてから続ける。
「それでね? 魔女さんを助けに行こうと思うんだ」
静かな空間に響いたその言葉は、決意の色が見える声色だった。だがしかし、ナナは首を傾げる。
「どうやって助けるの? 魔女さんがどこに居るのかも分からないんだよ?」
「うーん、さすがに洞窟には居ないのかな」
「多分居ないと思う」
助けに行きたい気持ちはあっても、手掛かりがなければどうしようもない。洞窟の中に居てくれれば良いのだが、あの用心深い魔法使いさんがそんなマヌケなことをするとは思えなかった。
「魔法使いさんの家に居るって可能性はあるかな?」
ルルが首を傾げて問うと、ナナは難しそうな表情を浮かべた。
「どうだろう……洞窟よりは可能性があると思うけど……」
「けど?」
ナナは「分からないけど」と前置きを置いてから言葉を紡ぎ出した。
「魔法使いさんの家に居たとしたら、助けられる確率はグンと下がるかも」
「え、なんで?」
「だって、魔法使いの家だよ? きっと魔女さんをナナたちから隠すことなんて魔法で簡単だよ」
確かにその通りかもしれない。
魔法使いさんがなんの仕掛けもなく、魔女さんをどこかへ閉じ込めるとは思えない。最低でも、私たち姉妹が見つけられないくらいの仕掛けはするだろう。
「うん、それも一理あるね」
「だよね……どうしよう……ナナ達に助けられないのかなぁ」
姉妹は二人して「うーん」と頭を悩ませる。魔女さんを助けるにはどうしたら良いのか。どうやって魔女さんの行方を追えば良いのか。そもそも、魔女さんは生きているのか。
そんなことを延々と頭の中で考える。しかしそんな想像をどこまで膨らませようとも、その答えは出て来なかった。
万策尽きたか……。姉妹が挫けそうな気持ちになりつつあるその時。
ピロリロリン♪ ピロリロリン♪
力が抜けるような木管楽器の音楽が、家の中に響き渡った。
「なに、この音……」
聞いたこともない音楽に、戸惑いの声を上げたナナ。
「分からない……けど、音の正体を探してみよう」
何だか、探さないといけない気がする。そんな予感を感じたルルは、ナナよりも早く腰を上げて音のする場所を探し始めた。
「お姉ちゃん待ってよぉ」
その後ろをナナがちょこちょこと追いかける。
音楽は未だに部屋の中で鳴り響いていて、間の抜けた音楽の中に不気味さも混ざっているようで少しだけ怖い。
音のする方を探していると、そこには本棚があった。
「やっぱり本棚のどこかから音がするよね」
「うん、でも怖いよ……爆弾だったらどうするの……?」
「多分爆弾だったらもう爆発してるよ」
「そうかな……?」
二人はそう言うと、目の前にある自分達よりも背の高い本棚を見上げた。
「本の中かな?」
「多分そうじゃない……?」
「よし、じゃあ早く探そう。数がいっぱいある」
「そうだね」
姉妹は向かい合って頷くと、手当り次第に本を取っては中を見て、見終わった本は床に置くという作業を始めた。
本は年季が入っていて、ページを開くだけでホコリが舞う。その度に姉妹は顔を背けてはむせながら、本の中を探し続けた。
「あ! この本から音がするかも!」
ルルがそう言いながら手に持っていたものは、赤と金色からなる高級感溢れる本だった。ナナもそこに耳を傾けてみると、どうやらこの本から音が鳴っていると睨んで間違いないようだ。
「本当だね……この中にあるみたい」
ナナはそう言いながら、ルルと少しだけ距離を取った。
「え、なんで離れるの?」
「だって爆発したら怖いもん」
「私だけが爆発に巻き込まれる!」
ルルは大袈裟にそう言っみても、ナナが近づいてくる気配は無い。それどころか、早く開けてよと言いたげな眼差しで見つめてくる。
「わ、わかったよ……私が開けるから……」
ルルはそう言うと、ひと思いに本のページをパラパラとめくった。その隙間から黒い物体がするりと床に滑り落ちると、「ゴトッ」と鈍い音を立てた。
その音に姉妹は体をビクリとさせたが、爆発しないと分かるとナナも近づいて来る。
「なんだろう、これ」
ルルが何の躊躇いもなく拾い上げる。それは長方形の黒い機械のような物で、古くさい画面が付いている。その画面には『非通知』とよく分からない漢字が表記されていて、その裏には一口だけ齧られたリンゴのマークが描かれていた。
「あ! これ絵本で見たことあるよ。今は腕時計で電話をするけど、昔の人はこれを使って電話をしてたんだって。名前は確か『スマートフォン』だった気がする……」
またも物知りなナナが、本から得た知識でスラスラと言ってみせた。これにはルルも感服だ。
「へー! これで電話が出来るんだ!」
「そうそう。だから、この音楽は誰かが……」
ナナはそこまで言うと、あることに気が付いた。
「ねえ、このスマートフォンって今は使えなくなったんだけどさ」
「うん」
「これ、音楽がなってるってことは誰かがこのスマートフォンに電話をしてるんだよね……?」
「……えっ」
恐る恐ると紡がれたナナの声を聞いて、ルルは驚いてスマートフォンを床へと落としてしまった。
いつもは魔女さんを挟んで寝ていたのだが、今日はルルとナナがくっつきながら寝た。大きな布団で姉妹がくっついて寝ていると、余っているスペースが寂しさを誘発させる。
そんな寂しい夜を越えた朝。自分達で布団を畳み、寝室を出る。
朝ごはんはどうしよう。いつもは魔女さんに作って貰っていたので、料理なんて自分達だけでは出来たものじゃない。だから、キッチン横にあったメロンパンと冷蔵庫に入っていた牛乳が今日の朝ごはんだった。
簡易的な朝ごはんを食べ終えた姉妹は、居間にある木製の椅子に向かい合って腰を掛けていた。
「さて、魔女さんが居ない夜を過ごした訳なのですが……どうでしたでしょう……」
ルルが神妙な面持ちで問う。
「……すごく寂しかった」
魔女さんが居ない寂しさで夜な夜な泣いていたナナの目元は、痛々しそうに腫れ上がっている。
ルルはナナの言葉に首を縦に振って頷いた。
「うん、私も同じ気持ち」
ルルはそう言うと、小さく咳払いをしてから続ける。
「それでね? 魔女さんを助けに行こうと思うんだ」
静かな空間に響いたその言葉は、決意の色が見える声色だった。だがしかし、ナナは首を傾げる。
「どうやって助けるの? 魔女さんがどこに居るのかも分からないんだよ?」
「うーん、さすがに洞窟には居ないのかな」
「多分居ないと思う」
助けに行きたい気持ちはあっても、手掛かりがなければどうしようもない。洞窟の中に居てくれれば良いのだが、あの用心深い魔法使いさんがそんなマヌケなことをするとは思えなかった。
「魔法使いさんの家に居るって可能性はあるかな?」
ルルが首を傾げて問うと、ナナは難しそうな表情を浮かべた。
「どうだろう……洞窟よりは可能性があると思うけど……」
「けど?」
ナナは「分からないけど」と前置きを置いてから言葉を紡ぎ出した。
「魔法使いさんの家に居たとしたら、助けられる確率はグンと下がるかも」
「え、なんで?」
「だって、魔法使いの家だよ? きっと魔女さんをナナたちから隠すことなんて魔法で簡単だよ」
確かにその通りかもしれない。
魔法使いさんがなんの仕掛けもなく、魔女さんをどこかへ閉じ込めるとは思えない。最低でも、私たち姉妹が見つけられないくらいの仕掛けはするだろう。
「うん、それも一理あるね」
「だよね……どうしよう……ナナ達に助けられないのかなぁ」
姉妹は二人して「うーん」と頭を悩ませる。魔女さんを助けるにはどうしたら良いのか。どうやって魔女さんの行方を追えば良いのか。そもそも、魔女さんは生きているのか。
そんなことを延々と頭の中で考える。しかしそんな想像をどこまで膨らませようとも、その答えは出て来なかった。
万策尽きたか……。姉妹が挫けそうな気持ちになりつつあるその時。
ピロリロリン♪ ピロリロリン♪
力が抜けるような木管楽器の音楽が、家の中に響き渡った。
「なに、この音……」
聞いたこともない音楽に、戸惑いの声を上げたナナ。
「分からない……けど、音の正体を探してみよう」
何だか、探さないといけない気がする。そんな予感を感じたルルは、ナナよりも早く腰を上げて音のする場所を探し始めた。
「お姉ちゃん待ってよぉ」
その後ろをナナがちょこちょこと追いかける。
音楽は未だに部屋の中で鳴り響いていて、間の抜けた音楽の中に不気味さも混ざっているようで少しだけ怖い。
音のする方を探していると、そこには本棚があった。
「やっぱり本棚のどこかから音がするよね」
「うん、でも怖いよ……爆弾だったらどうするの……?」
「多分爆弾だったらもう爆発してるよ」
「そうかな……?」
二人はそう言うと、目の前にある自分達よりも背の高い本棚を見上げた。
「本の中かな?」
「多分そうじゃない……?」
「よし、じゃあ早く探そう。数がいっぱいある」
「そうだね」
姉妹は向かい合って頷くと、手当り次第に本を取っては中を見て、見終わった本は床に置くという作業を始めた。
本は年季が入っていて、ページを開くだけでホコリが舞う。その度に姉妹は顔を背けてはむせながら、本の中を探し続けた。
「あ! この本から音がするかも!」
ルルがそう言いながら手に持っていたものは、赤と金色からなる高級感溢れる本だった。ナナもそこに耳を傾けてみると、どうやらこの本から音が鳴っていると睨んで間違いないようだ。
「本当だね……この中にあるみたい」
ナナはそう言いながら、ルルと少しだけ距離を取った。
「え、なんで離れるの?」
「だって爆発したら怖いもん」
「私だけが爆発に巻き込まれる!」
ルルは大袈裟にそう言っみても、ナナが近づいてくる気配は無い。それどころか、早く開けてよと言いたげな眼差しで見つめてくる。
「わ、わかったよ……私が開けるから……」
ルルはそう言うと、ひと思いに本のページをパラパラとめくった。その隙間から黒い物体がするりと床に滑り落ちると、「ゴトッ」と鈍い音を立てた。
その音に姉妹は体をビクリとさせたが、爆発しないと分かるとナナも近づいて来る。
「なんだろう、これ」
ルルが何の躊躇いもなく拾い上げる。それは長方形の黒い機械のような物で、古くさい画面が付いている。その画面には『非通知』とよく分からない漢字が表記されていて、その裏には一口だけ齧られたリンゴのマークが描かれていた。
「あ! これ絵本で見たことあるよ。今は腕時計で電話をするけど、昔の人はこれを使って電話をしてたんだって。名前は確か『スマートフォン』だった気がする……」
またも物知りなナナが、本から得た知識でスラスラと言ってみせた。これにはルルも感服だ。
「へー! これで電話が出来るんだ!」
「そうそう。だから、この音楽は誰かが……」
ナナはそこまで言うと、あることに気が付いた。
「ねえ、このスマートフォンって今は使えなくなったんだけどさ」
「うん」
「これ、音楽がなってるってことは誰かがこのスマートフォンに電話をしてるんだよね……?」
「……えっ」
恐る恐ると紡がれたナナの声を聞いて、ルルは驚いてスマートフォンを床へと落としてしまった。
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